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第44話、治癒部隊

「ふむ、何と言うか・・・地味だな」

「あっはっは。そうだね、地味だねぇ」


 目の前で繰り広げられている光景に感想を言うと、隣の女は愉快気に笑う。

 何を見ているのかと言えば、それは魔術師隊の訓練だ。セムラが見たいと言った。

 ヒャールが居るので見慣れているのではと思うが、それとは話が別らしい。


 ただ当人がこの光景をどう思っているかというと・・・。


「むう、何も解らない」

『兄は解るー! 魔力がぐるんぐるんしてるー!』


 セムラは魔法使えないらしいし、魔力も解らないって言ってたし当然だろう。

 精霊は・・・むしろ解らなかったら精霊じゃないだろう。当たり前の話だ。


 魔術師達の訓練は、唯々ひたすらに魔力制御の訓練といった感じだ。

 なのでセムラにしてみれば、ただじっと突っ立っている様にしか見えない。

 実際はそれなりに頑張っているんだろうが・・・いかんせん地味だ。


 訓練している連中の様子を見るに、魔力を操るのは難しい事らしい。

 俺は何と言うか、手足を動かすのと同じ感覚で使えるのは、やはり精霊の力だろうな。

 精霊が力を放った時、膨大な力を頑張って制御している、という様子は無かった。


 もしくは魔獣の力もあるかもしれない。アイツらも当たり前に魔力を纏っている。

 だからこそ魔獣は普通の獣より強く、退治するのにそれなりの技量が必要になる訳だ。

 本能で力を振るえるという事を考えれば、俺のこの力も当然とも考えられる。


 ・・・だがそう考えると、人間と魔獣の違いは何なのか、という所が気になるが


「魔術師は基本的に素質に頼る所が大きいからね。どうしたって解らない人間には何も解らない物さ。逆を言えば、若い頃から凄まじい才能を持つ人間も稀に居る訳だけど」


 そう言って俺をチラッと見るが、それに該当するかどうかは少し怪しい。

 俺は実験生物で、作られた生物兵器だからな。これを才能と言って良いのかどうか。

 いや、一応生まれつきの能力という点では、才能と言って良いのか。


「しかし先程の反応と言い、今の様子といい、君は凄い制御能力を持っている割に、魔術の知識は無い様だね。実にもったいない。やはり隊に入らないかい。色々教えてあげるよ?」

「魅力的な提案ではあるが・・・やはり規律がな」

「うーん、実に残念、いや本当に」


 そこまで残念そうな感じを見せず、ふっと笑って部下達に目を向ける女。

 先程聞いた話だが、彼女は部隊長だそうだ。特に回復に特化した部隊の。

 つまりこの光景は先程の技術を更に突き詰めていく訓練、といった所か。


 とはいえ気になるのは『本来の回復術』な訳だが、この様子だと使わんだろうな。

 教えて欲しいと言ったら「魔術師隊に入るなら教えてあげるよ」とか言いそうだ。


「実戦訓練などはしない、完全後方部隊なのか?」

「いいや、いざという時は前線に出て負傷者引っ張って来る、ぐらいの事は出来ないと困るね。むしろ最前線に出て負傷者を治療しながら前線維持、って事をやる時もあるし。そもそも後方で治療って言っても、その後方を襲われる事もある訳だしさ」

「後方とはいえ、戦場である限り安全ではない、か」


 むしろ戦場という事を考えれば、後方こそを狙う事もある。

 基本的に後方部隊というのは、前衛が万全に戦える為の部隊だ。

 そこが狙われるという事は、後々への影響が出る被害になるだろう。


「それに君もさっき使っていただろう、あの魔術をさ。なら解るはずだよ。アレを使えるなら、一時的に騎士と張り合える力が持てる。とはいえアレを維持して戦闘となると、それなりに習熟が必要になるけどね。でないと消耗が激しい。これはその時の為の訓練、といった所かな」

「・・・成程」


 俺は当然の様にやって見せたが、訓練をしている人間の中には辛そうな者も居る。

 明らかに制御が上手くいっておらず、気を抜けばすぐにでも魔力が霧散しそうな雰囲気だ。

 あんな状態で戦闘が出来るかと言えば、恐らく不可能というしかないだろう。


 先程俺は魔術師の方が強いのではと思ったが、こういった難点が有ったか。

 魔力の制御を当然の様に出来る事がスタートラインでは、戦闘技術を磨くのは厳しいな。

 当然の様に制御しきっている人間は大体が中年か、中年に差し掛かる年齢に見えるし。


 つまりそれだけの研鑽が無ければ、普通は出来ない事と思った方が良い。

 なら中年から身体を鍛えて技も覚えて、というのは中々に酷な注文だろうな。


「消耗、か」


 ただ消耗という一点で、正直な所理解が難しい所が有った。

 俺はさっきの魔術を使った感じでは、魔力を消費した感覚は殆ど無い。

 それは制御能力の高さ故なのか、俺の魔力量が膨大だからなのか。


 現状碌に魔力を使わずに戦闘をしているので、その辺りは良く解らないな。

 今度森に入った時は、意識して魔力を消耗してみるか。


「そう、消耗がねー、中々ねー。だから治癒術をメインで使う術師は少ないんだよね。何せ過酷だからね。自分は怪我しない様に立ち回って、出来るだけ消費を抑えて、人を治療して、だけどいざという時は戦って・・・自分で説明して何だけど、入りたくないねこの部隊。ははっ」


 ・・・確かに、聞いていると悪い部分というか、割を食ってる部隊にも思えるな。

 安全確保を自分でした上で、他人の事に気を配らねばいけない部隊と言う事だし。

 しかも下手に戦闘で魔術を使えば、それだけ治癒に使う魔力が足りなくなる。


 彼女の言葉を聞いている余裕のある隊員は、苦笑いを俺に向けていた。


「普通に魔術を放てば魔獣を倒せるけど、その分を治療に回しているのが私達だからね。たとえ今怪我人が出なかったとしても、後々出てしまうかもしれない。なーんて事を考えて魔力を節約して、節約して、いざという時に人を救う。その為の訓練だと思ってるよ、私はね」


 ただそれでも、この役職に誇りを持っているのが解る言葉を、彼女は告げた。

 隊員達はそんな部隊長の言葉を聞き、同じ様な笑みを見せている。

 割を食う部隊な事も、過酷な事も、何もかも飲み込んでこの部隊に居るのだと。


 強いな、彼女は。この部隊は。とても強い。


「まあ客人が居るという事を考えると、本当は派手にバーンとぶっ放す方が視覚的に楽しませられて良いんだろうけど、その為に予定していた訓練変えるのもねぇ」

「気にするな。無理を言ってここに居る自覚はある」

「ん、仕方ない」

『僕はバーンと派手なの見たい!』

「ははっ、そう言ってくれると助かるよ」


 確かにそれはそれで興味があるが、所詮俺は予定外の邪魔ものだ。

 むしろ邪魔なので帰ってくれ、と言わない時点で融通していると思う。

 普通なら訓練中に関係ない人間の訪問など、ただの邪魔以外の何者でもないしな。


 精霊の主張は無視だ。どうせ聞こえてないから問題ない。


 因みにこうやって話している間も、見本を示す様に彼女も同じ事をしている。

 こうやって気軽に会話しながら出来るという事は、つまりはそういう事なのだろうな。

 少なくとも彼女の実力は、先程の騎士共よりは上だと判断できる。


「ミリヴァ! ミリヴァは居るか!?」


 そこに、彼女の名を呼ぶ声が響いた。おそらく女の声。


「・・・煩いのが来たなぁ」


 明らかに邪魔そうな視線を向ける、億劫そうな溜め息を吐くミリヴァ。

 そんな態度を取られた人物はといえば、一切気にする様子無く近づいて来る。


「聞いたか、どうやら領主様が招いたお客人は精霊付き・・・ん?」


 面倒そうなミリヴァに対し、とても楽しげに語る女。

 だがその言葉は途中で途切れ、視線が使用人の頭へと向く。

 どうやらこの女も、精霊の存在に気が付く技量の持ち主らしい。


「・・・ねえミリヴァ、もしかして彼女がそうなのか?」

「違うよ、ただの使用人だ。あそこに居るのは、そこに居る彼女の精霊だよ」


 俺の精霊という訳ではないが、と思っていると女は俺に視線を向けた。

 やけにキラキラした目で見て来る女は、笑みを浮かべて近づいて来る。


「初めまして。私の名はピリッカという。魔術師隊の隊員の一人だ」

「ミクだ」


 恐らくそうだろうとは思った。そもそもここに居る人間と服装が同じだしな。

 それに魔術に長けていなければ、精霊に気が付く事も出来ないだろう。


「いやぁ、精霊付きに会える事なんて中々ないから、訓練そっちのけで探してしまったよ」


 ・・・おい、今コイツ何て言った。訓練サボったって言わなかった。


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