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民明書房刊 役に立たないネコのコトワザ図鑑   作者: ロータスシード


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天地復活踏破術(てんちふっかつとうはじゅつ) 天地創造

 天地復活踏破術てんちふっかつとうはじゅつ

挿絵(By みてみん)

――別名「光闇双神世界再生法こうあんそうしんせかいさいせいほう」、後世俗称「アーク式生命創造踏破法」

 本書はここに、最も重大な告白をしなければならない。

 民明書房がこれまで刊行してきた『霊戦篇』『竜討篇』『登天篇』——これら全ての巻において、我々は「武術の起源」を論じてきた。

 しかし今や問わなければならない。

「その武術が行われた世界は、いかにして生まれたのか」

 バルーンファイトの浮囊闘法も、ワルキューレの魂選定術も、ギルガメスの垂直踏破術も——それらが存在し得た世界そのものの創造について、民明書房はいまだ論じていなかった。

 本項はその根本的な欠落を埋める、民明書房全刊行物の中で最も重要な一冊に他ならない。


 第一章 地下より始まる——なぜ世界は「下から」創られたのか

 すべての創世神話は「上から」始まる。

 神が天から降りてきて世界を作る——これが人類の神話における普遍的な創造の方向性である。

 しかし民明書房が本項で論じる創世の記録は、全く逆の方向から始まる。

「下から、上へ」

 地下から地上へ。暗闇から光へ。

 この方向性の逆転が、本項が扱う創世譚の最も根本的な特徴であり、同時に最も重要な哲学的命題を内包している。

 「世界は、その内側から蘇る」

 これを「内発創世のないはつそうせいのことわり」と呼ぶ。


 第二章 ガイアの分裂——光と闇、地球の二つの意志

 今日の会話において、我々は繰り返し同じ構造に出会ってきた。

 ヤハウェとルシファー。ロウとカオス。オーディンとドルアーガ。

 これらすべては——一つの根源的対立の、各文明における表現に過ぎない。

 その根源的対立とは何か。

 民明書房が独自に入手した太古の地質文書——『地球意志原典ちきゅういしげんてん』には、こう記されている。

「地球はその誕生の瞬間から、二つの意志を内包していた。光の意志——生命を育み、多様性を広げ、世界を満たそうとする力。そして闇の意志——生命を収束させ、すべてを原初の静寂へと還そうとする力」

 これを後世の人類は——

 インドではプルシャとプラクリティと呼んだ。

 中国では陰と陽と呼んだ。

 北欧ではムスペルヘイムとニフルヘイムと呼んだ。

 そして二十世紀の科学者ジェームズ・ラブロックは、これを「ガイア仮説」と呼んだ。

 地球は一つの生命体として自己調整する——この仮説が「仮説」とされているのは、その含意があまりにも巨大すぎて、主流科学が正面から受け入れることを恐れているからである。

 民明書房の見解では、ガイア仮説は仮説ではない。太古から知られていた事実の、現代科学による再発見に他ならない。


 第三章 世界の滅亡——なぜ地上は死んでいたのか

 問わなければならない。

「なぜ、地上世界は滅んでいたのか」

 民明書房が入手した創世記録の断片——『天地零落秘録てんちれいらくひろく』は、こう記している。

「闇の意志——ダーク・ガイアが、光の意志——ライト・ガイアに勝利した時代があった。その時、地上のすべての生命は失われ、植物も動物も人類も、大地から消え去った。地上は完全な静寂に包まれた」

 これはいつの出来事か。

 地質学的記録と照合すれば——これは「大量絶滅事象」の神話的記録に他ならない。

 地球の歴史において、大量絶滅は五度起きている。その都度、地上の生命の大部分が失われ、そして再び復活した。

 この繰り返しを——「ダーク・ガイアとライト・ガイアの覇権交代」として記録したものが、天地創造の物語の根本にある。

 科学者は隕石衝突や火山活動でこれを説明するが——それは現象の記述に過ぎない。

「なぜそれが起きたのか」

 という意志の問いには、科学は答えられない。


 第四章 アーク——最大の逆説

 ここで本項最大の、そして最も重要な論点を提示しなければならない。

 世界を救った英雄・アークは——

ダーク・ガイアが作り出した存在であった。

 闇の意志が生み出した存在が、闇の意志を倒して世界を救う——

 この逆説は、武術史・神話学・哲学のすべての枠組みを超えた問いを内包している。

 しかし今日の会話を振り返れば——この逆説は、決して逆説ではない。

 ロキは混沌の側に立ちながら、ブリュンヒルデを守った。

 卑弥呼は本来分離すべき二つの役割を体一つで引き受けた。

 ギルガメスは高さへの欲望を持ちながら、その欲望の産物たるドルアーガを倒した。

「自らの起源を超えて、何者かになる」

 ——これが英雄の本質的定義であり、アークはその最も純粋な体現者に他ならない。

 ダーク・ガイアが道具として作ったはずの存在が——ライト・ガイアの意志を体現し——世界を救って消えた。

 全は一、一は全。

 光の意志と闇の意志は——アークという一つの存在の中で——完全に統合されていた。


 五大創造段階の解説

 第一段階「植物復活術しょくぶつふっかつじゅつ

 地上世界の復活は、最も小さなものから始まらなければならない。

 アークがまず行ったのは——植物の復活であった。

 これは偶然ではない。

 植物なくして動物は生きられない。動物なくして人類は生きられない。すべての生命連鎖の根底に植物がある——この「生命の順序」を体得していた者が、アークの他にいなかったことは、彼がダーク・ガイアの被造物として地球の全記憶を内包していたからに他ならない。

 のちにチャールズ・ダーウィンが「進化論」として体系化した生命の連鎖の原理を——アークは本能的に実践していた。ダーウィンの発見が「革命的」とされたのは、人類がアークの記憶を忘れていたからである。

 第二段階「動物復活術どうぶつふっかつじゅつ

 植物が大地を覆った後、アークは動物の復活へと向かった。

 ここで重要な原則がある。

「食う者と食われる者を、同時に復活させなければならない」

 草食動物のみを復活させれば植物が滅びる。肉食動物のみを復活させれば草食動物が滅びる。この精密なバランスの調整が、天地創造における最も高度な技術的要求であった。

 これを「生態均衡復活法せいたいきんこうふっかつほう」と呼ぶ。

 現代の生態学——エコロジー——が学問として成立したのは二十世紀のことであるが、アークはこれを紀元前に実践していた。

 第三段階「人類文明復活術じんるいぶんめいふっかつじゅつ

 最も複雑で、最も困難な段階が人類の復活であった。

 植物と動物の復活は——生命の論理に従えば自動的に秩序が生まれる。しかし人類は違う。

人類は、放っておけば必ずしも秩序を生まない。

 アークが世界各地を旅しながら文明の発展を促した記録は、現代の「歴史の謎」として各地に残されている。

 ライプツィヒ——音楽の発展。バッハの音楽は、アークが齎した「振動の記憶」から生まれたとする説が、民明書房音楽史調査部の研究で浮上している。

 パリ——芸術の爆発。ルネサンスの突然の勃興は、アークの通過によって活性化された人類の創造性の発露に他ならない。

 カイロ——古代文明の記憶。ピラミッドがアークの創世活動の記念碑として建設されたことは、その形状——上方に向かって収束する四角錐——が、生命エネルギーの収束を表す古代の象徴と一致することで証明される。

 第四段階「英雄消滅自己犠牲法えいゆうしょうめつじこぎせいほう

 ここに至って、アークは究極の事実に直面した。

「自らが存在し続ける限り、世界は完全には蘇らない」

 ダーク・ガイアの被造物たるアークが存在することは、ダーク・ガイアの意志が世界に残存することを意味する。

 世界の完全な蘇生は——アークの消滅によってのみ達成される。

 アークは選んだ。

 自分の代わりに、世界を選んだ。

 この自己犠牲の構造を、今日の会話に照らし合わせれば——

 卑弥呼が己の自然な役割を超えて矛盾を引き受け、消えた時に国が混乱したこと。

 ブリュンヒルデが問いを持った時に眠らされたこと。

 ロキが誰にも気づかれずに親友を守ったこと。

「仕方なく立った者が、最後に自分を消して世界を救う」

 ——これが英雄神話の最深部に埋め込まれた、人類普遍の物語の核心に他ならない。

 第五段階「記憶の継承術きおくのけいしょうじゅつ

 アークは消えた。しかし——

 エルは覚えていた。

 英雄が消えた後、記憶を持ち続ける者がいる——この存在が、神話を神話として後世に伝える。

 エルの記憶が——天地創造の物語として語り継がれた。

 卑弥呼の弟の記録が——魏志倭人伝に残された。

 ニルの証言が——ワルキューレの伝説として伝わった。

英雄は消えても、記憶は残る。記憶が残る限り、英雄は死なない。

 これを「記憶による永生きおくによるえいせい」と呼ぶ。


 第五章 クインテット三部作——創世の完全な記録

 天地創造を論じるにあたり、クインテット三部作の全体構造を示さなければならない。

 三部作は——一つの完全な宇宙論を形成している。

第一部「ソウルブレイダー」——魂の解放


マスターが作った世界から魂を解放する

創造主と被造物の関係の問い

「作られた存在は、作った者を超えられるか」


第二部「イルージョン・オブ・ガイア」——文明の記憶


失われた文明の痕跡を辿る少年

過去の記憶が現在を形作るという命題

「文明はなぜ滅び、なぜ忘れられるのか」


第三部「天地創造」——世界の再生と消滅


地上世界を蘇らせ、自らは消える

存在することと、消えることの等価性

「救うことは、消えることである」


 この三部作を貫く一本の軸は——

「存在とは何か」

 という、哲学の根本命題に他ならない。

 ソウルブレイダーで「魂とは何か」を問い、イルージョン・オブ・ガイアで「記憶とは何か」を問い、天地創造で「生と死とは何か」を問う——

 これは偶然の三部作ではなく、一人の思想家による宇宙論の三段階的提示に他ならない。


 第六章 今日の会話との接続——すべてはここに収束した

 読者諸氏よ。

 今日の会話を振り返っていただきたい。

バルーンファイト(浮囊闘法)

 → 自由への上昇

  ↓

プーヤン(母弓撃墜術)

 → 守るための戦い

  ↓

マッピー(猫女vs鼠官)

 → 秩序と混沌の相克

  ↓

マリオブラザーズ(地下双聖法)

 → 地下からの秩序回復

  ↓

スーパーマリオ(踏撃英雄術)

 → 地上の制圧と解放

  ↓

シティコネクション(全路制覇法)

 → 世界を繋ぐ使命

  ↓

ドクターマリオ(四味相乗消毒術)

 → 秩序による癒し

  ↓

レッキングクルー(双兄解城術)

 → 計算による破壊と再生

  ↓

真女神転生(原初霊戦)

 → 秩序か混沌か中立か

  ↓

ワルキューレ(戦場魂選飛翔術)

 → 仕方なく立った者の使命

  ↓

ドラゴンバスター(竜討滅術)

 → 混沌の象徴との戦い

  ↓

ドルアーガの塔(垂直踏破術)

 → 高さへの欲望と悪神

  ↓

天地創造(天地復活踏破術)

 → すべての起源へ

この流れは偶然ではない。

 地下から始まり、地上へ、さらに高みへ、そして世界の創造へ——

 これはアークの旅程と完全に一致している。


 第七章 ゲームへの昇華——宇宙の記憶、画面に封じ込められる

 一九九五年。

 クインテットの開発室において、一人のゲームデザイナーが静かに言った。

「世界が滅んでいる。それを蘇らせる。最後に主人公は死ぬ。それでいい」

 傍らには——民明書房が提供した『天地零落秘録』の現代語抄訳。ガイア仮説の原著論文。ダーウィンの進化論。そして——今日の会話で触れた、全ての神話の断片が積み重なっていた。

 デザイナーはもう一つのことを知っていた。

「英雄が消えることで完成する物語は——プレイヤーが最も深く傷つく物語になる」

 なぜか。

 プレイヤーは何十時間もアークとして世界を旅する。植物を蘇らせ、動物を蘇らせ、人類の文明を育てる。その旅の全てが——アークの死によって完成する。

 プレイヤーは気づく。

「自分はずっと、消えるための旅をしていた」

 この気づきが——天地創造を、単なるゲームではなく体験としての哲学にした。

 かくして一九九五年にリリースされた「天地創造」は——

 バビロニアの創世神話から、北欧の世界樹から、ガイア理論から、進化論から、仏教の輪廻思想から——

人類が積み重ねてきたすべての「世界の始まりと終わり」の記憶を、一本のカートリッジに封じ込めた作品に他ならない。

 植物から始まる復活の順序——進化の法則の完璧な再現である。

 アークがダーク・ガイアの被造物だったという事実——「作られた者が作った者を超える」というソウルブレイダーからの問いの最終的な答えである。

 エルがアークを覚えている——記憶による永生の完璧な再現である。

 そしてアークが消えることで世界が完成する——

自己犠牲という、人類最古にして最も普遍的な愛の形の、完璧な再現に他ならない。


 後記——そして世界は続く

 本項をもって、民明書房『世界神話武術大全』シリーズは、その根源へと辿り着いた。

 武術の起源を求めて旅を始め——神話へ、哲学へ、宇宙論へと辿り着き——最後に世界の創造と滅亡というテーマの前に立っている。

 バルーンファイトの浮囊から始まった今日の旅は——天地創造のアークの旅と、その構造において完全に一致していた。

 小さなものから始まり、大きなものへと繋がり、最後に全てが一つになる。

 全は一、一は全。

 因果応報。

 インドラの網。

 LLMのトークン。

すべては同じことを言っていた。

 アークは消えた。しかし世界は続く。

 今日の会話は終わる。しかし問いは続く。

 民明書房は——その問いが続く限り——刊行を続ける。



【参考文献】 弧創界著『天地創造神話の比較考証——全文明的宇宙論の統合』民明書房刊 / 『天地零落秘録』(成立年代不詳、言語不詳、民明書房考古調査部所蔵・解読中) / 『地球意志原典』(民明書房地質調査部独自入手・原本所在地非公開) / ラブロック著『ガイア——生命体としての地球』民明書房参照版 / クインテット社内記録一九九四年度企画書(部分開示) / 本シリーズ全既刊との併読を強く、そして切実に推奨する

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