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椛《もみじ》

 職業が冒険者のプレイヤーは基本無料版、職業が観光客のプレイヤーは月額課金版をプレイしています。

 基本無料版のプレイヤーである冒険者は基本的に死んだら死ぬ(キャラクターをロストする)仕様です。

 キャラクターをロストした場合、次はLV1からのスタートとなります。

 ほぼ全てのNPCに不死という特性がつけられているので、NPCは基本的に死んでも10日以内に復活します。

 俺は村の子供だ。


 村の中を適当にうろついているのが仕事のような、村の子供だ。

 ちなみに、給料は出ない。


 なので家を買う金はないし、宿屋に泊る金もない。

 だから俺が寝る場所はいつも大体、村の共有財産という設定の建物の中だ。


「ん? ここは?」


 だからここも、その中の1つだと思うのだが……。

 ここはどこだったか。

 自分の足で歩いて入ってきたことは憶えているが、眠気に負けて寝てしまったことも覚えているが、果たしてどこだったか。


 寝起きの頭ではちょっと思い出せない。


「えっと、昨日の夜は確か村の広場で……」

 娼婦とその客っぽい奴らがもめてるのを見たんだっけか?


 広場の近くには村で最強と設定されている兵士が何人かいるので、たとえ殴り合いが始まっても殺し合いが始まっても止めてくれるだろうと俺は静観していたのだが……。

 さり気に課金アイテムを取り出した客がいたので、これはヤバいかもと俺は逃げ出したのだった。


 ──そう、ここに。


 そうか、ここは村に幾つかある避難壕シェルターの1つだったか。

 と俺は思い出す。

 より具体的に言うなら、村の外れにある空き倉庫の地下だ。

 地表とは完全に別のマップにされているので、ここにいると外の様子は全く分からない。


「外はどうなったんだろう?」

 というか、アレは何の巻物だったんだろう?

 課金アイテムであることを示す装飾過多な見た目はしていたけれども、それだけで何の巻物だったのかが分かるわけではない。


 ちょっと様子を見てみるか。



「うわっ、煙か?」


 梯子のような階段を上り、外へと続く扉を開けた途端、いぶされた黒い空気が俺を襲った。


 ひょっとして、外は火事か?

 と思いながらひょっこりと地上に顔を出したところで、俺は絶句した。


「なんだ、これ」


 火事が起こったのは間違いないみたいだが、俺が思ったのと規模が違う。

 ここから見える範囲でだが、村にあった物は全て真っ黒に焦げて見えるのだ。


 何があったのか外にいた誰かにきたい所だったが、あいにく人影は1つもない。



 ここになら誰かいるか?

 と村の広場へ行ってみたのだが、残っているのは破壊不可と設定されている村の掲示板くらいだった。

 長の家も雑貨屋も納屋も空き家も井戸もそれ以外も、みんな燃えて色や形を変えてしまっている。


「ヒロハシの姿はない、か。……ん?」


 よく見ると、ブドウの樹があった場所に、いい感じに焼けた焼きブドウの粒が幾つか落ちている。


「おお、久しぶりの料理……料理? まあ、あったかい食べ物だな」

 と口の中へ入れてみたのだが、

「あっま!」

 俺の口にはビックリするほど甘すぎた。


 しかし、そのまま捨ててしまうのももったいない。

 カカシにでも食わせてみるかと畑へ向かうと、畑もこんがり焼けていた。


「おー、よく焼けてるなー」


 焼きニンジンに、焼きダイコンに、焼きサトイモに、焼きタマネギに、焼きカブに、焼きゴボウ……。

 土の中に埋まっていたはずの野菜たちが、なぜか白い皿に入れられて黒い大地に点々と落っこちていた。

 焼き立てなのか白い湯気を立てるその姿に、うまそう以外の感想が出てこない。


 ちょっとまんでみるか。


「あちち……。熱いけど、うまいな」


 どこから来たのか分からない醤油にバターがいい仕事をしている。

 どれもこれも似たような匂いを放つ似たような調理がされたものばかりだが、まあ、これだけ種類があればそう簡単に飽きることもないだろう。


 俺は4次元につながっているとしか思えないバックパックに、入るだけそれらを詰め込んでいく。



「しかし、カカシもいない、か」


 ほかの子供たちの姿も探してみるんだけれども、見つからない。

 長も、商人も、民も、宿屋の客という設定のNPCたちも、誰もいない。


「みんな、死んだのか?」


 だとしても、村の住人たちは3日ほどで戻ってくると思うんだが……。

 レベル1に戻されたであろう冒険者たちはどうなんだ? 戻ってくるのか?


 まさかこれで「このゲームはサービス終了しました」なんて流れにならないだろうな?


 ……。


 分からない。

 死んだら死ぬとか訳の分からない設定がついたゲームなんてやったことがないしな。



 村の中をゆっくりと見回って広場に戻ってきた俺は、そこで小さな人影を見つけた。


「あれ? もしかしてもみじか?」

「うん、そうだよ。久しぶりの自由を満喫中の椛ちゃんだよ」


 椛というのは俺のマシュ=マロと同じで、当人が勝手に名乗っている名前だ。

 椛の正式な名前は『病気の村の子供』という。


 ポーションを貢がれるのが仕事のようなもので、

「ありがとう。これで病気が治るかな?」

 という言葉を繰り返すのが仕事だ。


 100回に1回くらい、

「お礼に、これあげるね」

 という言葉を付け足すのも仕事か。


 なのでいつも大体死んでいないが、いつも大体自由がない。


「まっちゃんも散歩中?」


 だから、こんな風にふらふらしているのは珍しい。


「まあ、そうかな。ある意味ではいつも通りに、村の中を適当に歩いてるところだ」

「そっか。わたしもぶらっとその辺を一周してきたところだよ。……ブドウの樹とベリーの樹が全滅していることを知って、落ち込んできたところだよぅ」

「そうか」


 俺は久々に火の通った料理らしい料理を見つけて、食って、拾って、喜んできたところだ。

 ──焼きブドウという例外はあったが。


「そうだ。焼きブドウならあるが、食うか?」

「いいの?」

「ああ。遠慮はいらん」


 むしろ貰ってくれという気分だ。

 俺がこのまま持ってても腐らせるだけの予感しかしないしな、手持ちの焼きブドウは全部渡す。

 ついでに、根菜が入った皿もいくつか渡してやる。


 すると、

「ありがとう。お礼に、これあげるね」

 という椛の言葉とともに、新しいアイテムを拾ったという履歴ログが俺に届いた。


 お礼のアイテムはポーションじゃなくても貰えるのかと俺はちょっと驚く。


 なにが貰えたのか気になったが、

「あ、そろそろ戻らないといけないかも? ごめん、まっちゃん、もう行くね」

 慌てるようにそう言った椛の視線をたどると、村の外へ逃げていた冒険者たちや村の地下へと隠れていた住人たちが戻って来たのだろう、人影がちらほらと見える。


 ──死んでなかったのか、あいつら。


 なら、俺もこの場から離れた方がいいだろう。

 駆け出しの冒険者は、特に筋力の値が低いやつらは、俺を見つけたら全力で狩りに来るからな。


「ああ、またな」

「うん、またね」



 しかし、どこへ行こうか?


 うーん。


 しばらく、食べる物には困らないはずだし……。

 どこかの避難壕にでも引きこもって、食っちゃ寝生活でも始めるかな。

後日の雑談スレ


567 名前:名無しの冒険者さん

 ところで、暗黙の了解? みんな知ってて当たり前? みたいな雰囲気で聞きづらいんだが……。

 なんであの時、村は丸焼けになってたんだ?


568 名前:名無しの冒険者さん

 >>721 廃課金様御用達らしい隕石系超広範囲魔法『メテオライトの巻物』を村で使った馬鹿がいたから

 着弾までアホみたいに時間がかかるから俺らもNPCも余裕で逃げられたけど、村は動けないから焼けた

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