13-1 初志貫徹
【13話】Aパート
「じゃあ正式に部活動として登録しておきましょう。」
三枝先生が書類を受け取る。
「まぁこの短期間でよく9人も集まったものね。西山君も生徒会が無い日は顔を出してくれているみたいだから合わせて10人か~。改めて、こんなに集まるとは思ってなかった。しかも色んなタイプの生徒がいるし。
静那さんも喜んでたでしょ。」
「はい。すごく喜んでました。」
「あの子は嬉しい時は本当に嬉しそうにするから気持ちいいわ。あの子の人徳かもね。
まぁ、何度も言ったけど部長としてお金の使い方は慎重にね。博物館に行く時も領収書を忘れないように。電車代も人数分全部ね。」
「分かりました。失礼します。」
ゆっくり戸を閉めた後軽くガッツポーズ。
やっと部費が出る。
部室へ向かう時に今の担任の先生からもねぎらいの言葉をもらえた。
「白都君が自発的にこんな部活作るとは思わんかったよ。よっぽどあの子、静那さんが気に入ったがやね。」
「いやいや!プライベートな問題は持ち込んでないですって。あくまで部活であって!」
意地悪そうに言ってくるのは現在の担任・西山先生だ。
「うちんところの名前“西率”多くね?東とか南北勢も欲しいよな。」
後ろからやってきた生一が訳の分からない事を言い出す。
「んで、部費貰えた?」
「うん。正式に出るってさ。」
「じゃあ放課後ゲーセン行こうや。ゲーセン。課外活動で。」
「アホかお前!ダメに決まってるだろッ。ダメに!」
「ゲーセンも社会勉強違うんか?静那ってゲーセン行ったことないやろ、どうせ。」
理屈は合ってても譲れない部分はある。
「じゃあ部室内で多数決してみようぜ。それで過半数取れたら…」
「おう、取れたら…」
「…まぁ議論してみなくもないかなと。」
「議論するだけかよ!」
* * * * *
部室に入っていくと…本日が初日である八薙、と静那がいない。
八薙は日直だそうだ。
だから静那が直接迎えに行ったようだ。
見ず知らずの先輩達…初めての部活ということで初日は緊張すると思い、彼女なりに気を使ってくれたのだろう。
隅っこで不安そうな顔をする小谷野と兼元。なぜか隅っこに2人で固まっている。
「やっぱりアイツ怪しいぞ。静那ちゃんが自らお迎えに行くなんて」
「そうだよな。俺達のクラスには静那ちゃんお迎えに来てくれないのに、なんであいつだけ…!クソッ!青い稲妻が僕を責めるゥゥ!」
小谷野君が、今売り出し中のアイドルグループ『SMAP』木村君のムーブを真似て今の心境の苦しさを表現する。
「ロマンスの神様よ、俺に振り向いてくれよォ…世界が終わるまでは…」
オペラみたいな仕草で兼元が天井向けて嘆く。
この2人はいつもこんな感じだ。
暑くなってきたせいでよけい見苦しい。
居てもたってもいられなくなったのか体をくねくねさせて悶えだす。
椎原さんは何といえばいいか分からないような顔をする。
帰国子女にはこういうニュータイプの輩は突っ込みを入れづらいだろう。
「バカなことやってないで!ホラ!もう部活始めるから席着くッ!」
仁科さんに諭される。
実は仁科さんがいないと2人の操縦は苦しい。
「でも、でもでも静那ちゃんがぁぁぁ。」
「そのうち戻ってくるから座っときなさいよ。情けない声出さないで!あーもううっとおしい。」
「呼んだ?」
勢いよく静那が入ってきた。
「おお!嫁!」×2
2人の声がハモる。
本心は芯の強い子、天摘さんが静那がやってきたのを見て優しく微笑む。
「じゃあ呼びます!新入部員で、八薙君です。」
* * * * *
部活は皆で部室に集って雑談をする…その中で気になったテーマに対して意見を出し合う。
いわゆる“深堀り”するってヤツだ。
一応議長は勇一だ。
静那、もしくは椎原さんが「〇〇について知りたい」と言えば、その情報を調べ、2人に分かりやすい目線にして発表する。
でも自己紹介の時は、だいたいその人物に対して深堀りする。
「なんで空手を始めたの?」
今日はニューフェイスである八薙に対しての質問が飛び交う。
殆どは女性側だが。
小谷野と兼元は嫉妬はするものの、横目で“ライバルになるかもしれない存在”に視線をやる。
「まぁうちの家族…父親以外、姉貴・妹と女ばっかりだから…分からないかもしれないけど。家全体が女性~って感じの雰囲気になっていくんですよね。内装とか特にハンガーや洗面所の道具類とか…分かります?
それで、自分も女性っぽい小物つけたりしてた。初めは意識無かったけど友達に言われて初めて気が付いたよ。なんか男性っぽい事しなきゃって思ってやったのが空手…てとこかな。」
そんな感覚で何気に始めた空手に天才的な才能があったようだ。
「まぁ家に対する反抗の意味合いもあって外では喧嘩もよくしたよ。その点は迷惑かけた。
でも女性が多い環境に居るってちょっと調子狂うっていうか…男っぽく振るえなくて反発したくなるというか…」
「何を贅沢な事をおっしゃる!」
“5人家族かぁ~いいな~”とかいう表情で聞いていた静那の隣で、挙手をした兼元がいきなり意義を申し立てた。
「お前家族とはいえ女性に囲まれて調子狂うて、ちょっと贅沢すぎやしませんかねェ?」
「贅沢?」
「男子校を見てみろ!おれはあの監獄で思ったサ。なぜ女が居ないんだと。我々のビタミン剤が枯渇している。嗚呼…女という生きものを作りたもうた神はなぜこんなバランスブレイクな仕打ちを我にするんだとね。」
「用務員さんとかにおばちゃんおらへんかったんか?」
生一が問う。
「あれは何だ!確かに生物学的上は女だ。でも私が欲しているのは若い女なんだ!…そう、シャワーを浴びれば水をはじくような瑞々しい肌を持つ…」
仁科さんの表情がピキッとなる。
「あんた女性を思いっきり敵に回してるよね。最ッ低ー!“はずき”はどう?」
天摘さんが苦笑いしながら答える。
「そうだね…少なくとも道場でこんな演説したらミンチだね。」
“ミンチとか言うなよ!怖いよ天摘さん…”と心の中でつぶやく勇一。
さぁ話がそれる前に司会の出番だ。
「兼元。境遇もあったから頭ごなしに否定しないけどさ、ちょっと個人的な恨み辛みみたいになってるから話題戻そう。
結局言いたい事、オチみたいなものは無いんだろ。」
「いいや、あるね。」
まだ食い下がるか…と感じたが一応聞くことにした。
「この部活の男女比がよくなくなくない?」
良くないのか良いのかサッパリ分からない。
「あの生徒会長入れたらさ、この部活の男女比って6:4だろ。このセリフから俺が何を言いたいのか分るかい?凡人。」
なんかムカつく言い方だな~と感じた。
生一と小谷野は「分かってる」みたいな少し得意げな顔をする。
「え~それは、女性メンバーを増やせということ?」
「そや!そうやろ!普通そう感じるやろ。おまえにしてはそれなりに頭頑張ったな~」
ムカッときた。
生一と小谷野は“ウム”と言う感じでうなずく。
どこの国の大臣様だ?
仁科さんの表情がまたゴミを見るような目になってきたので、話を切り上げる事にしようと思ったが、ここで天摘さんが爆弾発言をする。
「そうだよねー。私が居た空手道場は男女比はだいたい8:2…いや9:1だったから、女子の私はずっと肩身が狭かったなぁ。だからこの部分は2人の意見、ちょっと分かるかな。」
小谷野と兼元の顔がパァァと明るくなる。が、爆弾発言はここからだ。
「ここに三杉君が入ったら7:4になるもんね。女子増やさないとちょっと“ジェンダーバランス”が悪くなるかな。あ、静那ちゃん。“ジェンダーバランス”っていうのは男女比率のことね。」
この言葉にやっぱりというか反応する…2人。
反応したのはもちろん“三杉君”というワード。
勇一も初めて聞く男性の名前だ。誰なんだろう。天摘さんの知り合いなのか?
勇一含め他5名も同じ反応だったので、無事(?)彼は一体誰なんだという事に話題が移ったのだが、この話に反応していなかった人間がいる。…静那、そして八薙である。
まず開口一番目は小谷野。
兼元とどっちかだと思っていたけど予想通りだ。
「静那ちゃん…その“三杉”って人……知り合い?」
「うん。今の私の名前“静那”っていう名前を付けてくれた人だよ。」
「名前つけてくれた人…名付け人なんて存在感エベレストじゃん。誰だよソイツ。静那ちゃんの…の…の…ののの……まさか…」
“の”が多いと突っ込みたくなったが、小谷野の言いたいことは分かる。
実は静那には既に彼氏らしきパートナーがいるんじゃないかという疑惑で脳内が震えているんだろう。
で、正直に言うと勇一も気になっていた。
…その“三杉君”という人物の存在が。
「あの時の静那ちゃん、三杉君の事知ってるみたいだったけど、もしかして彼氏さんなの?」
閉塞感の出てきた部室内、天摘さんが神対応な質問をしてくれた。
「いえいえ違いますよぉ。幼馴染なんですけど、殆ど会わないですし…なにより生活リズムが違うから、彼…の事殆ど知らなくて。…です。」
その言葉に安堵する2人。
“幼馴染”という言葉にはまだ何か引っかかるものがあるようだが、“まぁ良いか”という表情。
この段階で、八薙はやっと“この2人の先輩方が静那の事を滅茶苦茶好いているが“嫁”というわけではない”という事に気づく。
「でも住んでる寮、同じ建物だったよね。なのに殆ど会わないの?」
先ほどの神対応を帳消しにするような爆弾をまた天摘さんが投下した。
その時の小谷野と兼元は魂の抜かれたような放心状態の顔をしていた。
…近いもので言うと“ボンバーマン(FC)に出てくる雑魚敵が爆発を受けた瞬間に見せるような表情”なのだが……分かるだろうか…。
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