4-1 方言
【4話/B面】Aパート
「どないしたんよ?目ェ死にかけやん!」
二番目に部活に入ってきた静那に対し先客の生一が呼びかける。
「ボス…なんか方言っていうか会話が分かりにくいんです。それで印象を悪くしてしまう事があって。」
「何言われたん?」
「“いや~”って言われたんです。私数学が満点だったからきっと嫌味に見えたんですよね~。」
シュンとする静那。
「おつかれ、静ちゃん」
遅れて仁科さんと椎原さんがやってきた。
「どうしたの…悲しそうな顔して。」
「コレ…」
「すごい100点じゃない。数学頑張ったのね~すごい」
仁科さんは静那の肩に軽く抱きつく。
「でも周りからは“いや~”って言われて…私、点数見せなかった方が良かったんですかね。
積極的に見せたわけじゃないんですけど、自慢しているみたいに見えたんでしょうか…」
始めて落ち込んだ様子を見せる静那に仁科さんはフォローを入れる。
「多分それ方言だよ。高知での“いや~”は確か、“すごい”とかいう意味じゃない?私関東だからよくわかんないけどさ、そんなカンジの会話はクラス内で聞いたことがある。」
「方言の話してんの?もともとは地域で違うのが当たり前だったからね。」
勇一と西山が遅れて部室にやってきた。
「特に高知県は高速道路が出来るまではやや隔離された感じのエリアだったから、だいぶ標準語とは違うと思う。
沖縄とか北海道も結構な違いあるよ。」
「俺は…静那の手前もあるから、意識してなるべく標準語を使うようにしてるけど、昔の方言ってクセが強すぎて分かんないのまだあるよ。」
「そうよね。私も分からない言葉ある。
先日、西山先生が言ってた“ちゃがまる”って言葉。あれ、土佐弁でしょ。」
「ああ、それ校長の萩島も使ってた。コレ分かる?同じ西山として」
「西山って!名前は関係ないだろ。でも分かるよ。確か“熱出して寝込んでる”って意味でしょ。」
「それ!確かそうよ。普通だとまったく分からないよね。ね、静ちゃん。」
「そうですね。私も初めて言われたら分からなかったかも。」
「しかも土佐弁ってここからさらに2種類くらいに別れてるそうなのよ。高知県って左右に長いじゃん。だから東側と西側でまた違うんだって。
“やってる”って言葉あるじゃん。DOING。あれ東エリアだと“やっちゅう”になるけど西側だと“やっちょう”になるんだって。あれ何でだろうね。」
こういう時は椎原さんの出番だ。
「かなり昔だけど、京都方面から逃げ延びて来た貴族が高知県の西の端に流れ着いたみたいな歴史があるみたいよ。そこから言葉遣い広がって別れたんだって。」
「高知県の中だけで2種類も分かれてるんだったら日本全体で見たらすごく多いんじゃ…」
「そこは大きく分けて16種類あるんだって。16種類の主要…よく使う方言のパターンを覚えたら、日本人なら会話はできるよ。
それに慣れって言うのもあるよ~静ちゃん。
だってまだ高知県に来てから4カ月でしょ。そりゃあここの癖の強い言葉は慣れないよ。」
「そうだよ静那さん。もっと話していけば慣れるよ。」
「そう言えば生一の関西弁に対しては結構順応してるよな、静那の国、関西弁と相性良いのかな?」
「なんだろう。ボスの話し方って関西…ことばなんですよね。なんか言葉のインパクトが強くて慣れるの早かったと思う。逆にちょっと影響受けそうなんだけどね。」
「関西弁は強いからな~。」
「そう言えば前に暮らしていた所って、高知市内じゃなかったんでしょ?どこの方言だったの?」
「その…そこは…おばちゃんが沢山いる職場で、方言も色々あったので。
それにおばさん達は私に気を使ってくれて、話す時は意識して標準語で話してくれたんです。」
「じゃあ色々な方言をそこで知れたわけじゃないんだ。」
「そうでもないですよ。おばさん達疲れた時はつい方言が出てしまってた。
“えらい”ってよく言ってて、それは覚えましたよ。
あれ、しんどい~っていう意味なんですよね。
他にも“なおす”。
“これなおしといて~”っていうのよく聞きました。
あれも修理するって意味じゃなくて九州方面だと“片付ける”っていう意味なんですよね。勘違いしてた分しっかり覚えてる。」
「ああ、それ知ってる!僕も初め分からなかったよ。“えらい”なんて東京じゃ完全に“偉い”の意味だしね。そう言えば椎原さんの住んでたカナダは?あとアメリカも。」
「英語も訛りはあるよ。」
「ええ、そうなの?カナダとアメリカで違うとか…」
「日本と違ってホント大きく分けてだけどね。同じ英語圏のオーストラリアだとかなり訛りが酷いんだよ。
オーストラリアは日本からまっすぐ南に行ったところだよ。静ちゃん、分かる?」
「はい。」
「実際アメリカに居る時、オーストラリア人の受け入れ先をうちの家がやってたから。
ショートステイしてた方と話をしてみたんだけど、始めは同じ英語なのに伝わらなかったもの。
日本人ならまず分からない感覚だけどね。
というか外国人から見たら、日本はこんなに細長い島国なのになんで少し地域が変わったくらいで言葉が違うんだって思うよ。だよね、静ちゃん。」
「う~ん、そうですね。
まだ2~3くらいしか滞在したことないからなぁ。でも確かにどこも違ってた。…これからもっと違いを知ることになると思いますけど…そういう感覚は分かります。
でもみんな違ってていいよね。」
「結構順応性高いな。」
「そうでないと生一の対応なんてできないよ。」
「もしかしたら知らない間にボスに鍛えられたのかも。」
「そう思うんならなんかお礼せえよ。」
「静ちゃんお金無いんだから無理にたからないの。下品なの。」
「別になんかくれ言うてるわけちゃうよ。まぁ関西弁はわりと強いよな。静那には土佐弁よりも関西弁話してもらえるようにがんばらなな。」
「なんで関西弁に染めようとしてるのよ!静ちゃんは気にせずに標準語覚えてくれていいからね。私たちは標準語使うから。」
「はい。でも関西弁確かに強いからうつりそうかも。昨日、ダメだった時に無意識に“あかん!”って言っちゃったからね~。もしかしたらうつってもうてるかも。」
「関西弁使う静那か……なんか違和感感じるな。」
「まぁ一年もしたら…果たして話し方どうなるかな。」
「ダメ。静ちゃんは私たちとお話するの。ていうかここ高知県なのになんで関西弁になっちゃうのよ。」
「弱弁強食や!」
「勝手に造語を作るな!静那が聞いてるんだからある程度きちんとした言葉で話せよ。」
「そうよ!あんまり静ちゃんとつるまないでよね。変態がうつるから。」
苦笑いの西山が勇一に呟く。
「もう…水面下で静那の取り合いみたいになってるな~。」
『B面』では、勇一達が立ち上げた部活「日本文化交流研究部」での日常トークを描いています。時々課外活動で外出もします。
各話完結型ですので、お気軽にお楽しみください。
尚、本編のストーリーとB面の話数は所々リンクしています。こちらを読んでから本編を読み進めていくとより楽しめます。
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