闇の世界の中山先生
闇の世界の中山先生
夕暮れ時の校舎が古びた丘の上の建物に変わり、二人は扉の半分が朽ちた木組みの門の中に立っていた。
博は、かがみこんで石の上を探り、15センチほどの長さの木片を二つ取り上げた。
「やっぱり。Resetボタンを押すとこっちの世界のものはその場に残されるんだ」
「なに?」
「ん、さっき実験をやったんだよ。こっちで門から木片をはがしてランドセルに入れたんだけど、Resetボタンを押したところに残ってる。こっちから元の世界にものを持っていくのはできないみたいだ。木片が二つあるから、覚えていないけど2回試したんだと思う」
博は、結果に満足すると顔を上げて丘の上に目をやった。
丘の上の建物は、建物の中に明かりがあるのか、ドアや窓のような隙間からわずかに光が漏れていた。光が漏れているのは一階部分だけで、その光があまりにも乏しく、周りの闇に紛れて建物の高さはわからなかった。距離感がわからないが、学校の建物に比べるとかなり小さい建物のようのようだった。
「本当に行く?」
博が小さな声で聞いた。
海人は、拳を握りしめた。
「怖い、けど。行こう」
ここであの建物まで行くことができたら、と海人は思った。職員室にも一人で行けそうな気がした。
海人は、足元に埋め込まれた大きくて平らな石を踏み外さないように慎重に歩を進め、その後ろを博が付いてきた。不揃いに石が並べられた階段を転ばないように苦労して登ると、古い石組みの建物の前にたどり着いた。やたらにゴツくて頑丈そうな古い木の扉の隙間から建物の中の明かりが漏れている。扉の両側には窓らしきものがあるが、木の板で蓋がされていて、その隙間からわずかな明かりが漏れていた。
海人が片開きの扉を音がしないように少し開くと、室内の乏しい明かりが建物の外にも届いた。
わずかに開いた扉から二人は中の様子を伺った。扉の内側は地面が剥き出しで、ドッチボールコートの半面くらいの広さの待合室のようだった。、吹き抜けの天井から吊るされた簡単な燭台に数本のロウソクが立てられ、その乏しい光が広間をかろうじて照らしている。扉の正面奥には石を組み上げたカウンターのようなものがあり、今覗いている扉からカウンターまでは通路のように場所をとってあった。その両側に壁に沿わせるように左右に一つずつ分厚い木のテーブルが置かれ、テーブルの周りには、短く切った丸太が立ててある。どうやらそれが椅子のようだった。
石組みのカウンターの左側に粗末な木戸があり、それがカウンターの中への出入り口のようだった。カウンターの後ろには奥に向かって空間があるようだったが、闇に沈んで様子は分からなかった。
広間には誰もおらず、カウンターの向こうには誰か座っているのか、黒い頭が少し揺れているのが見えた。
「ここ、何なんだろう」と博が海人にささやいた。
「店には見えないから、宿屋とか休憩所かな。ゲームだとこんな感じだよね」
ふーんと、相槌を打って博が目を凝らした。
「あそこにいるのがどんな人なのか分かればいいんだけど」
そのささやき声が耳に届いたのか、カウンターの中の影が顔を上げた。乏しいろうそくの光に浮かび上がった顔を見て、二人が同時に「あ」と声を上げた。
五年二組担任の中山先生だった。




