猫団子(ねこだんご)
猫団子
現代において、複数の猫が一塊となり相互に身体を密着させて眠る微笑ましき光景として広く認知されているこの現象が、実は周代(紀元前一〇〇〇年頃)に端を発する武術集団気功の残滓に他ならないことは、東洋気功史を真摯に研究する者にとって、驚くに値しない事実である。
周の武王による殷打倒の後、旧殷親衛隊「摸出士」の残党数十名は、中原の覇者の追討を逃れ、黄河上流の山岳地帯へと落延びた。極寒の山中で彼らが直面した問題は、気の維持であった。
摸出士の奥義は、己の気を体外へ散布し「摸出」を構築することにある。しかしながら極限の寒気と消耗の中では、個人が単独で気を維持することは不可能であった。そこで残党の首領・猫面公は、かねてより観察していた山中の野猫の集団行動に着目した。
野猫たちは厳冬期、完全な球体を形成して密集する。これは単なる保温行為ではない——猫面公は看破した。球体の外縁を担う猫の気が内部へと還流し、中心の猫の気が充填されることで、集団全体の気総量が個の単純な総和を超えるという、気の相乗増幅現象が発生しているのだと。
摸出士残党はただちにこの原理を自らの修練に取り入れた。数名が完全な球形を成すよう身体を折り重ね、外層の者が気を内へ、内層の者が気を外へと循環させる「苗壇授陣」を完成させたのである。この状態に入った集団は、外部からの気的探知を完全に遮断しつつ、全員の摸出を統合した巨大な単一摸出を展開することが可能となる。
追討の兵がいかに周辺を探索しようとも、苗壇授陣の一団を発見することは不可能であった。彼らは岩と見分けがつかなかったという。
摸出士残党はやがて山中に道場を開き、この陣形を守護神として奉じた猫を神聖視するようになった。代を経るにつれ、人間の修練者は姿を消し、道場に集う猫たちのみがこの陣形を本能として受け継いだ。
現代の猫が理由もなく団子状に密集して眠るのは、気の相乗増幅という三千年の武術的叡智が、種の記憶として刻まれているからに過ぎない。
【図版説明】
苗壇授陣 気循環模式図
球体外縁(実線矢印)より流入した気が中心核(黒丸)にて増幅され、内層より外縁へ(破線矢印)と還流する様子を示す。現代の物理学者が「トーラス型エネルギー循環」と呼ぶ構造と位相的に完全一致することは、図を一瞥すれば論を俟たない。なお本図の右下に小さく描かれた猫の輪郭は、著者・猫壇軒による原典への敬意の表明であり、学術的注釈ではない——とされているが、その輪郭が苗壇授陣の気流経路と寸分違わず一致していることを、本書は静かに指摘するにとどめる。
『東洋気功集団術の系譜 ——個から群体へ、気の位相的変容——』
著・猫壇軒 如真
民明書房刊 一九九一年
第五章「苗壇授陣と現代の猫科動物における本能的気功残存」より抜粋




