表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/370

第73話、衛兵

「お願いですから、次は近隣の住人でも良いですし、兵士でも誰でも良いので道を聞いて、ちゃんと下を歩いて帰って下さいね。頼みますよ?」

「解った。すまない」

『この通り妹も謝ってるから、許してあげて欲しいなー』


 弱り切った様子で俺に告げる衛兵に対し、素直に頭を下げる。

 どうも昨日の帰宅の移動のせいで、街中が少し騒ぎになったらしい。


 明るかったとはいえ、雪によって日が陰り、空は見えにくくなっていた。

 そんな中で家屋の上を飛び交う何かを見たと、衛兵詰所への連絡が入ったらしい。

 しかも一件二件では無く、更にはここが辺境の街という事で警戒も強くなる。


 最終的に俺にもその情報が舞い込み、とても気まずい気持ちで白状した。

 結果として俺の自白と住民の証言のに整合性があり、この件は問題無しという事に。

 とはいえ騒動を起こした原因である俺は、こうやって注意を受けている訳だが。


「辺境の街という事で、空を飛ぶ魔獣が入り込む事も無いわけではありません。そういった物に対しての対策はしていますが、だからこそ今回大きな騒ぎになった事をご理解下さいね」

「解った」

『はーい』


 どうも今回大きな騒ぎになった要因として、上空を飛び交う存在だった事が大きいらしい。

 本来なら空からの侵入者に対し、ある程度の対策をしているそうだ。

 だが今回門番も観測をしておらず、その対策にも引っかからなかった。


 となれば未知の魔獣の可能性を捨てられないと、この大騒ぎに至ったそうだ。

 勿論怪しい人間の可能性も含んではいる訳だが。


「・・・本当に解ってます?」

「迷惑をかけた自覚はある。だからこそ素直にこうして謝っているつもりだが」

『妹は反省出来る子だからね!』

「・・・ほんとかなぁ」


 ただ俺に注意をする衛兵は、俺の態度が信用できないらしい。

 本当に悪いと思っているからこそ、素直に詰所などに居るんだがな。

 何も悪くないと思っていたら、衛兵共をぶん殴って部屋にこもっている。


「俺はまだ信じられねえんすけどね。こんなガキが大騒ぎを仕出かしたなんて。何か隠してるんじゃないっすか、こいつ。態度もふてぶてしいし、見るからにクソガキじゃないっすか」

「こら、そんな事言わない。彼女は・・・態度に問題は無いとは言えないけども、素直に自分のやった事を話してくれたし、目撃証言とも合っているだろう?」


 詰所には俺に注意する衛兵以外にも、年若い衛兵がもう一人詰めている。

 どうもこっちは、俺の言う事が根本的に信じられない様だ。

 謝罪や反省の意思どうこうではなく、俺にそんな事が出来る訳がないと。


『そうだぞ! 妹は確かにクソガキだけど良い子だぞ!』


 おい、それは貶しているのか擁護しているのかどっちだ。

 というかお前、俺の事をクソガキだと思ってたのか。


「おい、ガキンチョ。今なら誰も怒らねえから正直に言いな。お前何を隠してる。辺境で面倒事を隠すなんて、後で酷い目に遭うだけだぞ」

「おい、だから止めないか。彼女は領主様の客人でも有るんだぞ」

「だからって問題を見逃すっつーんですか!? 俺はこんなガキの証言を信じて、問題は無しと決定している事の方が不思議っすよ! 絶対何かありますって!」」

「彼女の実力は組合が証言しているし、領主様や騎士や魔術師や門番の証言もある。少なくとも常人では無い力を持つ方だという事は、間違いない事実だよ」


 この騒ぎが鎮まるまでに、まる一日かかっている。

 それは衛兵が裏を取る為に、組合や領主館にも情報提供を求めたからだ。

 衛兵に俺の事を知っている者も居るが、当然知らない者の方が多い。


 中にはこの若者の様に、俺をただの子供と見ている者も居る。

 そんな中で彼らが納得するには、それだけの情報と証言が必要だった。

 まあ疑われていようが何だろうが、事実は事実として変わらないのだが。


「俺は特に予定も無いし、納得するまで調べたら良いんじゃないか?」


 なので俺は衛兵が用意した茶を飲みつつ、そんな風に返した。

 何せ防寒具はまだ出来ていないし、である以上街を出るつもりもない。

 武具店への訪問も急ぐ訳でも無いし、むしろもう行く必要もない気がする。


 流石に二日も経っていれば、領主は武具店に話を通しているだろうしな。

 というか、この茶かなり美味いな。淹れ方なのか茶葉なのかどっちだ。


「んっだその態度は! てめえが原因だって解ってんのかコラァ!」

「止めないか!!」

「っ・・・すみません」


 俺に掴みかかって来る勢いの若者は、説教をしていた衛兵に首根っこを掴まれた。

 それはかなり強い力だったのか、がくんと頭が揺れて後ろに下げられる。

 荒い扱いに文句でも言うかと予想していると、怯えた様に縮こまってしまった。


 どうやらこの衛兵、穏やかな様子に騙されてはいけない様だ。

 若い者が逆らってはいけないと、そう思う程度には恐ろしい相手らしい。


「ミクさん、本当に申し訳ない。どうか若者故の未熟と・・・言うには、貴女も若い少女なのでおかしいかもしれないが、どうか許してやってくれないだろうか。もし許せないというのであれば、腹いせに私を一発殴ってくれても構わない」

「なっ、そ、そんな・・・!」


 深く頭を下げる男の姿に、若い衛兵は焦りと困惑を見せる。

 まさかこんな事になるとは思わなかった、とでも言いたげな様子だ。


「どうでも良い。掴みかかられたなら殴ったが、貴様が止めたからな」

『妹は優しいから許してあげる!』


 面倒をかけた人間を直接殴るなら兎も角、そうじゃない人間に手を出す趣味は無い。

 別に精霊の言う様な優しさではなく、ただ単純にどうでも良いだけだがな。

 興味もない人間が吠えていた所で、ただの雑音と変わりない。


「それで、結局俺はどうすればいいんだ?」

「最後の注意というか、確認は済みましたので、これで終わりになりますね。でも本当に次からは無いようにお願いしますね。我々も出来る限り騒動は無い方が良いので」

「解っている。迷惑をかけた。ではな」


 確かにお互いの為にも、面倒は無いに限る。

 衛兵の言葉に頷き返しながら、席を立って外に出ようとした。


「ああ、待って下さい」

「・・・終わりじゃなかったのか?」

『まだ何かあるのー?』


 だがそこで呼び止められ、怪訝な顔を背後に向ける。

 終わりと言われたから帰ろうとしたんだが。


「また迷子になられても困りますから、お送りしますよ」

「・・・わかった」

『よろしくおなしゃす!』


 問題無い、とは言い返せず、その言葉に素直に頷き返した。

 先日迷ったばかりな上、また雪で陽が陰っているからな。


「あ、な、なら俺が―――――」

「君はここに居なさい。私が彼女を送ります」

「・・・ウス」


 当然というべきか、俺を送るのは落ち着いた衛兵となる。

 若い方の衛兵は、最後まで俺に不服そうな視線を向けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ