38
私はゆっくりと呼吸すると、少し落ち着きを取り戻す。
レオは、そんな私の様子を何も言わずに見ていた。
「聞いて悪かったけど、このペンダントからも、あの畑と同じような力を感じるんだよね」
「へぇ、そうなの?」
私はカメオを指でつまんで、くるくると左右斜めに傾けて言う。
「昔、リースがこういう作品を作っていたなら、今現在にも何か関係あるのかなーと思ったんだけど、そうでもないんだね」
「あぁ、そゆことね」
私は、ワザとOLだった頃の、私の触れて欲しくない部分を確認したのかと思っていたけれど、まぁ、当然だけど違うよね。そんな事する訳ない。カイルが言いたいのは、もし私が転生者ならば、現世のリースが作品を作る事が得意でもおかしくない。という話だと思う。力について説明は出来ないけど……
「うん、ノエルは? どうかな……?」
「確かに……」
ノエルもペンダントやイヤリングにも目を向ける。
「強力に感じるのは、一番はこのペンダントですが、リース嬢のイヤリングからも感じますよね……」
「何かしら? リースに関係あるの?」
ノエミは、隣に座ってこちらをチラリと見た。カイルがうーん……と悩んでいると、レオが今朝の話を引っ張り出してくる。
「やっぱり……きっと、アレだな。リースはきっと聖女ってやつだよ」
「だから、違うって」
何回言わせるんかい! と、また漫才師の古風なツッコミポーズを取る。でも、カイルは呟いた。
「聖女……かぁ……」
「ちょっちょっと、カイル! 否定してよ! だって、聖女の条件は……
私が言い終わらないうちに、店の店員が外に出て来て私達を呼んだ。
「お待たせしましたー! スプレンティダ様〜」
「お、やっとだな。行くぞ」
「楽しみねっ! リース!」
私は、訂正する暇もなく、店の中へと入る事となった。
「中もすっごく可愛いわねー!」
ノエミは、席に座ると、ぴょんぴょんと軽く跳ねながら言う。
「外にいるんだから、あまりはしゃぎ過ぎんなよ」
レオはお兄さん風を吹かせて、ノエミのお団子を握った。ノエミは、キッ! と、一瞬睨んでお団子を直した。
「子供扱いしないで〜」
「今日は僕が皆に奢るよ。好きなの頼もう」
カイルはメニューを開いて言った。目の前にして、カイルを見つめる。
「大丈夫なの?」
「うん、まだ派手な事は出来ないけれど、金銭については国王陛下の許しが出たんだ」
ノエルは補足するように、言う。
「カイル様は、リース嬢の爵位返還の為、鍵と言われるモノをようやく見つけたのです」
「えっ?! そうなの?! カイル王子様すごーい!!」
「ありがとう、ノエミちゃん」
「じゃあ、リースの無実を証明出来るのか! お前、やったな!!」
ガロ兄弟は、感動して二人で喜んだ。
私は先にマカロンをプレゼントした時に、ノエルからさらっと聞いていたので、割と落ち着いていた。
「まだ、うまくいくかは、まだわからないよ。だけど、アレを使えば、恐らくうまくいくと思う」
カイルは、メニューから少し半分出ている顔を厳しい表情にする。藍色の目が、今まであまり見た事のない鋭さに変わって、私は少し不安になった。
「誰かを陥れる事はしないでね……」
誰も傷つけたくはない、と思った。この世界に私は元々存在しない。だからこそ、本来のストーリー進行を邪魔してはいけない。だけど、爵位返還するには、それを無視しなければいけない。私もわかってはいるつもりだけど……この後に及んで、私はストーリーが問題なく進めばいいと思っていた。
「…………うん」
カイルは、少しピンと張っていた鋭さを緩めて、優しく返事する。
「リース、何食べるの?」
私は、ノエミの方を向いた。メニューを一緒に開いて見せてくれる。イラストと色々書かれた文字を読みつつ、私は悩む。
「どれにしようかしらねー……」
「これも可愛いわよねっ」
ノエミと私はまたはしゃいでいた。
「……………………」
レオはカイルを静かに見つめる。
身体が大きいので、よくあるファミレス形式に作られた石造りのソファーに布を乗せた席には、おさまりきらない彼は個別で椅子に座っている。
「お前の事、信じてるからな」
「うん、わかっているよ」
「俺だけじゃねえぞ、全員だからな」
レオは言った。ノエルは黙っている。カイルは、にこりとわざとらしく笑った。
「決めた! 私これにするわ」
「私はこれっ!!」
「じゃあ、俺はこれとこれ」
「僕はこれ」
「かしこまりました。店員を呼ばなければ……」
ノエルは手を挙げて、丁寧に皆の分と自分の分を注文してくれた。ランチとデザートが来るまで、話が弾む。
「なぁ、今度はどんな風に作戦立ててるんだ?」
早速来た紅茶を飲みながら、レオは言う。
カイルは、よくぞ聞いてくれたとばかりに、体勢を整える。
「そうだね、まずは今の状況について説明するよ」
そう言うと、ノエルに目配せをする。
ノエルはカイルのかわりに話し始める。
「まず、ダナ王太子とフィオレ嬢が婚約する事が正式に決まりました」
「まぁ……っ! いよいよ結婚するのねー!!」
ノエミは一人、目をキラキラさせて言う。レオは少し呆れている。続けてノエルは丁寧に説明していく。
「えぇ。フィオレ嬢がついに折れたようですね。婚約披露会は、六月三十日。末に予定しています」
「随分と急なんだな」
「あ、わかったわ。ジューンブライドね」
レオよりも先に私は納得した。
普通ならば、王家に嫁ぐ為に、フィオレは長い時間をかけて……大体三ヶ月から半年くらい時間をかけて、結婚の準備をする。ウェディングドレスとか、アクセサリーやブーケ、新婚旅行用のドレス……他色々あるる。すなわち、トルソーを作成するのよね。王家が先に下課金を払っているだろうから、お金にはフィオレも困らないだろうけど、準備大変そうだわ。
「六月の花嫁ね……素敵……」
トマトパスタを口元につけながら、ノエミはフォークを抱える。
「ノエミ、口にトマトソースたっぷり付いてるぞ」
皆が笑う。ノエミは恥ずかしくなって、レオに八つ当たりした。
「お兄ちゃんのばかー!!」
「いや、俺は事実を言っただけだろが……」
ノエルはどう切り出していいのか……という顔をして、また再び話し始めた。
「六月三十日に婚約披露会がされてしまうと、フィオレ嬢が公的にも婚約者として認められてしまいます。そうすると、私達と致しましても、証拠があっても王家が壁になる可能性があるのです。王家に付かれると、私とカイル王子と致しましても不都合なので、その前に決着をつけようと目論んでいます」
「最後のチャンスだ」
カイルはレモンとアスパラの鶏肉パスタを取る。フォークを回して綺麗に食べる。
「国王陛下には、カイル王子より、六月二十八日に証拠を提示して説明すると伝えました。婚約披露会には、五日前から客人が増えて来ると想定できます。皆さんは、二十八日にスペラザの関門をパスし、カメリア学園内にある神殿へと向かって下さい。私とカイル王子も向かいます」
「カイルとノエルは、やっぱりダナ様達の婚約披露会に王家側で出席するのよね?」
「うん、そうなる予定だよ。でも、今回は義兄さん達の祝事だし、この前みたいにがんじがらめじゃないから、自由に身動きは取れると思う。今回も先に王家に着いていないといけないから、一緒には行けないけど……」
なるほどね。そうだよね、カイルは義弟なんだもの、王家として出席していないと大変だわ……。
ノエルは説明を続けた。
「私達は都合上、先に行かなくてはいけませんが、二十八日の午後に神殿にて集まりましょう。国王陛下に直に説明できれば、リース嬢も爵位を取り戻せます」
「もし、失敗したら……?」
私は確認すると、ノエルは口籠る。
カイルは言った。
「全員処刑されかねない」
カターンと、ノエミはフォークを落とした。レオは言葉に詰まっていた。
「今なら、私だけ計画を実行する事はできるわ。私とカイルとノエルだけ。私は、よく考えて欲しいと思ってる」
「………………」
「これは私だけの問題だから」
私は野菜スープを目の前に、食べずに言った。レオとノエミはずっと黙っていたけれど、レオが暫くして言う。
「要するに、失敗しなきゃいいんだろう?」
「そうね」
「ここまで来たからな、付き合うよ」
「…………私も……怖いけど、お兄ちゃんが一緒なら……」
二人は納得した顔をする。
私は深呼吸した。
「二人を巻き込んでしまったから、私も頑張るから。何かあった時には、逃げ道も用意しておかないとね」
「わかった」
レオは紅茶を一口飲んだ。
「まぁ、午後必ず僕らも神殿に行く。今回は僕がいないと説明すら出来ないからね」
カイルはアイスティーに入った氷をくるくると回した。
「絶対来いよ、遅れたらブッ飛ばすからな」
「わかってるよ」
私達は、一旦落ち着いて、皆食事に集中する。食べ終わると、ノエミが質問してきた。
「ところでね、お店入る前に話していた聖女ってなぁに?」
私は店員さんから、苺のパフェを受け取る。皆がノエミの話に注目している中、私は苺を見て、笑顔になってしまう。カイルが少し私を見てニヤついた。
「聖女というのは、特別な力を持っている女性の事を言います」
ノエルは説明する。
「じゃあ、スペラザの魔法が使える女性と何が違うの?」
「聖女と言われる方は、主に魔法の力に優れていると書物には記されています。それも相手を体のオーラごと癒してしまうような、強い浄化能力や怪我を治す治癒魔法に優れていて、動物とも話す事ができ、神から選ばれた存在だと言われています」
「そうなのね! スペラザには聖女さんはいるの?」
「いいえ、いた事があるとは聞きますが、まだ私達は会った事はありませんね」
「魔法が使えるのが条件なら、リースは違うな」
レオは言う。カイルは、アイスティーを飲む。
「そうだね」
「ほらね、レオ、違うって言ったでしょう?」
私はレオに、ねっ! と言うと、カイルはそうでもないよという顔をする。
「でも、リースにはきっと何かある。君が触れた物には何故だか不思議な力を感じるんだ。浄化とか治癒魔法じゃないんだけど、違う力を感じる」
「触れた物……じゃあ、私がリースに触ってもらうと、その力が残るのかしら?」
ノエミは、私の手を掴んでスリスリとした。カイルに見せると、カイルは首を振る。
「違うんだよ、ノエミちゃん。……普通にやっても、感じない。でも、きっとその力とカデーレは関係しているに違いないと思う」
「カデーレねぇ……何かしら」
「文献も確認しましたが、カデーレについての記載が書物には無いのです」
「マークス卿にも頼んではいるけど、全然書物にないんだよね……」
私は、生クリームを食べながら、話を聞いていた。
なんか変なシーンになってしまいました(汗)
でも、ストーリーには大切なので、このまま進めます( ・ ̫・)




