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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: SHUSAKU
season1【B面】
71/239

2-1 虫の声

【2話/B面】Aパート

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【B面】2話目に入ります。現段階で集っているメンバーを簡単に紹介。


■白都 勇一:あまり自己主張をしない物静かな少年。一応部長

■武藤 静那:一年生。戦争孤児として日本に疎開してきたベラルーシ人(本名はシーナ)。白がかったブロンドの髪が特徴。この子がきっかけで勇一が部活を立ち上げることになった

■藤宮 生一:マイペース。昔は関西で暮らしていたが、大人のズルさに嫌気がさして田舎に越してきた

■仁科 小春:都会暮らしの女子高生だったが、縁あって高知へ越してきた…らしい

■椎原 砂緒里:成績優秀な帰国子女。静那に興味を持ち部活に入ってくれた

■西山 憲治:勇一のクラスメイト。生徒会長でもあるためスポット参戦してくれる

高知県のとある高校、校舎西側二階の奥まった一室。


そこは、高知だけでなく、ベラルーシ、カナダ、東京、そして関西……異なるルーツを持つ少年少女たちが、それぞれの『日本』を持ち寄る不思議な聖域だ。


放課後のチャイムと共に、静かだった部屋は騒がしい議論に満ちていく。


誰かが訪れ、その顔ぶれが複数名になったあたりから。


当たり前の日常を再発見するための場所、『日本文化交流研究部』の活動が幕を開ける。


* * * * *


窓の外には、朝から降り続く重たい雨のカーテンが広がっていた。


一九九五年の梅雨は、湿った空気と共に、校舎のコンクリートの匂いを色濃く引き立たせている。


放課後の静寂を待つ廊下には、ホームルームの終了を告げるビートルズの『イエスタデイ』が流れ始めていた。


そんな中、一人の女子生徒が西棟二階の突き当たりにある、教室の扉をガラガラと開けて入ってきた。


白みがかったブロンドの髪を、湿気を含んだ風がわずかに揺らす。静那しずなだ。


しかし、彼女は今日の一番乗り……というわけではなかった。


教室の隅っこ、窓際の一席。


そこには、既に一人の男子生徒が陣取り、手元の漫画を熱心に読み耽っていた。


藤宮生一ふじみやきいちだ。彼は教室のぬしのような落ち着きで、ページをめくる乾いた音だけを響かせている。


静那はまず軽やかな足取りで生一の元へと歩み寄った。


「こんにちは、ボス」


生一は漫画のページをめくる手を止めることなく、少しだけ視線を端に寄せて、だるそうに言葉を返した。


「おう、漫画の邪魔や」


「雨ですね~」


ボスこと生一は、目の前の後輩が振ってきた話題を完全に無視することもできず、変に律儀な姿勢を見せながら、ようやく顔を上げた。


「まぁな……朝からザーザーうるさいよな、これ」


「え? ザーザーって言うんですね。雨の音って」


その瞬間、漫画を手にしていた生一の手と視線が、ピタリと止まった。


彼は眉を寄せ、静那の方に顔を向ける。


「静那……お前の国の奴って、雨の音って無いん?」


「え、あ? ああ。無いですよ。ただの雑音としか認識してないです」


静那は少し首をかしげ、不思議そうな表情を浮かべた。


「でも日本の人って、『ザーザー』とか音をカタカナで表現しますよね。あれ不思議です」


「じゃあ川とかの音は? あれも音の区別ないんか?」


「川の音……? あれも雑音として同じように聞こえますけど?」


静那は、生一の瞳の奥を覗き込むようにして問い返した。


「サワサワとか無いん? マジで? でも風は違うやろ。『ピュ~』とか言わん?」


「……言いませんねぇ。全部同じ雑音に感じますよ」


生一は、信じられないものを見るような目で完全に視線を向けた。


「ええ? 何それ。おまえらの国、もうちょっと耳頑張ろうや」


「えええ! これって、耳頑張ってないっていうことなの?」


その時。


ガラガラッという勢いのある音と共に、廊下の湿った空気を連れて部長の勇一と仁科さんが入ってきた。


「なんで静那の国のことを悪く言うんだよ、生一」


勇一は、濡れた制服の肩を払いながら声を出す。


「そうよ。別に音の聞き分けが私たちと違っててもいいじゃない。それが出来るからって、日本人が特別凄い訳でもなんでもないんだから。静那さんも気にすることじゃないからね」


仁科さんは、優しく静那の肩に手を置いた。


「それでもなんか世界狭くないか? なぁ? とびだしてこーい!」


「あんた、後輩相手だからってなんかムカつく言い方ね」


仁科さんがジロリと生一を睨むと、教室内にわずかな沈黙が流れた。窓を叩く雨音だけが、少しだけ強く聞こえてくる。


「うーん。音楽なんかは日本も普通に聴きますけど、雨や風の音は全部同じに聞こえますよ。……虫もそうかな?」


「虫も? ……じゃあセミは知ってるか?」


勇一が問いかける。


「うん。7日で死ぬやつだよね」


静那の返答の仕方が妙にズレているが、一応このまま話を進める。


「セミの鳴き方も、全部同じに聞こえたりするん?」


「せみ、鳴き声? ……そうですね」


「マジかよ」



「じゃあさ、鈴虫のようなあの綺麗な鳴き声も?」


四人の会話を聞きつけ、いつの間にか部室に入ってきていた椎原しいはらさんが、輪の横から穏やかに質問を投げかけた。


彼女は、成績優秀で落ち着きのある二年生だ。


「うん……どんな虫でもあまり認識?  なのかな。意識できなくて」


静那は、自分の耳を指先で少しだけ触れながら、申し訳なさそうに言った。


「これって、何かの病気って訳じゃないんだよな。椎原さんはカナダとアメリカだっただろ。椎原さんの住んでた地域の人もこんな感じだった?」


勇一が、椎原さんに視線を向けた。


「私、あまり詳しく知らなかったけど、確かに虫の音色の話なんてしたこと無かったと思う。うん……」


「じゃあこれって日本人特有の能力なのかな? それか文化?」


「多分、同じ人間だから、虫の音を聴くっていう意識が子どものころからあれば聴こえるんじゃないかな」


椎原さんの説明は、論理的で説得力に満ちている。彼女の日本文化に対する深い洞察は、部員たちから見れば、ほぼ完壁と言っても差し支えないものだった。


「日本人って昔、虫の鳴き声で天気予報を判断したりしていたらしいから、多分他の国の人に比べてそういう虫に対しての意識……DNAっていうのが強いんだと思う。 『虫の知らせ』って言うよね」


「じゃあ虫の鳴き声とかを日本の映画ではシーンの間に入れてたりするよな。

静那、あれは意味分からないか?

ただの雑音が入っただけのシーンに感じたりするの?」


勇一が、興味津々といった様子で身を乗り出す。


「ごめんなさい。映画はその……まだ見てなくて」


「じゃあ映画館行ったりするのも大事やんな。部費出たら見に行こうや」


生一が、部費の使い道をいきなり提案した。もちろん、私的な遊びは規則違反だ。


「バカ言わないでよ。それはさすがに部活じゃないって言われるよ」


仁科さんの至極真っ当な指摘に、生一は肩をすくめた。


「まぁ、それは視聴覚室からビデオ見れるテレビを借りてこられるみたいだから、それで見よう。とにかく、映画に出てくる海がザザーンってなるシーンとか、虫の鳴き声のシーンとかが、全部同じような雑音に聴こえるのか……その感覚、自分には無かったな……」


「なんかさ、そう考えたら海外の映画を試しに見てみたくなったよね」


「私はアメリカに居る時に映画は少しだけ見たけど、今思い返しても風の音とか無かったと思う。雑音扱いして、音声だけカットしたのかな?」


椎原さんが、当時の記憶を掘り起こすように目を細める。


「日本人は音に敏感だってことだね。同じ耳を持ってるのに不思議だね」


仁科さんが、しみじみと呟いた。


「それでも虫の音聞き分けられんのって、なんか想像出来んな~。

静那、セミの鳴き声も違い分らん?」


「うん。木に張り付いてる時出る音でしょ」


「あの節足動物、全部『ギーギー』言うて聴こえてるん?」


「う……ん。そうじゃないかな……と」


静那は、困ったように眉を下げた。


「絶対嘘やろ。『つくつくボウシ』とか言うてるの分からん?」


「そんな鳴き方するんですか? 蝉って」


「マジで言ってんのか、静那」


生一の呆れ顔に、勇一が素早くフォローを入れる。


「いやいや、だからって静那の聴き方が悪い訳じゃないよ。でも自分たちは、何種類かの蝉は鳴き声を聴き分けられるから不思議だなーって」


「じゃあこれからは注意深く聴いていくっていうのでどう?

私も帰国してからは、虫の音が気になり始めたし。それって恐らく、聴ける環境……そう、環境っていうのも大事だと思うよ。まずは鈴虫とかコオロギがいいかな」


椎原さんが提案する。


「それ、ホームセンターで売ってるよな」


「買うのはちょっと……でも、季節はこれから暖かくなっていくから、虫の音色が聞こえたら聴いてみることにします」


静那は、少しだけワクワクしたような表情で言った。


「うん、静那さん。是非これからは聴いてみてよ。鈴虫の鳴き声なんて、よく聴いてみればとても綺麗だよ。昔は秋になれば『夜長に虫の音色を楽しむ』なんて風情があったんだから。

……あ、今もあるか」


「そんな風情は聞いたことないですね」


「日本人って、そんな細かい音、いつの間に感じられるようになったんだろうね」


そんな仁科さんの質問に生一が応えたりする。ちょっと斜め上の意見だが。


「昔、隠密や忍者とかおった時代から音に敏感やったんと違うか。

かすかな物音にも気がつかんかったら、寝首を掻かれるような緊迫した時代もあったやん。

そこで生き残ってきた人の遺伝子……DNAが、うちらには備わっとったとか?」


「なかなかマニアックな考えだけど、俺は日本人は虫の音色も音楽の一つだと思ってるから聴こえるんじゃないかって感じる」


勇一が、自分なりの考えを述べた。


「そうかもね。私、昔ロックバンド好きな友達に誘われてライブハウス行ったことがあるんだけど……あれはもう、騒音にしか聴こえなかった。

みんなワイワイ賑わってたけどね。私には音楽と思えなかった。ただただ、雑音だった。……多分、そんな感じじゃないかな?」


仁科さんの言葉に、静那は深く頷いた。


「なるほど……楽器を奏でているような意識を持てば、聴こえるようになるのかも。

ちょっと楽しみが増えたような気がします」


「毎日が忙しかったり、周りからの雑音だらけだと色んな事に耳を傾けづらくなるけど、ふと立ち止まったら、意外といろんな『音』が聞こえてくるかもよ。虫の音なんてその良い例だ」


勇一が、優しく静那を諭した。



「例えば、あんな音とかか?」


生一が、窓の外を指さした。


雨音の向こう側、遠くから微かな音が聞こえてくる。


耳を澄ますと、独特のサイレン音が次第に近づいてくるのが分かった。


「ピーポーピーポー……」



「もう、変な事言わないでよ。ねぇ、静那さん」


仁科さんが苦笑しながら静那を振り返った。


しかし、静那は一点を見つめたまま、不思議そうに問いかけた。


「え? あれって何の音ですか?」


「マジ?! これ何の音か知らないの?」


一同の声が、雨の降る部室に重なった。



「日本のサイレンはそんな音なんですか?」

『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々課外活動で外出もします。各話完結型ですので、お気軽にお楽しみください。

尚、本編のストーリーとB面の話数は所々リンクしています。こちらを読んでから本編を読み進めていくとより楽しめます。


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