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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: SHUSAKU
season1【A面】
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8-2 新しい生活

【8話】Bパート

「図書室はこの二階の渡り廊下を渡った先にあるから。

場所、覚えておいて。

ここなら何でも調べることができるよ」


勇一の先導で、二人は図書室の重厚な扉を開けた。


高校の図書室としてはやや小さめの、落ち着いた雰囲気の部屋。


そしてそこには、静那にとってまた一つ、知った顔の人物がいた。


国語の担当教師であり、昨年まで勇一の担任を務めていた『三枝玲子さえぐされいこ』先生である。


三枝先生は静那の姿を認めるなり、ぱっと表情を輝かせて詰め寄ってきた。


「静那さんよね! この前、うちの高校に見学に来てくれていた。

……いやぁ、本当に受かったのね! 良かったわあ」


先生は静那の両手を取り、自分のことのように嬉しそうに微笑んだ。


* * * * * 


「日本語は難しいと思うけれど、頑張ってね。

静那さんの趣味が読書だってこと、調査書でちゃんと見ているからね。ここの図書室、どんどん使っていいのよ」


三枝先生もまた、彼女とこんなに早く再会できるとは思っていなかったのだろう。興奮気味に、次から次へと言葉が溢れ出していく。


「ちなみに先生は、この部屋の奥の和室で茶道教室をしているからね。……って、静那さん。もしかして早速、茶道部に興味があるのかな?」


先生はぐいぐいと顔を近づけてくる。


「ごめんなさいね、一気に話しちゃって……」


ようやく我に返った先生は、少しだけトーンを落とした。


「茶道……ですか?」


「そうよ。静那さん、茶道さどうのことはまだ知らないかしら?」


「はい。まだ…よく…分かりません」


「じゃあ、是非とも時間がある時に見学に来なさい。日本の文化の良さが、きっと理解できると思うわ。歴史ある、日本伝統の代表的な作法よ。“奈良”という時代の……それこそ千三百年も前から続く歴史があるんだから。もし一人で見学に来るのが不安だったら、そこの『となりの』も連れてきていいからね。」


「先生……『となりの』って、なんか言い方がひどいですよ」


勇一が思わずツッコミを入れる。


「あら。でも、茶道教室を案内しに来たんじゃないの? あと三十分もすれば始まるけれど。

ほら、この奥の和室よ。」


「いえ、そうじゃないんです。ちょっと静那さんが相談事があるみたいで、落ち着いて話せる場所ということで、ここを選んだんです」


「今日はあと三十分で図書室を閉めるけれど、相談だったらここを使っていいわよ」


三枝先生は、入学したばかりで不安も多いだろう静那を前に、教師としての気風きっぷの良さを見せてくれた。


静那は少しの間考え込んでから、意を決したように三枝先生に向かって切り出した。


「あの……私が相談したいことというのは、部活動のことなんです。

日本の文化とか……茶道ももちろんなんですけど、もっと深く日本のことを知ることができる部活動って、どこかに無いのかな……と考えていて。

先生は、そういう感じの部活動を知っていますか?」


いきなり先生へと相談の矛先を変えた静那。


もっとも、三枝先生は文化系の部活や同好会を統括している立場なので、彼女に聞くのが最も効率的ではある。

ここは静那の、非常に優れた判断だった。


もしも勇一がその質問をまともに受けていたら、彼はしばらく「うーん……」と唸り続けた末、結局は職員室へ二人で相談に行くことになっていただろう。


とっさに目の前の先生に相談したのは大正解だったが、返ってきた答えは意外なものだった。


「そんな部活は、今のところ無いねえ……

でも……何なら、自分たちで作っちゃったらどうかな?

同好会方式でも、研究部でもいいし。……なんなら、私が顧問を引き受けてあげてもいいよ。

部活動として本格的にやっていくならね」


三枝先生の鋭い視線が、不敵な笑みと共に勇一へと向けられた。



* * * * * 



日本のことを……日本文化というものを、もっと深く知りたい。


静那の抱いたその瑞々しい心意気が、勇一には素直に嬉しかった。


それ以上に、異国の地からやってきた静那が、初めて頼ってくれたのが自分だという事実に、彼は日本人代表として彼女を導かなければならない、という妙に強い責任感を感じていた。


東京や大阪のような大都市ならいざ知らず、ここ高知県のような田舎で暮らす外国人は、まだ圧倒的に少ない。


だからこそ、自分は日本人として恥ずかしい振る舞いはできないのだ、と勇一は背筋を伸ばした。


実は部室として使えそうな空き教室が一つあるということで、今日はまず、三枝先生と一緒に部室の候補地まで足を運ぶことになった。


移動しながら、勇一は隣を歩く静那に話しかける。


「日本の文化を交流する部だから……ええと……。正式な『部』としての登録はまだ条件的に難しいらしいから、『研究部』ならいけるかな……。」


「『日本文化交流研究部』! それで、どうですか? ……ただ言葉を繋げただけですけど」


静那は少し照れたように笑いながら答えてくれた。


安直な名前ではあるが、今のところそれ以上に良いアイディアは浮かんでこない。


「今のところだと、ここの部屋なら使ってもいいかな。日本の文化を紹介するという名目なら、視聴覚室にあるテレビも部活の時に貸し出してあげる。その時は、ちゃんと事務室へ『借用願い』を書きに来なさい」


三枝先生の口ぶりは、もう部活動が始まったかのような勢いだった。


とりあえず明日までに、「部活名」と「メンバーの名前」を書いて提出するように、と言い渡される。


展開が急ではあるが、動きに無駄が一切無い。


これだけで、まずは日本文化を静那に教えたり紹介したりするためのサークルが出来上がることになった。


しかも、これで毎日、静那と顔を合わせることができる。


先輩として、自分は心底彼女から頼られているのだ……勇一の胸は期待で膨らんだ。


「じゃあ、これが用紙(部活動活動申請書)ね。明日でいいから持ってきなさい。やるなら、静那さんにきちんと責任を持って日本のことを教える事!」


先生はそう言い残し、部室候補の入り口まで見届けた後、足早に職員室へと引き返そうとした。


慌てて勇一がその後ろ姿に問いかける。


「あの……なんで、もう“俺”がやるってことになってるんですか?」


「あなたが静那さんの力になりたいと思っているんでしょう?

それに、君は帰宅部なうえに国語の点数がクラスで最低レベルなんだから。この機会に日本語や日本文化を学び直す、絶好のチャンスだと思ってね。

やる気があるなら、合宿の予算くらいは通してあげるから、やってみなさいよ。

……まあ、どうしても無理なら、明日断りに来なさい。その時は、静那さんは茶道部で預かるから」


三枝先生は静那を見て、ニッコリと意味深に微笑んだ。


「でも、たった二人きりで部活動なんて、あまりイメージが湧きませんよ……」


「それに関しては、大丈夫。さっき言っていた茶道部の生徒で、帰国子女の子が一名いるのよ。その子に声をかけておくから。

その子は確かアメリカからの帰国子女だけれど、もう北欧出身の静那さんの噂をどこかで聞きつけていて、『是非一度、彼女と話をしてみたい』って言っていたから。

やるなら、明日から参加してくれるはずよ。

あ、その子も理数科よ。特進クラス!

君と違って、とっても優秀だから」


* * * * * 


自分以外の二人は、どちらも特進クラスの優秀な生徒……


勇一はなんだか少しだけ複雑な気持ちになったが、三人いれば活動としては何とかなるだろう、と思い直した。


静那が少し不安そうな、気遣うような瞳で勇一を見つめてきた。


「勇一、大丈夫……? 他に、何かやりたいことがあったんじゃ……」


その言葉に、勇一はハッとした。


そうだ。自分は、特にやりたいことも見つからずに帰宅部を続けていた人間だった。


「大丈夫だよ。本当に、静那の力になりたいって思っていたからさ。

それに明日には、新入部員がもう一人増えるわけだし……女の子だし。

その子も静那と同じくらい頭が良いみたいだから、きっと話も合うよ」


静那は最後まで、勇一が無理をしていないかという点を気にしているようだった。


けれど、自分のことをこれほどまでに親身に考えてくれているという実感が伝わったのだろう、彼女ははにかんだような、柔らかな表情を見せた。


「じゃあ、入ってみるか。明日から使うことになる俺たちの部室に」


教室の鍵は、幸いにも開いていた。


「……お邪魔します。」


静那が控えめに声を出し、二人は一歩中へと踏み出した。


誰も使っていない空き教室のはずなので、人はいないだろうと思っていた。


普段は英検の試験や模擬試験などの会場として使われるだけのガランとした教室だ。


「え? ああ……!? 誰だよお前!」


ところが教室に入ると、窓際の席に誰かが座っていた。


髪が少し茶色く、目つきの鋭い男子生徒だ。


勇一がすかさず、驚きの声を上げた。


「誰だよって、こっちのセリフだよ! こんな所で隠れて漫画なんて読んでるの教師に見つかったら即没収だぞ。

まずいって!」


「ええんや。ここは放課後になったら誰も来ん、俺の隠れ家みたいなもんやから。

適当に涼んでから帰る場所として、俺が使ってんの!

ええやん。ここにおったって」


少しだけ、関西訛りのある言葉。生まれは恐らくあちらの方なのだろう。


勇一はその男子学生に対し、ここまでの経緯をざっと説明した。


これからここで“部活動”として、外国からやってきた静那や、帰国子女の生徒に日本の文化を教える活動を始めていくのだ、と。


それを聞いた男子生徒は、あからさまに嫌そうな、不快極まりないという顔をしてみせた。


「俺のアジトやったのに、部活動なんて名目の元に追い出されるんか……

嫌な時代になったもんやぜ」


彼は窓の外の遠い景色を見つめながら、ポツリと独り言のように呟いた。……全くもって、格好良くはなかった。


「だったら、あの……一緒に入ってくれませんか?

八名揃ったら、部活として正式に認めてもらえるみたいなので……その……よろしくお願いしますっ!」


静那が急にその男子生徒に駆け寄り、真剣な眼差しで嘆願した。


「なんでお前の為に入らんといかんのよ。俺、今“オクパード(忙しい)”なんだよ」


「おくぱーど……?」


「まあええわ、金髪。……じゃあ、その部活に入ったら、俺にどんなメリットがあるねん。言ってみ」


「金髪って……え……私? 違うよ! 私は静那っていう名前なの。……吊り目のあなたは?」


「何やねん、吊り目て。先輩に向かってそんな呼び方するんやったら、俺もう帰るもんね」


「あ。ごめんなさい。じゃあ……なんだかその、そこはかとなく目つきのいい男の人」


静那は基本、おだて方というものが致命的に下手なようだった。


その独特な言い回しに、横で勇一が吹き出しそうになるのを必死で堪える中、彼はようやく自分の名前を名乗った。


生一きいちや! 下手くそな褒め方やなあ。しかも俺、先輩やぞ」


「では、生一様。改めて、私たちの部活動に入ってください」


「だから、メリットは何やねん。あと、急に“様”を付けるな。それくらいのことでは、俺はなびかんで!」


「メリットは……そう、毎日私に会えるというのはどうですか?」


「……それをメリットと呼ぶってことは、お前、相当自意識高いな」


「いや! 違います、違いますって! 今のは冗談で……! 逆に、どんなメリットがあったら入ってくれますか?」


「まず、実用的なことで言うたら『内申点』かな。

俺、テストの点が全体的に悪いから、部活動の評価でフォローできれば考えてみんでもない。

運動部なんか入っても内申には何もプラスにならんしなあ。生徒会はだるいし」


生一の答えは即答だった。


この辺りは意外としっかり考えているんだな、と勇一は妙に感心した。


ちなみに勇一のクラスメイト(9組)にも生徒会をやっている生徒はいる。勇一の数少ない友人だ。


少し堅物だが真面目な彼に比べると、目の前の生一という男は、お世辞にも生徒会に適した人材には見えなかった。


「何見てんのん、お前。

……あと、他にも欲しいメリットがある。お前らがここを使うんやったら、俺のくつろげるスペースが無くなるやろ。だから、ここで俺が漫画を読んだりして時間を潰すのを、黙認すること。

……担任の先生は誰や? 多分“くさ(三枝先生)”やろ?

あいつは茶道とか文芸部とか、文系を掛け持ちしすぎてて滅多に見に来ん。だから、先生がいない間はゆっくりさせてや」


それを聞き、静那が安心したような顔で問いかけた。


「じゃあその条件を満たしたら、『日本文化交流部』に入ってくれるということで、いいんですか?」


「……あとは、俺のことを『ボス』と呼べ」


「はいっ、ボス!」


なんという対応の早さだろうか。普段、他人と長く会話をすることの少ない勇一からすれば、この静那の驚異的な適応力には恐れ入るしかなかった。


逆に言えば、それだけ静那も、この新しい活動に多くの人を巻き込みたいと切実に感じていたのだろう。


このせっかくのチャンスを、絶対に逃したくないと思ったのだろうか。


少しだけ気分を良くした生一に、静那はすかさず最後の一撃を加えた。


「では、ボス。明日からよろしくお願いします。この勇一さん……勇一が部長をしてくれますので。副部長は私。ボスは、『ボス』という役職でお願いします」


「おう、上出来や」


初めは嫌そうな顔をしていた生一だったが、静那のテンポの良い対応によって、首尾よく四人目のメンバーとして加わることになった。


八名集まれば正式な「部」となり、部費の予算がつくという話なので、なかなか幸先の良い船出である。


「お前、勇一な。部長をやる流れでええんやな。

……何かおかしいと思ったら、部員として突っ込むくらいはしたるから。確か、昨年の赤点追試の時にお前おったよな」


生一の声はだるそうではあったが、まあいいかという表情で再び腰を下ろした。


彼は再び、漫画の世界へと没入し始めたようだ。


けれどその前にもう一つ、明日の確認をしようと、静那が割って入った。


「勇一。…きいー…ボス! 明日は放課後になったら、必ずこの部屋に来てくださいね。

私、楽しみに待っていますから」


「ああ、ええで。」


「もちろんだよ。明日にはもう一人来るみたいだし。四人で、この部活を始めていこう」


* * * * * 


入学してから、最初の一日が終わった。


これからの学生生活に対して、正直なところ不安も大きかった。


小学校に通っていたあの頃……もう静那にとってはかなり昔の話になるけれど、今でも忘れられない辛い思い出がある。


けれど、勇一という人間に出会った途端、その懸念は不思議と消え去っていた。


どことなく、自分の父親に近い面影を持っている彼に対し、彼女は妙な安心感を感じていたのである。


そんな先輩・勇一の計らいによって、文字通りの“日本文化を交流する活動”が、いよいよ始まることになる。


自分の思いを汲み取ってくれた勇一。そして顧問になってくれた三枝先生。


言葉は少し雑だけれど話せば分かってくれる先輩の生一。


三人とも自分より年上だけれど、先輩としての威厳が良い意味で無く、本当に話しやすい人ばかりだった。


(生一さんはちょっとマイペース過ぎるけれど……そのペースについていけば大丈夫みたい。)


嬉しそうな表情を隠しきれない静那は、やっと自分の「居場所」を見つけられたのだと、心から実感していた。


(私、ここでみんなとやっていけそう。お父さん……私、今とっても幸せだよ。)

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