闇歯科医
無人島でサバイバル!…否。禁煙合宿である。
説明しよう。名無しの酒場はヘビースモーカーの巣窟。何とはなしにやめていた煙草に火を点したのは三ヶ月前。あれよあれよという間にニコチンという名の悪魔とお友達になってしまい、自身もヘビースモーカーの店主が「レバ刺し食いに闇レストラン天国の舌いくやぁ?」でコロッと騙され。
個室に連れていかれて、ソファに腰掛けたところ、待ち構えていた歯科医と三人の美女歯科衛生士達と舌戦を繰り広げることとあいなった。まるでオペラ劇場に突き出された感である。詩人のプラークコントロールを認められ、歯科衛生士から「人間」と認定されたのだが「煙草吸う奴は人間では無い」と歯科医は声高らかに歌い上げる。
「お前が火葬場から骨となって現れたとしよう。その奥歯にインプラントがくっついていたら、知人縁者はそっと目を逸らすに違いない。」
「骨をある程度粉砕する手もあるが、まるで目出度い日に共される鯛の尾頭付きの煮付けを、皆で和気藹々と箸でつつき喜びを分かち合う様に。それが骨と骨を切り分けた状態で出てきたらどうする?それは尾頭付きの鯛の意味をなさない。…感動が無い!」
「お前がスケルトンとダンジョンで出会ったとしよう。そのスケルトンに美しい歯並びを見せ付けられたら、お前は膝を折って首を差し出すしか術は無いぞ!どうする?冒険者よ…?」
で、現在に至る。詩人は浜辺で火を焚き、鍋にヤシガニを塩茹でにする。ウツボカズラを手に水分を補給。浜辺に店主が持たせた大きな木箱が三つ。
「ハイビスカスのプールサイドで読書をしながら、冷えた白ワインのカクテルで優雅な時間を過ごす筈だったのに~。あーもう。」
太陽は燦燦と。この年で日焼けはいやだぁ……。
煙草が吸えない上にサバイバルである。大抵男はきりりと筋肉が引き締まり美しい体になるが、女はただブクブクと太っていくのが自然回帰の不思議である。箱の中を漁るとメジャーとレトロな体重計が入っていた。
「あぁ…もうやだぁ。」サバイバルはやること多い。
朝の一服。3ミリで重さを感じた。1ミリになったら、ニコチンフリーの煙草に移行できる。6ミリの煙草を全部火に投入。古傷の歯が一本芳しくない。人生のターニングポイントにさしかかる年ではある。日常を忘れて、あれこれ考えるのもいいかもしれない。
店主に一番最初に歯が抜けたのは幾つ?と聞けば、「六歳」と答えやがった。