ハム友とのお出かけ その1
それはもう週末の当たり前になってしまった、土曜日の夕食の後――食後のお茶をすすっていた時に起こった。
こちらをチラチラと見つつ、少し言いにくそうに片山さんが口を開く。
「えっとですね、明日のお昼、時間ありますか?」
その言葉に、僕は内心苦笑した。
要は「せっかくの休みの時間に付き合ってもらっていいでしょうか?」という気持ちが、そういう言い方をさせたんだろうと気づいたのだ。
だが、ご安心下され。
こちとら在宅ワークで、納期さえ守ればいつ働こうが問題ない。ある意味、自由度の高い人である。
まだ月の初めで余裕は十分すぎるほどあるし、それに何より今のところは仕事に追い立てられているわけではない。
うん。今のところは……だが……。
それに片山さんからのお誘いである。
無理をしたって作りますとも、時間を。
お任せあれ。
というわけで、ナイスガイのように微笑んで「任せて」と言ってみる。
だが、片山さんは少し眉をひそめて困ったような表情をした。
どうやら、ナイスガイの微笑みはお気に召さなかったようである。
仕方ない。
いつもの笑顔に戻して、再度言う。
「大丈夫ですよ」
そう言うと、片山さんはほっとした表情で微笑んだ。
「よかったです。実は本棚を買いたいのですが……」
「あ、いいですよ。荷物運びとかですね。任せてください」
要は、荷物運びをお願いしたいということらしい。
これだけご飯をご馳走になっているのだ。
少しぐらいは役に立ちたいし、それに片山さんに頼られるというのはなかなか嬉しい。
「本当に助かります」
そう言って片山さんがペコペコと頭を下げる。
「いやいや、少しでも役に立ててうれしいです。だからそんなにペコペコしなくてもいいですよ」
そして、少し間をおいて、ぼそりと言ってみる。
「それになんかデートみたいで嬉しいですし……」
すると、片山さんが目を大きく見開き、そして真っ赤になった。
多分、そうは考えていなかったのだろう。動揺している様子だ。
なお、僕自身も真っ赤になってしまっているためか、顔が熱い。
二人してしばらく見つめ合った後、二人してなんか笑ってた。
まぁ、照れ笑いというやつだ。
そのおかげで少し落ち着いたような気がする。
それにこのままというのも何なので、少し話題を変えた。
「片山さんは、確か車をお持ちじゃないはず。今まではどうしてたんですか?」
確か片山さんは車を持っていなかったはずだ。
なぜなら、あの辺りに賃貸の駐車場はないし、あのアパートには駐車場が付いていない。
それに、こんなことを頼むということは、片山さんは車を所有していないということだろう。
だからそう聞いてみる。
すると、「なんで車持っていないってわかったんですか?」って顔で、こっちを見ている。
その、ある意味驚きと尊敬の視線に少し気持ちよくなって、顎に手をやってニヤリと笑い、芝居っ気たっぷりに言う。
「ふふふっ。僕の灰色の脳細胞が囁いたんですよ。片山さんは車を所有していないと……」
その言葉とポーズに、片山さんは一瞬ぽかーんとしてしまった後、爆笑した。
どんどんとテーブルを叩いて笑っている。
いや、笑わせるつもりでやったわけではなく、探偵小説の主人公みたいに格好つけてみたんですけどね。
ですが、どうやら片山さんは別の意味で取ったらしい。
いや、笑ってくれるのはうれしいし、やったという達成感もあるよ。
でもさ、なんか違うんだよなぁ……。
ボタンを一つずらして付けたような違和感がさぁ……。
でも、まあいいかと思考を切り替える。
そして、どうしてそう思ったのかを説明していく。
それを聞いた片山さんは、たっぷり笑った後、感心したように頷いた。
「すごいですね」
そう言って、でもすぐにさっきのシーンを思い出したのか、噴き出してしまう。
くーっ。
なんか悔しすぎるっ。
しかし、ともかく雰囲気というか、片山さんの笑いを抑えるために気分を切り替えて再度聞き返す。
「今まではどうしてたんですか?」
なんとか笑いの蟻地獄から脱出できた片山さんが答える。
「今までは、業者の人に運んでもらったり、同僚に頼んでいたりしました」
そう言った後、何か思い立ったのか慌てて言葉を続ける。
「あ、もちろん、女性の方ですよ」
要は、変な誤解をされたくないということらしい。
いや、それはそれで嬉しいな。
要は、誤解されたくない相手ということだから。
つまり、異性として意識されているということだからである。
うんうん。いいな。
渾身の言葉が、ある意味予想外の反応だったが、それでもこういう結果になったので良しということにした。
「わかりました。では、明日何時から行きますか?」
そう聞くと、片山さんは少し考え込んでいる。
で、迷っているのだろう。
「どうします?」と聞き返されてしまう。
うーん。どうしようか……。
迷った挙げ句、口を開く。
「組み立て式のやつですよね?」
「はい」
「自分で組み立てます?」
そう聞かれて、片山さんは迷っている様子だった。
それで察した。
今日の僕の脳細胞は、実に活発だった。
「なんなら、僕が組み立てましょうか?」
その言葉に、片山さんは尊敬のまなざしのような視線を向けてくる。
「お願いできますか?」
あ、予想どおりだ。
だから僕は、ポンと胸を叩いて言う。
「お任せください」
こうして、明日、僕と片山さんは、お出かけすることが決定したのであった。
なお、今回INUUが大人しいのは、片山さんが夕食のために出汁を取った後の魚の骨を、いつものドッグフードとは別に追加した結果で、吠えることもなく夢中でしゃぶりついていたからであった。
今回の話はどうだったでしょうか?
うちのINUUは、出汁を取った後の魚の骨なんかを喜んでかじります。
それをネタにしてみました。
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