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氷撃のカイ・フィリード  作者: 狼花
8章 【嵐の前夜】
186/202

◆強さの代償(1)

 暗鬼を食らいつくした竜巻が消える。世界は驚くほどの静寂に満ちていた。数千の暗鬼の大軍が一瞬で消滅し、戦っていた兵士たちも呆気にとられて硬直している。あの竜巻は敵もろとも味方の戦意までも吹き飛ばしてしまったようだった。

 戦場の上空を旋回するエルケの背の上で、カイは呆然と地上を見下ろす。言葉がないのはアーヴィンも同じようで、彼がごくりと生唾を飲みこんだ音が、いやに大きくカイの耳に聞こえた。


 ――止められなかった。


 二十年前の戦争に参加していた、とは知っていた。だが、カヅキがこの地にどれほどの想いを抱いているのかなど、カイは知らなかった。クレイザとニキータにとっての因縁の地だとしか思っていなくて、その横で黙っていたカヅキの思惑など分からなかった。いや、悟らせないようにしていたのだろう。その時になって、他人に阻止されないように。

 事前に知っていたとして、カイがカヅキの考えを変えられたとも思えない。何せ主君であるカーシェルの意思に背いてまで貫いた特攻計画だ。きっとパドラナ盆地に向かうと決まった時点で、自分がなんとかしなければならないと考えていたのだろう。そんな鋼の意思を、彼のことをよく知りもしないカイが折れるとは思えなかった。


(こんなの、勝手すぎる)


 ひとりで勝手をされて、カイのことを利用されて、都合のいいことばかり言われて。カヅキに対する怒りもあるが、それ以上に悔しい。

 あと少しで、カヅキの腕を掴めた。届かなかったばかりに、カヅキに押し戻されてしまった。――あんなに傍にいたのに、見殺しにしたも同然ではないか。こんな惨めな気持ちになったのは、初めてだ。


「……【氷撃】、あそこ!」


 アーヴィンが不意に、そう言って地上を指差した。砂塵が立ち込めてはっきりとは見えないが、地上に人影が見える。あれは――。


「獣軍将だ! 降りるぞ」


 どうやらこの少年は、獣並みに目が利くようだ。カイはまだその正体を認識できていないというのに、エルケは急降下する。そして地上に近づいて、ようやくカイにも見えたのだ。今の今までカイもいたその場所に倒れ伏すカヅキの姿が。


 エルケの背から飛び降りて、カイはカヅキの元へ駆け寄った。あれだけの術の中心地にいて、消滅せずに済んだのか。カイはまずそこが驚きだった。風の神に気に入られた者の特権だろうか――さすがに化身は解けていたが、傷一つない。

 カヅキの身体を抱え起こす。身体は、まだ温かい。この体温は、あとどれくらい保てるのだろうか。触れているところから急激に冷たくなっていくような気がして、カイは目を閉じる。死人は眠っているような穏やかな顔をしているとはよく聞くが、その様をまさか自分が見ることになるとは。


「おい、カイ! カヅキはどうした……!?」


 ばたばたと駆け寄ってきたのはニキータ、そしてアパリシオを倒したアスールたちだ。みな不安そうにこちらを見ている。カイはひとつ息を吐き出した。


「……見ての通りだよ」

「見ての通りってなぁ……」


 ニキータはカイの横にしゃがみ、カヅキの首筋に右手を、口元に左手を添えた。そして少し黙ってから、『よし』と一言呟いて立ち上がる。


「魔力の枯渇で気絶しているだけだな。おいエルケ、カヅキを運ぶの、手伝ってくれ」

「――は?」


 素っ頓狂な声を思わずあげて、カイはニキータを見上げる。そんなカイの反応が予想外だったらしいニキータもまた、不思議そうにカイを見下ろし――そして、何かに思い至ったようににやりと笑う。


「さてはカイ坊、こいつがもう死んだと思ってたんだな?」

「だ、だって……! あんなトンデモ威力の術ぶっ放したら、無事じゃ済まないでしょ普通……!」

「確かに命と引き換えレベルの一撃だったがな。大方の事情はなんとなく分かるが、思い込みより先に生存確認しろよ、坊や?」


 坊やという言葉を強調して諭されたが、カイは怒る気力もなく脱力してしまった。苦笑しながらカイの肩を叩いてくれたのはアスールで、ようやくカイも落ち着きを取り戻す。ニキータがカヅキを担いで連れていくのを見送って、カイは立ち上がった。


「大丈夫か?」

「……ああ、ありがとう、アスール。ごめんね、取り乱して」

「ふふ、えらく素直だな。さ、今日はとにかく休もう。さすがに疲れた」


 見れば、アスールの腕や頬にはいくつもの傷があり、衣服は破れ、髪も乱れていた。化身族との戦いに慣れたアスールでさえこの有様なのだ、【獄炎将軍】は話通りの猛者だったようだ。

 一日戦い詰めで、最後の最後にこの激戦だ。肉体的にも精神的にもキツいものがある。本当は今すぐにでも本陣へ向けて来た道を戻りたいところだが、冗談ではなく疲労で死んでしまいそうだ。今日はこの近くで夜を越し、明日の朝に行軍を再開するしかないだろう。





★☆





 極限まで疲労しきったらしいカヅキは、一夜明けても目を覚ますことはなかった。だが、生きていること自体が奇跡のようなものなのだから、この程度で焦っても仕方がない。

 これはカイの推測にすぎないが、風属性最終奥義“志那都比古(シナツヒコ)”は、『命と引き換えに放つ魔術』ではなく、正確には『膨大な魔力を必要とする強力な術』だったのではないだろうか。魔力の枯渇は死を意味する。常人はその消費に耐えうるだけの魔力を持っていないのだろう。だから結果的に発動した術者は死んでしまうのだ。だがカヅキはカイにも匹敵する魔力を有している。最終奥義の発動に必要な魔力が、カヅキの魔力の全体量より小さかった――ただそれだけのことだったのかもしれない。


 ともかくも、巣があった場所から少し離れた場所で野営していたカイたちは、夜明けとともに本陣へと戻り始めた。念のためにと一晩巣の様子を確認していたが、おかしなことは何も起きなかった。この盆地で最も低地にあり、最も戦火の爪痕が大きな場所――カヅキが言っていた、レニーの街があった場所なのだろうと、カイはなんとなく察している。

 気を失ったままのカヅキはニキータが背に負って飛び、全軍はカイが突破してきた中央の道を進む。途中で暗鬼に遭遇することも勿論なく、彼らが本陣へ帰還したのはその日の午後のことであった。


「よく戻った。みな無事で何よりだ」


 出迎えたカーシェルの言葉はそれだったが、彼の顔は強張っていた。すぐ横に立つイリーネとクレイザも、ニキータが背負っているカヅキを見て青褪めている。――カヅキの命の危機を知らせるような何かが、こちらでも起こったのだろうか。契約関係を思えば、それも不思議なことではなかった。こんな調子でカーシェルたちが一晩を過ごしていたと分かっていたら、伝令でも飛ばせばよかった――と、カイは今更に後悔する。もっとも、エルケも鳥族の兵士もみな疲弊しきっていて、とても本陣まで飛ぶ余力のある者はいなかったのだが。


「大丈夫だよ、カーシェル。カヅキは疲労で眠っているだけだ。だから心配しないで」


 カイがそう諭すと、カーシェルは大きく目を見開き、それから息を吐き出した。カーシェルの肩が若干震えていたということを、カイは見逃さなかった。


「そう……か、良かった……ああ、カヅキは天幕で休ませてやってくれ。他の者たちも武装を解いて休息に入れ。カイ、アスール、ニキータ殿、報告を聞きたい。頼めるだろうか」


 安堵して調子を取り戻したカーシェルが、てきぱきと指示を出しはじめる。天幕に運ばれるカヅキには、兄の意を汲んだイリーネが付き添った。カイも安心して、カーシェルに戦果の報告をすることができたのだった。





「……では、完全にこの地の暗鬼の巣は消滅したと考えてよいのだな」

「ああ。術の要だった媒体はここにあるし、暗鬼は残らずカヅキが消し飛ばした。各地の暗鬼被害も収まるだろうよ」


 ニキータの快活な言葉に、カーシェルはほっとして息を吐く。疲れの滲む横顔だ。同じことをアスールも思ったのだろう、心配そうに身を乗り出す。


「平気か、カーシェル。暗鬼の襲撃があって、ろくに休めていないのではないか」

「いや、昨夜はしっかり休めた。夕方ごろに襲撃がぱったり途絶えたのだが、カヅキが巣を潰したからだったのだな」


 カヅキが最終奥義を放ったのと時を同じくして、カーシェルの持つ契約具が割れたのだという。契約具が傷つけば化身族も傷つくということはみな知っているが、その逆も存在するというのは初めて知った。カヅキは本当に、黄泉の一歩手前まで行って引き返してきたらしい。幸運だったのか、カヅキ自身の執念だったのかは分からないが、よく無事だったと今になって恐ろしくなってくる。

 カーシェルは休んだと言うが、本当はとても休むどころではなかったはずだ。カヅキの生死が不明ということと、もしかしたらいつまた暗鬼が襲ってくるか知れないという不安で、きっと一睡もできていない。


「……カヅキがひとりで巣を潰そうとしていたこと、カーシェルは知ってた……わけないよね」

「知らなかった。事前に知っていれば、やめさせていたよ」


 カヅキはカーシェルに対しても、昔の話はしなかったのだという。なぜ、いつから獣軍に所属しているのか、二十年前の戦争ではどのように戦ったのか、カヅキは語らない。ただカーシェルの傍に付き従い、彼の命を黙々とこなしてきたのだ。


「だが、小を殺し大を生かす……これが有効なときもある。カヅキが言っていたように、あのまま戦っていたら全員が力尽きていたかもしれない。俺がその場にいて、カヅキがそのように提案して来たら……俺はその提案を容れていただろうな」


 カヅキもカーシェルも、将として多くの兵の命を預かる立場だ。ひとりでも多く生きて帰らせるのが将の務め。味方の全滅を座して待つしかないのであれば、有能な将ひとりの命を捨てさせる。絶望的な状況で、カーシェルもカヅキも最後の手段を取らざるを得なかったのだ。

 ニキータは腕を組んだまま肩をすくめた。


「確かにカヅキは、けじめ云々だけじゃなくて、冷静に戦況を見て最善の選択をしたんだろうな。……だが、まあ後味は悪いわな」

「カヅキの決断がもう少し遅ければ、貴方が代わりを務めていた。違いますか」


 鋭くカーシェルに問いかけられたニキータは、一瞬だけ大きく目を見張った。だがすぐに不敵な笑みを浮かべ、カーシェルを見返す。


「そう買い被ってくれるなよ。生憎だが、自分を犠牲にしてでも誰かを救う、なんて大層な思考は持ち合わせてねぇんだ」


 カーシェルもにっこりと笑って、それ以上は何も言わなかった。口に出したのは別のことだ。


「なんにせよ被害も少なく、みな帰還してきてくれた。俺はそれだけで十分だ。お力添え、感謝する」


 その言葉を最後に、軍議は解散となった。仲間たちが天幕から出て各々休憩を取りに行くなか、カイは陣の中を見渡した。しかし探す人物の姿が見えず、天幕の前で髪の毛を掻きまわす。カイの左手には、布で包んだ大剣が抱えられていた。


「クレイザなら、イリーネと一緒にカヅキに付き添っているぜ」


 遅れて天幕から出てきたニキータが、カイの思惑を見透かしたようにそう教えてくれる。きっといつものように、不敵に笑って腕でも組んでいるのだろう――そう想像して振り返ったカイの考えは、見事に外れた。ニキータは真顔で、カイが持つ古びた大剣を見つめていたのだ。


「そんなに錆びついちまって、見る影もねぇな」

「あんたもこの剣、知ってるんだね」

「初代ハーヴェル公の愛剣さ。宝剣として、百六十年間ずっと代々の公爵が受け継いできた」


 ああ、やっぱり、とカイは口の中で呟く。カヅキがカイを吹き飛ばす寸前に発した言葉で、なんとなく察しはついていた。ハーヴェル公爵は並みの化身族の男よりよほど血の気の多い人物だったという。そんな男が最期まで握って離さなかった伝家の宝剣。歴代ハーヴェル公爵の血と汗が滲みこんでいることも考えれば、あの量の暗鬼を生みだす媒介になったというのは納得だ。


「この二十年あちこち探し回ったが、結局見つからずじまいだった。だからもう諦めていたんだが、まさかこんな形で見つかるとはな。【獅子帝】が後生大事に持っていてくれたんだとしたら、きっちり礼をせにゃならんなぁ」


 物言いは静かだったが、逆にそれがニキータの不快感を表しているようだった。ニキータが主君と仰いだ人間の持ち物が悪事に利用されたとあっては、心穏やかではいられない。カイですらその程度は安易に想像できる。忠心深いニキータは、きっと腸が煮えくり返っているはずだ。

 ニキータは視線を大剣からカイへと移し、真顔そのままこんなことを口にした。


「あの混乱の中、よく持ち帰ってきてくれた。ありがとよ、カイ」

「……うわ。俺に感謝とか、気持ち悪っ」

「おいこら、引いてるんじゃねぇよ。ったく」


 それ以上茶化すと叱られそうだったので、カイは早々に退散した。もちろんニキータの感謝の言葉が本心であるということは、カイも分かっている。それでもその感謝を真っ向から受け止めようとするには、照れくさくて仕方がないのだ。

 いつも飄々としていたニキータが思いつめた表情をしたり、愚痴を吐き出したり、妙に素直だったり。ヘルカイヤのこととなると心を動かすこの男は、命が消えるその瞬間まで忠臣のままなのだろうなと、カイはぼんやりと考えた。





 カヅキが休んでいるという救護用のテントの入り口には、護衛の獣兵がついていた。彼はカイが何か言うより先に意図を汲んでくれたようで、天幕内にいるイリーネたちにカイの来訪を告げてくれた。見覚えがあるその獣兵は、同じ中央部隊としてこの二日間行動を共にした者だ。カヅキの指導の賜物か、それともカイ個人の強さが証明されたのか、ここの化身族たちはみな話が早くて助かる。

 天幕内の床には何枚もの毛布が重ねて敷き詰められ、カヅキはその上に寝かされていた。傍に付き添っていたイリーネとクレイザが、突然姿を見せたカイに驚いて腰を浮かせる。カイはそれを制して、二人の傍に胡坐をかいて座り込んだ。


「どう、カヅキの様子は」

「相変わらずよく眠ったままです。カイは、休まなくて大丈夫ですか? 疲れた顔をしています」

「用が済んだら休むよ。……クレイザ」

「……はい?」


 呼びかけると、クレイザは心持ち背筋を伸ばした。カイはそんな彼の前に、剣を差し出す。巻いていた布を払ってその全貌が明らかになると、クレイザは大きく目を見張った。これだけ錆びついていても、やはりクレイザには分かるのだ。建国のその時から公爵家にあって、大切にされてきた宝剣そのものだと。

 震える指が、大剣の刃に伸びる。錆びて切れ味を失った刃は、もはや指を切ることはない。


「こ、れは……」

「ハーヴェル公爵の宝剣、なんだよね」

「ええ……僕が、受け取っていいのですか。その……これは、暗鬼を生みだした道具でしょう?」


 聡いクレイザは、暗鬼生成の媒介に使われたことも理解していたようだ。カイを見やる不安げなその若者に、カイは頷く。


「ざっと調べたけど、術が施されているような気配はもうないよ。カーシェルも、君に返すのが筋だと言っている。受け取ってくれ」


 酷い錆ではあるが、カーシェルもアスールも良い刀鍛冶を知っている。日々の手入れも、きっとふたりが丁寧に教えてくれるだろう。一族の宝であり、クレイザにとっては父の形見――その剣がクレイザの手の中にあることを、ニキータも望んでいる。

 クレイザは黙って、大剣を軽く持ち上げた。剣士でもないクレイザが振るうには、両手でも重すぎる武器だ。大剣を抱え込むクレイザが小さく「父上」と呟いた声を、カイは聞き逃さなかった。


 しばらく物思いに耽っていたクレイザが落ち着きを取り戻し、はにかみながらカイに感謝を述べた丁度その時。真横で小さな呻き声が聞こえた。イリーネとクレイザにも聞こえたらしい、はっとして寝かされているカヅキのほうを見やる。

 カヅキは薄く目を開き、ぼうっと天幕の天井を見上げていた。まだ半分寝ているのではないかと思うほど虚ろな目だ。次第にその瞳の焦点が合い、横にカイたちがいることに気付く。少し首を動かすと、ばっちりとカイと目が合った。


「……カイ」


 名が呼ばれる。良かった、意識もはっきりしているようだ――そう安堵の息を吐き出しそうになった。

 吐き出すより前に、気付いてしまった。ひゅっと息を呑む。


(――!? なんで……)


 イリーネもクレイザも、カヅキも気づいていない。ただカイだけが感じているのだ。

 カヅキの異変――彼が喪ってしまったものを、ありありと。


「カヅキさん! 目が覚めたんですね」

「良かった。カーシェルさんを呼んできましょう」

「イリーネ姫、ハーヴェル公も……そうか、俺は生き延びることができたのか」


 ああ、そうか。そうなのか。


(甘かった。最終奥義は、そんな甘っちょろいものじゃないんだ)


 命と引き換えの術だと思い込んだ。だがカヅキは生き延びた。だから喜んでしまった。

 ただ膨大な魔力が必要だっただけで、魔力が豊富だったカヅキは紙一重で助かったのだと。


 言っていたじゃないか、カーシェルが。カヅキが最終奥義を使ったとき、彼の契約具が割れたと。

 それがすべての答えだったのに、見落としていたか。


(これが本当の、代償か)



 カイが青褪めていることに気付いたのはイリーネだ。丸一日近く目を覚まさなかったカヅキがようやく無事な声を聞かせてくれたのに、カイは喜ぶどころか硬直して血の気を失っているのだ。イリーネはカイの肩に触れる。


「カイ……? どうしましたか?」


 その声で、カイは顔をあげる。一度イリーネを見て、それから視線をカヅキに転じる。毛布の上に上体を起こしたカヅキは、静かな表情でこちらを見返してきていた。

 それはすべてを承知しているかのような、凪いだ目だ。


 これだけ間近にいるのに、カイにはもう分からない。昨日までははっきりと知覚できていた。カヅキが意識を失っている間は、気が断たれて知覚できないのも当然だった。だが、こうしてはっきり意識を取り戻したヒトを目の前にしても知覚できないというのは、異常なことだ。

 化身族は、人間族とは異なる感覚を備えている。人間か化身族かの区別は一目でつき、経験に富んだ者は種差まで読み取ることができる。


 だが、このカヅキという男。


 この男は、果たしてトライブ・【ウルフ()】なのか、【ライオン(獅子)】なのか。

 獣族なのか、鳥族なのか。

 いや、化身族であるのかすら――カイには感じ取ることができない。


 彼はいま、人間と同じ匂いがした。



 カヅキは最終奥義の行使と引き換えに、化身という動作を失った。

 化身族としての能力のすべてを、失っていたのだ。

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