25-1 日本人
【25話】 Aパート
この日は朝からアジト内が騒がしかった。
まず夜明けとともに凄い音で目が覚めた。
要塞に隣接している建物が爆発したのだ。
その部屋に火薬が保管されていたのかどうかは分からないが、思いのほか火の手が上がり、牢番の人間以外、アジト内の多くの山賊達が消火に充てられていた。
落ち着いたと思ったのもつかの間。
隣町から一人の男が要塞の中に入ってきてからは兵士たちの様子がおかしくなった。
何やら“緊急事態”だそうだ。
牢屋の前を横切る男性に仁科さんは思わず質問する。
『あの!何があったんですか!』
『オマエ…あの東洋人か?お前の仲間らしき奴が東の村にいる俺達の仲間を全員“やった”らしい。壊滅したとよ。
……というかお前いつから言葉がしゃべれるようになった?器用な奴だな、もうすぐ死ぬかもしれんというのに。』
『何で死ぬのよ。私たちは何もしてないじゃない。』
『オマエの仲間らしき人間がうちらのアジト1つ潰したんだ。おそらく見せしめにお前らが死刑になるさ。けッ…』
そのままその男は去っていった。
「(その東洋人って……まさか八薙君?)」
葉月はそんな予感がした。
彼が一旦ここを脱出して村を救っている…というのは可能性として考えられる。
でも村一つ丸ごと救う程とは…
「とりあえず、八薙君生きてるよ。多分周辺の村人に助けを求めてくれてるんだ。」
「うん。あいつ、きちんと動いてくれてるんだね。」
ただ、そんな希望的観測もすぐに絶望に変わった。
『おい!そこの東洋人の女!出て来い。東の村の女共も一緒にだ!』
途端に牢獄内が悲鳴で包まれた。
乱暴な男達がロープ片手にズカズカ入ってきたのだ。
仁科さんと葉月がまず呼び出されたのだが、なぜか東の村人出身の女性たちも連行される。
ロープで手首をきつく縛りあげられ、そのまま上層部へ連れていかれた。
目隠しをされて無理やり歩かされ、程なくして到着したところ……ここは何だろう。
上層部に大きな広場が見えた。
日本の施設で例えると……国立競技場にあるサッカースタジアムを丁度そのまま半分くらいに切ったような広さだ。
その場所を見て東の村出身の女性からは悲鳴や泣き声が出た。
『どうしたんですか?』
『処刑場よここ!私たちは何もしていないのに殺されるのはイヤ…』
『処刑場?』
『オマエは東洋人の癖に言葉が分かるのか…大したもんだ。』
2人が振り向くと、そこに長身の男が立っていた。190cmはある男だ。
葉月はすぐに気づいた。
『うちの仲間に何したの!』
彼は以前、八薙を痛めつけた張本人だ。
『勝手に乗り込んで来たから駆除してやっただけだ。』
「?」
一瞬言葉の意味が分からなかった。でも誰かが彼の手によって殺されてしまったという事実。
ちゃんと言葉を訳せているかどうかはわからないけど“駆除”という意味に近い単語だった…
仁科さんが睨みつける
『あんたが皆を…』
声を震わせて怒りを露わにする。
それを見て男はしゃがみこみ顔を思いっきり近づける。
人差し指を仁科さんの胸の谷間に突き刺し、少し開けさせながらニヤニヤ笑う。
しかし“こんな事で動じたりしない”とばかりに、その目を見ながらも尚も睨みつける仁科さん。
するとその男はつまらなそうに振り向いて去っていった。
彼女の恐怖に怯える顔が見たかったのだろう。
その男の後姿を見ながら仁科さんは涙を堪えられなかった。
誰かは分からない。
けど、あいつに仲間の誰かが殺されたらしい…
その事実に肩を震わす。
この7人のうち誰が欠けるのも嫌だった。
静那に“生きて”と言われた。
きちんと全員で生き延びて、今…生きているかどうか分からないけどもう一度 彼女と会う事が仁科さんの夢になっていた。
そのために牢獄でいた時間は必死に言葉を覚える為に努力した。
でも誰かが死んだ…らしい……
自分ではどうしようもできない中。
この事実が彼女の生きる精神力をプツッと切りかねない事にもなっていた。
* * * * *
まず処刑台の周りに女性を並べられた。
仁科さんと葉月。そして東の村出身らしい女性たち。
連れてこられた女性は40数名いる。
手の自由はない。
そしてお互いロープで連結されているので逃げられない。
ただ、すぐに張りつけにして処刑するという感じではなかった。
まず一人の小太りの男性が皆の見える壇上に上がってきた。
そして話し出す。
今回東の村人、そして仁科さんと葉月を呼び出した理由を。
『お前たちの村の男達がきちんと労働を提供することで、女性達の安全は保証する。
確かにそう話をした。
しかしだ!昨日、お前たちの村で反逆行為があった。
我々の仲間は全て捉えられたそうだ。
反逆行為が見られた場合、人質、お前たちは見せしめとして全員処刑とする。そう言ったはずだ!』
その場からは動けなかったが、勿論反論の声を上げた。
長い牢獄生活で心身共に疲れた顔をしていたとはいえ、自分たちが処刑されるかもしれないのだ。
村の女性たちはありったけの声を張り上げた。
仁科さんと葉月が理解した内容としては
『自分達は関係ない。言いがかりだ。我々はきちんとルールを守っている!なのに何故処刑されないといけないのか!』といったもの。
小太りの男はそんな声を一旦制し、また話始める。
『ただし、処刑時間までにその主犯格を捕えられたら死刑は免除してやる。
心当たりのあるものは申し出よ。
聞いた話によると、その犯人は東洋から来た“日本人”という名の人種だ。
男女の2人組だと聞いている。
もう一度言う!心当たりのあるものは申し出ろ!!
猶予をやる。
その“日本人”とやらをここに差し出せェ!何か知っている奴は申し出よ!』
仁科さんと葉月は話の全体の意味を理解した。
……確かに聞いた。
“男女2人組”という言葉を。
そして、仁科さんはその瞬間、どんどん溢れだす涙を拭う事もせず、葉月の方を見る。
葉月もすでに泣いていた。
こんなに人は涙を流すものかと思う程、頬から涙の粒がこぼれ落ちてくる。
「2人組…2人って……ま…さ…か……」
「うん…生きてる……あの子……生きて……いてくれてたんだ。生きててくれていたんだ……うん……本当…に…」
「生きてる…本当に…生き…て…くれてる…」
腕の自由が利かない。
それでも2人は肩をもたれ合わせた後、体を震わせながら涙を流した。
こんな絶望的な場所で…数時間後、自分たちが死刑にされるかもしれないこの場所で、今までの堪えていた思いが一気に堰を切ったかのように泣き出した。
周りの人間達は、彼女達がなぜ急にこんなに泣いているのかは分からない。死刑を理解したからなのか?
そんなことはお構いなしに2人は溢れる涙を抑える事ができなかった。
死刑執行は3時間後、白昼の下ここで執り行われる。
* * * * *
舞台は変わり、勇一や村人たちが作業をしている地下深くのエリア。
『全員手を止めろ!話がある。集合だ』
これくらいの言葉はさすがに聞き分けられるようになった勇一。
一旦仕事の手を止めても良いらしい。
牢番から何か重要な報告があるそうだ。
朝から当たり前のように運搬作業を進めていたが、意外と早い休憩だなコレと感じた。
…いや…どうやら休憩ではないらしい。
ムチを持った男性が集合をかけ、なにやら聞き込みをしている。
勇一も一応駆け付けるがまだまだ言葉がよく分からない。
さらにこのムチ男はモガモガしゃべるのでよけいに聞き取りにくい。
気になった勇一は近くの方に話の内容を聞いてみた。
まだまだ言葉が難解ながらも「どうやら近隣の村が壊滅させられた」という内容は分かった。
そして「女達・処刑される・見せしめ」とも言っていた。
これは連れてこられたその村出身の女性が反逆行為の為に見せしめに処刑されるという事だろう。
大変だ!
おそらく同じ牢屋に監禁されている仁科さんや葉月はこの事を知っているんだろうか?
とにかくこれは穏やかじゃない。
労働者の中には反逆が起こった村出身の男性もいたのだ。
当然納得いくものではなく、怒り狂っていた。
猛然と抗議をする。
講義内容は恐らくだが『私達はきちんと労働をしているではないか!彼女達は関係ない!処刑を取りやめろ!』という内容だろう。
疲れ果てた顔だったが、身内の命がかかっているのだ。
必死で突っかかる。
しかし逆にムチで打たれてしまった。
とたんに打たれた場所がミミズ腫れになり、血が噴き出した。
しかしそれでも『何故だ!横暴だ!』というような叫び声が止まらない。
『大丈夫ですか?』は言える。
勇一は鞭で打たれた男性のもとに駆け寄り、声をかけようとした。
するとその男性は勇一の胸ぐらを掴み、何やら怒りの矛先をこちらに向けてきた。
勇一はあくまで冷静にその理由を聞く。
するととんでもない情報が飛び込んできた。
「犯人は“日本人”と名乗る人らしい。男女の2人いると言ってた。」とのこと。
“2人”…確かにそう言ったのだ。
そうすると…もしかして静那は、生きて…いる…?
そう感じた時、勇一の今までの苦労や辛さが吹き飛んだような気がした。
「何だよソレ…希望が…希望が湧いてきやがった!あいつが無事だなんて…もう駄目だと思った…絶望的だった…でも、そんな中で生きて…いてくれたんだよな…」
何日ぶりだろう…
気持ちの高ぶりが止まらない。
そう思うとすぐに行方不明になっている生一達や八薙の顔が浮かぶ。
すぐにでもアイツらにも伝えてやりたい。
静那が生きているって事を!
今、どんな薬よりも力の沸く情報だ。
この事実を知るだけでどれだけ勇気が湧いてくるだろうか…
自分の中でも何か心の奥底から希望が沸き上がってくるのを感じる。
半分泣きそうになった。
…しかし現状は厳しい。
恐らく反逆者は真也だろうか…1つの村を救ったおかげで、こちらに監禁されている村人達がとばっちりを受けてしまいそうだ。
「(真也…今どこだよ。こっちは大変なことになってるんだぞ!)」
日の光の当たらない地下で、勇一は天を仰ぐ。
仲間がいるのならすぐにでもこの事実を伝えたかった…。伝えたくてたまらなかった。
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「ここを出よう。今手をこまねいていても仕方ない!」
作業をしながら勇一は決意を固めていた。
しかし実はそう感じていたのは勇一だけではなかった。
自分達の村の女性達が処刑されるという一報を聞いた村人も黙ってはいられなかったようだ。
そして今朝はアジト内で火事があったようで、大勢の牢番や山賊達の姿が見当たらない。
要するに手薄だという事だ。
自分がもしこの兵士達に逆らったら、鞭や槍で突き殺されるかもしれない…
でも今は静那が生きている。
真也もいる。
不思議と怖いものは無かった。
彼らが無事でいるというのがこれほどにも自分に勇気をくれるものなのかと感じた。
ムチを持っている男を含め、このフロアで監視をしている男は…現在10名。
たった10名。
…いつもの5分の1くらいしかいない。
こっちは素手だけど色んな村から寄せ集めで連れてこられていて120名近くいる。
「まず自分が活路を開くんだ。一人ずつ仕留めていけば無理な相手じゃない!
今こそ“エレファントシンドローム”の呪いをぶち破り、ここを出るんだ!
この環境だけじゃない。このマインドから。
…やるぞ……うん!」
そう思うと心臓の鼓動が強くなった。
ドクンドクンという音が聞こえる。
やるんだ!
あとは…タイミングだけだ!
そんな思いで仕事の手は動かしつつも監視員の動きをチラチラと見る。
勇一も実は長い牢獄という奴隷生活の中で神経がだんだん死んでいってるような感覚を覚えていた。
この牢獄に入れられた時…はじめは脱出に向けて言葉を覚えようと、何度も村人とコミュニケーションを図ろうとしていたが、すぐに疲れて寝てしまう村人のリズムに慣れてしまったのか、あまり意欲的に言語を学ぼうと思えなくなっていた。
仕事をして…疲れて…寝て…の繰り返しでだんだん考えることをしなくなっていた。
外の情報を得る事も出来ず、自分がやれることなんてたかが知れている…
そんな風にいつの間にか“思わされて”いたのかもしれない。
しかし今は違う。
静那は生きていた…そのことが自分にどれだけの勇気を与えてくれたのか。
どれだけ生きる希望が湧いてきたのか。
烈火の如く燃え上がった想いは当分は消えそうにない。
そんな今こそ立ち上がるんだ。
この支配構造から自由を勝ち取るために!
ふと想いが先走ったのか、セメント袋を落としてしまった勇一。
貴重なセメント剤がタイル一面にまき散らかされる。
「しまった!」と思った時にはもう遅い。
ムチを持った男性がツカツカとやってきた。
鞭で打たれた事は…無い!
恐怖で顔が引きつる。
この国では「すいません」などと言っても伝わらない世界だ。
“このバカやろう”とばかりに男は勇一に向かってムチを振り上げた。
思わず勇一は体をのけぞる。
その時ーーー。
力なくそのムチを持った男は前のめり…勇一の方に倒れ込んできた。
なんと誰かがスコップで彼の頭を思いっきりどついたのだ。
頭から血を流し意識もうろうの男性。
勇一を助けた男性は、先ほど鞭で打たれた東の村出身の若者だった。
すぐさまその様子を目にした牢番の男性がスコップを持ったその若者に走り寄ってきた。
木刀のようなものを持っている…でもまだ1人だ。
隣にいる勇一を守ってくれたその男性むけて、牢番の男は木刀のような棒を振り上げる。
その時に勇一はあの時の感覚を思い出した。
あの時…
それは、高校の時……公園で静那と始めて出会った時だ。
あの時、自分よりも背丈の大きい男性に静那は絡まれていた。
それを助けたいと強く思った時、勇一は夢中で男性に体当たりをし、静那の手を掴んで逃げた。
ほぼ無意識で夢中。そう…“無我夢中”だった。
あの時の感覚だ。
勇一から見れば棒を持って向かっていったその男は、東の村出身の若者の方しか見ていなかった。
勇一の動きには全く視線が無かった。
だからとっさにやったのだ!体が動いた!
勇一は横から棒を持った男に向かって思いっきりタックルをかましたのである。
男にとっては見えない視界からの思わぬ“横槍”である。
そのまま前のめりに倒し、マウントを取った勇一は夢中でその男が持っている木刀のような棒を奪った。
力づくだ。
傍にいた2人の監視員がそれに気づき、勇一達2人を押さえつける為、突進してきた。
「うわぁぁああっ!」
でも勇一は夢中で奪った木刀を振り回す。
東の村出身の男性もスコップを振り回す。
その暴挙に少し躊躇して立ち止まる監視員達。
その瞬間だ。
背後から別の村人達が監視員に掴みかかり羽交い絞めにした。
勇一は死なないだろうと少し躊躇したが遠慮なく…
東の村出身の若者の方は思いっきり振りかぶり…
木刀とスコップをそれぞれの監視員の脳天に叩きつけた。
鈍い音とともに力なく崩れ落ちる監視員達。
その様子を見て慌てて加勢に入る監視員や山賊。
しかしその数はたった6名だ。
こっちは殆ど武器を持っていないとはいえ100人以上いる。
『あと6名、全員取り押さえるぞー!』
勇一は言葉を聞き取れなかったが、東の村出身の男性が声を張り上げて全員を鼓舞した。
出身こそ違えど捉えられた村の若者たちが一気に団結した瞬間である。
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