13-2 初志貫徹
【13話】Bパート
➡日本語文化交流会の様子は《B面》にて掲載していきます。
全員が落ち着くまで時間がかかった。
お互いの部屋は別々だったため“同棲”ではないにしても、その三杉君という男性と同じ寮で暮らしているという事実が発覚したわけだ。
小谷野と兼元に関してはそこから雪崩のような質問攻撃!
“寮を隔てている壁の厚さは何センチだ!”とか…
“共同で使っている物品は何がある!”
“天井を5回トントンしてアイシテルのサインとか出されてないだろうな!”
…などと次から次へと質問が出てきて収拾がつきそうにない。
“壁に5~10cmくらいの穴とか無いか?5cmくらいの大きさだとやりかねん!”
という意味の分からない質問も出てきたが、とにかくみんなの興味(特に小谷野と兼元)をそろそろ抑えないといけない。
「さすがに静那のプライベートな事にもなるんだし、このくらいにしよう!気になるから知りたい気持ちも分るけど…さっきからもうこの話で30分くらい経過してるぞ。最後に静那側からその…三杉君の説明をしてもらって今回は終わりしにしよう。静那もそれでいいか?」
無理やりまとめようとした。
質問の輪には加わらず、途中まで珍しく無口になって状況を見守っていた仁科さんだが、勇一に「あんたもちょっと動揺してるんじゃない?」と意地悪な質問をしてくる。
でもさっきから“三杉君関係”の話ばかりだ。
さすがに閉めたい。
「じゃあ三杉君の事について私から説明するね。」
急に落ち着いたトーンで話しだしたので何か事情があるようだと全員察する。
「私は彼の事は下の名前、真也君…“真也”って呼んでる。あ、でもね、ホント彼氏じゃないよ、違うからね、旦那様。」
小谷野と兼元を気遣う。さっきまでさんざんバカなこと言ってたあいつらに気なんて遣わなくてもいいのに…
「真也の事、皆に黙ってて…その、ごめんなさい。でもこれには訳があって…」
少し話しづらそうにする静那。
真面目な話なんだなということに気づき、全員身を乗り出す。
言いづらくとも自分たちを信用しているからこそ話してくれるという事だ。
「真也はさ、簡単に言うと政治運動を妨害したっていう名目で殺されそうになったんだ…。
彼には両親が居なくて…守ってくれる人が居ないから立場がすごく悪かった。悪い人から追いかけられてさ、殺されないためにも身を隠す必要があった。
だから私たちが以前暮らしていた熊本県から、この高知へこっそり逃げて来たんだ。私も真也が心配だったから同じ高知で暮らそうと思った。でもそれには条件があって…
絶対に目立つ行動をしたらダメだってこと。悪い事はもちろんだけど例え良いことをしたとしても名前が世に出てしまったら、目をつけられてしまう。
だから真也は一人で目立たないように暮らしてる。今は他の高校に通ってるんだ。でも都会にも熊本にもどこにも行けずに…辛いと思う…。」
少し悲しそうな顔になる。
こういう事情で気軽に三杉君をみんなに紹介できなかったわけだ。
「みんなの事、心から信頼してる。でももしかしたら警察の伝手などがあるかもしれないって考えたら…いや、感じたから、真也を皆に紹介できなかった。
ごめんなさい。
皆の事…信頼してるのに…どこか怖くって。真也の存在言えなくて…ごめんなさい。」
静那は何度もあやまった。8人はしんと静まり返っている。その後の静那の言葉を待っているようだった。
「私は…真也のような子が今後一人でも出てこないようにしたい。
日本に来てから私たちの保護者になってくれた人がいるんだけど、その人みたいに子どもたちが安心して生きられるような孤児院を建てたいなって思ってるんだ。
まずは、一番地理的に分かってるから、熊本県…からかな。
海からの景色が奇麗な場所を沢山見つけたから…。介護の施設も合わせておじいちゃんやおばあちゃんも一緒に暮らすんだ。血も繋がってない大家族…みたいな。
さっきの八薙君の家族の話聞いてて思った。やっぱり家族が居るのっていいなって。
話してない人も居るからもう一度言うけど。元気にしてるかどうか分からないけど…私にはお父さん。…いるんだ。
元気でいるならこの日本で一緒に施設経営したいな…とか…あ、そうだった。話題が変わっちゃってたね。ごめんごめん、真也についての話だったよね。」
「すごく素敵だよ、その夢!」
シーンとした中、勇一が思わず声を出してしまった。
無意識にだ。
静那に初めて会った時のあの衝動に似ている。
「話が逸れたって全然いいよ静那。
とても素敵な夢だと思う!
もっともっと話してほしい。
どんな施設にしたい?
そこにどんな子がいる?
夕食はどんな料理?
静那はそこでどうしたい?」
「うん、素敵な夢だよね。静ちゃんがどうしたいか。私ももっと聞かせてほしい。」
「静那ちゃんはお父さんが大好きなんだね。見つかって日本に呼べたら素敵だね。」
「すごく素敵よね。私イメージしてたらなんだかしんみりきちゃった。ね、もっと聞かせて。」
勇一の発言の後、女性陣が立て続けに静那に声をかける。
「うん。…その…皆が大好きで…実は…皆と施設をさ…大好きな…皆と施設を一緒に…。」
静那が話しながら肩を震わせ…泣き出した。
思いを堪えていたのだろうか。
いつの間にかこんな素敵な仲間が出来た事。
自分の夢を初めて語ったこと。
それに大きく賛同してくれたみんな。
きっかけをくれた勇一。
彼らの存在は自分にとって宝物…
これからも、卒業してもずっと皆といたいと改めて感じた瞬間だった。
「(大好きな皆と、この先もずっと一緒に歩いていきたい。)」
小谷野「…ところで真也とポケベルとかは…」
生一「お前マジで彼女できへんぞ。」
* * * * *
それから数日後----
「こんにちは。」
少しオドオドしながら部室に入ってきた少年を部員は温かく拍手で迎え入れる。
「こんにちは。三杉君。今日は他校からようこそ。」
静那の誘いで真也は一度学校の部活に顔を出すことになった。
どんな活動をしているのかを紹介したかったのは勿論だが、部活内のメンバー全員が一度正式に真也を迎え入れたかったというのがある。
「あの…静那と同じ寮に住んでいます、三杉 真也です。静那から色々聞いていると思いますが、皆さんと関わりを持つことが出来て光栄です。
学校は違いますが、…その、よろしくお願いします!」
ここでもう一度拍手。
「まだ童顔だけどがっしりした体つきしてるね。」と天摘さん。
見る所が違う。
「フン!無難な挨拶やな。」
すぐに跳ね返った挨拶をする人間が居る。兼元だ。
小谷野に至っては真也の前に立ちはだかり、その後いろんな角度から真也をジロジロ見ている。
暫くしてこちらを向き「勝った~」とピースサインを出した。
「どこが勝ってんのよ。ぼろ負けやん。」
生一が間髪入れずに突っ込む。
「いーや勝ったね。この前聞いた話だけだったら絆の差をちょっと感じたけど、今は俺が優位だという確信がある。まるでエベレスト級の差を感じるね。」
「お前エベレストに謝れ。どっから来てんのよ、そのポジティブ思考。」
「少なくとも身長、体重、学歴…そして顔」
「お前絶対アホやろ。鏡見てこい、ラザニアみたいな顔面しとるくせに。」
「あの静那さ…この先輩さんが静那の言ってたー」
「はぁ?何自分?先輩さんいう名前と違うんですけどー。俺は小谷野や!ちなみに静那は俺のよッッ」
兼元のタックルが入って小谷野のセリフはかき消された。
ズイッと真也の前に現れるヒョロい男。
「嫁から聞いてると思うけど、俺が旦那の兼元や。静那は俺の正式な嫁やぞ。忘れんなよ。まぁ旦那として幼馴染の顔くらいは覚えておく義理があるからな。
うむ。君。今度君の部屋をチェックさせていただくよ。」
随分失礼な物言いだ。
部屋の中に静那のブロンズの長髪が落ちてないかをくまなく調べるつもりだろう。
流石に注意しようとしたのだが、真也は新しい友達に出会えたかのようにニコニコしている。
静那の話からすると、今も学校内では極力目立たないように友達も作らず一人で居るのだろう。
「“嫁”っていう先輩のアレ、気にしなくていいからな。」
ぼそっと八薙が真也に言う。
「えぇ?静那の旦那じゃないの?」
意外な返答。
「真也君だっけ。こんなバカなのが静ちゃんの旦那なワケないでしょ。ギャグで言ってるから気にしないで。」
「そうなんですか?静那の奴以前“旦那さんができた”って嬉しそうに言ってたのに。」
「あいつ旦那の意味知らんのとちゃうか?」
奥側から生一が出てくる。
「そんな事は無いと思いますよ。…というかあなた生一さんでしょ!静那のしゃべり方がだんだん関西弁訛りになってきてるの生一さんの影響じゃないですか?」
「そんなん俺知らんし。あいつが興味本位で俺らのしゃべり方真似したりしてただけやし。
ちなみにあの2人の“旦那”も関西出やからなー。静那あの2人によう囲まれてるから、少しくらいは関西弁濃いしうつるやろ。」
「それでもここ高知県ですよ。土佐の方言でもなく関西弁になったら驚きしかないですよ~」
「そうよ!静ちゃんと話したいからってしょっちゅう絡んでるのあんたたちでしょ。私たちだって静ちゃんと話したいのに。それになんだかヘンなことばっかり告げ口したりしてさ。」
「やっぱり犯人はこの生一さんたち3人だったんですね。」
「犯人って人聞き悪いな~まだ麻雀と競馬くらいしか教えてないし!」
ビックリした顔で真也が返す。
「ちょっと何教えてるんですか!僕たちただでさえお金無いのにそんな賭け事に足を入れたり出来ませんって!」
「まぁまぁ真也。平和が良いって言うやん。」←静那
「あとドラも3つな。」
「そしたらマンガンになりますね。オヤなら美味しいやつ。」←静那
「変なこと教えないでくださいって!この部活何てこと教えてるんですか?日本の文化紹介じゃないの?」
「ごめんね、これからはしーちゃん私たちとつるむように部室に来たらすぐ確保するから。」
「確保…ですか?」
天摘さんは時々言葉のチョイスが怖い時がある。
「とにかく今まではあんたたちが静ちゃんとばかりつるんでたんだから交代!今度は私たちとつるむの!」
そう言って静那の手を取り女子グループ側に引っ張り込む。
「何言ってんだ。嫁が旦那といるのは当たり前やろ!静那!さあ、こっちに来なさい!」
「ちょっと、静ちゃんの手掴まないで!ひっぱるなコラ!!」
「おいやめろ、嫁を傷モノにするなよな!」
「“傷モノ”って、あんた言い方がいちいち生々しいのよ。」
「あの…ちょっと…ここは平和でいきませんか…いたいいたい。」
そのうち“静那”の引っ張り合いになった。
真也が目の前で見ている手前というのに、喧々諤々の騒ぎ…皆何を考えているのだろうか。
「あいつ大人気やろ。」
静那争奪戦に加わらなかった生一が横から小声で話しかける。
「皆からマジで愛されてるねん。これ見たら吹き飛んだやろ、心配。」
「はい。うらやましいくらいモテモテですね、静那。本当に楽しそうで…良かった。」
「お前はそれでええん?」
「どういう意味です?全然問題ないですよ。静那楽しそうだし。」
「…ちょっと意味違う。“真也君”が本当に良いのかどうかって事。」
「僕がですか?もちろん良いですよ。」
「ホント?」
「はい。変ですか?」
「なんか我慢してない?」
「いや。してないです。」
「じゃあ混ざりたいとかいう本心は?」
「いや、特にないですよ。静那が楽しそうならそれで良いです。」
「なんか彼氏みたいな言いぐさやん。」
「静那も言ってたと思うけど、僕は彼氏じゃないですって。ホントに。」
「それがホントだったらさ、やっぱりなんか我慢してない?」
「何か我慢してるように見えますか?」
「静那“さえ”幸せなら自分は良いみたいなカンジすんねん。多分部長してる勇一…あいつまあまあ事に無頓着やけど、そういうん(そういうスタンス)は好きやないと思う…」
真也は少し返答に困る。
自分が考えたこともない思考回路をつつかれたような感覚がした。
少し間を置いて生一がもう一言。
「それに静那もそういう考え方好きやないと思うで…多分やけど。」
★日本語文化交流会の様子は《B面》にて掲載しています。
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