第三話 「宝くじ三億円当たった! うひょおおおおおお!」という場合の対処法
ネコーズは、ただで借りている遠野家の部屋でくつろいでいた。
リビングのソファーに寝転がり、夢の世界で幸せな思いをしている。
「うーん、お寿司がいっぱい。
僕、もう食い切れないニャン。
しかし、僕は負けない!
このタッパーにお寿司を詰めて持って帰るニャン。
百円ショップが近くにあって良かったニャン♡」
ネコーズは、そう寝言を言いながら、前脚を必死に動かしていた。
すると、ネコーズのドアを叩く人物がいた。
「あの、相談があって来たんですけど……」
そう呼びかけられるが、ネコーズは起きる気配がない。
声が聞こえないほどの距離ではないが、今のネコーズでは聞き取れない。
数分後、ネコーズの部屋のドアが、大家さんの手により開けられた。
「ネコ―ジュ、大変! これが当たっちゃった!」
そこに現れたのは、大家でもある小娘の遠野えるふだった。
ネコーズは、寝ぼけながらも起きる。
「フニャ―ン、何ニャ? 当たった?
ま、まさか、寿司がいくらでも食べられるという幻のアイテム『日本銀行券三億円』か?
それは大変だニャン。
知らない友人や親切な詐欺師が大量に押しかけるニャン!
そういう奴らが現れたら、そのお金は全額銀行に貯金して、新しい企業を立ち上げる為にもう一銭もありませんというのが正しい。
本当に、金利だけで生活費が稼げるし、ちゃんとした計画があると分かれば相手も引く。それでも、しつこく金を貸してほしいと言ってきた時は、日本ユニクロの社長の月収と同じくらいでしょう。
そんな金、支出と税金で無くなっているわよ、と言えばいい。
貯金額を万が一見られても、私が稼いだ金と言えるしね!
ぶっちゃけ、貧乏人が一気に三億円を稼いだから寄って来ただけで、年収百億の社長が月三億円稼いだくらいでは、ニュースにさえもならないニャン。
冷静に対処すれば、実際はそれほど大した額でもないニャン。
むしろ、運動(仕事)と勉強(資格試験)が必要なくなって、寿命が縮むニャン!
お金をくれるなら欲しいけど……」
ネコーズは、自分がそういう大金が舞い込んだ時を想定して、そのような発言をする。
当のえるふちゃんは、キョトンとした顔をしていた。
「いや、チョコボールを買ったら、金のエンゼルが付いていただけだけど……」
「何だって? バカな!
金のエンゼルなんて都市伝説、奴らが金を巻き上げるために仕組んだ罠じゃなかったのか?
玩具の缶詰は、銀のエンゼル五枚が主流のはずニャン。
宝くじ三億円が当たるよりも確率は低いはずニャン。
なぜなら、当たりなんてないんだから……」
ネコーズは、金のエンゼルを確認する。
「僕が間違っていたニャン。
金のエンゼルは存在する。
これ(金のエンゼル)は、僕が記念にもらっておくニャン。
自分の誤りをいつも心に留めておくために……」
「ちょっと、私の金のエンゼルだよ。玩具の缶詰を貰うんだ!
一緒に遊んであげるから返して!」
「仕方ない。
森永チョコレートが、僕にチョコボールの玩具の缶詰をただで郵送してくれるまで待つか。こういうコネが実は一番確実ニャン。
有名企業の社長とか、漫画家は貰っているはずだからね。
金や銀のエンゼルで貰うなんて、貧乏人や子供の発想だニャン!」
こうして、ネコーズと遠野えるふは、ペットと飼い主のコニミュケーションを取っていた。
すると、ネコーズの元に、依頼主が現れる。
今回は、いったいどんな事件が待ち受けているのだろうか?
美人らしく、モコソンが迎える。
「おお! 地元では有名なメイドさんで、面白くはないけど人気者の、美人でグラビアアイドル並みの身体つきの天草夏美さんじゃないですか。
どうしたんです? 僕に恋の相談ですか? それとも、オッパイの診断ですか?」
天草夏美は、モコソンを殴って言う。
「面白くて、可愛い羊ちゃんね。ちょっと、相談があって来たんだけど……」
「くっは! 良い右ストレートじゃないか。とても健康体だ。
しかし、病気の危険がある事が僕の第六感で判明した。
後で、また診断しましょうね……」
モコソンはそう言って、気絶した。
天草夏美は、ネコーズの部屋へと進んで来る。
ネコーズの部屋のドアにノックをする。
「はーい、どうぞ。僕達、今忙しいから、適当に座って待ててね」
天草夏美は、その言葉を無視して、ネコーズに近付いて行く。
「あ、ちょっと、お触り禁止だよ!」
ネコーズがそう言うにもかかわらず、天草夏美はネコーズを抱きしめる。
「子猫ちゃん、ちょっと相談があって来たんだけど、いいかしら?
あんまり他の人に知られたくないのよ。私が、学校の怪談や幽霊が怖いなんてね。
えるふさんに解決を相談したら、あなたに頼むように言われたの。
ボディーガードも含めて、依頼をお願いするわ」
「ちょっと、ミカン臭いんですけど……。
猫は敏感だから、柑橘系の香水や化粧の臭いは嫌なんだよ!」
「ごめんなさい。興奮して、ちょっと抱き付いちゃった。見た目は普通の猫だから……」
天草夏美は、ネコーズを放し、ソファーに座る。
ネコーズは漫画を中断し、依頼を真剣に訊くことにした。
地元では、それなりに人気の喫茶店で働く女の子だ。
「僕、こう見えても売れっ子だから、依頼金額は高いですよ。
成功報酬として、五百万円もらいましょうか?」
「へー、依頼内容も訊いてもいないのに高額ですね。
ぼったくりは潰すわよ! 後、私のパンツを盗んだ事があるでしょう。
お兄さんが白状したわよ!」
天草夏美は、ネコーズに圧力をかけるが、ネコーズも黙っていない。
「そうですか。探偵は、時に犯罪をしてでも犯人を追い詰めなければいけない。
僕が悪に染まる事によって、罪の無い弱い生物が守られるというのなら、僕にとっては本望だ!
それに、あなたのパンツで幸せになる人がいるんです。
嬉しい事だとは思いませんか?」
「喜ぶのは、犯罪者だけじゃない! 嬉しい訳ないでしょう」
「まあ、優秀な刑事さんが証拠品として押収して行きましたけどね。
だから、安心してください。
今回は、特別に超格安で事件を解決する事にしますよ。
どうせ、くだらない内容でしょう?
彼氏が欲しいけど、喫茶店で彼氏禁止しているからデートが公に出来なくて嫌とか……。
僕ならフリーですよ! スキャンダルの心配ないニャン!」
「スキャンダルの心配とか、彼氏が欲しいとかじゃないわよ。
それに、喫茶店でそんな規定はないし……。
本当に得体の知れない者から狙われているのよ!
ほら、最近噂で聞いている怪人の話、あれに狙われているの……」
天草夏美は震えながらそう言う。
「ああ、なんか、事故に遭って、両脚が無くなったというカシマレイコさんでしょ?
あれは、『足をよこせ』っていう奴でしょ?
それなら、『今、使っています』とか、『今、必要です』と言えば良いんですよ!
はい、事件は解決ですね!」
「違うわ! それじゃなくて、怪人赤マントの方よ!」
「ああ、それは、『赤マント、いらないか?』って言う質問の奴ですよね。
それなら、『いらない』と答えるか、無視すればいいんですよ。
『いる』と答えると、襲われますけど……」
ネコーズがそう言うと、天草夏美は泣き出す。友人達といる時はツンデレ系だが、本当の夏美は寂しがり屋で、弱い感じの子だったのだ。
ネコーズは夏美の気持ちを察して言う。
「なるほど。自分が人から頼られる時は、リーダーで頼れる存在でいなければならないため、本当の自分を押し殺して、違う自分を演じていたわけか……。
えるふが、あなたの心境を理解できたのもうなずけるな。
まあ、安心したまえ、僕も同じタイプだから分かるニャン!」
ネコーズの意外な言葉に、モコソンは反応する。
「ええ! 僕といる時も無理していたのかい?」
「まあ、猫は本来寂しがり屋な生き物だから。
ウサギがさみしいと死んじゃうのは、デマだけど、猫は一人で生きていけるみたいなツンデレタイプだけど、本当は寂しがり屋なんだよ!」
ネコーズは、夏美に優しく言う。
「僕はモコネコとは違うよ。こんな可憐なお姉さんを傷付けたりはしない!
モコソンだって、同じさ!」
「ええ! 僕はどっちかと言うと、いじめたいと思ってしまいますけど……」
反発するモコソンをわきに連れて来て、ネコーズはモコソンに、小声で耳打ちする。
「奴は地元では売れっ子のアイドルメイドだ。
僕達が恩を売っておけば、可愛い巨乳メイドを派遣してくれたり、自らが御奉仕メイドになってくれるかもしれない。
夏美さんの性格は、他の人には黙っているんだ!」
「なるほど!
うむ、普段は強気の夏美さんをメイドとして働かせるなんて、ドS心がうずくよね。
更に、研修という名目で、新人さんを使い放題とか、夢のようだね!」
「ふっ、モコソン、分かってくれたか!」
ネコーズとモコソンは、硬い握手をする。
ネコーズは、夏美に向かって報酬の話をする。
「夏美さん、僕達の要求にこたえてくれれば、お代は結構ですよ。
僕達も、名古屋と豊橋を拠点にしているため、人手が足りていないんです。
もし良ければ、名古屋営業所の方に、臨時でメイドさんを雇ってもらってもよろしいでしょうか?
新人や手の空いているバイト仲間の女の子で構いません。
お茶とコーヒーが出せるくらいで、可愛くて応対のできる子なら、誰でも結構ですよ。
モコソンと僕は、接客関連でも指導できますから、新人研修にも良いですし、お互い損はないんじゃないですか?」
夏美はその申し出に、黙ってうなずいた。
「よし、じゃあ、依頼内容をお話しください。
内容が分からないと、ボディーガードも出来ませんから……」
夏美は、ネコーズに安心したのか、ゆっくりと話し始める。
猫には、人を安心させる力もあるのだ。
「実は、高校で女生徒が襲われるという事件が発生しているらしいの。
そこで、犯人を捕まえようと思って、この学校を一人で下見していたんだけど……。
その時に、『赤マントいるか?』って言う声が聞こえて来たの。
私はてっきり用務員さんが冗談を言っているんだと思って、くださいと言ってしまったんです。
その後から、変な物音や、シャッターを撮る音が聞こえて来るんです。
友達といる時は、気丈のふりをしているんですけど、一人の時はどうしても怖くて……」
「なるほど、とりあえず、そのストーカーの犯人を捕まえれば良いというのですね」
「犯人がいるのかしら? 幽霊かもしれないわ。
実際、何人かが怪しい奴を見たっていうけど……」
「噂の赤マントは、学校の女生徒と会話をしたら、真っ先に襲って来ると言います。
今回は、少し様子が変ですよ。あなたの知り合いかもしれません。
実際に、あなたが赤マントに遭遇した場所へ行って見るニャン。
何か分かるかもしれない」
「ええ! ちょっと怖いわ……。
実際の犯人もいるかもしれないんでしょう?
私も普段は勇敢に戦えるけど、今は一人で戦えるかどうか……」
「あなたがそんな危険な場所に一人で行ったのも、友人に危害を加えさせないためでしょう?
大丈夫です、あなたはとても強い人ですよ。
それに僕とモコソンも一緒にいて、あなたを守るニャン。
それに、僕は犯人の目星が付いているニャン。
必ず、事件を解決してみせますよ!」
「なんて頼もしい猫ちゃんなの。分かったわ。
学校を守るにも、探偵の助手として頑張ります!」
こうして、ネコーズ達と天草夏美の冒険が始まった。




