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氷撃のカイ・フィリード  作者: 狼花
8章 【嵐の前夜】
191/202

ある防衛班長の独白

『カイ! この俺と勝負しろ!』


 と言うと、決まって奴は、


『嫌だ』


 と間髪入れずに答えたものだ。それだけでも腸が煮えくり返るほどの怒りを覚えたものだが、もっと気に食わなかったのが、自分たちふたりの実力が拮抗していると周囲の大人に思われていることだった。こんなやる気も向上心もない奴より、自分のほうが飛び抜けて実力が勝っている。それをみなに知らしめたくて、里の中で顔を合わせれば勝負を吹っ掛けていた。だが毎回さらりと躱され、試合まで持ち込んだとしても適当に切り上げられてしまう。いや、切り上げられるだけならまだいい。時には『疲れたから俺の負けでいいよ』などとふざけたことをのたまい、その場から立ち去ることだってあった。その執着のなさに、どれだけむかついたことだろう。

 勉強や読書は好きなくせに、戦うことに消極的な幼馴染。戦うことが嫌いなくせに、次の長として注目されるほどの強者。


(ああ、苛つく。俺が努力して努力してやっとできるようになったことを、カイは初めてでもそつなくこなす。こんな不平等が存在するのか)


 あの頃は十代の若造で、落ち着きも思慮もあったものではなかったから、毎日恨み言を叫んだものだ。天はカイに、一物どころか二物も三物も与えている。勉学も優秀、戦いにも秀で、顔も整っていて、気質も優しく穏やかで。里の女たちは、密かにカイの言動を観察して黄色い声を上げていたものだ。

 向上心がない日和見主義なところを除けば、ああ確かにカイは魅力的な男なのかもしれない。そこだけは認めても良い。だが、化身族としてその欠点はどうなのか。このフィリードの里は、ゼタ様が人間の支配から脱するため、自力で切り拓いた安息の地。この里を守るには力が必要だ。いつかまた人間たちが我らに隷属を強いてきたとしても、それを跳ね除けられるだけの力。

 その力に一番近いところにいるのに、それに手を伸ばさない。カイがいらないというのなら、俺がもらいたいくらいなのに。


(同じヒトから、同じ教えを受けてきたというのに。どうしてこうまで、俺とカイの考えは対立する?)


 カイへの苛立ちが、純粋な疑問に変わったのは、十代後半の頃だった。たぶん大人になったのだろう。カイが天才肌なのは事実だし、張り合うだけ無駄だと分かってきたころだ。自分は自分で努力を重ねて、最近ではカイが本気を出さざるを得ないほど追いつめるくらいには、実力もついてきたように思う。


『お前は強くなりたいとは思わないのか』


 日課の鍛錬の途中でそう問いかけると、カイは物珍しいものを見つけたかのように俺を振り返ってきた。鍛錬は嫌だ面倒だとぬかすカイでも、日課だけは幼いころからきちんとこなす。でないとジーハさまの雷が落ちて、それは悲惨な目に遭うからだ。


『なに、急に?』

『気になっただけだ。質問に答えろ』

『特別強くなりたいとは思わないかな。俺はいまの実力で満足している』

『なぜだ!?』

『もう充分強いから』

『き、貴様ァ……! それでもフィリードの戦士か!』

『逆に聞くけど、なんでファビオは強くなりたいの?』


 答えようとして開いた口は、咄嗟に言葉を発しなかった。答えが分かりきっていることを聞かれて、呆気にとられてしまったのだろう。

 なぜ強くなりたいか? そんなこと、決まりきっている。


『俺は戦士だからだ』

『はあ。強くなって何をするの?』

『何、って……強くなることが、戦士の誉だろう。それ以外にない』

『誰にそんなこと言われたの? 強い戦士の何がすごいの? この里で一番強いって、そんなに格好いい? 百人単位の小さな里の「一番」が、そんなにすごい?』


 まくしたてられて、俺は混乱した。カイがこんなにも早口でしゃべるのも珍しいし、少し怒っているように聞こえたのだ。俺がどれだけ怒鳴ってもへらへらしていた男が、怒ることなど滅多にないのに。


『目的のない力はただの自己満足だよ、ファビオ。過ぎたる力は身を滅ぼすって言うでしょ』

『……ならお前は! お前は何か目的があるというのか!?』

『いや』

『なんなんださっきから!?』

『自分の身を守るだけの力と、食べるために獲物を狩る力があれば、それ以上はいらないって言ってるの。俺はそもそも、戦いなんて嫌いだ。強い力は、新しい戦いを引き寄せる』


 ああ、でも、とカイは穏やかに続ける。さっきまで黄金色をしていた瞳は、すっかり落ち着いた紫色に戻っている。


『誰かのために戦うことができたら、それは素敵だろうね。そんなことになったら、たぶん今のままの強さじゃ駄目なんだろうな』

『……人間のことか?』

『え?』

『お前、最近里を抜け出して人間の街へ降りているだろう。俺が知らないとでも思ったのか』


 山腹にあるニムの街には、多くの人間が暮らしている。随分前からカイがそこへ近づいているのは知っていたが、別に人間との接触を禁じられているわけでもなく、今までヘマをした様子もないことから、黙っていたのだ。本当は長への報告義務があるのかもしれないが、そんなことをする者など初めてだったから、なんとなく言えずにいた。


『……バレてたんなら仕方ない。ファビオ、俺はね、里を出ようと思ってる』

『なッ……!? そんなこと、長もジーハ様もお許しにはならないぞ!』

『許してもらわなくても良い。知りたいんだ、みんなが言うように人間は悪い奴らなのか。ここにいたんじゃ、何も分からない……自分の生きる道は、自分で決める』


 ぽやぽやして、根性のない男。そう決めつけていたカイの、こんなにも凛とした顔は見たことがなかったから、ファビオは何も言えなかった。


 そして間もなく、カイはゼタ様とジーハ様と盛大に口論を交わして、里を飛び出した。里の防衛班長にと推挙されたのを、カイが蹴ったことがきっかけだった。それまで里の守りの全権はゼタ様が握っていた。その役職と権利を譲渡されるということは、次期長に指名されたも同然。カイにとっては、里を飛び出す最後の機会だったのだ。カイが就くはずだった班長には俺が就任することになり、こうして俺は熱望していた次期指導者の地位を手に入れた。

 だが、だからと言ってカイに感謝する気も、逆に引き留める気も起きなかった。ただ、自分のやりたいことを確固として持って未知の世界へ飛び出すカイの姿が、ひどく羨ましく見えてしまったのだ。





★☆





 それから三十年。一度目のカイの帰郷はともかく、二度目の帰郷には里の者が総出で驚愕することになった。

 強くなりたい、と言ったのだ。あの鍛錬嫌いのカイが。強さに何の執着もなかった異端児のカイが。しかも長に膝をついてまで、その教えを乞う。妙なプライドが高かった、あのカイが。


 だが、俺だけは分かるのだ。ああ、カイは守りたい人間を見つけたのだと。誰かのために強くなりたいと思えるようになったのだと。


 カイは強かった。思えば三十年、大陸で様々なことを体験し、賞金首として追われていたのだ。実戦経験は里の誰よりも豊富になっていて、確実にカイは強くなっていた。

 何せ、カイはジーハ様を容易く打ち破ったのだ。いくらジーハ様が老齢になったとはいえ、ジーハ様は長に並ぶ猛者。そのジーハ様を、容赦なく吹き飛ばした。審判を任されていたというのに、判定を下すのをうっかり忘れてしまうほど、鮮やかな手並み。ジーハ様にたいした怪我がなかったことを見れば、カイが巧みに力を加減したのだということも分かる。激しく息を吐き出すジーハ様を見れば、ジーハ様が本気だったのも分かる。



 そして今――約束通り、カイはゼタ様との稽古に励んでいる。


 俺が立つすぐ傍の地面に、カイが叩きつけられた。銀一色で美しかったはずのカイの体毛は、土と血に汚れて、茶とも赤とも黒とも言えぬ色になっている。血はすべてカイが流したもの。ゼタ様には傷一つなく、余裕の立ち姿だ。

 カイとゼタ様の稽古が始まってから、俺は監視も含めてふたりの戦いを見守っている。それも今日で二日目だ。ゼタ様の圧倒的な強さを目の当たりにするとともに、俺はカイの強さも目の当たりにした。何度打ち倒されても、何度食らいつかれても、カイは立ち上がるのだ。そんな力が、この華奢な体躯のどこにあるのだろう。今まで、どんな強敵と相見えてきたのだろう。


 カイは跳ね起きると、再びゼタ様へと飛び掛かる。疲労は極限だろうに、力も速さも衰えている様子はない。渾身の一撃が、ゼタ様の顔を掠めた。初めて、ゼタ様から血が飛び散る。

 だが、次の瞬間にはゼタ様の強烈な当身がカイに繰り出されていた。傍の大木に打ち付けられたカイは、そのまま化身が解けて地面に倒れこんでしまう。限界だ。カイの化身が解ける、すなわち稽古の終了だ。それでも、休憩なしで朝から日暮れ近くまで戦い通しだったのだ。両者ともによく身が保つ。他の何が劣っていようと体力だけはカイより勝る、そう思っていたが、再考の余地が本気でありそうだ。


「くッ……は」


 腕を地面についてなんとか身体を起こそうとするも、カイは全身が震えている。闘気は衰えずとも、身体が先に悲鳴を上げているのだろう。鍛錬嫌いのカイと同一人物とは、やはり思えない。


 化身を解いたゼタ様は、頬にべったりと張り付いた血を手で拭った。二日目の鍛錬にして、初めてカイはゼタ様に傷を負わせた。それだけでも俺には偉業だと思う。


「よく私を捉えた。ここまで力があれば、申し分ない」


 ゼタ様は満足げに呟いて、地面に伏すカイを見下ろした。


「条件はふたつ、ジーハを破ること、私に攻撃を当てること。よく達成した。約束通り、明日お前に我らの秘技を教えてやろう」

「……今からでも、俺は、構わないけど?」

「ふ、意気は買うが、立つこともできぬ身でよく言う。今日は明日に備えて休め」

「……わかった」


 かすれた声でカイが答えると、ゼタ様は里へと戻っていった。残された俺は、動けないでいるカイを見るだけで、何もできない。満身創痍なカイを見ると、柄でもなく声をかけてやりたくなるのだが、気遣いは無用と言われてしまっては何もしようがない。荒れた呼吸を整えてやっと立ち上がり、心許ない足取りで歩いていくカイの後姿を、見つめるだけしかできない。


(……いや。できることなら、あるだろう)


 幼馴染で、ライバルだった相手がこれだけ必死になっているのだ。カイと自分は、切磋琢磨しあう仲。何もしないで見ているだけだなどと、情けない。

 だからこそ俺は、傷の手当てをするための道具を一式持って、カイとニキータ殿が使う空き家へと赴いた。地下に造られている住宅のため、階段を降りて薄暗い通路を進んでいくと、微かに話し声が聞こえた。カイほどではないが、俺も耳は利く。耳を澄ませてみると、主にニキータ殿の独り言のようだった。


「帰ったか、今日もまた酷い有様だな――って、おいおいおい、そのまま寝るなよ。せめて傷の手当と着替えをだな……って、聞いちゃいねぇ」


 事情はなんとなく察することができたので、そのまま扉をノックする。扉を開けたニキータ殿は俺の訪問に驚いたようだったが、すぐ室内に招き入れてくれた。そして、入ってすぐのところにあるベッドで泥のように眠るカイの姿を見つけたのである。

 怪我の手当ての手伝いを申し出ると、「ありがたい」と受け入れてもらえた。神都から持参したという医療品は、早くも底を尽きかけていたらしい。俺も戦士として応急処置は心得ている。ニキータ殿とふたりで、カイの手当てをすることになった。


「悪ぃな。道場破りみたく押し入った手前、薬を分けてくれとは頼めなくてな」

「いえ。要り様なものは私にお申し付けください。できる限り手配します」

「助かる。だが、いいのか? ゼタやジーハに指示されたわけじゃないだろ」

「……勝手なこととは分かっています。責は私が負いますので、お気になさらず」


 ニキータ殿の勇名は、このフィリードの里にまで届いている。詳しくは知らないが、かつてゼタ様やジーハ様がフローレンツから脱出するとき、手を貸していただいたというご恩があるそうだ。里を作る場所としてこの地を紹介してくれたのも、ニキータ殿だという噂もある。真実ならば里にとっての大恩人だ。

 なんだってそんなヒトがカイの師をやっているのか――俺にはさっぱり分からない。だがニキータ殿がカイを本気で案じているのは分かる。「寝ている男は重い」だの「なんで起きないんだ」だのと文句を垂れつつ、丁寧に薬をつけて包帯を巻いていくのだから。

 カイが必死なのも分かる。疲れることや面倒臭いことが大嫌いなカイが、へとへとになるまで何かに打ち込む姿など初めて見た。そしてそんなふたりの様子から、何か俺には想像もつかない、大きな脅威が目前まで近づいてきているのだろうと、そんな気がした。


「お前はこいつの友達なのか?」

「……は?」


 唐突にそのような質問が飛んできて、俺は呆気にとられてしまった。言葉の意味をようやく理解して、慌てて首を振る。


「ち、違います、友達だなんて。カイとはただ同い年で、同じように育てられただけで……!」

「似たようなもんじゃねぇか。それでこんなに世話を焼いてくれるわけだろ」

「こ、これは……」


 友達という関係だけは断固否定するが、幼馴染であることは確かであるし、それが理由で怪我の治療をしてやろうと思ったのも真実だけに、何とも言えない。だが何か反論しないと、「友達」という関係がニキータ殿の中に定着してしまいそうで、それだけは避けねばならない。


「こいつのことは気に食わないですが、本気だということだけは分かります。真剣に物事に向き合う者を、蔑ろにしてはいけない。そう思っています」

「物分かりのいい奴だ。フィリードの戦士にしちゃ珍しい」

「……光栄です」

「この先の戦いで、カイの力が要になると俺は思っていてね。悪いがあと少し、協力してやってくれ」


 ニキータ殿がなぜそんなことを言ったのか、俺はここで得心がいった。ニキータ殿は、俺たちフィリードがカイのことを里に留めようとするのではないかと危惧しているのだ。確かに去年のことを思えば、そう心配になるのも分かる。だが、もうゼタ様もジーハ様もそのようなことは考えていないだろうと、なんとなく思うのだ。でなければ裏切り者のカイに、秘伝の武技を教えようなどとお考えにはならないだろう。ゼタ様はきっと、自分を初めて頼ってきたカイを放っておけないのだ。それが「家族の情」なのだと思う。

 しかし、いよいよ俺は不思議だ。


「……なぜ、ニキータ殿はそこまでカイを心配されるのです? ニキータ殿にとってみれば、まだまだ青二才でしょうに」

「だが、不覚にもその青二才に借りができちまったのさ」


 言葉とは裏腹に、ニキータ殿の声音はどこか嬉しそうだった。ニキータ殿ほどの勇者に、カイがどのような貸しを作ったのかと僅かに首を捻ると、彼はにやりと笑って見せた。


「知りたいか?」

「え?」

「いま世界で何が起きているか、俺たちが何と戦っているのか。興味があるなら話してやろうか」


 自分からそれを聞いていいものかと悩んでいただけに、魅力的な提案だった。よって即座に頷いたのだが、それを思いもよらぬ声によって阻まれてしまう。いったいいつ目を覚ましていたのか、カイがぽつりと口を開いたのだ。


「駄目だよ、ニキータ」

「なんだ、聞いていたのか」

「フィリードの里は平和だ。それは外界との接触を徹底的に断っているから成り立っている。これ以上巻き込んで、里のみんなを危険に晒したくないんだよ」


 生まれ育った故郷だから、それくらいの情はある。そう告げるカイに、ニキータ殿は軽く肩をすくめるだけだ。だが、俺には聞き捨てならない台詞だ。思わず、カイの胸ぐらを引っ掴む。相手が怪我人なのは分かっているが、俺は短気な性質なのだ。カイも慣れているので、痛みに多少眉をしかめるくらいで、驚いている様子はない。


「うるさいぞ、カイ。女々しい奴め」

「……ファビオ」

「俺たちはお前に守られるような弱い存在ではない。生まれながらの戦士だ。少し下界で経験を積んだからと言って調子に乗るな」


 経験は俺のほうが少ないかもしれない。所詮俺はこの小さな里の防衛班長。実戦に限りなく近い訓練をしているとはいっても、やはりそれは実戦ではない。けれども、俺は一日として鍛錬をしなかった日はなかった。カイの足を引っ張るような無様は、決して見せない自信がある。


「お前だけで何ができる。何が起こっているのかを俺は知らないが、知ればできることもある。だから一から十まですべて吐き出せ。強敵が相手ならば、頭数を増やして損はないだろう」

「……」

「巻き込みたくないとか言っているが、もう充分巻き込まれている。ゼタ様に頭を下げてまで成し遂げたいことがあるのなら、なんでも利用して見せろ」

「……驚いたなぁ。協調性皆無だったあのファビオが」

「お前にだけは言われたくない!」

「はは。ありがとう、ファビオ」

「礼を言うな気色悪い」

「ねえ、なんで俺が礼を言うとみんなそう言うの? 酷くない?」

「うるさい。日ごろの行いのせいだろう」


 まったくさっきから失礼な口だ。それでいて、このように軽口を叩き合っていることもまた、俺には信じがたいことだった。本来ならばカイは掟破りの裏切り者、罰を与えてしかるべきだというのに、俺は一度目は見逃し、今回は協力しようと話を持ち掛けている。思えばカイと真っ向から意見をぶつけあったことなど数えるほどしかない。カイはいつだって、自分のことは話さないのだ。確固とした信念があるくせにそれを告げず、自分と相いれない者とは決して慣れ合おうとしない。そして俺はそんなカイを、変わり者の異端児と決めつけ、遠巻きにしていた。それがいけなかったのだろう。話してみれば、意思の疎通ができる。俺たちは大人になったのだ。俺はカイの言葉を素直に受け止めることができるようになって、カイは他人を辛抱強く説得することができるようになった、ということだろう。


 世界の危機は里の危機と言ってしまえばそれだけだ。けれどカイたちは、そんな大層なもののために戦っているわけではないのだと思う。大切な誰かひとりのために、彼らは力を使う。ならば俺も、兄弟弟子の真面目さに免じて、力を貸そう。カイと、妹同然のチェリンと、彼らが大事に思う人間たちのために。

 これから俺には、ゼタ様とジーハ様を口説き落とすという試練が待っている。あのおふたりに育ててもらった身で、里の在り方について意見するなど増上慢にも程があるが、成さねばならない。是が非でも里は中立を貫くと言うのなら、己だけでも――いや、必ずや長を説得してみせよう。カイの名を出されるとゼタ様の心が揺らぐということは、あまり認めたくなかったが確認済みだ。まずは、ジーハ様を味方につけることが第一だ。

 これが俺の決意と誠意。かつてカイと共に里の二強と称され、次期長に任じられた者として、恥じることのない戦いをしなければいけない。

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