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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: DARVISH
MOVIEⅠ【A面】
58/228

弾圧からの解放 ~とある東洋人の軌跡⑥

Chapter6

なんでラテン人みたいな巻き舌口調なのかは意味不明だったのだが、その叫び声をあげた声の主がゆっくりと最上段から姿を現す。


広場の人間全員がそのシルエットにくぎ付けになる。



ボロいマントを羽織った日本人・生一だった。



「藤宮君ッ!?」


「キイ…っあのバカ!」


そこには死んだと思われた生一が立っていた。


なぜかボロボロの布切れをマント代わりになびかせている。


マントは標的として目立つためにワザと身につけたのだろう。


『あいつは…』


黒ひげで小太りの男は見覚えがあると驚きの声を挙げた。


『へぇ…』


その近くにいた、生一が命名した男…“ハイキック野郎”は生一を見てニヤッと

笑った。


生きていた事よりも、逃げずにまたここに駆け付けた事が面白かったのだろう。


『あのトチ狂ったのが…“日本人”ってヤツか…へへへ。』


建物の下を衛兵がグルっと取り囲む。


『“アックスボンバ”の奴だ!』と言う感じで兵士たちは生一を指さし、口々に“アックスボンバ”と言っている。


手には全員シャムシールを持っていて、その数は150名以上はいる。



「いいか!よく聞けオラエェーッ!!」


叫んだはいいが、日本語だ…通じるわけがない。


仁科さんと葉月以外には何を言ってるのか分かってないだろう。



「あいつ…こんな状況だけど…バカだな。」


「同感…でも藤宮君、何かするつもりよ。」



生一は声を張り上げる。それが日本語ではあるが…



「もうお前らは終わってんだよ!この日本人を敵に回した段階でなぁッツ!今から目ん玉飛び出るようなこのド真ん中!突っ切ってやる!見とけオラ!」



そう言ったと思ったら、生一はなんと最上段の客席から勢いよく真下に向かって一直線に走り出した。


走り出す前に目の前のネイシャさんをチラッと見る生一。


彼女は生一をじっと見ながら、口元を震わせながら涙を流していた。


「(君に涙は似合わない…)」全てをを決意し、全速力で降りていく。


マント代わりにしたぼろ布をなびかせて一目散にネイシャさん目指してかけ降りていく。


しかしマントがたなびいて……何とも目立つ。


ある程度遠くから見ても、標的としてこの上なく目立つ。




仁科さんと葉月は瞬時に感じた。


無茶だ!


まるでジェットコースターのような勾配がある下り坂。


このまま、まっすぐ走り抜けていけばこの処刑台に最短で到着する。



しかし、建物の段差もある。


すぐ真下には衛兵のうち50人ほどが固まって…刀剣を構えて待ち構えている。


そしてそのさらに50m先にはあの幹部…長身の男が待ち構えている!


2人はこの生一の行いをどう考えても無茶だと判断して声を張り上げようとした。


“生一!無茶だからやめて!”と。


声を張り上げよう…としたが、すぐ後ろで叫ぶ声があった。


「生一さん!」


涙ながらに生一に向かって叫ぶ赤毛の女性。


「(あの女性ひと、アイツを知ってるんだ)」ととっさに理解する。


しかし彼女に目をやった後、再び生一の方に視線を戻した時。



…それは惨劇の光景だった。



走り始めてすぐ。


5秒も立たないくらいの所で、広場横に陣取る衛兵のボウガンが生一を狙撃した。


太陽の光のせいでどこに矢を受けたかは分からない。


でも矢を真横からまともに受けた生一は痛みなのか足を絡ませ崩れ落ちた。



そこからはゴロゴロを横回転しながら傾斜のある建物を勢いよく滑り落ちていく。



かろうじて確認できたが、マントが血で染まっていた。


『ハッハッハッ、バカめ!』


小太りの男は、何やら訳の分からない言葉を叫んだ後、こちらに突撃しようとした目の前の“日本人”の無謀さを笑った。


生一はゴロゴロと屋根から転げ落ちている。


そして下に50名程、シャムシールと槍を持った衛兵が待ち構えている。


『この間抜けめ!』という少しニヤニヤした顔でもうすぐ落ちてくるであろう生一を待ち構えていた。


屋根から落ちてきた所を全員で切りつけたり串刺しにするつもりだろう。


その前に矢を体に受けている。意識があるのだろうか…


屋根を転げ落ちる生一を目前に、仁科さん、葉月、そしてネイシャさんはもう見てられないとばかりに顔を背ける。


ネイシャさんは涙を流している。


屋根から落ちた生一を全員で囲んで切り殺すつもりだろう。


目の前で仲間が死ぬのは耐えられなかった。


「生一…」


絞るような声で仁科さんが呟く。




屋根の勾配もゆるくなり下の方に転がってきた生一。


そして屋根の下へ力なくドサッと転落した。


それを50名の衛兵がニヤニヤしながら取り囲む。


逃げ場はない。


絶体絶命だ。


生一が起き上がった瞬間に全員で切りつけるつもりだろう。



生一はピクリとも動かない。


先ほど受けたボウガンが、もしかして急所にヒットしていたのか?


刀を構え、少し様子を見ている衛兵達。


意識が戻ったところをハチの巣にするようだ。




……


すると生一のマントの中から煙が立ちこみ始めた。



『何だ?何が起こってるんだ?』と戸惑う衛兵。


それでも50名に囲まれている状態。


煙はそんな50名全員の目くらましをするほどでもない。


『さぁ起き上がってこい。全員で叩き切ってやる』という感じで、マントから何やら煙を出しているものの、うろたえることなく刀剣を突き付けている。





“ガバッ” という感じだ。



突然生一は起き上がった。



マントを広げて起き上がったのだ。



そのマントの下には…沢山のダイナマイトが括りつけてあった。



そしてダイナマイトの導火線には全て火がつけられている。煙は“それ”だったのだ。


生一はマントに括りつけたダイナマイトを囲んだ衛兵に見せびらかせながら叫んだ。


「サーピー!!サーピー!!」


これはこちらの言葉で“道連れだ!”という意味だ。


お前らと一緒に爆発して道連れにしてやる!という意味である。


ダイナマイトには火が入り出して濃い煙をモクモクと出し始めているものもある。


この瞬間に爆発するかもしれない。


目の前の狂った日本人は、ダイナマイトを体に括りつけてそのまま自分達と心中…言葉の通り道連れにするつもりだ!


そう判断した衛兵たちは蜘蛛の子散らすように生一の周りから離れていく。


「サーピー!!サーピー!!」


なおも煙幕を発しながら衛兵に迫っていく生一。


衛兵は必死に生一から距離を置こうと逃げる。


それが何を意味するか。



そうである。


50m先にいるあの“ハイキック野郎”へ向かう道が奇麗にできたのである。



ハイキック野郎の目の前の衛兵達は爆発を恐れ、煙を発する生一から逃げ出した。



ここで生一はマントを脱ぎ、ハイキック野郎の元へ向かっていく。


慌てて後を追いかける衛兵も居たが、尚も煙を出し続けるマントを彼らに向けて投げつけた。


モクモク煙をだしながらマントは生一の後ろにパサリと落ちる。


衛兵たちはいつ爆発するかもわからないマントが気になり、生一からやや距離を取って取り囲むくらいしかできない。


しかし生一はそんな衛兵達には既に眼中に無かった。


生一はついにハイキック野郎との対面を果たしたのだ。


『悪知恵もさることながら、よくここまで来れたものだ。』


ハイキック野郎は感心した様子で生一を見下す。


自分に視線を向けられたことに気づいた生一は激しく睨み返す。



マントの中のダイナマイトが煙をモクモク出すだけで一向に爆発しない様子に気づきだした衛兵数名が生一に近づいてきた。



しかしその時である。



広場から斜め下に降りていった位置・城門の方で大きな歓声が起こったのだ。


誰かが城門のカギを“内側から”開けたのだ!


刀剣を持っていたとはいえ、30名ほどの番兵は、門が開かれ押し入ってきた老人、そして八薙達数名の若者にうろたえだしたようだ。


数だけで言うなら村人の方が多い。


門の方でそんな小競り合いが始まったような大きい歓声が挙がる。


仁科さんと葉月は今の状況が分からないながらも何かを感じて顔を見合わせる。


仁科さんがふと葉月に話しだした。


“タイミング的にここしかない”と感じたのだろう。


「最後のとっておきだったけど…」


仁科さんはプッと口から何かを吐き出す。


それは……差し歯だった。


仁科さんの歯は差し歯だったのだ。


「この歯の中身…取れる?」


体を捻り差し歯に手をやる葉月。


差し歯の中に本当に小さいがガラスの破片のようなものが入っていた。


「ちょっと待ってて!イケると思う。」


葉月がまずその破片をロープにカリカリ擦るように当てる。すぐには無理だが見つからないようにロープをすこしづつ切り始めた。


衛兵は下の城門での混乱にやや意識を奪われているようだ。



小太りの男性“アジャパ”は衛兵に向かって叫んだ。


『門にいる村の老人達を抑えよ。広場に上げるでない!“日本人”がいたらひっ捕らえよ!』



ハイキック野郎も生一を後ろから取り囲み、恐る恐る捕獲しようとしていた衛兵達に、同じ言葉を叫ぶ。


『コイツは俺がやる。お前らは門から侵入しようとしている奴らを押さえに行け!』



『ハイっ』とばかりに衛兵達は広場下に向かう。



これで処刑台の広場の兵士のうちの殆ど…150名余りが一気に城門のほうの加勢に向かった。



そんな激しく衛兵が入り乱れる中、微動だにせず向かい合う2人…



生一。



そしてハイキック野郎だ。



それをやや遠巻きで見ている衛兵達は…4~50名くらいだろうか。



『生一さん…』


涙声で心配そうに呼びかけるネイシャさんが……処刑台に…ハイキック野郎の後ろにいる。


生一の横では仁科さんや葉月、囚われの女性達が見ている。


しかし生一は仁科さんたちにはまるで目もくれていない。


目の前の相手に対し、ずっと視線を逸らさない。



『あの状態からよくここまで戻ってきたな。まぁそれは褒めてやるよ…“日本人”』



生一は“日本人”という言葉以外は、何を言ってるのかよく分からなかったが、自分のやるべきことはとっくに決めていた。



「(…今度こそこいつをくい止める。今度こそは!小谷野や兼元…そして八薙が加勢するまでの時間を稼ぐ!)」



あくまで冷静だった。


真っ向から一人、挑んで勝つことは無理というのは承知の上だった。



「(全員で…勝つ)」




* * * * *





ここに至るまで…ほんの10分前の話に戻る。



客席裏をつたい、一番上の段を目指す3人。



「最上段行くまでに打ち合わせや。最後のな!まずこっち来い。」


かなり上の方にきた。


屋根の隙間から処刑台の広場が見える。


「!?」


小谷野と兼元の表情が一気に険しくなった。


処刑台の真ん中に…ネイシャさんが突き出されようとしていた。


2人の顔の強張りを察知して生一はすぐに2人の頭をガッと鷲掴みにする。


そして耳元で言う。


「お前ら2人がどこ見てるか丸わかりや!要するに今周りが見えてないっちゅうことや。」


2人はハッとする。


自分の目…ビジョンがネイシャさんしか見えていないことに気づいた。


思い立ったようにネイシャさんの周りに目をやる。


ネイシャさんの…横にはあの髭の小太り。


そしてネイシャさんを見上げるように陣取って立っているのは…あのハイキック野郎。



もう少し視界を広げてみる。


すると処刑を待つ村人の……その周りは衛兵でびっしりだった。


隙間からパッと見ても100名以上で囲んでいる。


この中を突破してネイシャさんを奪回するのはとてもじゃないけど無謀だ。


「まだ分らんか?お前らが見ないかんとこ!」


そう言って鷲掴みにした2人の視線を、その処刑台の向こう側…城門がある辺りに向けさせた。



「こっ…これは!」


「やっと気が付いたか…“俯瞰して物を見る”っての。分かったか?」



見ると城門を前に多くの村人が押しかけていた。


どこからか処刑の噂を聞きつけて抗議に来たのだろう。


門は閉じているが、何やら門を挟んで口論になっている。


そして門を陣取っている衛兵の数は、遠めだが…40名足らず。



「あそこの門を開けられたらよ…一気に情勢がこっちに傾くかもしれん。村人がなだれ込んで来たらよ…必然的に兵隊そっちに割かなあかんやん。今広場に150名…くらいのうち半分以上は城門の食い止めに充たる…」


「生一…聞かせてくれ。手順を!」



もう2人は今まさにロープを手首に括りつけられていくネイシャさんの姿に心を奪われてはいなかった。


これからの自分の役割を頭にたたき込む用意が出来上がったのだ。


「時間無い。一回しか言わんぞ。俺がまずこの上に出て叫んで囮になる。そんで後、本体の中心向かって突撃する。」


「それ…は、いくら何でもそれは無茶や!それで助けられる訳ないやろ。生一…ど真ん中投げたからってストライクにはならんぞ。」


「うるせえよ意味の分からん事言いやがって。俺達がこんじゃもん…いや、こんなもんじゃないって見せてやるんだよ!」


「囮になる覚悟は分かった。でも本当に死ぬぞ。あの広場全員がお前に注目するんやで。

地下やったから無かったけど、ここ外やで。弓とかボウガン飛んで来るかもしれんぞ。そんなハチの巣状態の中、突撃するんは…いくら作戦言うてもおれは死にに行くようにしか考えられん!」


「そうなってもよ…なるべく時間は稼ぐ!稼いでみせる!命かけて。それがあくまで目的や。」


「お前…」


「俺に視線を向けた全兵士たちを横目に、お前ら2人はさっき広場まで走ってきた宮殿&城壁サイドから城門まで駆け抜けろ!あそこの壁伝って飛び移れ!

もし見つかって捕まりそうになったら、どっちかを犠牲にしてでもええくらいの気持ちでやれ!

城門さえ空いたら状況が絶対に変わるはずや。」



小谷野と兼元が静かに頷く。


「それが出来たら、下の混乱に乗じてこっち戻ってこい。そんで3体1。

ここからが最後のバトルや!それまで俺が死ぬ気で時間稼ぐから!」



「お前なりに考えたんやろうな。それのんだる。でも死ぬな!もしマジでくたばったりでもしたら…」


「あぁ…墓にクソでもぶっかけとけ。」


「バカ言うな。ネイシャさん助けてから言え!クソが。一番おいしいとこ行こうとしやがって。」


「お前らあいつが隙見せたら、状況にもよるけどネイシャさん連れて逃げ出してもええんやで。どっちが美味しいとこか一目瞭然やろ。

“ネイシャさん命”なんやろうが…ええカッコしてこい!」



「けッ。そんな口車に乗るかよ!」


「おいっ!ネイシャさんが吊るしあげられて…」


「よし、もう時間無い。俺上行くわ!後でな!」


「あぁ!後で!」×2




* * * * *




生一は、ぼろ布をマントの様に羽織りその下にダイナマイトを忍ばせる。


「(おそらく狙撃される…その後ゆっくり落ちながらこっそり火をつけていく…)」


唯一の懸念点は狙撃を受けた場合の当たり所。


弓などが急所部分にあたると流石にそこでジエンドだ。


風でマントをたなびかせるのは“的”としては目立つが、どこが急所かを分かりにくくするためである。


「(頭…胸元は絶対に避けなあかん。腕で隠しながら降りて行くしか…

腕…肩口あたりに刺さってくれたら無難やな。どのみちノーダメでは無理やろう)」


そんな事を考えながら息を大きく吸い込み、広場に向けて大声を発した。




その声が合図だった。


衛兵たちが一斉に生一の方を振り向く。


全員と言っていいくらい彼に視線が集まったその時を見計らい、小谷野と兼元は隣の外壁に飛び移った。


そこから屋根をつたいながら城門を目指す。


今のところは誰にも気づかれていない。


しかし、叫んだあの生一が一気に屋根を駆け下りようとした数秒後…


あっけなく矢で射抜かれたようだ!



壁の隙間から彼が倒れ込む様子がかすかに見えた。


生一がボウガンのような一撃を受け、傾斜を転げ落ちていく。



「あんの野郎!だからド真ん中は無茶言うたのにっ!」



その事実に目を背けつつ、自分達のやることは決まっている。一気に広場から離れたエリアを駆け抜けていく。


少し大回りだが、ここだと衛兵はいない。今は全員広場に集合しているからだ。




ここを回って城門へ行…く…!



「!」



しかし、そこに絶望が待っていた。







待ち構えていたのは何も大勢の衛兵達…ではなかった。



でも何十人もの武器を持った衛兵よりも恐ろしい存在……



頭と口から血を流し、ややフラフラした姿ではあるが、視界は間違いなくこっちをロックオンしている人物がいる。



悪夢の相手…vaderファーダーだ。



こんな時に…マジかよ。



ファーダーは明らかに怒っていた。


いやキレている感じで、完全に“もう貴様らを殺す!”という顔つきになっていた。


目が血走っている。



小谷野が叫ぶ。



「兼元ォ!生一の言葉覚えてるよな!お前一人で行け!城門開けて来い!」


「でも小谷野!」


「門が空きさえすれば形成変わるかもしれんやろ!俺犠牲になってもええ!早う!」


「クソっ!」



冷静に見て恐らく小谷野だけでは勝ち目はないだろう。


そう感じたが兼元は思いきってデカブツの傍を通り抜けようとする。


当然ファーダーは視線を彼に移し、その太い腕で兼元を捕まえようとする…が!


小谷野が横から精いっぱい体を浴びせ、ファーダーを突き飛ばした。


兼元の逃走をアシストしたのだ。


「急げッ!」


そう叫ぶ小谷野を背中に、悲壮感を出しつつも城門へ向かって走り去っていく兼元。



すっ転んだファーダーは、マジでキレたような表情で立ち上がり、小谷野に飛び掛かってきた。



小谷野は正直に感じていた。


「(オレ…多分死んだな。)」




* * * * *




兼元は急な建物の斜面を滑り落ちるようにして城門に降りて行った。


坂道を行かず、横道をショートカットしてきたという感じだ。


しかし、下りて来た場所が悪かったのか、そこでシャムシールを持った20数名くらいの衛兵に取り囲まれたのだ。



城門は目の前。


しかしどう見ても20名はいる衛兵。


そして、逃げようにもスペースが無い!


「兼元さん!」


日本語でだれかが叫んだ!しかし誰がなんて確認する余裕はない。



じりじり距離を詰められ、4,5人が一斉に切りかかってきた。


兼元は必死に剣先を見て、振り下ろされた刀剣を避ける。


本当にギリギリだ。


深くではないが少し切りつけられて腕から血が噴き出した。


本当に逃げるスペースがないのだ。


次は無い。




しかも兼元は素手である。


刀剣を受け止める“何か”もない。


その時、勢いよく城門の外から石が投げ込まれた。


門の前にいる老人たちの抵抗だ。


しかしたかが老人の投げ込んだ石。


致命傷になるはずもなく、それが兼元が逃げるための注意を逸らすものでもない。


数秒間彼らの気を散らした程度だった。


再びシャムシールを構えて兼元に近づいてくる。


万事休すか!と思った瞬間また何かが起こった。




坂道の陰にずっと隠れていたであろう村人が10人程ではあるが、一斉に姿を現し突撃してきたのだ。


出身は分からないが、地下の労働施設から脱走してきた村人だ。


隠れて様子を伺っていたようだが“このタイミングだ”と判断したのだろう。



殺傷力は無いが、木刀のようなもので切り込んできた。


30名ほどの衛兵のうち10名がその切り込みを受けて体制をくずす。


そこを横から羽交い絞めにしようとする。


武器を取り上げようとしているのだろう。


急いで近くに居た10名の衛兵が、羽交い絞めにされている兵士を助けてその村人達を取り押さえる為に援護に向かう。



ここで兼元を取り囲んでいた人間が一気に減った。


同時に逃げるスペースが出来た。



この隙に兼元は衛兵の足元をすり抜け、城門のトビラのスイッチに手をかける。


ここのトビラ(城門)がからくり式のスイッチだというのは、この建物の構造を知っている兼元からすると狙い通りだった。


カタカタカタと少し大きな音とともに、ついに城門が内側から開かれた。



大勢の村人…老人が多いものの、2~3人の若者、そして首謀者と共に城内になだれ込んできた。


その首謀者はまず、内側から門を開けた殊勲者にかけより声をかける。



「ナイスガッツ!兼元先輩!」



その首謀者はまさに八薙だ。間違いなく生きてる!



すぐに八薙は視線を衛兵に向ける。こいつらを蹴散らして上の処刑台広場に乗り込まんとしていた。


その八薙の腕をガッとつかんで叫ぶ兼元。


「急いでくれ!生一や…皆が危ねぇんだ!この上にいる。」


再開を喜びゆっくり話す時間が無いのは分かってる。


兼元は“必要な言葉だけ”を伝えた。


八薙は少し微笑み頷くと村人と衛兵が揉み合っている中に援護に入っていった。



兼元がもう一声、背中の八薙に向かって叫ぶ。


ごった返している中ではあったが“日本語”で叫んだから伝わっているだろう。


「上に“蹴りのヤバいアイツ”がいるぞ!」






兼元の最低限のノルマはクリアした。しかしすぐ気持ちを切り替えて戻らないといけない。


そう……果たして小谷野は生きてるか。

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