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TEENAGE ~ぼくらの地球を救うまで  作者: SHUSAKU
season1【A面】
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8-1 新しい生活

【8話】Aパート

「私、この高校に通いたい。編入試験、受けてもいいかな……?」


受話器を握る手に少しだけ力を込め、静那は決意を込めてそう切り出した。


高知の寮に入り、新しい環境に身を置いた彼女は、すぐに寮母さんへ入学のための手続きをお願いすることにした。


そして、緊張の中で臨んだ編入試験。


静那が最も苦手としていた『古典』が試験科目に含まれていなかった幸運もあり、彼女は見事に合格を勝ち取った。


それどころか、彼女の成績は優秀で、“理数科”という特別進学クラスへの入学が認められたのである。


合格後の面談には、熊本の堅田さんの従姉妹にあたるこちらの寮の寮長さんも保護者代わりとして同席してくれた。


今年、県外からの転校などで編入試験を受けたのは、彼女を含めてわずか三名ほどだった。


試験が終わってから二、三時間後にはすぐに採点が終わるという迅速なスケジュールで、その日のうちに合否の結果が廊下に貼り出された。


諭士さとしさん! 私、受かったよ。四月からはここできちんと勉強を頑張るから」


公衆電話の受話器越しに、静那は弾んだ声を響かせた。


「なんだか、早速いい友達を見つけられたような雰囲気だね。よっぽどその学校が気に入ったのかい?」


しばらく直接会っていないはずなのに、諭士の問いかけは驚くほど的を射ていた。


静那は目を丸くして、驚きを隠せずに返した。


「そうなの! 私が入学したら何でもサポートするって言ってくれる先輩がいてね……

すごく優しくて、頼りがいが……無さそうである感じの人なの!」


「静那……言っている意味がよく分からないよ。でも、本当に久しぶりの学校生活になるけれど、周りときちんと話はできそうかい?」


諭士の心配そうな声に対し、静那は力強く答えた。


「うんっ。今度の学校では、上手くやっていけそう……じゃなくて、絶対に上手くやれる! 私、今から通うのが本当に楽しみなんだもん」


「……それは良かったよ。でも、もしも辛くなったら、絶対に電話をかけてきなさい。寮の電話は飾りじゃないんだからね」


諭士は少しだけ声を和らげ、けれど真剣な口調で続けた。


「通話料のことなんて気にしなくていい。必要なことは、隠さずきちんと報告してくるんだよ。いいかい」


「大丈夫だよ。……だって、今は“みんな”いるもん!」


静那は、寮の廊下にある古びた電話機の感触を確かめながら、微笑んで答えた。


「じゃあ、その言葉を信じているからね。秋には一度、様子を見に顔を出すつもりだ。他に足りないものがあれば、その都度、堅田さんにきちんと言いなさい」


久しぶりに聞く諭士の温かい声。けれど、静那の心の中では、刻一刻と加算されていく通話料金のことがどうしても気になっていた。


あまり物を持たない最小限の生活……今で言うミニマリストのような暮らしをしているせいか、彼女は自分の金銭感覚が少し貧乏性になってしまったのかもしれないと自覚し、密かに焦りを感じていた。


彼女の部屋には、テレビこそ無いが、小さなラジオが一台だけ置いてある。


それと、質素な木製の机と、寝るためのベッド。


机の上には、真也と諭士、そして自分の三人で撮影した記念写真が、大切そうに立てかけてあった。


十二歳の頃に撮影された、あの眩しい日々の記憶だ。


私服は二パターンしか持っていないため、大きなタンスを置く必要もない。


彼女にとっての唯一の貴重品は、かつて父親からもらった、玉型の白いイヤリングだけだった。


お洒落を嗜むような華やかなスペースもなく、年頃の女の子の部屋にしては、驚くほどシンプルで清潔な空間だった。


あくまで借りている部屋だという遠慮があるのか、壁にポスターを貼るような装飾も一切されていない。


炊事場やシンクは下の階にある寮母さんの居住スペースにあり、食事の時間は一階へと降りていく決まりだ。


これからはここを拠点にして、彼女の新しい高校生活が幕を開ける。


寮を管理する堅田さんからは、入学前のお祝いとして、真新しいレインコートと制服、そして教科書一式をプレゼントしてもらった。


小学校の頃、周囲と上手く馴染むことができず、結局は一年足らずで退学してしまった静那。


けれど今回は、あの時助けてくれた優しそうな先輩もいるしきっと大丈夫だろう。


色々なことがあったけれど、一人でもきっとやっていける……彼女はそう自分を信じ、ついに登校初日の朝を迎えた。


長く厳しい冬がようやく終わりを告げ、学び舎の周囲は、満開の桜が咲き誇る薄桃色の景色に包まれていた。


* * * * * 


高校の入学式が、無事に終わった。


静那の名前は“和風”な読み方ではあったが、その外見はどう見ても異国情緒に溢れているため、嫌でも目立ってしまう。


周囲の生徒たちが黒髪の中で、彼女一人だけが白みがかったブロンドの髪を輝かせているのだから、仕方のないことではあった。


ちなみに、この進学校としてのルールでは、あからさまに髪を染めたり脱色したりすることは固く禁じられている。


もしも意図的に脱色などしようものなら、即座に停学や退学になる可能性すらある厳しい環境だった。


そのため、静那“以外”の生徒は、ほぼ全員が真っ黒な髪をしていた。


その対比のせいで、入学式後の新入生向けオリエンテーションでは、二、三年生からの好奇の視線が痛いほど彼女に集中した。


日本人の顔立ちとは決定的に異なる整った容姿は、特に男子高校生たちの目を釘付けにしていた。


ここまでの注目度は、かつての小学校の頃と同じだ。


静那がふと、オリエンテーションが行われている体育館の隅っこの方に目を向けると、そこに見覚えのある顔を見つけた。


白都しらとさんこと、“勇一ゆういち”の姿だった。


「勇一さん!」


説明の合間のわずかな隙を突いて、静那は勇一の方へ向き直り、小さく手を振りながら声をかけた。


それを見ていた周りの先輩男子たちが、驚愕の声を上げる。


「オイ、勇一! 今、あの子がお前の名前を呼んで手を振ってたよな? お前、あの外人と知り合いなのかよ!?」


勇一の隣に座っていた男子生徒が、興奮を抑えきれない様子で身を乗り出してきた。


日頃から目立たないように振る舞い、存在感を消していた勇一にとって、この注目は少し気まずく、居心地の悪いものだった。


けれど、それ以上に、彼女が本当に合格したのだという実感が込み上げ、勇一の心は喜びで満たされていた。


「お前、いいよな……あんなお人形さんみたいな子と知り合いなんて。帰宅部しながら、どっかで外国人の伝手つてでも作ってたんかよ?」


「いやいや、そんなことないって。本当に偶然、公園で会っただけで……その縁で少し学校内を案内しただけだ。」と勇一は周囲に聞こえないよう、小声で必死に釈明した。


それでも、彼に向けられる羨望の眼差しは一向に弱まらない。


今までこれほどまでに注目を浴びた経験がなかったため、勇一は顔が熱くなるのを感じていた。(もちろん、勇一自身というよりは、彼と関わりのある静那への興味なのだが……)


それほどまでに、異国からやってきた少女が放つ輝きは、この地方都市の高校において強烈なインパクトを持っていた。


やがてオリエンテーションが終わり、新入生たちはそれぞれのクラスへと戻っていく。


勇一には、どうしても静那に聞いておきたいことがあった。


* * * * * 


式典が終わった後、彼女が自分の横を通りかかった絶妙なタイミングを見計らい、彼は小声で質問を投げかけた。


静那もまた、勇一がそこにいることに気づいていたので、彼の問いかけに素早く応じた。


「静那……さ、クラスはどこになったんだ?」


「え? クラスですか? 10組ですよ」


「ええっ!? マジかよ!」


勇一は思わず声を荒らげてしまい、すぐに「しまった」という顔でバツが悪そうに周囲を見回した。


10組というのは、“理数科”と呼ばれる特別進学クラスのことである。


日本語……特に『古典』が苦手だと言っていた彼女のイメージからは想像もできないほど、彼女の学力は優秀だったのだ。


勇一は軽く手を振りながら、大きなため息を漏らした。


(俺は普通科の9組なのに……あの子、こんなに頭が良かったのか……)


後で詳しく聞いたところによると、編入試験にはそもそも古典の科目が無かったらしい。


さらに、彼女の数学の点数が飛び抜けて良かったため、こちらの特進クラスに配置されることになったのだという。


そんな深い話ができたのは、放課後になってすぐ、静那が勇一のいる教室を訪ねてきてくれたからだ。


以前、学校案内をした際に「俺の二年生の教室はここだ」と伝えていたことが、幸いした。


当然ながら、放課後の静那は多くの学生たちに囲まれて質問攻めに合っていた。


けれど、昔こうした騒ぎで嫌な思いをした経験がある彼女は、上手く話をかわしながら、足早に勇一の元へとやってきたのだ。


もしかしたら、早く行かないと勇一が先に帰ってしまうのではないか、という不安もあったらしい。


彼女が自分を訪ねてきた理由……それは、信頼できる彼を頼っての相談事だった。


* * * * * 


自分を心から必要としてくれているという実感を肌で感じ、勇一は素直に嬉しかった。


「まあ、初日だし分からないことも多いよな。無事に合格できたんだし。何でも言ってみろよ!」


あまりの気分の良さに、勇一は「先輩になんでも相談してみろ」と言わんばかりに、少しだけ先輩風を吹かせていた。

普段の勇一なら、たとえ年下相手でもこんな態度は取らない。


けれど、静那にだけは「頼られたい」という特別な感情が働いたのだろう。


何しろ、中学時代から今に至るまで、彼にとって人生で初めてできた「後輩」なのだ。


そこへ、後ろから勇一の友達が茶化すように話しかけてきた。


体育館で勇一のことを散々羨ましがっていた、あの男子生徒だ。


「おい勇一。新入生の女の子を相手にしている時のお前、なんかイメージと違うぞ。お前、そんなキャラだったか?」


普段の勇一は、極端に無口な生徒だった。


クラス内では「すごく大人しくて目立たない奴」というのが、クラスメイトたちの一致した認識である。


しかし今の勇一は、目の前の静那に対し、まるでお節介な親分のような独特の雰囲気を醸し出していた。


「まあ……その……さ、約束してたからな。無事に合格したら、何でも相談に乗るって……」


勇一は少し照れくさそうに、頬を指でさすりながら答えた。


「へえ。そりゃ良かったね」


その男子生徒は、少しだけそっけない表情を浮かべると、教室の奥へと引っ込んでいった。


なんだか、今の二人の間に自分が割り込んでいくのは無粋な空気だ、と感じ取ったのだろう。


勇一もまた、自分が初めての後輩……しかも輝くようなブロンド髪の少女と一緒にいることで、下校しようとする他のクラスメイトたちから注がれる視線にようやく気づき、急激に気まずさを感じ始めた。



勇一は一刻も早くこの場を離れようと、場所を変えることを提案した。


隣にある西棟の図書室へ行くことにして、二人はそそくさと騒がしい教室を後にした。


そんな二人の背中を見送りながら、9組のとある女子生徒が誰かに向かって呟いた。


「あんな子、県内の中学校にいたっけ? もしいたら、絶対に目立つのに……」


「編入で来たんじゃない? 高校入試の時に、あんな銀髪に近い子、いなかったもん。生徒会長をやってる西山君なら、何か知ってるかな?」


すると傍にいた生徒会長らしき男子生徒が、静かに答えた。


「今年は編入試験で三人が入ったって聞いてるよ。多分、彼女はそのうちの一人じゃないかな。

……仁科にしなさんと同じ境遇だから、編入試験の時に会わなかったのかい?

気になるなら、担当の教師は確か三枝さえぐさ先生だったと思うから、聞いてみればいいよ」

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