第74話、吹雪の魔核
「お帰りお嬢ちゃん、叱られなかったかい?」
「叱られた」
『たー!』
「あははははっ、まあ仕方ないだろうねぇ!」
宿に戻ると女将に出迎えられ、正直に答えると大笑いされてしまった。
だが快活な彼女の笑いは、支部長と違って苛つかない。
アイツの笑い方は何と言うか、人を馬鹿にしている様に感じる。
「まあでも、結果的に何事も無くて良かったじゃないか」
「実際何事もなかった訳だがな」
『妹が飛び回っただけだもんねー?』
実際その通りなのだが、精霊に言われると若干腹立たしいのは何故だろう。
コイツは姿が見えていないだけで、見えて居たら絶対に問題を起こす存在の癖に。
「食堂は開いているか。拘束されている間茶しか飲んでなくてな。腹が減った」
『兄も食べる! お腹は空いてないけど!』
「そいつはいけないねぇ。本当はまだ早いはずだけど・・・まあ大丈夫だろうさ。娘と旦那に頼んで何か作って貰いな。嬢ちゃんは旦那のお気に入りだからね、すぐ作ってくれるさ」
気に入られる様な事は、娘の一件以外していないんだがな。
その一件で何時までも良い待遇を受けるのもどうか、と思う自分が居ない訳ではない。
だが優遇を気にせず受けるというのも、悪党としては出来るべきだろう。
「解った。行って来る」
食堂に向かうと何時も通り看板娘が出迎え、旦那は厨房の奥に居る。
ただチラッとこちらを確認した気配と、新しく食材を取り出したのが見えた。
客は全く居ない。それも当然で、まだ準備中の札が扉の外にかけてある。
だが看板娘はそんな事を気にせず、俺を何時もの席に座らせた。
そしてすぐに一品用意され、瞬く間に料理が作られ置かれていく。
その料理を平らげている間に開店し、既に大分食べている俺に客が驚く。
「相変わらずすげーな、嬢ちゃん」
「腹の中どうなってんだろうな、あれ。ほんと良く食うよ」
「けどさ、がっついてる感じじゃないのが良いよな」
「あー、確かに黙々と食ってるけど、ちゃんと美味そうに丁寧に食ってるよな」
「口調は荒っぽいけど、育ちは良さそうだよなぁ」
む、おかしいな、そこまで品よく食べてはいないはずだが。
貴族との食事に着いた事はあるが、特にマナーの類も学んではいない。
勿論別世界のマナーは知っているが、それも別にやっていないはずだ。
手づかみで食べている時も有るし、育ちが良いと言われる要素は無いはずだが。
『もぐもぐ・・・おいしぃ・・・』
思わず精霊に目を向けるが、別にこれの影響は無いだろうな。
これの食い方も品は良くないし、というか全部手掴みだし。
・・・まあ、どうでも良いか。美味いものを美味く食べられさえすれば。
「ミクさん、まだ要りますか?」
「頼む」
「はーい! お父さん、追加だってー!」
看板娘に追加を頼むと、頼む前から旦那が料理を始めていた様に思う。
それらの追加を全て食べ切った所で、満腹感を感じて食事を終わらせる。
今日も美味かったと看板娘に伝えて食堂を出て、そのまま自室へと向かった。
「・・・さて、やっと試せるか」
荷物から魔核を取り出し、ため息交じりに呟く。
これは先日の吹雪の魔獣の魔核だ。
取り出しただけで、また食べずに持っていた。
特に置いていた理由がある訳ではなく、ただ機会を逃していただけだが。
「あむ・・・」
吹雪の魔獣の魔核を飲み込み、自分の状態に集中する。
すると今回は猪の時と同じ様に、明確に力が増したのを感じた。
「よし・・・!」
『おー! 妹少し強くなった!』
確かな手ごたえに嬉しくなり、小さく拳を握って喜びの言葉が漏れる。
この街に来て数日間、目的を果たせない日々が続いていたんだ。
やっと当初の狙いを済ませる事が出来たら、これぐらい喜んで当然だろう。
「やはり、強い個体を狙った方が効率が良いな。あの魔獣でこれならば、更に強い魔獣なら増す力も大きいはずだ・・・とはいえ、そうなると危険も増す訳だが」
強くなるためには強い魔獣を食う必要が有り、だが強い魔獣は命の危険がある。
今回の件でそれを痛感し、だがそれでも俺は山に向かうのを諦めていない。
俺はもっと、もっともっと強くならないといけない。その為には怯んでなど居られない。
「これまで通りただ殴る、以外の技も手に入れておくべきか」
これまでが簡単だった事で、流石に魔獣を舐め過ぎていた。
今後は俺と同格か、強い個体も想定して、何か手段を考えておかないとな。
もしくは今知っている技術を高め、切り札に出来るレベルにするかだが。




