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ハムハムするINUUは好きですか?  作者: アシッド・レイン(酸性雨)


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12/12

ハム友からのSOS

「それじゃあ、行ってきますね」

片山さんがニコニコして、そう言ってくる。

「あ、うん。行ってらっしゃい」

そんな笑顔を見せられたら、そうとしか言えない。

INUUが「心配するな」という感じで、こっちを見ている。

挿絵(By みてみん)

いや、心配なのはお前さんの方なんですよ、INUUさんや。

初めてのハム友との二人散歩。

お前さん、羽目を外しそうでさ。

そんな僕の気持ちがわかったのか、INUUはわふっと吠え、お座りをして顔を上げる。

その様子は、自信満々で胸を叩いて「任せなさい」と言っているようだ。

片山さんも似たような感じに見えたのだろう。

クスクスと笑っている。

「なんかあったら電話しますから」

「ええ。本当にすみません」

「いえいえ。私からお願いしたことですし」

片山さんは笑ってそう言う。

そうなのだ。

月末の締め切り間近の山場で仕事に忙しい僕に代わって散歩してこようと提案してくれたのは、彼女なのである。

「それに、私からINUUちゃんとお話あるし……」

普通の人なら、犬とお話!? なにそれ、美味しいの!? とかいう感じで混乱する言葉だが、うちのINUUは人の言葉がわかるのではないかという素振りを見せるのである。

実際、親友も「こいつ、実は呪いか何かで人が犬になったって思ってしまいそうになるときあるんだよな」とか、某有名RPGゲームのネタみたいなことを口走っていた。

まあ、わからなくもない。

ブラック企業を辞めた直後は、よくINUUに愚痴ってたんだよな。

そのたびに嫌な顔せず、慰めてハムハムしてくれてたっけ。

うんうん。

でも、よく考えたら、黙って話を聞いたらハムハムできると学習したのかもしれんが。

それでも、僕は――いや僕らは、INUUが人の言葉を理解していると思いたいのである。

だから、片山さんが僕や親友と同じような感覚でいてくれて、とてもうれしかったりする。

「つまり、女子会ということ?」

僕の言葉に片山さんは楽しげに笑った。

「いいよね、それ」

そしてINUUの方を向いて言う。

「じゃあ、INUUちゃん、女子会に出発だ」

その言葉に、INUUも元気に答える。

わふっ。

あ、これ肯定的でうれしいときの返事である。

どうやら、INUUも片山さんとの散歩を楽しみにしている様子だ。

こうして、一人と一匹――いやこの場合は二人と言った方がいいのかな――の散歩という女子会がスタートしたのである。



そして、三十分が経った。

二人のことは気にかかったが、せっかく作ってくれた時間だ。

頑張って仕事を終わらせるか。

そんな意気込みのおかげか、トントン拍子に仕事が終わっていく。

いい感じじゃないか。

思わずそんなことを思う余裕さえあった。

この調子なら、今日頑張れば明日はゆっくりできるかも。

そうなったら、明日は久しぶりにちょっと出かけるかな。

そうだ。今回のお礼を込めて、何か片山さんにちょっとしたプレゼントなんかどうだろう。

いいな。それ。

ここ最近は、週末のお食事会でご飯作ってもらっているし、今回のこともあるし。

そうなると、何をプレゼントするかだが……。

おっと、いかんいかん。

手が止まっていた。

この流れを止めるわけにはいかん。

今は仕事に集中、集中っと。

その時であった。

テーブルに置いてあったスマホが鳴る。

正確に言うと、お気に入りの曲を着信音にしているので、その曲の冒頭の演奏が流れたのだ。

それを聞き、慌ててテーブルのスマホに手を伸ばしつつ思う。

そういや、冒頭の演奏で取るから歌うところまでいかないな。

だが、そんな考えも、かかってきた相手の名前を見て一気に吹っ飛んだ。

そこには片山さんの名前が表示されていたのだ。

彼女に何かあったのか?

慌てて画面をタップしてスマホを耳元に近づけて言う。

「な、何かあったんですか? 怪我してませんか? それともまた変な男に絡まれたとか、トラブルがあったんですか?」

多分、むちゃくちゃ焦っていたんだと思う。

一気にそこまでまくしたてられて唖然としたんだろう。

一瞬、間を置いて、「あ、大丈夫です」と淡々とした片山さんの声が聞こえる。

「よかったーっ。また何かあったかと……」

「いえ。心配かけたみたいですみません」

そう言って、ハッと思い出して慌てて言葉を続ける。

「それはいいんです。実はINUUちゃんが大変なんです。動かなくなって、私、どうしていいのかわからなくなってしまって。助けてくださいっ」

慌てふためくその言葉に、「今、どのあたりですか? すぐ行きます」と返事をして、場所を聞き出して、僕は電話を切ると家から飛び出していた。

片山さんも大切だけど、INUUも僕にとって家族だ。

心配なのは変わらない。

我を忘れて駆けていく。

そして、荒い息を吐いて現場に着いた僕が見たのは――

丈の長い草むらでゴロゴロしたためだろうか。

長い草に絡まれて身動きできなくなっているINUUの姿だった。

その様子は、でっかい緑のマフラーを全身に巻き付けたかのようだ。

そして、どうやら僕が来たのがわかったのだろう。

くぅぅぅぅぅんっ。

情けない鳴き声を上げる。

いや、正確に言うと泣き声だろうか。

ともかく、まさにお笑い喜劇のような地獄絵図が、そこにはあったのである。

思わず動きが止まって、「え!?」という言葉が漏れたのであった。



なお、確かに草はしっかりしており、そのうえ、INUUが暴れたせいか、よく締め付けられていた。外すのはかなり苦労した。

なんせ、少し引っ張るとINUUが悲しそうに鳴くのである。

うーん、どうしたものか。

そこで根元から抜いてやると、意外とそのままするりとずれて外れていった。

わふぅぅぅ。

なんか、ほっとしたようなINUUの鳴き声と、目を細めている様子から、お笑い芸人がドッキリに引っかかって、ネタばらしされてほっとした……みたいに見えたのであった。

あと、片山さんは「ごめんなさい」と何度も頭を下げてきた。

だが、これはどう考えても、片山さんと二人っきりの散歩に羽目を外して、草むらでゴロンゴロンしすぎたINUUが悪い。

なので「気にしないで」と言ったものの、片山さんはますます恐縮しちゃったみたいだ。

そこで「では、今度の食事会で頑張ってもらおうかな」と言うと、片山さんがむちゃくちゃ食いついてきて、

「任せてっ。まだまだ作りたい料理あるから、がんばっちゃう」

と奮起した返事が返ってきたのであった。

しかし、これって僕的にはお得しかないのではないだろうか。

普段見られない片山さんの様子が見れて、今度の食事会も楽しみになったし。

ふむ。

今回はINUUが体を張ったおかげ、ということにしておこうと思う。


今回の話はどうでしたか?

実は、INUUが草むらの中で拘束されて動けなくなったというのは、うちの犬であった事なんです。

今回はそれをネタにして書いてみました。

よかったら、ブックマーク、感想、いいね等よろしくお願いいたします。

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