21-1 萌える闘魂
【21話】 Aパート
知らない天井だ。
目を開けたのは小谷野…である。
どうやらここはどこかの部屋のベットの上らしい。
「ここはどこだろう…」
首を横に向けようとしたが、その瞬間背骨辺りから電気が走ったような強烈な痛みを感じる。
「ぐっ……(そうだ…自分はあの160kgくらいのデカい奴に一方的にやられてしまって…)」
記憶が蘇る……
待ち構えられもう一度首根っこを掴まれた時、死を覚悟した。
あの時なぜアイツが腕を離したのかはよく覚えていない。しかしその後、生一が自分達を担いで下水へ躊躇なくダイブしたのは覚えている。
息を大きく吸ってーー…そのまま意識を失った。
じゃあここは…
あの地下牢獄は…治療してくれる場所なんてないし…ならここは天国…なワケないよな。
俺はもしかして助かったのか…
目だけキョロキョロしていたのに気づき男が呼びかける。
「おう!デビュー戦フルボッコの奴。やっと目が覚めたか。」
生一の声だ。
生一は一番軽傷だったようだ。
声のする方に首を向ける。とたんにまた背骨から電気が走ったような激痛が襲う。
思わず顔をしかめる。
「オマエとんでもなく不細工な顔になっとるぞ。まぁえらい勢いで叩きつけられたもんな…体、暫くは動かすんキツイやろ。」
そう言って生一がやってきた。
無理やりに近いやり方で腕を取って小谷野の上体を起こす。
「ほい!起きてみ。」
「うわイタたたたたたた!」
軽く悲鳴を上げる小谷野。
その声に反応した女性がいる。奇麗な声だ。
『キイチさん!この人はまだ動けないんです。乱暴はやめてください。』
…これは…英語だ。英語ならなんとか聞き取れる!
振り向き近づいてくる女性。
小谷野は英語で話しかけてきたその女性に顔と視線を向けた。
途端に体中に別の意味でまた電気が走る。
ガガガガーーン!
髪型、顔、体系…モロ好みだ!
その女の人は聞いてきた。(英語で)
『紅茶はお好きですか?』
「大好きです!スポーツマンですから!!」
「聞かれたん紅茶やで。バスケットとちゃうで。」と生一。
『何だね君は?私たち2人の間に入ってきてもらわないでほしいな。いや~失敬。私の友人が失礼したね。ええと、可憐な君のお名前は?』
「オマエ背中が痛いんちがうんか?もう治ったん?どういう神経してんのよ。
あと紅茶の返答ちゃんとしろ!」
生一がもう一度突っ込むが、小谷野はもうそんなのは意に返さない。2人の世界が出来上がってしまっているようだ。
『私の名前は、ネイシャ。
ネイシャ・エフィデス と申します。
瀕死だった小谷野?さんの看病をさせてもらいました。目覚めの体調は如何ですか?』
「なッッ! ネイシャはFです…だとォォォ!」←ここは日本語
『ネイシャさんですか。素敵な名前だ。
私はこの通りもうすっかり大丈夫です。きっとネイシャさんの看病が素晴らしかったのでしょうね。あぁ、あなたは女神のようだ。』
『本当ですか…あの、立てます?』
「もうたってます」←ここは日本語
『あぁ、そうですね。立つね…そう、立ち上がってみせましょうか。フン!』
すっかり舞い上がった小谷野は、へのツッパリはいらんとばかりにベットから勢いよく立ち上がろうとする。強くてたくましいところを見せたかったのだろう。
しかし、背骨がまた電撃が走るように痛み、気合をかき消すように脱力して崩れ落ちてしまった。
あのデブから受けたダメージは相当だったようだ。
『まぁ大変。』
ネイシャさんは急いで駆け寄り、力なく崩れていく小谷野を抱きとめた。
別に小谷野が狙ったタイミングで崩れていったわけではないのだが、抱き留めたとき小谷野の顔がネイシャさんの胸元に着地する。
広い胸部全体で小谷野の顔を受け止めるような形になった。
『大丈夫ですか?』
凄く近い距離からネイシャさんが心配そうに問う。
すると小谷野は感動のあまり涙を流し始めた。
「ああ…俺はきっとこの時の為に……そう、このために生まれてきたんだ。」
日本語でつぶやいたので何のことか分からず聞き返すネイシャさん。
『あの…大丈夫ですか?』
『大丈夫です!男・小谷野、あなたの愛があればこんな傷何でもありません!』
『でもまだシップを張り替えますから一旦ベットに入りましょう。』
抱き留めた体制を動かしてやさしくベットに誘導する。
『まさか…ネイシャさんが私の体にシップを張ってくれると…』
『何言ってるんですか。あなたは病人なんですよ。シスターとして看病は当然です。』
『シスターさん…そうか…天使なハズだ。』
『天使って大げさですね。でも目覚め早々元気で良かった。』
言った後、小谷野に笑顔を見せる。
優しそうな笑顔がたまらない。
少し年上のお姉さんという所だろう。
一旦小谷野をベットに戻し、机にある花瓶の花を入れ替えるネイシャさん。
生一の視点から見たら本当にキモいのだが、小谷野は花を交換しているネイシャさんを思いっきりジロジロ見ている。
鼻の下が伸びきっていた。
少し赤毛交じりのフワッとしたロングヘアー。歳は…ズバリ19くらい?…首元が隠れる清楚な服装で注目するべきポイントはその下の胸元の部分。
結構なボリュームがある。
さっきの顔全体にクッションとなった感触を思い出し、思わず呟く…
「やっぱ……Fかぁ…」
『違いますよ。小谷野さん。エフィデスです。』
「あ!はいすいません。Fですね。」
「エフィデスです」
「エフィデスです、ですか?」
「エフィデス…です。」
「エフィデス…です…か?」
『そうです。もう。間違えないでくださいよ。でも私は普段上の名前で呼ばれることが多いです。ネイシャのほうが呼びやすいでしょう。』
『はい!そうですね。すいません。』
『もう、小谷野さん、変なの。』
ネイシャさんはクスッと笑う。
ふと小谷野は生一を見る。そして言う。
「なんやお前。おったんか。」
「いるわボケェ!」
「あんな、目が覚めたときここ…天国…なワケないよなって思ってたんやけど、分かったわ。ここ、天国や。」
2人は意識を失ったまま流されていた。かろうじて意識のあった生一が必死で泳ぎ、2人を川岸へ打ち上げる。打ち上げきった後、生一も力尽き意識を失った。
気が付くと下流近くの修道院でシスターにかくまってもらっていたといういきさつだ。
あの山賊軍団“バーサビア”に発見されなくて本当に良かったものだ。
まさしく命の恩人だ。
「まったくお前…俺がどんな死ぬ思いして引き上げた思てるんよ。完全に舞い上がってからに。まだ兼元は意識完全に戻ってへんのやで!」
その生一の言葉に流石に表情を変える小谷野。
* * * * *
小谷野の壁を半分隔てた隣の部屋で兼元は寝ていた。
元々気絶していたのだ。
その状態での下水ダイブだ。
息が出来ないあまりとっさに意識が戻ったものの、そこは汚水の中。
『おそらくビックリして汚水を大量に飲み込んだ後、再び気を失ってしまったのでしょう。』
ネイシャさんが推測する。
悲しそうな顔…
その横顔…小谷野が見とれている。
正直、兼元が一番危なかったらしい。
それが今を物語ってる。
ふと目は開かないが兼元が苦しそうな表情を見せた。眉間の動きで分かる。
『ちょっと荒療治をします。』
態勢を起こしたかと思うとネイシャさんは兼元にいきなり口づけして息を吹きかけた。…?
いや、吸ってるのか?
小谷野の顔が白黒になったが、生一が肩に手を置く。
「今大事なとこやねん。これは“ノーカン(ノーカウント)”で考えろ!」
“確かに”と小谷野は兼元の容態を見つめる。
3回ほどマウストゥマウスのような行為を行った後、「ガはハッ!」と兼元はせき込み始めた。
そして口から胃液と一緒に濁った水を思いっきり吐き出す。
汚水も混じっていて異臭がする。あの時、無意識に飲み込んだものだろう。
しかしネイシャさんは「ビンゴ!」と感じたのか、さっきよりも真剣な顔で兼元の鼻を抑え、口から口移しで汚物を吸い出し始めた。
その度に兼元は汚水を吐き出していく。
汚水がベットやネイシャさん自身に飛び散る。しかしお構いなしに口づけをして息を吹き込んだり吸ったり。
その姿を見て、さすがに小谷野はなにか感じるものがあった。
命を救うために真剣な彼女の姿。
生一が横で告げる。
「本当は黙ってようと思ったけどな、お前もこんな感じで口から汚物吐き出させてたんやで、ネイシャさん。全然覚えてなかったやろ~」
小谷野はそれを聞いて涙を流しだした。
そしてネイシャさんを励ます。
『ネイシャさんもう少しだ。頑張って。』
『ええ。兼元君は絶対に助けるから。』
何度も口から胃液まみれの汚水を吐き出させる。
すると…兼元がハアハア苦しそうに息をしだしたのだ。
周りの異臭なんか関係ない。
ネイシャさんは叫ぶ。
「兼元さん。大丈夫!兼元さん。大丈夫!」
日本語で叫んで呼びかける。
“大丈夫”という単語は生一に教えてもらったんだろう。
ネイシャさんが再び顔を近づけたとき、兼元は意図せず口から汚水を勢いよく吐き出した。
ネイシャさんの顔面に思いっきりかかった。
でもネイシャさんは気にせず状態を起こして兼元の名前を呼び続ける。
タオルで自分ではなく、まず兼元の口周りを奇麗に拭きながら…
そんな献身的な姿に小谷野はいつの間にか涙し、心の底から惚れ込んでいた。
「(自分を介抱し目覚めさせる時もこんな風に……この…Fの女神が…俺の為に…)」
それから程なくして兼元は意識を完全に取り戻すのだった。
* * * * *
「なんだね君!なれなれしいではないか。私の女神に対して。」
「そちらこそ私が彼女から看病を受けている時に壁際から悪霊の様に覗くのはやめていただきたいのだが!」
「はぁあ?嫁の仕事を見守るのは夫として当然の事やろう!」
「誰の嫁やと!俺の嫁なんですけどォォォ。」
「じゃあ体力戻ったら旦那の権限かけて……」
日本語でやり取りしているので、すぐ近くで掃除をしているネイシャさんには何の会話かよく分からないようだ。
「…うん正常やな。2人共英語が上手なんは驚いたけど。」
生一はすっかり“通常モード”になった2人を見て安心する。
彼女の献身的なお世話に3人は心底惚れ込んでしまった。
生一も生一なりの好意と感謝を持っていた。
しかし生一はあいつら(バーサビアの連中)にどう一泡吹かせるかという事にも考えを巡らせていたのだ。
「(無事にとは言えんかったけど、あの要塞からは脱出できた。でもまだどうなるか分からん。
こいつらは嫌がると思う。…けど、早い事他の村に現状知らせに行ったり、この国の政府みたいな機関に助け求めに行かんと…勇一達がもたんかもしれん。
悠長にしてられん。八薙も……生きてんのか分からんし…)」
窓の外、曇り空を睨みつけた。
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