弾圧からの解放 ~とある東洋人の軌跡④
Chapter4
勇一と再開した時の3人の体力は既に限界を超えていた。
それでも彼女が生きているという事実が沸き上がる闘志に火をつけた。
途中、上層に向かう時に番兵と出くわす。
しかし3人はものともせず連携を駆使して、相手を倒す…わけでもなく刀剣をはぎ取った。
武器を奪われた番兵は逃げていく。
他にいちいち構うつもりはない。
「パターン入った!大丈夫や!お前ら先行っとけ。」
番兵も難なくクリアしていく。
このまま下層階を抜けて処刑場に乗り込み、彼女達を奪回するのみだ。
「勇一、そこのスイッチのトコ、おれ。」
「え?ここ」
勇一が指定されたタイルへ行くと、カチッという音がした。と同時に向こう側で鉄格子がカタカタカタと開く。
「小谷野が向こうのスイッチ押してくる間、ここ踏んどけってコト。」
テンポ遅れながらだが理解した勇一。
上階に上がるにつれ、様々な仕掛けがあったが最も基本的なものはこの鉄格子だ。
スイッチを押すとからくり仕掛けの鉄格子が開く。
でも別のスイッチを押すと閉まる。
鉄格子は時間がたつと閉まっていくので素早く進まないといけない。
しかし4人で行けば閉まって誤って閉じ込められてしまう心配もない。
トビラスイッチの場所を把握し、3人が勇一に指示を出す。
あいつらはもうここの要塞のトラップの何たるかを理解しているようだ。
「そこ!小走りで進め。小走り健太言うたやろ!」
「え?」
ふと足を止めると手前から勢いよく針が飛び出してきた。
…危なかった。
勇一は振り向いてゴメンのポーズをとる。
「仕掛けがいやらしいねんな、いちいち…」
小谷野も兼元もこういったトラップにハマりそうになったのだろう。イライラしていた。
でもそこはゴールに至るまでの大事な過程だ。
処刑までの時間も気になるが、最新の注意を払って上層部に住んでいく。
結果、1時間…もかかっていない。
40分もかからないくらい…で下層階を抜け切り、一応のゴールが見えてきた。
「多分やけどこの階層抜けたら宮殿内部に入るで。気ィ一段階引締めよう。」
生一が促す。
まるで迷宮を探索するベテランみたいな言いぐさだ。
でも一瞬のミスで串刺しになったりする恐れがある。
上層部の階段が見えてくるまでは十分に注意する。
……そして上層部に続くであろう階段の前へ到達した。
番兵は少なかった。
恐らく今は処刑台のある広場に集結しているのだろう。
登り階段の手前。
生一が3人を集める。そして頭を寄せ合って話す。
この先の簡単な打ち合わせだ。
まるでプロ野球の試合前の声出しみたいに感じる勇一。
「勇一…お前はええ情報とええサポートをしてくれた。今回はマジ助かったわ。
でもここから上は多分敵だらけやねん。特に広場はな…時間も大分経ったからあいつらも集まっとるやろう。
だから先言うとく。絶対に敵集団に囲まれんようにお前(勇一)は隠れとけ。あと拝借したその木刀は護身用に持っとけ。ここからは2手に分かれる。
俺らは処刑台の広場に助けに行かなやけど、ネイシャさんをまず助け出す。お前は俺らがどうなろうが絶対助けに来るな。
ここまで助けてくれたんやし、もう無理はせんでええ。後は自分の身を守る事だけ考えろ。」
「お前らはどうするんだよ。死ぬ気か?広場に兵隊が集まっているならとても正面から乗り込むことなんて……」
「俺に考えがある。タイミングってのもあるけどな。」
「生一…」
「地形は…一応教えてもらってる。俺がその最上段に立って囮になる。」
「バカか!それこそ死ぬぞ!」
「俺に全員が集中してる隙に、おまえら2人が動くんや。俯瞰って分かるか?その時その時の状況をよう見とけ!」
「ああ分かった。」
「ええな…状況をよく見ろよ。もしネイシャさんが居てたとしてもそこに目を奪われるな!」
3人の背中をパンッとたたいて階段を駆け上がっていった。
「さ行こう!」
* * * * *
大きな死刑道具が運ばれてくる。
いよいよということで、村の女性は悲鳴を挙げて泣き出した。
隅の方では、縄で縛られた東の村出身であろう男性陣が涙を流しながら様子を見ている。
自分達の仲間がこれから殺される…たまらない気持ちだろう。
連結されたまま縛られた両腕を引っ張られ、舞台の方に順々に連れてこられる。
兵士たちは集合してその様子をじっと見ている。
その数約200名程。
既に広場は山賊衛兵だらけだ。
村の男性達が助けに行く余地は無い。
さらに女性達に一番近いところにあの190㎝ほどの長身の男が陣取る。
幹部の人間だ。
仮に200人程の衛兵を運よく退けられたとしても、この幹部の男を倒さない限り彼女達は助けられないという構図だ。
おそらく遠くからその状況を見ている地下から脱走してきた村人はいるだろう。
しかしこの状況下、圧倒的兵力に何もできない無力感。
まるで残酷な現実を見せつけられているようだ。
髭を蓄えた小太りの男性が壇上に上がり、人質の女性達と兵士たちにもう一度呼びかける。
『今一度聞く!“日本人”はまだ現れんのか?反逆者である“日本人”をつまみ出せ。
知っている者は情報を吐き出せ!最後の猶予をやる!』
仁科さんも葉月も自分の仲間を売るような事は死んでもしたくなかった。
静那は恐らく生きていたとしても重症だろう。
このまま真也と逃げて伸びてくれたらそれで良かった。
2人が無事でいてくれたら…この命、最後まであきらめずに生き抜いた甲斐がある…。
静那に救ってもらった命…
自分を貫き、最悪死ぬ事になっても悔いない覚悟はできた。
程なくして処刑台には大きな刃物・ギロチンが持ち込まれ、村人たちが青ざめた…その時だ。
『門の方に近隣の村の者が押し寄せてきました。如何いたしましょうか!』
兵士からの報告。
人質となっている村人たちも物陰からその声に一斉に注目する。
小太りの男性“アジャパ”は小高い壇上から城門の方に目をやる。
そこには、各村の老人ばかりではあるが『死刑を中止しろ』と口々に抗議する村人が城門を取り囲んでいた。
『まずは城門を固めよ。カギを突き破って入るような輩が居れば切り捨てよ』
そう男性が指示すると、200名くらいの山賊衛兵のうち30名くらいだろうか。
衛兵が隊列を成して広場から坂道を下ったところにある城門側へ向かった。
門は固く閉じられているが、塀などから無理やり入ろうものなら即切り殺すという所だろう。
門を隔てて場内は刀剣・シャムシールを構えた門兵で固められた。
これではたとえ門をこじ開けられたとしても入りこめない。
老人達はたじろいだ。
“どうすればいい?”とお互いを見合う。
まもなく場内は処刑が始まるというのに、ここで足止めになってしまうのか…
門の前では刀を抜いた衛兵が“乗り込んでくるならば容赦なく斬る”とばかりにスタンバイしている。
* * * * *
その頃勇一達4名は宮殿内部に入った!
400mくらい向こうが広場になっている。…そこに恐らく皆もいる。
「よしっ!勇一は隠れとけ!」
勇一は単独で外壁と建物の間へ隠れた。
そして3人は広場を目指す。
しかし兵が数名!早速気づかれた。
3人だ。
3対3!
3人は一気に走り込んで距離を詰める。
大きめのシャムシールを生一に振りかぶる。
しかし大剣ゆえ振りが遅い。
よけた生一は思いっきり体当たりとラリアットのような形で腕をぶつける。
「アックスボンバッ!」
気合が入ったのか思わず声が出てしまう。
「バカ!見つかるだろ!」と兼元。
建物の隅に隠れている勇一も同じことを思った!“大声出してアホかーー!”と。
案の定その声をききつけて向こうから衛兵が来たではないか!
小谷野は衛兵2人に囲まれたが、兼元がうまく注意を逸らす。
その隙に同じように建物の壁にめり込ませるような串刺し式のラリアートをぶつける。
押しつぶされたような形になり、力なく前のめりに倒れる衛兵。
腰が入った良い攻撃だ。
しかし小谷野はハイになっていたのかここで雄たけびを上げてしまう。
「いっちゃうぞバカヤロォー!!」
その声に反応して処刑台の方角から兵士がまたワラワラ集まってきた。
「超バカか2人とも!声出したら見つかるに決まってるやろ!」
注意した兼元に切りかかってくる衛兵。
しかしシャムシールをひらりと交わすとジャンピングハイキックを眉間のあたりに叩き込む。
「デイーーヤッ!」
気合と共にクリティカルヒットしたようだ。
衛兵はうつぶせに倒れた。
「お前も声出してるやんか!」
「言い合いしてる場合ちゃうやろ、逃げるで!」
十数人くらいの衛兵が騒がしさに集まってきた。ここはアジトの本丸広場手前だ。当然だが敵だらけだ。
外壁と宮殿の隙間から見ていた勇一。
心配そうに彼らの行方を隠れつつも彼らを追う。
生一から「何が何でも来るな!隠れとけ」と言われたが、彼らが死ぬような状況になれば話は別だ。
ここまで来たんだから誰も欠けたくない…だれも欠ける事なく皆で静那と再開するんだ…
3人は上り坂を走り、逃げていく。そしてあの忌まわしい場所…陸橋の上に上がる。
ココ、陸橋の上なら大勢で攻めてきたとしても、横幅が無い。
要するに1体1の対決に持ち込める。
3人の狙いはそこだ。
陸橋からは一応城壁の様子が見えた。
生一は陸橋からアジトの外(外壁)に少し目をやる。
「!(あれは…)」
そして感じた。
タイミングによっちゃ、ひっくり返せると。
衛兵たちは3人を追いかけてきたが、陸橋での1対1の戦いに持ち込もうとする生一達の意図を理解したようで、一定のところからはこちらに向かってこない。
暫く硬直状態が続くのか…と思われたが、誰かの声がした。
…!
現れたのはあの…デカブツ。
まさに3人のトラウマになっている男、vaderだ。
なんと彼はネイシャさんを担いでいた。
首を掴まれて苦しそうだ。
こっちに気づいて涙を流している。
これからこの女を部屋から死刑台へと連れて行こうとしていたのに、庭の方が騒々しい。なんの騒ぎだ? という流れでやってきた……こんな感じだろう。
3人はvaderを陸橋から睨みつける。
彼は生きていた3人に気づき笑い出した。
そして部下に通達する。
『お前らはこの女を連れて先に行っとけ。あの3人は俺一人で始末する。』
…おそらくこんな感じの命令だろう。
部下の衛兵は雑に縄で括りつけられたネイシャさんを乱暴に受け取り、処刑台がある広場の方へ向けて歩いていった。
「ネイシャさん!」
3人はありったけの声で叫ぶ。
ネイシャさんもありったけの声で叫び返した。
『ダメ!逃げてぇ!』
「逃げて」?……冗談じゃない。
こんなシュチュエーションで逃げたら、日本の…いや末代までの恥だ。
「“逃げてぇ”と言われて逃げる男児がどこにおる!」
小谷野が力強く言う。
しかし“逃げてぇ”の部分をネイシャさんの声色を真似て言ったため…正直キモかった。
生一が小声で言う。
「感情に邪魔されるな!それがココやぞ。これからあの男達追いかけようなんて頭を完全に捨てろ!
目の前の奴を倒すことに全集中しろ。」
2人が黙って頷く。
vader…そのデカブツは尚もこちらを見て笑っている。
そして人差し指を自分の目の前の地面に向けてトントンとした。
『ここまで降りて来いよ。相手してやるから…』
そんな感じだ。
小谷野も兼元も怒りで我を忘れるくらいだったが、抑えて握りこぶしを作る。
手はプルプル震えていた。
恐れもある。
目の前の相手に2度も殺されかけた。
そして今は以前よりも体調が万全じゃない。
正直…怖い。
その気持ちを無視しちゃ駄目だ。
でも、コイツをクリアしないとネイシャさんを助け出す世界線へは出られないのだ。
足が震えていたのかもしれない…なかなか3人は下に降りられない。
そのデカブツはずっとニヤニヤしていた。
まさか2時間前に死の底へ突き落した人間が、どういう訳か舞い戻り、目の前で再び無謀にも対峙しようとしている事が面白くてたまらなかったのだろう。
『東洋人…いや“日本人”だったか…こいつらはどこまでイカれているんだ。またやられにきたか。』
そんな表情を見せて陸橋の下で待ち構えている。
生一は多少震えはあったが、先陣をきってゆっくりと陸橋を降りた。
その後を2人もついていく。
ゆっくり歩を進め、ついにその男と同じ土俵…同じ所まで来たのだ。
今度やられたらもう後は無い。
未だに『ホラ、いつでも来いよォ』という感じでvaderはニヤニヤしている。
生一が静かに2人に話す。
「今度は実質3体1や。相手は油断してる。“運命”でいくぞ!」
その言葉に3人は覚悟を決め一斉にとびかかった。
飛び掛かるといってもタイミングを微妙にずらしている。
まず生一が突っ込むと見せかけて後ろに回ろうとする。
正面から相手の左側面に素早く移動!
デカブツはそれに反応して左腕を後ろに振り回した。
頭をかすらせたが、生一はなんとかよける。
その後ろに振り回し切った腕を右側面から来た小谷野が掴んだ。
そのまま抱きかかえるように両腕で片腕を捉えた。力を入れたら振りほどかれそうな太い腕だったが、腕を振り回し体のバランスをくずした分左腕の自由を奪う。
その隙に生一が今度は左足を掴む。そして力いっぱい持ち上げようとする。
相手の体重を考えると持ち上がらない巨体でも、片足だけならなんとかなる。
少し浮いた左足。そして左腕の自由が利かなくなったところに兼元が飛び込んできた。
逆上がりのような要領でデカブツの太い右腕に巻き付き、一回転して勢いをつけ、デカブツの頭の方に重心を乗せる。
左腕を掴んでいる小谷野がそのまま背中の下に潜り込んでアシストする。
兼元の全体重が頭にかかり、その勢いに乗ったまま思いっきり倒れ、地面に後頭部を強打した。
3人の連携が織りなす『合体複合技“運命”』である。
おそらく彼は自分が頭から投げられるような事がなかったのだろう。
初めて後頭部を思いっきり打ち付けられたファーダーは、面食らって後頭部を抑え、仰向けに倒れ込んだ。
「ここしかねえ!」
小谷野が号令をかける。
「せーのッ!!」
3人がかりで仰向けになった男を一気に持ち上げる。
彼がもし160kgあるのだとすれば、一人にかかる比重は50kg以上だ。
それでも“バカ力よ今こそ”とばかりに瞬発力もあわせて持ち上げ、そのまま体の部位を極める。
生一は足をロック。兼元は真ん中を担いでいる。
そして小谷野は頭を押さえつける。
三人がかりでの“アルゼンチンバックブリーカー(背骨折り)”といったところだ。
(※アルゼンチンバックブリーカーが分からない方は検索をお願いします。)
しかしそれだけで終わらない。
「オオオオッ!」
生一達が足をロックしたままその場で飛び上がる。
合わせて小谷野も頭を掴んだまま同時に飛び上がり、その後 体重を掴んだ頭に乗っけたまま脳天を床にたたきつけた。
仰向けの人間をまたしても3人がかりで持ち上げた後、振り下ろす。
『合体複合技“燃え盛る槌”』である。
全員の体重が彼の首にかかったのだ。
さすがに大ダメージを受ける。
しかし脳天から落とされたデカブツは、恐ろしいことにまだ意識は保っていた。
しかし首を抑えて苦しそうにし始めた。
「とどめ!」とばかりに小谷野がサッカー選手のように助走をつけて思いっきり顔面を蹴り飛ばす。
今までの恨みも十二分に十分に十分に込めてー、ペナルティーキック!
後頭部へ“スカーン”と、ものすごい音がした。
それでデカブツは気を失い、ついに動かなくなった。
…
……
小谷野も立ち上がった兼元も体の震えが止まらない。
震える声で生一に問いかける。
「生一!もしかして俺ら…」
「バカ野郎!俯瞰して見ろっつったろ!」
2人を怒鳴った。
でも2人はすぐに気づいた。
「急いで処刑台行くぞ!こっからが本番や!」
そうだったのだ。
目の前の勝利に喜んでいる場合ではない。
ネイシャさんは処刑台に連行されていった。
まもなく処刑執行が始まるはずだ。
急がないと…ネイシャさんの命が危ない。
仁科さんも葉月もいる。
安堵する暇なんて正直無かった。
ただ、幹部の一人はクリアした。
クリア…してしまった。
あのどうあがいても勝つのは不可能だと思っていたあのデカブツを…3人がかりの連携で一気に乗り越えられた。
乗り越えた!
しかし…
あと一人いる!
あいつが…
あのハイキック野郎が…
生一の頭の中はもう既にそちらに切り替わっていた。
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