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民明書房刊 役に立たないネコのコトワザ図鑑   作者: ロータスシード


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聚而殲之

謀略奇計全書 補遺六十三巻

「誘集殲滅篇 附・聚而殲之秘訣」

挿絵(By みてみん)

聚而殲之の計

『孫子』謀攻篇に次の一節があることは言うまでもない。


「故用兵之法、十則囲之、五則攻之、倍則分之」

――孫子 謀攻篇第三


(故に用兵の法は、十倍の兵力があれば包囲し、五倍あれば攻撃し、二倍あれば分断せよ)

孫子はここで集中と包囲の根本的な原則を示した。しかし孫子が論じ残した問題がある。「包囲せよ」とは言うが、「散在する敵を一点に集めてから包囲する」という問いへの答えが、謀攻篇において明示されていないのである。この欠落を補完し、「餌によって敵を一点に誘引し、逃げ道を断ってから一気に殲滅する術」として完成させたのが「聚而殲之の計」に他ならない。

聚而殲之の本義は明快である。散らばった敵を追うな。敵が自ら集まりたくなる餌を用意せよ——これが聚而殲之の核心に他ならない。散在する敵を各個撃破するコストは甚大である。しかし敵が自ら一点に集まった後に逃げ道を断てば、最小のコストで最大の殲滅が可能となる。これが孫子の謀攻篇を二千年かけて完成させた結論である。


【第一段 ―― 「誘集殲滅」の確立】

聚而殲之の計を史上初めて意識的に体系化した人物として、後世の兵法家が異口同音に挙げるのは、戦国時代・斉の将軍田忌の幕下にあって、誘引戦術を専門とした謀臣・殲集子(せんしゅうし)に他ならない。殲集子が直面した問題は、広大な農地に散在する害虫の駆除であった。害虫を一匹ずつ追い回すことは、追う者の消耗の方が大きく、効率が極めて悪い。殲集子は個別駆除を断念した。代わりに「害虫が自ら一点に集まりたくなる構造」の設計に専念した。

第一に「餌の設計」――害虫が抗いがたい魅力を持つ餌を用意する。餌は害虫の本能に訴えるものでなければならない。食欲・安全・繁殖——これらの本能を刺激する餌が、最も効果的に害虫を誘引する。第二に「逃げ道の事前封鎖」――害虫が餌に集まり切った後に初めて、逃げ道を一斉に封鎖する。封鎖が先では害虫は警戒して集まらない。集まってから封鎖するのが聚而殲之の鉄則である。第三に「一気の殲滅」――逃げ道が断たれた害虫は、密集した状態で逃げ場を失う。この瞬間に火・薬・水を用いて一気に殲滅する。密集しているがゆえに、最小のコストで最大の効果が得られる。

『誘集秘伝録』(戦国・殲集子撰、推定)より――


「散りたる害虫を追うは、追う者が疲れる。されど餌を置いて害虫を集め、集まりたる後に逃げ道を断てば、一炬の火で千の害虫を滅ぼせる。害虫を追うな。害虫が自ら来たくなる場所を作れ。これを聚而殲之と謂う。」


「害虫を追うな。害虫が自ら来たくなる場所を作れ」——この誘引の逆転こそが聚而殲之の第一核心である。殲集子はここに聚而殲之の謀略的原型を確立したのである。


【第二段 ―― 近代軍事戦略への理論的昇華】

殲集子の理論から二千余年を経た近代、聚而殲之の理は包囲殲滅戦術の領域において凄まじい完成を見た。

第二次世界大戦におけるスターリングラード攻防戦(1942〜43年)は、聚而殲之の現代的完成形として後世の軍事史家が必ず言及すべき事例である。ソ連軍はドイツ第六軍をスターリングラードという「餌」に引き込み、市街戦で消耗させた後、ウラヌス作戦によって包囲網を完成させた。ドイツ軍は餌に引き込まれ、包囲された後に逃げ道を断たれ、約三十万の大軍が降伏・壊滅した。殲集子が「集まりたる後に逃げ道を断てば一炬の火で千の害虫を滅ぼせる」と喝破した構造が、二十世紀最大の包囲殲滅戦において精確に再現されたのである。

『近代包囲殲滅戦略論攷』(民明書房刊、昭和五十八年)はこれを評して次のように断じている。


「スターリングラードにおいてソ連軍が行ったのは防衛ではなかった。誘引と包囲の設計であった。ドイツ軍は餌に引き込まれ、集まり切った後に逃げ道を断たれた。聚而殲之の理、近代戦争史上最大の規模で証明された。」



【第三段 ―― 現代における聚而殲之の完成】

聚而殲之の理が、現代のサイバーセキュリティ・法執行の領域においていかに純粋な形で機能しているか、二つの事例を以て示すことが肝要であろう。

現代における聚而殲之の最も洗練された実例として識者が必ず挙げるのが、サイバーセキュリティにおけるハニーポット戦術の問題である。意図的に脆弱に見せかけたシステムという「餌」を公開し、世界中に散在するハッカー・マルウェアを一点に誘引する。攻撃者が餌に集まり、攻撃手法・発信元・侵入経路を十分に露呈した後に、一斉に遮断・追跡・法的対応という「逃げ道の封鎖」を行う。散在する攻撃者を個別に追跡するコストより、餌で集めてから一斉対処するコストの方が遥かに小さい。殲集子が二千年前に農地の害虫駆除として設計した構造が、現代のデジタル空間において精確に再現されているのである。

法執行の領域においても、聚而殲之の構造は精確に再現される。おとり捜査・潜入捜査は、殲集子が確立した原理の現代的再実装に他ならない。散在する犯罪者を個別に追跡することは、捜査資源の消耗が大きい。しかし魅力的な「餌」——取引の機会・犯罪の場・仲間と見せかけた捜査官——を用意することで、犯罪者を一点に集め、証拠が十分に揃った後に一斉検挙という「逃げ道の封鎖」を行う。餌に集まった者は密集した状態で逃げ場を失い、最小のコストで最大の検挙率を実現する。

『現代誘引殲滅戦略論攷』(民明書房刊、令和五年)はこの二事例を並置して次のように総括している。


「ハニーポットであれおとり捜査であれ、その構造において全く同一である。散らばった敵を追うより、餌で集めてから逃げ道を断つ方が遥かに効率的である。聚而殲之の理において最も重要なのは餌の質と、集まり切るまで動かない忍耐力に他ならない。」


孫子が「十倍あれば包囲せよ」と喝破してより二千五百年、聚而殲之の本義は戦国の害虫駆除からスターリングラードの包囲殲滅へ、サイバーセキュリティのハニーポットから法執行のおとり捜査へと形を変えながら、散在する敵を一点に集めてから逃げ道を断つ最も効率的な殲滅の謀略として機能し続けている。敵を追うな。ただ、餌を置け。そして、集まり切るまで——動くな。


「散りたる害虫を追うは、追う者が疲れる。されど餌を置いて害虫を集め、集まりたる後に逃げ道を断てば、一炬の火で千の害虫を滅ぼせる。害虫を追うな。害虫が自ら来たくなる場所を作れ。」

――『誘集秘伝録』戦国・殲集子撰


敵を追うな。ただ、餌を置け。集まり切った時——逃げ道を断て。


『謀略奇計全書 補遺六十三巻 誘集殲滅篇』

著:殲滅斎誘集子 監修:古代謀略学研究所

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