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「え…………?」
私はダナ様に言う。ダナ様は、少し笑いながら、歩いて近づいて来た。カイルも、ダナ様に近づく。
「君が信じる、カイル第二王子は、私の義弟だぞ。王族の人間なんだ。君を本当に助けるだろうか?」
「助けてくれたわ」
私は言った。
「君をこんな危険に遭わせて……もしかしたら、権力を掴む為に、君を利用しているかもしれないじゃないか。そんな相手を、安易に信じていいのか?」
「信じていいんだよ」
カイルはダナ様に魔法で風を放つ。ダナ様は、今度は手で防御した。カイルは腕を十字架のような形にして、防御の姿勢を取る。
「君は……まだ若い。間違いをしてしまう事が私達には時々あるように、君も……信じる相手を間違えているよ。さぁ、リース…………こっちに来なさい」
ダナ様は、手を私に向かって広げた。その時に見せるダナ様の顔は、あの怖いダナ様ではなく、きせきみのゲームをしていた時にフィオレに見せる優しい顔だった。だけど、何処か辛そうにも見えた。
私は推しが見せる特別な顔に心を揺り動かされそうになる。
ダナ様だ……と思った。
「ダナ様…………」私は言う。
「リース……」
ダナ様は微笑む。
「半年前でしたら、ダナ様の今の言葉は、私にとって嬉しいものだったと思います」
「………………」
「私はラクアティアレントには自分から落ちてはいません。あの時……自分が我慢すればと思って、処分を受け止めたけれど…………やっぱり、私は真実が知りたい。だから、こうしてスペラザに来ました」
「義兄さんこそどうなんだ。フィオレ嬢の事を信じていいのかな?」
カイルは、ダナ様の隣に並んで言った。
「何を言っている?」
「ねぇ、フィオレ嬢。貴女、何を隠しているんですか? リースが断罪されて、犯罪ギリギリ……いやアウトをしてまで、ここに来てまでも、彼女に隠すことがあるんですか?」
「………………」
カイルの言葉に戸惑ったのか、フィオレは黙って立ち尽くす。
「黙れ、カイル。フィオレは関係ない。彼女を侮辱するものならば、許さない」
「うん、うん。そうだよね。フィオレの事は信じても、全くリースの事は信じてあげないんだもん」
「うるさいっ!」
ダナ様は、怒ってカイルに火の攻撃を仕掛けた。カイルは、手を合わせて、氷の盾を作る。二人が闘うモードになった。
「喧嘩したいところなんだけどさ、やっぱり僕ら帰らないと行けないからさ、またにしようね」
カイルは走って、私達の所へとやって来る。
ダナ様は最後に言った。
「リース!! 私は諦めない。お前の事も、何もかも!!!! お前も、カイルではなく、私を頼れ! ゆくゆくは時期国王になるこの私にっ…………!!!!」
「ダナ様…………」
私が呟くと、隣にいるカイルが言った。
「ごめん、義兄さん。僕も諦めない。国王にはならないけど、だって、僕も義兄さんと同じ気持ちだからさ」
カイルは、小さく呪文を唱えて、魔法陣を出した。
ダナ様は阻止しようとしたが、間に合わなかった。
「暫く、あちこち旅して来るから! 国王陛下も知ってるし、また頑張って来るよー! じゃーねー!」
カイルがいい終わるか終わらないかのうちに、私達は魔法陣に吸い込まれていく。カイルが私の肩を抱き寄せて、ダナ様とフィオレに手を振った。
ダナ様は、その場に立って言った。
「リース。少し……君を虐めすぎてしまったな。君が髪を切るからだよ……」
ダナ様はふっと、名残惜しいというような表情をした。
フィオレが近づいて来る。ヨクサクも後ろから歩いて来た。
「怪我はないか? フィオレ?」
「大丈夫ですわ」
ダナ様は、フィオレが持っていたバスケットを見る。
「それは?」
「クレオールというケーキですの。食べましょう」
「君が用意したのか?」
フィオレは、少し黙って……言う。
「ええ」
あのダナ様が好きな笑顔で、フィオレは笑った。
* * *
眩い光が消えた……と思ったら、目を開けると、私の部屋に戻って来ていた。
皆一緒だ。カイルもノエルもレオもノエミも、一緒。
「危なかったねぇー」
カイルは言う。
その一言に、レオはブチ切れてカイルに掴みかかる。
「危ねえじゃねえよ!! お前来るのが遅すぎなんだよ!!!! …………それに、何だよ!! お前の義兄!!!! 胸くそ悪りぃことばっかり言って…………こんなにリースを危険な目に遭わせやがって!!!!!! おい!! わかってんのかよ!!!!」
カイルは何も言わなかった。
「…………めて」
「おい! 何とか言えよ、カイル!!」
「やめて!!!!!!」
私は叫んだ。
レオは、私の声でピタリと止まって、カイルの胸ぐらから手を放した。
「カイル……どうして、黙ってたの?」
「リース、何が……?」
「あの薔薇の鉢植え、貴方からじゃなくて、ダナ様からだったなんて…………」
私はカイルを見ると、悲しい気持ちがあふれて、涙を流してしまう。ダナ様に言われた言葉も気になって……涙を止めたくても止まらなかった。
「ごめん、リース……黙っていた訳じゃないけど、君が傷つくと思ってあえて言わなかった…………本当にごめん…………」
私の部屋に、散らばった紙や植物がある中で、私はただ皆の前で号泣した。
カイルの提案してくれた作戦が大失敗に終わってから、日々が過ぎていった。私とカイルとノエルとレオとノエミはあれから、全く会わなかった。
私は仕事にも家事にも身が入らず、ただ暫くはボーッとした日々を過ごしていた。
結局、ダナ様がどうして私に会いに来たのか、フィオレが何を隠しているのか、全く何もわからずに、いる。
ただただ今は何も考えられないのだった。
そんなある日、扉をノックする音が聞こえた。
「はい」
私は玄関を開けると、レオが立っていた。
「よお」
「こんにちは」
私が言うと、もじもじしてレオが言う。
「飯、食っちまったか?」
「……まだだけど……」
「じゃあさ、母さんが飯食いに来いって言ってるんだけど…………」
「へ?」
私は言った。
「嫌じゃなければ、だって」
レオは申し訳なさそうに言った。背が大きすぎて、玄関の扉からはみ出ている。それを見たら、何だか変なもので、気持ちも少し変わった。
「行こうかな」
私は言う。
レオは安堵して、柔らかい表情をした。
レオの家に行くと、皆が歓迎してくれた。レオの家は、二階建てで、壁はクリーム色の石畳にモスグリーンの屋根。庭には芝生と畑が作られている。大きな囲いがその周りを覆っていた。
「こらーっ!! 喧嘩しないのっ!!!!」
扉を開けるなり、ノエミの大きな声が響く。下の双子兄弟が、ぬいぐるみを奪い合っていた。
「だってー!! ヤコポが俺のモフモフ取ったんだもん」
「違う!! それは俺のフワフワだもん! ニコロのじゃない!!!!」
「貸してあげなさいよ、ニコロ! 昨日も遊んでたでしょ!」
それを聞いた弟ヤコポがひょいっと、ぬいぐるみを奪って、叫ぶ。
「うぇーい!! これは俺のだー!!」
「…………う゛わぁああああん!!!!」
兄のニコロは泣き出してしまった。
ノエミは困った顔をしていると、私が来たことに気づく。
「リース!!」
ノエミは、近づいて来て、ぎゅっと私にハグをした。
「こんにちは」
「リース、元気になった……?」
「まぁまぁかな」
私は話すと、レオに案内されてテーブルに座る。
台所と思われる場所から、少しふくよかな四十代くらいの女性が出てきた。雰囲気が何となくレオに似ていたので、レオとノエミのお母さんだなと思った。
「リースちゃん?」
「あ、はい。そうです」
「いらっしゃい。うるさくてごめんなさいねぇ」
レオとノエミのお母さんは、申し訳なく、話した。
「いえ、大丈夫です」
部屋全体は開放的に取られていたけれど、物がいっぱいあって、家は狭く感じた。まだ小さい弟さん二人に手がかかるんだろうな。洋服やおもちゃも結構あるね。自分の一人暮らししていた時の部屋みたい。
「ほら、あんた達、静かにしなさい!! ご飯の用意するんだから!!!!」
レオとノエミのお母さんは双子に言いつける。レオとノエミがおかずを持って来る。
「あっ! 私も手伝います!」
「いいのよ、リースちゃんは座ってて」
「大丈夫よ、リース、今日はお客様でしょう」
「何もやんなくていいよ」
レオやノエミが手伝って、テーブルの上には硬いパンとスープとソーセージやサラダが並べられた。
レオとノエミのお母さんは、双子の弟達を椅子に座らせる。ノエミも双子の近くに座った。
「それじゃあいただきましょう」
「いただきまーす」
皆はそれぞれに言う。ノエミとお母さんは、弟達についてご飯の様子を見ながら、自分も食べる。レオは無言で食べ始めた。私はその様子を見て、何だかOLだった頃の実家を思い出した。賑やかだなぁ。
私も食べ始めた。




