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氷撃のカイ・フィリード  作者: 狼花
8章 【嵐の前夜】
199/202

◆歪んだ言葉(8)

「そうか。あのじいさん、やっぱり竜族だったか」


 ツィオの正体を打ち明けられたニキータの反応は、非常に落ち着いたものだった。この男が取り乱すところなど想像もできないが、予想通りの反応すぎてカイこそ無感動である。


 夜の帳が音もなく下りてきて、すっかり王城は静まり返っている。昼間の騒動が嘘のようだ。大国の都だけに灯りが絶えることはないが、それでも周囲を森に囲まれた神都カティアの夜はいつの世も穏やかだった。人々が安心して夜を眠ることができるのは、それだけで価値あることだろう。

 普段ならばとっくに休んでいるはずの時間だが、カイは城の中庭を散策していた。途中でばったりニキータと遭遇し、そのままなんとなく連れだって歩いている。そんな夜の散歩の合間に、ぽつぽつとカイはツィオの情報をニキータに共有したのである。会議の時間は、カーシェルが明日に取り付けてくれている。イリーネたちにはそのときに落ちついて話すつもりだったが、ひとりくらいは情報を共有していてもいい。そう思ったときに真っ先に顔が浮かんで、そして運良くもこうして遭遇できたのが、黒衣の隻眼鴉だったのである。


「やっぱりって、なに。もしかして最初から分かってたの?」

「そんなわけないだろ。ただまあ、こうも色々突拍子もないことが続くとな。竜族が出てきても今更驚くことじゃない気がするわけだ。……というか、いつかはこうなるんじゃねぇかって漠然とは思っていた」


 慣れってのは恐ろしい、とニキータが呟く。そういえばいつだったか、「いくら問題児のカイでも、竜なんて連れてこないだろう」とチェリンに笑われたことがあったのを思い出す。そのまさかになってしまったようだ。

 トライブ・【ドラゴン()】。最強の化身族。ほんの少し前まで、北の小国の片田舎で暮らしていた自分が、まさかそんなものと関わることになろうとは。


「ステルファット連邦は竜族の巣だって話らしいからな。あのじいさんが戦力としてどこまで期待できるのかは知らんが、味方なら心強いのは確かだ」

「多分……心配しなくても、あのヒトはちゃんと味方だよ」


 相変わらず真意を殆ど明かさないし、胡散臭いことこの上ないが、エラディーナや【竜王】のことを大切に思って、彼らが大切にしたものも丸ごと愛しているのだということは、偽りではないと思う。人間族と化身族の共存を良しとしない【獅子帝】らを止めることがツィオの目的ならば、少なくともその部分の利害は一致している。

 うまく言葉にできないが、たどたどしくもそう説明すると、「そうかそうか」とニキータは笑う。カイがニキータに予め話しておこうと思った理由は、彼のこういうところだ。突拍子もないことを聞かされても、動揺したり狼狽えたりしない。これがアスールやチェリンであったなら、「証拠は」、「信頼に足るのか」と矢継ぎ早に追及してくるに違いない。――まあ、明日そうなるのは確実であるのだが。アスールのように口が達者でないカイからすれば、ツィオをひとりで擁護する発言をするなんて、正直荷が重いのだ。その点、ニキータの言葉はひとつひとつ説得力が強いから、援護してもらえればみなも納得してくれる。


「ニキータは連邦に行ったことある?」

「何度かはあるが、さすがに詳しくはねぇ。ヘルカイヤにとっちゃ、あまりに遠い国だったからな。とはいえ昔は普通に国交があったし、人間も化身族も大勢暮らしていた。竜族の故郷だなんて言われても、ピンとこないのが正直なところだ」

「……もしかしたら、竜族はすごく身近にいたのかもしれないね。伝説の化身族とか言われてきたけど、俺たちが気付かなかっただけで。ツィオみたいに、正体隠して人間社会に紛れ込んでいる奴が、実は他にもいるのかも」

「へっ、ぞっとする話だ」


 いつ誰にデュエルを吹っ掛けられるか分からない化身族としては、すれ違う相手が何者であるか不明だということは恐怖でしかない。人間にはない感覚であると理解してはいるが、なんの警戒もなく街を歩ける人間族が無防備に見えて仕方ないのだ。ツィオがその気になっていれば、カイたちなどとうの昔に消し炭にされていた。それだけの破壊力を秘めた人物が、何食わぬ顔で隣にいた――考えるだけで肝が冷える。


 中庭を抜け、城の外廊を横切る。そのまま建物沿いに歩くと、城の裏門が見えてきた。常に灯りが絶えないリーゼロッテ王城といえど、城の裏手はさすがに暗い。今宵は新月ということもあって月明かりもなく、夜目の利くカイですら視界が狭まる。

 しかし、カイの聴覚は夜闇でも衰えることはない。聞こえてくる音の大きさ、距離、方向から、闇の向こうに何があるのかは把握できる。


 カイがぴたりと足を止めると、同じように隣にいたニキータも立ち止まる。にやりと笑った気配がして、ややひそめられた声が降ってくる。


「お前もやっぱり、『あれ』目当てで出歩いていたってわけか」

「じゃなきゃこんな夜中にわざわざ外出ないよ」


 ニキータは何事も自分の目で確認しないと落ち着かない性質だ。旅の間も、誰に言われずとも夜の警戒を自ら行っていた。だからこそカイたちは安心して眠ることができたのだ。

 王城の警備は厳重だからと、ニキータも城にいる間は夜回りをしていなかった。そのニキータが、昼間の騒動を受けてここにいる。その意味はただひとつだ。


 物陰に身をひそめ、そっとその先を窺う。闇の中で蠢く影が複数。聞こえる足音から推測すると五人前後、金属の音がしないから、おそらく化身族の集団だ。

 音がこちらに近づいてくる。足取りに迷いがないことから、城内の見取には詳しいらしい。そう考えつつ、カイは物陰から出た。ニキータも同じようにして、その集団の行く手を阻むように立つ。


「こんな遅くに裏門から潜入なんて、杜撰すぎるんじゃない」


 カイがゆったりと声をかけると、化身族たちはぴたりと足を止めた。身にまとっているのは黒装束で、見るからに城の関係者ではない。


「獣軍だ。大人しく投降しな、ゴトフリートの飼い犬ども。その人数じゃ俺たちを倒して進むことはできねぇぜ」


 ニキータもそう告げる。人間の身分社会は面倒臭いが、その社会の中で生きるには身分があるのは大変便利なことだ。一応いまもカイとニキータは客将という身分らしく、獣軍を名乗ってもなんの差支えもない。カイたちが動きやすいようにと、その名を与えたままにしてくれているのだろう。

 だが、化身族たちはそれで引くことはなかった。むしろ無言のまま身構え、いつでも化身できる態勢だ。これは叩き潰すしかないかと、カイも軽く足を開いた瞬間、横合いから別の声が聞こえた。


「ギュンターとやらの身柄は獣軍が押さえました。もう従う義務はないと思いますよ」


 おや、と視線を向けると、化身族の集団が侵入してきた裏門をまさに通って、見知った顔が現れた。ヘルカイヤ作戦のときにカイと共に従軍して、そのあとも天幕の警護をしていたりと、何かと顔を合わせることの多かった人懐っこい獣兵だ。そういえば名前を知らなかった。カヅキの傍にいることが多いから将に近い立場なのだろうと思っていたが、こうして部下を引き連れてやってきたのを見ると、見立ては間違っていなかったらしい。

 その獣兵の言葉を聞くや否や、化身族たちはあっさりと手を挙げて降伏の意を示した。


「ならこんな仕事はやめだ。王太子の暗殺なんて、俺らには荷が重すぎる。だから命だけは助けてくれ」

「もちろん、貴方たちに否がないのは分かっていますからね。契約具を返却したら、すぐにでも解放しますって。それまではまあ、ちょっと大人しくしてもらいますけど」


 獣兵の指示で、刺客として入り込んだ化身族たちは連行されていった。それを見送って、獣兵はカイとニキータのほうへ歩いてくる。


「カイさん、ニキータさん。彼らを足止めしてくれてありがとうございます。おかげで手間をかけずに摘発できました!」

「ああ、いいよ別に、何もしていないし。……それにしてもあんたよく会うね、名前なんだっけ?」

「あれっ、前に名乗りませんでしたっけ。リィンと言います」


 そういえばそんな名を聞いた覚えがある気もするが、何分にもヒトの名を覚えるのが苦手なのだ。顔はすぐ覚えるから個体の区別はできるのだが。カーシェルとアスールの名前もどっちがどっちだったか混乱し、出会ったころは四苦八苦した覚えがある。


「教会のほうは大丈夫か?」


 ニキータが問うと、リィンは大きく頷いた。


「はい、あちらには獣軍将が行っていますから。教会兵も厳重に警備していますし、問題ないと思います」


 王家と教会が手を取り合って、化身族や混血の待遇改善を図る。それが正式に声明として発表されたが最後、リーゼロッテは国としてそうした方針を取ることになり、諸侯もそれに従う義務がある。ギュンターからしてみれば、たまったものではないだろう。

 だから発表を阻止しようとした。早ければ明日にでも出されてしまうかもしれない共同声明が出る前に、当事者である王太子カーシェルと教皇イザークを暗殺する。そのために刺客を送り込んでくるだろうということを、カイは予想していた。そのために柄でもなく、夜間の見回りなんて行動に出たのである。ニキータもカヅキも同じことを考えていたというのだから、カイが動くまでもなかったのかもしれないが。


「しかしまあ、早い到着だったね」

「奴さんが使うなら教会と王城を繋ぐこの道一本だろうって、獣軍将が目星をつけていたんです。ギュンターは教会に顔が利きますからね。案の定、教会兵を買収して門を開けさせていたようですよ」

「それでよくギュンター本人までしょっ引けたな?」

「化身族の刺客たちはギュンターに金銭で雇われたのではなく、契約具を取りあげられて仕方なく従っていたんです。これは立派な奴隷ですよ。諸侯の奴隷所有は法によって禁止されていますから、そういう理由で引っ立てられたってわけです」


 ああ、だから化身族たちはあっさり降伏したのだ。ギュンターの意に背けばいつ契約具を砕かれるか分からないが、ギュンター本人が捕えられたのならもはや契約は意味を成さない。化身族のみで構成される獣軍だからこその柔対応だ。

 化身族との共存を訴えた王太子が、化身族によって殺される――そういう皮肉を演出したかったのだろうか。


 カーシェルの敵は、こうやって増えていく。カーシェルのことだから自分の身は自分で守れるだろうが、それでも人間の限界はある。不意をつかれれば、簡単にヒトは死ぬのだ。イリーネもアスールも、いつだって政敵に身の安全を脅かされながら生きている。

 そういうドロドロの敵意が、なるべくイリーネのもとまで届かないように。アスールがこれ以上手を汚さずに済むように。カーシェルが王道を真っ直ぐ進めるように。彼らに降りかかる火の粉を払う役割を、自分が担えたらいい。





★☆





 ニキータやリィンらと別れて、カイは部屋へと戻った。室内はランプの灯りでぼんやりと明るい。部屋を出るときに消したはずの灯りがなぜ点いているのかと首を捻ると、窓辺の椅子に座って幼馴染が書き物をしている姿を見つけた。


「まだ寝ていなかったの、ファビオ」

「……目が冴えて、どうにも眠れん」

「へえ、枕に頭を乗せたら十秒で寝落ちするあんたがね」

「茶化すな」


 王城に滞在するにあたってファビオにも個室が用意されたのだが、ファビオはフィリードの里の外を一切知らないのである。触れるものすべてにビクビクしている様子が見るに堪えなかったので、同郷のよしみでカイと同じ部屋を使うことになったのだ。「カイと同室など絶対に嫌だ」とやかましかったファビオだが、諦めがついたのか夜になって静かになった。犬猿の仲であるファビオと同室なんてこっちこそ願い下げだったのだが、案外冷静にコミュニケーションを取れているような気がする。


 そうしている間にもファビオは筆を置き、書いていた紙を折りたたんだ。窓を開けて指笛を鳴らすと、どこからか白い鳩が一羽飛んで来た。差し出した左腕に鳩は止まり、ファビオはその足に紙を括りつけていく。見覚えのある鳩だった。里で何羽か飼育されていて、ファビオはけっこう楽しんで世話をしていたように思う。

 滅多にないことだが、外部との接触を全面的に任されていたのはジーハだった。彼は唯一里を出ることを許されていて、時折人間社会に混ざりこんでは世相の情報などを集めてきていた。そうした情報を、旅先からジーハは鳩を使って里に送っていたのだ。


 フィリードが里を上げて人間たちに協力するかは、ファビオの報告次第。ファビオが人間たちに手を貸すことを是として、ゼタやジーハにそれが伝われば、彼らは動いてくれる。重大な役目を帯びているだけに、カイはファビオの手紙の内容が気になって仕方がない。直球に問うのも憚られたため、やや婉曲に声をかける。


「昼間、街の復旧を手伝っていたんでしょ。どうだった?」

「……正直なところ、ショックだった」


 ファビオは小さくそう呟いて、鳩を空へと放つ。夜でも空を飛べるよう訓練された鳩は、まっすぐ北東へと飛んで行った。


「ショック?」

「化身族が軍隊として統率されているだけでも衝撃だったが……復旧作業にあたる者たちの間に、種族の別などなかった。気安く声をかけてくるものだから『俺は化身族だ』と言ってみたが、むしろ歓迎されてしまったし」

「力仕事なんかは、化身族のほうが適任だろうからねぇ。そりゃ頼りにされるよ」

「そのようだな。人間は本当に非力だ。……だが、彼らは俺たちを道具扱いしなかった。ゼタ様やジーハ様たちが仰っていたような悪辣な人間は、ひとりもいなかったのだ。自然と協力し合い、信頼しあって……目を背けたくなるような光景だった。俺が今まで信じてきたものが、すべて崩れたような気さえした」


 ゼタの教えを絶対のものと盲信していたファビオらしくない言葉に、カイは目を見張る。カイは何度もこの物分かりの悪い幼馴染に「ゼタの言うことは時代遅れだ」と説明してきたのだが、百聞は一見に如かずということらしい。

 時代が変わったのだということは、ゼタもジーハも勿論知っている。自分たちを奴隷として見るような風潮はもうなくなって、人間とはある程度対等に生きることを許されているのだと。だがそれでも、奴隷だった頃の記憶は強烈すぎるのだろう。フィリードの里は、化身族だけの楽園として切り拓かれた。今もまだ人間を嫌う化身族が安息を求めてフィリードにやってくるからには、その方針を変えるわけにはいかなかったのだ。

 新たに生まれてくる子らに、反人間思想を植え付けているのは承知の上。それでもゼタは、人間に関わることで生まれるであろう大小さまざまな悲劇から、里の子らを守ろうと。


 その想いがファビオに届かないのは、さすがにゼタが可哀相だった。ゼタを絶対の存在として崇めていたファビオも、一気に壊れてしまいそうで。やや慌てて、カイは弁解するように口を開く。


「あのさ、ゼタとジーハは……」

「ああ、分かっている、ゼタ様は我々を守ろうとして、あえて口になさらなかったのだろう。騙されたと憎む気持ちなど、微塵もない」

「なんだ。庇おうとして損した」

「――だが、もう知らなかった頃には戻れない。謝罪する、カイ。どうやらお前の言葉は正しかったようだ。言葉を交わし、心を通わすことに、種差などないのだな」

「うん。そうだよ」


 カイが頷くと、それまで饒舌だったファビオは不自然に口を閉ざし、こちらに向き直った。こいつ何を言い出すつもりだ、と心持ち身構える。


「ゼタ様から授かった最終奥義、使うつもりか」


 予想外の問いを投げかけられたせいで、一瞬言葉に詰まった。使うつもりがあるから、頭を下げてまでゼタに教えを乞うたのだ。だが、ファビオが聞いているのは、そんな当然のことではないだろう。


「その場にいたんだから、術の仕組みは見てたでしょ。心配しなくても、命と引き換えにするようなものじゃなかったよ」

「別にお前の心配をしているわけではない。あの最終奥義はゼタ様が編み出された特別なものだ。それを強力だからといって連発されたら、敵に手の内を読まれる。ゼタ様の不利になるようなことは、くれぐれもするなよ」

「あー、はいはい。それ俺の不利にもなるしねぇ」


 どこまでファビオはゼタを信奉しているのだろう。確かに強力な化身族だが、息子的には「できた父親」と呼べるような男ではないのだが。


「くそ、やはり気に食わん……! ゼタ様の最終奥義を継承することが、俺の長年の夢であったというのに!」

「いや普通に考えて無理でしょ。ファビオは火属性魔術の使い手なんだから」

「分かりきったことをわざわざ言うな! ……悔しいが、身の程は弁えている。おい、いいか、カイ」

「ん?」

「……生命を脅かすものではないにしても、代償が蓄積すれば致命的となる。俺はお前が死んだなどという報告を里に持ちかえりたくない。自分の身を粗末にするなよ」


 今度こそ、紛れもなくカイの身を案ずる言葉だった。短気で怒りっぽいが、元来ファビオは超がつくほど生真面目な性質だ。顔を合わせれば口論していたような間柄の幼馴染からそんな言葉を聞いてしまえば、今まで我慢していた笑いがこみあげてくる。むしろよく今まで茶化さずに真面目な雰囲気を保てたと、自分を褒めてやりたい。

 にやにや笑いだしたカイに気付いて、ファビオは一気に顔を赤くした。そして大声でまくしたてる。


「き、貴様、何を笑っている! 勘違いするなよ、ゼタ様の悲しむ顔を見たくないだけだ!」

「ふ、ふふ、分かってるよ」

「ちっ……俺の言葉がどこまでゼタ様に響くか分からんが、助力の要請だけはしておいた。過度な期待はするなよ」

「ファビオは口下手で説明事が苦手だもんねぇ。……ありがとね。本当に助かってるよ」


 素直に礼を口にすれば、ファビオはふん、とそっぽを向いた。それを見ながらカイはベッドに上って毛布の中に潜った。


「ほら、もう寝るよ」

「……そういえばお前、いつの間に昼行性になったんだ」

「ここ一年くらいかな、案外簡単に矯正できたよ。目を閉じているだけでも休憩になるって俺の仲間が言ってたし、ファビオもとりあえず横になりなって」


 促せば、これまた素直にファビオはカイの勧めに従った。珍しいこともあるもんだと思いつつ、カイは手を伸ばして卓上のランプを掴み、火を吹き消す。途端に室内が闇に閉ざされた。月明かりもないが、それでも多少目が利くのは獣族の特権だ。

 カイが黙ると、ファビオも黙った。一仕事終えて疲れたカイはその静寂が心地よくてすぐにうとうとしだしたが、ファビオが寝付く気配はない。もぞもぞと身体を動かす音が聞こえて、相手がアスールならば「うるさい」と文句を言っただろうが、さすがにそれは踏みとどまる。まあ自分も最初は落ち着かなかったし、しばらく辛抱しよう。何せファビオは、枕に頭を乗せれば十秒で寝落ちすることで有名だったのだ。慣れてしまえば、すぐ眠れるようになるだろうから。

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