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氷撃のカイ・フィリード  作者: 狼花
7章 【女神微笑む地 リーゼロッテ】
165/202

◆刻まれし時(9)

「カイ! みんな……っ!」


 呼びかけられた時には、既に味方は攻撃に移っていた。さすがのメイナードも、手練れが五人も増えて余裕綽々とはいかなくなったようだ。カヅキからも間合いを取り、その場を飛び退く。


 最初に飛び掛かったのは、俊足のチェリン。繰り出された黒兎の右フックは剣で防がれたが、チェリンは怯まない。ぐっと力を込めると、いとも簡単にメイナードの身体が後方へと押されていく。メイナードがどれだけ足を踏ん張っても、重力を操るチェリンとの力比べに勝てるはずがない。

 ついに押し切られたメイナードだったが、無様に吹き飛んだりはしなかった。半身を捻ってチェリンの攻撃を捌き、距離を取る。


 メイナードが反撃を仕掛ける前に、天井近くまで飛び上がっていたニキータが、鉤爪を振るいながら急降下してきた。鉤爪を払いのけても、次に襲ってくるのはニキータの鋭い嘴。剣を掴み、束の間動きを封じたその隙に、横からヒューティアが飛び掛かる。大きく開かれた口には鋭い牙が並び、噛みつかれたら骨まで真っ二つだ。


 しかし、ヒューティアの攻撃は成功しなかった。ほぼ力任せにメイナードが剣を振ると、ニキータともあろうものが剣を離してしまったのだ。紙一重の差で、ヒューティアの牙はメイナードを捉え損ねた。大振りに振るわれたメイナードの剣を避けるため、ニキータは上昇し、ヒューティアも後方へ跳躍する。


 怯まずメイナードの剣の間合いに飛び込んだのはアスールだ。メイナードの剣に自らの剣を叩きつけ、押し込む。激しい鍔迫り合いを繰り広げながら、ふっとアスールは笑みを浮かべた。


「この日を待ちわびたぞ、メイナード……死ぬほどな……!」


 上空から“黒羽の矢(ヴォルト・アロー)”が撃ち込まれる。寸前、それを悟ったメイナードがアスールを弾き飛ばした。雷撃を帯びた太い矢は、メイナードとアスールの間に墜ち、絨毯を焼け焦がす。

 あわや黒焦げになるところだったメイナードは、軽く肩をすくめた。カヅキと相対していたときほどの余裕はないが、それでもこれだけの猛者に囲まれて一撃も浴びなかったことには驚かざるを得ない。軟弱な王子で、光魔術に長けただけ。そう思い込むのは間違いだったようだ。


「こんな時に笑いながら剣を振るなんてね、アスール。騎士王子よりも暗殺者のほうが向いているよ」

「笑いながらヒトを殺す貴様に言われたくはないな」

「そうか、僕らは同類というわけだ。嬉しいね」


 それに対するアスールの答えは、無言の斬撃だった。あっさりとそれを躱して、メイナードは微笑む。


 その時には、カイはイリーネたちの元へ辿り着いていた。急に腰が抜けたように座り込むイリーネを支え、カヅキやクレイザの様子も確認する。


「良かった、三人とも生きてるね」

「はい……!」


 イリーネは今にも泣き出しそうだ。恐ろしかっただろう。実の兄メイナードの狂気と対して、圧倒的な力を目にして――ここまで無事でいたのが、カイはいっそ驚きだ。


「でも、お兄様が……! 契約具も、取られてしまって……!」


 肩を支えるカイの腕に、イリーネはしがみついた。


「ごめんなさい、カイ……! 私……っ」

「分かってるよ、大丈夫。大丈夫だから」


 イリーネの頭を撫でる。戦う力のないイリーネが、カイのために必死になってくれた。肝が冷えるほど心配したが、同時に少し嬉しくもある。嬉しがっている場合ではないのだが、真っ先にそう思ってしまうのは惚れた弱みか。

 玉座にはカーシェルが座っている。ああ、彼も大人になったのだ。十歳の少年だったカーシェルは、二十六歳の姿でそこにいた。それでも懐かしさでいっぱいだ。彼は確かにカーシェルだった。


「まずはカーシェルを助け出そう。何か術にかかっているのなら、メイナードを吹っ飛ばせば解けるはず……それはアスールたちに任せる」


 イリーネは頷いて、立ち上がった。柱に隠れながら移動し、玉座へと近づく。後ろはカヅキが警戒してくれている。それに、メイナードもカイらに構っている余裕はない。一瞬でも目を逸らせば、アスールやニキータがその隙を見逃すはずがないのだ。じわじわとメイナードは、戦いながら玉座から引き離されている。


「それにしても……メイナードのあの強さは異常だ。イル=ジナやシャ=ディグでも、あそこまでじゃなかったよ」


 カイはどうも腑に落ちない。剣技、身のこなし、力の強さ。どれも一級品で、アスールを以ってしても容易い相手ではない。加えて魔術まで使うから、数人がかりでも倒せないのだ。


「メイナード王子は“夢幻(ヴィジョン)”を使っているんです」


 クレイザがそう告げる。“夢幻(ヴィジョン)”――それを聞いて、カイはもう一度メイナードの戦う姿を見る。

 “夢幻(ヴィジョン)”はヒトを惑わす幻術だ。写し身を創りだしたり、相手のトラウマを想起させたり、見たいと望むものを見せたりする。


「なるほどね。メイナードは自分にも術をかけているってことか」

「ど、どういうことです……?」


 イリーネが小声で尋ねる。


「『自分は剣の達人だ』と、自分に思い込ませているんだ。そう錯覚している間は、達人の動きができる。まるきりの素人でもね」


 でなければあの動きはできない。身体が勝手に動くと分かっているから、構えもせずに立っていられるのだ。それはどれひとつとしてメイナードの実力ではない。

 自分にかけた暗示を、他者が解くとすれば――魔術を維持できなくなるまで疲労させるしかないだろう。


 玉座に座るカーシェルを、カイとカヅキがふたりで抱えあげ、柱の陰に隠れる。傷は背中の大きな一太刀と、肩や腹に見られる無数の切り傷、そして火傷だ。おそらく光の魔術で焼いて責め苦を与えたのだろう。いちいちやることが陰湿だ。

 けれども出血自体は多くない。離宮のカーシェルの部屋にあった血痕は、やはり誰か別人のものだろう。メイナードの性格的に、化身族である可能性が高そうだ。


 イリーネがすぐさま傷の治療を始める。カイは彼女を守りつつ、戦いの様子を窺った。……あまり進展はない。ずっと膠着状態だ。一対四の戦いをしておいてメイナードに傷一つ与えられないのだから、相当に隙が無いのだろう。誰を参考に『剣の達人』像を創りだしたのかは知らないが、メイナードの暗示は完璧だった。


「お兄様……カーシェルお兄様……!」


 祈るようにして、イリーネは治癒を続ける。カーシェルは眠っているようにしか見えないが、カイの目から見ても痩せ衰えているし、傷だらけだ。慕う兄の弱った姿を見ては、イリーネも辛いだろう。


 ここに来る前、事前にカイはアスールらと話し合っていた。メイナードの相手はアスールたちがするから、カイはイリーネとクレイザを守れ。化身もできず、契約具も奪われた状況では、いつカイが狙い撃ちされるか分からない。できればカーシェルを連れて、イリーネたちと共に戦場を離脱しろ――戦力外だと言われたようなものだが、至極真っ当だ。最優先すべきはイリーネらの身の安全で、その安全を確保するのはカイの役目。ならばそれに徹底しようと思っていたのだが。


(このまま戦いが長引けば、先に倒れるのはこっちだ。そうと分かっていながら、俺は退くのか?)


 いや、そんなことはできない。イリーネが悲しむだろうし、カイ自身も納得できない。


 カーシェルはひとまずメイナードの手を離れた。けれど、術を解かなければ意味がない。イリーネにとってもリーゼロッテという国にとっても、世界にとっても――カーシェルという男は必要不可欠なのだ。

 だから、契約具を砕かれたとしても。


「カヅキ、三人を頼む。やばくなったら、逃げて」


 化身ができなくたって、カイは戦える。今戦わないで、いつ戦うと言うのだ。





「しかし、予想外だったな。フロンツェならもう少し時間を稼いでくれると思っていたんだけど……」


 無造作に振られた剣から、閃光がほとばしる。着弾地点に立っていたチェリンがそれを横っ飛びに回避する。


「案外さっさとやられたな。ケモノは人間の姿のままじゃ、ろくに戦えないんだね」


 後ろから飛び掛かってきたヒューティアにも即座に対応し、虎の巨体が弾き飛ばされる。


「貴様のような輩に契約具を握られて、さぞ【獅子帝】も苦労しただろうな」


 アスールが飛び込む隙を窺いながら、ゆっくりと弧を描くように移動する。それとは逆方向に移動しながら、メイナードはくすりと笑う。


「フロンツェが弱いから、僕に契約具を取りあげられるような羽目になったんだ。働いてもらうのは当然だろう? 何が目的で近づいてきたのかは知らないけれど、役には立ってくれたよ」

「……【獅子帝】が何者かを知らないのか」

「別に興味もなかったしね」


 初めてメイナードが攻勢に出た。アスールの剣とメイナードの剣が激しい火花を散らす。


「それよりアスール、君に教えてもらいたいなぁ。どこをどう斬れば、綺麗にケモノを殺せるんだい? 僕も効率よくケモノを殺したいから、ぜひご教授願いたいんだけど」

「ふざけたことを……!」

「僕は真面目だよ。君はこれまでたくさんのケモノを殺してきた……僕と何が違うんだい?」


 斬撃の応酬の最中、メイナードの左手がアスールの眼前にかざされた。咄嗟に飛びのいたアスールの、その青い瞳の中に過去の風景がよぎる。



 アスールを庇って死んだ臣下。傷を負ってふらふらになりながらも、アスールを守ろうと手を広げるジョルジュの背中。

 大きな口を開けて、飛び掛かってくる巨大な獅子。震えながらそれを見上げることしかできない、幼いころの自分――。



「……う、……ッ」


 よろめいたアスールの瞳は過去の映像を追いかけていて、この場所を見ていない。


「そう。君が命を狙われたのは、それが最初か」


 微笑みながら、メイナードが無防備なアスールの間合いに飛び込んだ。

 アスールが己を取り戻したときには、メイナードが脳天を叩き割る一撃を振り下ろすところだった。剣で受け止めようとしたが、間に合わない――。


 横合いから、チェリンがアスールに渾身の体当たりをかました。突き飛ばされたアスールには目もくれず、チェリンは“重力制御(グラビティ)”を発動させる。

 メイナードの剣は空中で静止した。振り下ろしたくても、強い力が下から剣を掴んで離さないのだ。そのままチェリンはメイナードを押し切った。


 加重から解放され、メイナードはチェリンを見やる。いくら剣の達人を模していても、地に足がついている以上は重力に逆らえない。チェリンの魔術だけが、メイナードに対抗する術に思えた。


「さっきから鬱陶しいな。でも、経験不足が全身から滲み出ているよ?」


 そう言った途端、メイナードは消えた。――ようにチェリンには見えた。


「……! ひゃあッ!?」


 そして次の瞬間には、チェリンは柱に叩きつけられていたのである。衝撃で化身が解け、チェリンはそのまま床に倒れ込む。背をしたたかに打って、否応なしに咳き込んでしまう。


「く……」

「チェリン!」


 アスールが叫ぶが、メイナードの剣が唸りを生じて襲い掛かったため、傍に駆け寄ることもできない。


 ヒューティアの身体がカッと光を放った。ヒューティアの意思ひとつで、味方には優しく暖かな光に、敵には身を焼くほどの熱を与える奥義、“燦然たる空(アイテール)”だ。

 だが光が晴れた時、メイナードはヒューティアの目の前にいた。身を焼かれるとまでは行かなくとも、目つぶしくらいはできると思っていた。


 ――いま目つぶしをされたのは、ヒューティアのほう。


「効かないよ」


 横薙ぎの一撃が、ヒューティアの肩口を深く抉った。鮮血を迸らせながら、ヒューティアはその場に横転する。だが化身は解けない。戦意を失っていないのだ。

 立ち上がろうともがくヒューティアの傷口に、冷酷にもメイナードは左手に掴んだ剣の鞘で触れた。ヒューティアの口から、悲鳴のような咆哮が飛び出す。


「君もアスールと契約していたのか。災難だったね、心の弱い主を選んで」


 言いながら、メイナードは右腕を持ち上げた。光の槍が天井へ向けて放たれる。ぶつかって相殺されたのは、ニキータの“黒羽の矢(ヴォルト・アロー)”だ。

 続けて二射、三射とニキータが矢を放つ。メイナードは踊るように雷撃の矢を躱し、時に剣で弾き飛ばす。


「矢の精度が落ちたんじゃないのかい、【黒翼王】。歳だから衰えてきたのかな」


 年齢を引き合いに出されることをニキータが嫌っていると、メイナードは知っていたわけではあるまい。事実を述べただけだろう。だがニキータは大いにむかついた。無言で急降下し、メイナードの剣を叩き折らんと鉤爪を振るう。その大きな黒い翼でメイナードの視界を遮り、剣が届かないほどの高みに逃げる。メイナードの斬撃も光の槍もすべて避け切った。歴戦の空の王者は、たかだか二十五年ほどしか生きていない子どもに遅れなど取らないのだ。


 ニキータの鉤爪が再び振るわれる。肉を抉るはずだったそれは、しかしメイナードの身体をすり抜けた。なんの手応えもない。またしても“映写(プロジェクション)”による写し身だ。術の発動が感知できないため、ニキータでも対応できない。

 写し身から一歩ほど離れた場所にいたメイナードが、光の槍を投じた。空へ逃れようとして、左翼の下部を槍に貫かれる。だが、それだけではない。豪速で飛んだ槍はニキータを引きずったまま、壁に打ち込まれたのだ。


 壁に縫い付けられたニキータは、即座に自ら化身を解いて地上に降り立った。だがニキータの左肩からは血がぼたぼたと落ちている。


「ちぃッ、なんて動きだよ……!」


 たったひとりで三人もの戦闘不能者を出したメイナードは、アスールへと目を向ける。アスールは荒い息遣いのまま、剣を構えてメイナードを睨み付けている。先程までの動揺は押さえつけたようだが、いまアスールが抱えているのはどうしようもない怒りと痛みだ。


「……責任を感じてるんだね? 自分が動揺したのがきっかけで、仲間が倒れたから」


 見透かされていることを悟ったアスールは、しかし何も言わない。近づいてくるメイナードを見つめたまま、じっと動かない。



 ――その時、強烈な冷気が空間に溢れた。



「! これは」


 メイナードがはっとして振り返った瞬間、その身体が浮いた。戦端が開かれてから、メイナードが吹き飛ばされたのは初めてだ。


 強烈な冷気が風を伴ってメイナードを襲う。爆風のような勢いだ。床に叩きつけられる寸前で態勢を立て直したメイナードだったが、次の瞬間、大量の()が降ってきた。小さな雫だったそれは、みるみる内に凝固し、鋭利さを増していく。

 水蒸気を凍結させ、それを豪雨のように降り注がせる氷属性奥義、“凍てつきし雨(フローズン・レイン)”。直撃すれば脳天から爪先まで貫き通す、巨大な氷柱だ。


 回避しようとしたメイナードだったが、動けない。足元からメイナードは凍てつきはじめていたのだ。その氷を剣で砕き、なんとか足の自由を回復する。ほんの僅かな差で、メイナードは串刺しを免れた。

 メイナードの頬から、一筋の血が流れる。そのまま、柱の陰から姿を見せた銀髪の若者を見据える。


「俺のこと、忘れてもらっちゃ困るよ」


 限界まで高めた魔力を放つ。カイはそのための隙を待っていたのだ。チェリンとヒューティアが傷つくのも、ニキータが撃ち落とされるのも見て見ぬふりをして。

 そしてそれは成功した。メイナードを初めて出し抜いたのだ。


「……生身でこれだけの術を放つのか。ますます惜しいね」

「そりゃどうも……!」


 カイは氷の槍を創りだし、それを投じた。メイナードは槍を剣で砕く――だが、氷の槍に刃が触れた瞬間、メイナードの剣は音を立てて凍り付いた。カイが力を込めると、槍が楔となって剣が粉々に砕け散った。

 剣の破片を浴びたのだろう、メイナードの肌のあちこちに細かい傷ができた。服も裂け、血が滲む。


 生身のカイは、接近されたらなすすべがない。遠距離からできるだけメイナードの力を殺ぎ、時間を稼ぐ――イリーネの治癒術によって、チェリンやヒューティア、ニキータが回復するまで。


 メイナードが打ち出してきた魔術は、すべて氷の壁の中に閉じ込められた。そうしている間にも氷雨は続く。無尽蔵かと思うほどのカイの魔力には、達人の動きを以ってしても躱すのが精いっぱいらしい。


 動いた拍子に、メイナードの懐から小さなものが落ちる。それはカイの契約具だ。そうと知って、思わずカイは攻撃を中断した。中断してしまったことに、盛大に舌打ちする。契約具を砕かれても構わないと決めたのに、いざ目の前にそれが現れると身が竦んでしまった。本能とは恐ろしい。緊張したままメイナードを睨むと、メイナードはいくらか余裕を取り戻していた。

 メイナードは落ちた契約具の元まで歩み寄った。そのまま拾うのでもなく、立ち尽くす。何をしようとしているかは、カイにも分かった。


「メイナードお兄様……! やめてッ!」


 気付いたのだろう、イリーネが叫ぶ。だがメイナードはカイだけを見つめている。


「君が僕のものにならないのなら、君の魔力は脅威でしかないな」

「……」

「命令だ。イリーネとアスールを殺せ」


 軽く爪先を持ち上げたメイナードは、その足を契約具の真上へと持ってくる。


 この瞬間を、ずっと恐れていた。契約具を持つ人間に、化身族は逆らえない。何か呪術的な力が働くのだと、そう思ってきたから。もしこのような命令を聞けば、自分はイリーネらを殺すのだと、そう思ってきた。

 けれど、メイナードの冷酷な命令を聞いても、カイの心には何も響かない。イリーネとアスールを殺すなど、万が一にもあり得ない。


「嫌だね」


 だからきっぱりと拒絶した。



 微笑むメイナードが、契約具の上へ爪先を下ろす。カイは目をそらすことも、抗うこともしなかった。

 あまりに呆気なく、契約具は形を失った。台座にしていたカイの牙はメイナードに踏みつけられて粉々に砕け散り、紫色の鉱石は台座から外れて転がる。


 ――それから一瞬遅れて、心臓を剣で貫かれたかのような激痛が、カイを襲ったのだった。

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