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国外追放という言葉に、その場にいた大勢の人々が、驚いた。仕方ないだろうという人もいれば、一部の人は厳し過ぎないか? という人もいた。が、その一部の人達も、しばらくすると処罰に納得しているようだった。
「国王陛下…………!!」
慌ててフィオレは国王陛下に駆け寄り、叫ぶ。
「何だい、フィオレ・ダウストリア令嬢」
国王陛下は、穏やかな目でフィオレを見つめる。
「国外追放は処罰が厳し過ぎますわ! ……どうか、ティルト侯爵令嬢に許しを乞うて欲しいのです」
「フィオレ嬢………」
ダナ様は、一生懸命になるフィオレを、真剣な眼差しで見つめる。
フィオレ………。今まで貴女はリースに酷いことを
沢山されてきたのに、どうして国王陛下に掛け合ってくれるの?! そんなことしたら、貴女の立場が不敬だと危なくなるのに。
カイルは何かを言いたそうだった。しかし、彼は第二王子という立場がある。私を擁護することは何も言えないのだ。グッと堪える表情を見て、私は大丈夫よ、気にしないで。と思い、首を振って、微かに、彼に、にこりと合図した。
周りの人達は、ダウストリア家のご令嬢は何とお優しいのだろう、リース嬢よりも彼女こそが次期女王に相応しいのではないかと騒ぎだす。
「フィオレ嬢。そなたは芯が強くとても優しいな。だがな、ラクアティアレントは王家が昔から継承している海ーー聖水なのだ。この国の守り水と言っても良い。だからこそ、私はダナに今回の一件を任せようと思っている」
「でも………」
フィオレはそんな……という表情をした。私は、もうこの国にはいられない。もう、どうすることもできないんだ、と思った。
「………ありがとう、ダウストリア嬢」
「リース嬢!!」
フィオレは振り向いて言う。
「もういいの」
ねぇ、リース……。本当は、この世界に来た時から、とうに気づいていたでしょう? ダナ様の気持ちを変えることもできないし、考えを変えることもできない、って。それがリースの運命だし、ルートは決まってた。
それでも、浅はかな思いだったとしても、何かを変えたかった………。でも…………本当はダナ様を見ているだけ、そばにいるだけで良かったのかもしれない。現実世界で生きていた、あの頃の私のように。
ーーーーだったら、やっぱり私…………。
私はダナ王子の元へと歩いていく。周りの人達が静かに見つめる中、ヒールの音だけがカツカツカツと響く。
「リース嬢!! ………リース嬢! お待ち下さい!! リース嬢っ!!!!」
フィオレはゆっくりと走って、私を追って来た。
「…………フィオレ・ダウストリア男爵令嬢」私は立ち止まって言う。
「…………………リース嬢」
フィオレは涙ぐみながら、私を見上げた。考え直してくれたのかとフィオレは一瞬表情を緩めた。私は振り返る。
「ダウストリア嬢。殿下は王太子になる事が決まっている方であり、次期国王にいずれなるのです。ダウストリア嬢が殿下の決定に反発するということは、最大の不敬になりますよ」
私は言った。
「リース嬢…………」
フィオレは差し出そうとして途中まで伸ばしていた手を止める。
ダナ様はぐっと言葉を飲み込むような顔をして立っていた。が、私が目の前まで歩いていくと、
「リース・ベイビーブレス・ティルト」と言った。
そして、
「わかるな?」と続けて言った。
「…………わかりましたわ」
「リース・ベイビーブレス・ティルト。聖水ラクアティアレントを汚した刑により、君を国外追放する。よって、私、ダナ・スプレンティダ・ゴーディ・デ・ロッソとの婚約破棄も自動的に実行されることとする」
ダナ様が整えられた声で、私の大好きな声で言い上げた。
こんな形を迎えること、わかっていたじゃない。表情はいたって冷静だわ。でも、心の中ではどうしていいのかわからない。ただ、わかっていることは、私はもうダナ様の傍にはいられない。令嬢としてもいられない。
それなら……
最後に、せめて〝玲那〟として、自分の気持ちを伝えよう。
「ダナ殿下」
「……………」
ダナ様は私をまっすぐ見る。
「今まで、ありがとうございました」
私はドレス裾を持って、お辞儀をした。
私はこれがダナ様と関わるのが最後なんだなと思うと、くっと涙が出てきそうになる。でも、ここは〝リースの最後のシーン〟。しっかりとやりきらなくては、と思った。
「初めて貴方に会った時、本当に美しくて気品が漂っていて、まわりにも優しい素敵なお方だと思いました。一目で好きになりました。貴方を見ているだけで、とても幸せでした」
ダナ王子は、じっと表情を変えずに、聞いている。
「私は貴方のことが好きでした。この世界に存在くれて、ありがとうございます。愛しています。……そして…………ごめんなさい。……さようなら」
私はそう言って、笑って、またお辞儀をして、静かに歩いて行った。
会場を出る途中で、あちらこちらから声が聞こえた。
「……ざまぁないわね。今までの報いよ」
「王太子妃を目指していたみたいだけれど、本当は魔法も使えないただのノーマルでしょう? 性格も最悪じゃあ、王子からも見放されるわ」
「ーーーーフィオレ男爵令嬢は、あんなに優しくて素晴らしいもの。あの方に楯突こうなんて、そもそも無理な話だったんじゃない?」
クスクスと笑う声が、こんな時ばかり、ハッキリと聞こえて来た。大丈夫よ、もう何の邪魔もしないから…………。私はそのまま歩いて会場を後にした。
外に出ると、夜風が少し吹いていて、肌寒かった。まんまるの月が出ている。満月だ。私は断罪ルートのことで頭がいっぱいで、帰りのことをすっかり忘れていた。馬車を自宅に帰してしまっていたのだ。ここからティルト家の城まで歩いて帰らねばいけない。
「ははっ。とことん、ついてないなぁ……」
私はフッと笑う。
ティルト家のお城まで、十キロ。さぁ歩きますか、とドレスの裾を持ち上げて、ハイヒールを脱ごうとした。すると、後ろからカイルが急いで走ってやって来た。
「リース!!」
息切れして、走ってきた。慌てている。
「カイル……! どうしたの?」
「家まで……おくるよ」カイルは言う。
「そんなっ! 第二王子のあなたが、断罪された私なんかをおくり届けたら、周りの人になんて言われるか…………」
「いや、大丈夫だ。何もできなかったんだ、おくらせてくれ」カイルは言った。




