表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
MOVIEⅠ【A面】
59/229

弾圧からの解放 ~とある東洋人の軌跡⑦

Chapter6

「グゥウアオウゥ!」


ものすごい叫び声が宮殿内にこだます。




その声に合わせて丸太のような腕が真横に振り回される。


ガードするのも…危ない。


直撃したら本当に首が捥げそうな…そんな横殴りのハンマーブローを振り回してくるvaderファーダー


対峙する小谷野は彼に2度惨敗。


惨敗と言うより半殺しになっている。



その時のファーダーは…笑っていた。相手を舐めきっていた。


しかし今は違う。


口から血を流しながらものすごい形相で腕を振り回す。


両手で捕まえて頭突きに入ろうとしたが、暴れて必死に振りほどく。


もう逃げる事しか出来ない。


怖さ…恐怖感よりもその後にやってくる自分の絶対的な「死」をはっきりと認識し、その淵に立っているような気分だ。


何か反撃の手立てを考え、向かっていこうなんて気持ちは毛頭無かった。


どうやって逃げるかだけだ。


ファーダーのブン回す腕が小谷野の上をかすめた。


そしてその勢いのまま、太い腕が柱に思いっきりぶつかる。


柱の方にヒビが入った!



それを見て“なんちゅう威力だ”と改めて震え上がる小谷野。


さらに相手と距離を取る。



実はファーダーはただ怒り狂って暴れているわけではなかった。


少しづつだが小谷野の退路を塞ぐように追い詰めている。


一番初めに彼と対峙した時に見せた意外とも思える俊敏な動き。


相手との間合いの詰め方など、ただガタイがデカいだけでなく、プロの用心棒としての腕前は確かなものがあった。


小谷野が右に逃げようとしても、素早く回り込む。


怒りで暴れているように見えて戦い方は冷静だ。


後ろに逃げられても“横”には抜けさせない。


小谷野はもう後退していくしかなかった。



そのうちファーダーはどんどん距離を詰めていく。



ついに壁際に追い詰められる。



小谷野は次、ファーダーが左腕のフックを放つ為、次腕を振り上げたら、その隙に空いた脇から反対側へ逃げよう、体制を入れ替えようと判断した。


しかしファーダーは小谷野が自分の左側方面にチラッと目をやったのを見逃さない。



小谷野が予想していた通り腕を振り上げて殴りかかってきた。


「ここだ!」とばかりに体制を低くして相手の右脇側から潜り抜けようとする。



…しかし。


左フックはフェイクだった。


横を抜けようとする小谷野の頭をガッシリと捕まえた。


「しまった!」と思った時には遅かった。


捕まれたまま無理やり状態を起こされ、ボディーブローが入る。



「!?」



ものすごい威力だ。


息ができなくなり、一気に力が入らなくなる。


そのままもう片方の腕で顔面をぶん殴る。


ものすごい衝撃と共に小谷野は金網のある壁側に激突した。


ボディーブローから顔面へのハンマーブロー…


たった2発でもう小谷野は半分意識が飛びそうだった。



足がガクガクッと崩れる。


もうこの状態で逃げるのは困難だ。


ファーダーはそんな小谷野の前に足を大きく広げて陣取り、腰を入れて横殴りのハンマーを左右に放ち始めた。


1,2発目はかろうじてガードしたが、そんなのは関係ない。


ガードの上から丸太のような腕が往復で飛んでくる。


3発目が後頭部に入った。


倒れはしなかったが決定打になった。


フラフラと焦点が合わないまま小谷野は立つ。



…しかし目線は明後日の方向を向いている。



ファーダーはそんな小谷野の首根っこを掴み、壁になっている壁側・金網に叩きつけた。


金網が“ギギッ”と激しく揺れ、真横ではあるが叩きつけられた小谷野は片膝をつく。


意識もうろうで、もう目の前が見えていない。


棒立ちだ!



相手にとっては“的”以外のなにものでもない。


中腰で殆ど気絶しかけている小谷野に対し、ファーダーが少し助走をつけてから思いっきり殴り掛かった。


この勢いと体重でこの太い拳をめり込ませられたら、今度こそ本当に命が無い。


絶体絶命だった。




しかし、そんな小谷野はデカブツの突進を受ける前に、こと切れて後ろに倒れ込んだ。


正座したまま脱力して後ろに崩れたような形だ。


それがファーダーからしたら標的がフッと避けたようになったのだ。


トドメのつもりで思いっきり踏み込んでいったものの、避けられてしまったファーダーは勢い余って金網に激突した。



金網がきしむ音。


その勢いで金網が壊れ、デカブツ共々壁の向こうに落ちて行った。


金網の向こう…それは城壁の向こう…。崖になっていた!



断末魔をあげながら、デカブツは金網と共に崖の下へ消えていった。





一瞬記憶が飛んでいた小谷野だったが、急いで意識を取り戻す。


目の前には…誰もいない。


後ろを恐る恐る振り返る。


そこにも何も無い、誰も居ない…というより壊れている金網に気づく。


あのデカブツは…居ない!


「金網が壊れて…助かった……のか…」



体位を入れ替えようとして捕まえられた時には、もう死んだと思った。


しかし無意識に“落ちた”拍子で相手の突進を“体を後ろに反らせてかわした形”になり、金網を突き破らせるという自爆を招いたのだ。


小谷野は直撃を受けた頭部へのフックに頭を押さえながらも、この偶然の勝利を理解した。


「俺は…もしかして勝っちゃったのか…」




* * * * *



こちらは城門を挟んでの攻防戦ーーー。




30名くらいの衛兵ならなんとか村人達で対応できる。


城内で潜伏していた村人。各村からやってきた老人。少数の若者達の連合軍で取り押さえ、武器を奪う。


若者の一人が声を挙げる。


『この上でおそらく彼女達が捕らえられています。行きましょう!』


『オオオ!!!』と歓声があがる。



しかしである。



150名をも超える衛兵らが上の広場から城門に向かって一斉に降りて来たのだ。


30人ならなんとかなったが、その数150名程。


しかも全員、刀剣のシャムシールを抜いて臨戦態勢だ。



ここで老人たちはたじろぐ。


こっちはそんな大層な刀剣など持っていない。刀剣を振り回す力もない。



衛兵の増員により、とたんに門の外へ急激に押し返される。


武器を奪われていた衛兵も立ち上がり、態勢を持ち直す。



それでも小谷野の安否が心配な兼元、そして村の男性のうちの一人は機転を利かし素早く屋根の方に飛び登り、屋根づたいから広場に向けて走っていった。


走っていく男性を見て、兼元はその時分かった。


その村の男性とは、以前修道院で生一達にアジトの情報を教えてくれたあの男だった。



村の男性も覚えていた。


『目の前にいるのは、あの時修道院で出会った兼元君とかいう日本人。…ということはおそらく残りの2人もまだこの上の広場でシスター達を助けるために戦っているんだ。自分も続くんだ!』と。


男性の方もシスターのネイシャさんには以前からお世話になっていた。


親や仲間を連れていかれ、対応に困っていた子ども達の面倒を率先して見てくれたのも彼女だ。


絶対にそんな優しい彼女を死なせたくはない…


そんな思いは生一達と同じだったのだろう。



2名ー。


先に広場への侵入を許してしまった衛兵達だが、構わず門から侵入してきた村人達を押しのけるほうに力を入れる。


200名近くまで膨れ上がった衛兵達に押され、村人たちは城の外へと押され続けた。


大人数で一斉に剣を振り回されたらとてもじゃないが怖くて前に進めない。


こうなると老人達には勝ち目がない。


衛兵の集団という名の塊に押し出され、前に進めないもどかしさは八薙も感じていた。


「いざとなれば自分だけでも…」


八薙はこの衛兵たちを掻い潜り、なんとか強硬突破して広場まで向かう術を考えていた。





* * * * *





処刑場広場では残った衛兵、そして人質として捕まえられた村の女性達20名程。


そしてネイシャさん、仁科さん、葉月たちが見守る中……戦いが始まろうとしていた。



残った数人の衛兵達は『(あの方が負けるワケないだろ。あの日本人もどうやってここまでたどり着いたかは分らんが無謀にも程がある。大人しく逃げとけばよかったものの、バカな奴だ。)』


…そんな表情をしている。



村の女性達は祈るような思いだ。



対して仁科さんと葉月は「出来れば逃げてほしい」と感じていた。


勿論、生一に死んでほしくないからである。


相手との体格や筋肉の付き方が違い過ぎる。


葉月でなくとも目の前の男がプロの格闘家や用心棒クラスの人間であるのはすぐに分かる。


「生一ッ!危ないから逃げて!」


仁科さんが生一に叫ぶ。


その声に気づいた生一がすぐに言い返す。


「うるせぇよ!女は戦えねぇんだから、そこで大人しく見てろ!あと、適度に乳出しながら盛り上げとけ!」


「ちっ…って何バカ言ってんのよ!心配してるのよ!馬鹿なの?あんた!」




すぐ近くでは、あの髭を蓄えた小太りの男が陣取る。


ネイシャさんのすぐ傍で見ている。


『あの日本人では勝てるわけない』というタカをくくっている。


ネイシャさんは…やはり“出来れば逃げてほしい”という心配そうな表情だ。


今まで彼に挑み、倒され葬られてきた人間を何人も見てきたのだろう。彼もその一人になってほしくない…だからなんとか逃げ延びてほしい…そう強く願った。




目の前のハイキック野郎は、生一が仕掛けないとどうやら動いてくれないような感じだった。



生一は覚悟を決めた。


じりじりと歩を進めていく。


距離が近づくにつれ、緊張感が走った。




『この野郎!見つけたぞ!』


しかしそこへ、声を張り上げハイキック野郎に立ち向かわんとする男性が現れた。


城門から坂を駆け上がり、こっちを振り向くと同時に悠然と生一達のもとに向かってきた男性。



生一は彼を見て瞬時に思い出した。



修道院に居た時、アジト内の情報を色々と教えてくれたあの男だ。


坂道を急いで登ってきたため多少息があがっていたが、ハイキック野郎の前に踏み出し割って入る。


“こいつは俺が相手をする”と言わんばかりだ。



勢いに任せそのまま一気にハイキック野郎と距離をつめる。


そして呼吸も置かずに踏み込んで蹴りを入れた。



しかし軽くかわされる。


ハイキック野郎は“自分の間合い”を熟知している。


それでも目の前の捕らえられているネイシャさん、そして村人を目の前にして、怯んではいられない。



ネイシャさんは『来ては駄目!逃げて!』と叫ぶ。



しかし男性は今までの村人達に対する理不尽な横行の数々を振り返る。……そして表情を引き締め直して再び相手に向かっていった。



しかしハイキック野郎はその男性の踏み込み具合から、“どの位置まで踏み込んでくるか”の間合いを見ていた。



「マズイ!」と本能的に感じた生一はとっさに叫ぶ。


「ヤツの蹴りに気をつけろ!入りすぎんなァ!」



「日本語で叫んでどーする!」という表情の仁科さん。



しかし、男性は“彼の間合い”に踏み入れてしまったのだ。


踏み入れた瞬間、ものすごい速さで左のハイキックが男性の側頭部を捕えた。


男性は一体何が起きたんだという感じで目を見開いたまま仰向けに倒れたのだ。


あまりにも奇麗に蹴りが入ったので痛みを感じる暇もなかったのだろう。


村の女性、そしてネイシャさんから悲鳴が起こった。



倒れた村人は半分首を動かしながら意識がもうろうとしていた。


おそらく脳震とうで何が起きたかわかっていないのだろう。


そこに馬乗りになってパンチを連打するハイキック野郎。


半失神の無防備な相手に容赦なくパウンド(グラウンドパンチ)がどんどん入る。




もう勝負はついたとばかりに生一が割って入る。



2人の目の前まで行き、ハイキック野郎に一旦後ろへ引くように手で制すようなゼスチャを入れる。


「下がれぇ!」と日本語で怒鳴りつけた。


言葉の意味は理解していなかったが、半分失神していた男性を確認してスっと立ち上がり、離れてくれた。



『“選手交代”くらいの時間はやるよ』といった感じだろう。



男性が彼と対峙して僅か21秒しか経っていない…。



あっという間に蹴りを見舞われ、脳震とうのせいか体が動かなくなった彼の元に駆け寄る。


村の女性達はあっという間にKOされた男性を目の当たりにして、絶望感を隠せなかった。力の差がありすぎる。



目の前で見ていた葉月も口元を覆い、体を震わせながら話す。


「何よさっきの蹴り…全然見えなかった…あいつの間合いに入った瞬間パッと地面が光ったような感じがしたと思ったら、もうあの男性が倒されていた…

藤宮君…これでもなんで逃げないのよ。もうやりあったらケガとかじゃすまない…コレ…」



仁科さんも内心はあのタイミングで助けに来てくれて嬉しかった。しかし相手の実力と現実をしっかりと感じ取った今は、もう逃げてほしいとだけ感じた。


こんな化け物に敵うわけがない。


それに生一は格闘家のプロでもなんでもない…今月初旬まではただの跳ねっかえりの高校生だった人間だ。


素人がプロに挑んで無事で済むはずがない。


それくらいは分かる。




脳震とうで少し気を飛ばしていた(失っていた)男性がかろうじて意識を取り戻した。


生一が抱きかかえる。


そして『大丈夫か?』


ここはこちらの言葉できちんと交わせた。



…しかしそれに対して返ってきた必死の返答…言葉の意味が分からない!


-----------------------------------------

【※ここからの男性の言葉は二つに分かれます。】


『』で囲った言葉は、男性が発したそのままの言葉

「」で囲った言葉は、生一がそれを自分の都合よい形に解釈したものになります

-----------------------------------------



焦点を定めた男性は生一を見る。


間違いない…あの時修道院にいたあのややつり目の少年だ。


さっきはハイキック野郎しか見えていなかったけど、彼もいたんだという事を認知する。そして少し微笑む。


しかし気を失う前にこの自分の思いを伝えないといけない…という意識で力を振り絞って生一に訴えかけてきた。



『君はここにいてはいけない。うっ…ゴホッ』

「お前に頼みがある。うっ…ゴホッ」




「それ以上喋るんじゃねぇ!気を失うのを早めるだけだぞ!」


日本語だが、叫んでいた。


しかし男性は弱弱しい声でもなんとかしゃべろうとする。



『君達は…この状況を何とかしようと我々の先頭に立って動いてくれた。それだけで十分だ…』

「よくきけ…俺達の村がこんなになったのは、あいつらが急にこの地域に来てからだった…」



『君たちには感謝している。このまま命が尽きても君達と戦えたのは誇りだ。…だから…せめて逃げてほしい。』

「あいつらのルールを急に押し付けてきやがった。こっちのルールなど全く呑まずに。俺達村人は、あいつらの恐怖に支配され、命令通り働かされたんだ。」



『見ず知らずの君達がここまでしてくれたのは本当に嬉しかった。…だから死んでほしくないんだ。』

「歯向かう村人は全員殺された…俺の両親も…以前村長として村のリーダーだった人も…」




『お願い…だ……君たちだけでも…無事逃げてくれて…君たち…だけでも……』

「た…頼む……奴を……奴を倒してくれ…。プ…プロレスラーの…手…で……」



『逃げ…て…くれ…』

「たの…む…、たの…む…」




力尽きる寸前まで言葉を発した後、その男性はこと切れて白目になった。


気絶したのだ。


白目でピクリとも動かない彼を地面に降ろし、立ち上がる生一。


ふとハイキック野郎の方ではなくまったく逆側。


壁際に目をやり「キッ」と睨みつけた。






…しかし何も起こらない。


城門、下の方での小競り合いの声…そして風の通る音がするだけだ。



「………」


仕方ないなぁと言う感じで白目になった男性を抱きかかえ、壁際の方まで一旦移動させる。


ハイキック野郎は「あいつは何をしようとしたんだ?」という不思議な顔をしていた。


もちろん仁科さんも葉月も「生一は一体何がしたかったのだろう?」という表情だ。




生一は心の中で思っていた。


「(なんか今までの“流れ”で出来そうな気がしたんやけどなぁ)」



気を取り直し、壁際に白目になって気絶した男性を横たわらせる。


次に生一はその辺の土を彼に盛り始めた。


まだ死んでないのだが…



土を被せながら生一は話しかける。


「わかってるぜ。仲間や村人達が殺されたのが悔しいんじゃねぇんだろ。あいつらにいいようにされちまったのが悔しくってしょうがなかったんだよな…?


おめえの事は言葉もよく分かんなかったからあまり話せなかった。…絡みも少なかったけど、村人としての誇りみたいなものは持ってた。


オラにも少し分けてもらうぞ。その“誇り”みたいなもんを。」



そしてスクッと立ちあがる。


足元では白目になっている男性の股間部分にだけ、なぜか山の様に土が盛られていた。




ハイキック野郎に照準を合わせる生一。




「俺は日本育ちのプロレスラー(仮)だ。


おめぇに虐げられた村人たちの為にも…


そしてプロレスがシュートを超えた至高のスポーツだってことを証明する為にも…おめえをぶっ倒す!」



「…」



ハイキック野郎は小さい声でつぶやいた。


『だからさっきから何言ってんだコイツは。』

【読者の皆様へお願いがあります】

ブックマーク、評価は勇気になります!


現時点でも構いませんので、ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂ければ非常に嬉しいです。


頑張って執筆致します。今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ