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氷撃のカイ・フィリード  作者: 狼花
5章 【過ぎ去りし日に】
115/202

◆箱庭の姫君は笑う(6)

 カーシェルとイリーネは散歩に出かけ、カイは木陰でうとうとし、アスールはその隣で静かに読書をしている。イリーネがいると賑やかで楽しいが、たまにはこういう穏やかな時間があってもいい。


 聞こえるのは、時折アスールが本のページを繰る音と、風にそよぐ木々のざわめきだけ――良い。カイが最高に好きなシチュエーションだ。この静寂を「退屈」だとかいう者は無粋も無粋。あまりお友達になりたくないものだ。その点、アスールは余計なことを喋らないから相棒としては最適だ――まあ、アスールが喋らないのは、隣にいるのが物言わぬ獣だからなのだが。読んでいる書物は、表紙の文字からして歴史書の類らしい。面白そうだから読んでみたいのだが、さすがにこの姿では無理だ。

 本気で昼寝をしようと楽な態勢で寝そべる。しかし、静寂が破られるのは案外早かった。


 かなり乱暴に、離宮の門が開け放たれる。そのけたたましい音に、半分寝かけていたカイはびくりとして飛び上がった。アスールも驚いて、本から顔をあげる。

 駆け込んできたのはイリーネだ。散歩から帰ってきたのだろうが、一緒に行ったはずのカーシェルがいない。それだけでなく、彼女は泣いていたのだ。


 イリーネは真っ直ぐカイのところへ駆けてきて、背中の毛の中に顔をうずめた。良い感じのタオルにされた感がある。


「イリーネ、どうしたの……!?」


 アスールがうずくまっているイリーネの肩を支えると、イリーネはカイからアスールのほうへとすがる相手を変えた。カイは立ち上がり、慰めるようにイリーネに身体をすり寄せる。


「アスールぅ……」


 イリーネはアスールに抱き着きながら、涙の混ざる声で呟く。


「『まざりもの』って、なぁに?」

「え……」

「私……危険なの? いると、お兄様やアスールが困る? だから、私はここから出ちゃいけないの?」


 アスールが顔色を変える。その時、カイの鋭い聴覚が、こちらへ近づいてくる複数人の喋り声と足音を捉えた。ひとりは、カーシェル。随分と焦っているというか、怒っているというか……余裕のない声だ。あとふたり、女の声と少年の声が聞こえる。

 遅れてアスールも気づいたのだろう。彼はさっとカイを見た。誰が来るのか、それも分かっているような顔つきだ。こういうとき、アスールという少年は敏いと思う。


「ミルク、隠れて」

「……」

「見つかったらまずい。早く」


 カイは素直にその指示に従った。茂みの奥に潜り込み、息を殺す。


 しばらくしてカーシェルが門をくぐって庭先に現れた。そんなカーシェルの後を追いかけてきた女と少年を見て、イリーネがぎゅっとアスールに強く抱き着く。

 豪奢なドレスを身にまとい、随分と勝気そうな化粧のキツい女――その隣にいるのは、息子と思われる少年だ。年齢はカーシェルたちと同じくらいだろうが、ひょろっとして武芸の心得があるようには見えない。カーシェルが本気になれば一撃で倒せそうだ。カーシェルはそんな二人と向き合って、緊張していた。


「――どういうつもりです、シャルロッテ殿」


 カーシェルが低い声で女に言葉を投げかける。女は肩にかかる自分の赤い髪を後ろへと払った。挑戦的な仕草だ。ある意味ではカーシェルを「子ども」と侮っていないということでもあるが、それにしても大人の女が少年に向ける表情ではない。

 ……なんだこのおばさん。


「それはこちらの台詞よ、カーシェル。イリーネを離宮の外に出すなんて、どういうつもり? ここに拘禁するように指示してあったでしょう」

「お言葉ですが、貴方から『拘禁せよ』などという命は受けていません。私が賜ったのは、イリーネの身の安全を最優先にせよとの陛下の言葉だけです」

「お優しい陛下が、言葉を選んでくださっただけよ。貴方だって口ではそう言いながら、やっていることは軟禁そのものじゃないの」


 カーシェルが眉をしかめる。


「私はあの子を守りたいだけです」

「守る、ねぇ。本当に物好きなこと」

「何を仰っても無駄です。この離宮は王妃エレノアの住まい。王妃が留守の現在、全権は私に委ねられています。シャルロッテ殿といえど、許可なく立ち入ることは不可能です。お引き取りを」

「可愛くないわね、カーシェル。憎たらしいほど頭が良くて、優等生なのだから」


 シャルロッテとやらはわざとらしく大きな溜息をついた。


「エレノアは本当に余計なことをしてくれたわ。そんな娘、魔術の素養があると分かった時点で殺しておくべきだったのに。それを陛下のご恩情で、生かしておいてあげているのよ。これ以上私に譲歩しろというの?」

「貴方は……ッ! それが実の娘に対する母親の言葉かッ!」


 常にないほどのカーシェルの怒号が響く。アスールはイリーネの耳を塞ぎ、その口論の様子が見えないように自分の身体で壁になる。

 この女がイリーネの実母シャルロッテ――ならば隣にいるのは、実兄のメイナードか。


「実の娘だからこそよ。スフォルステン家は代々聖職者として由緒ある家系。イリーネの存在が受け入れられることはない。苦しむ前に楽にしてやろうという親心が分からないの?」

「そんなものは親心ではありません!」

「カーシェル、分かるでしょう? 女神教を厳格に守るべき王家に、教義に反した存在があることがどれだけ危険なことか。王家の者が魔術を使えるなんて民衆に知れたらどうなるかなんて、考えるまでもないことよ」


 リーゼロッテの女神教は、異種族恋愛を認めない。混血種(まざりもの)は凶兆の表れ。宗教が王家をも支配するこの国では、イリーネの魔術は秘匿すべきものだ。彼女は自分で魔術を制御できないようだし、何の拍子に治癒術が発動するか知れたものではない。

 それは分かる――分かるけれど、それではイリーネの幸せはどうなる? シャルロッテが望んで混血を産んだわけではない。彼女の遠い祖先が、どこかで化身族と交わる禁忌を犯しただけだ。シャルロッテを責めることはできないが、イリーネを責めることもできないはずなのに。どうしてすべて彼女の責任にするのだろう。


 反論したいことはたくさんあるはずだ。だがカーシェルは歯を食いしばって黙ってしまう。思いの丈をシャルロッテに言ってしまうのは簡単だ――しかしカーシェルにも立場がある。王太子が女神教を批判し、混血種(まざりもの)を擁護すればどうなるだろう。


 いま彼にできるのは、シャルロッテの言葉を聞き流し、反論せずに耐えることだ。「以降、イリーネを離宮から出さないように気を付ける」――シャルロッテに要求されているのは、この言葉である。この状況では、カーシェルはそれを口にせざるを得ない。

 それを告げたら、イリーネは今度こそ軟禁状態だ。


「……ッ」


 カーシェルが口を開きかけた、その時――城門に立ちはだかるシャルロッテの背後に、ひとりの女性が現れた。


「あらまぁ。珍しい顔ぶれね」


 ぴりぴりしていた空気を、一瞬で破るほどの穏やかな声。シャルロッテが驚いて振り返り、顔色を失う。


「エレノア……!」

「シャルロッテ、何か御用? 貴方がここに来るなんて、相当な理由があると思うのだけれど」


 エレノアだ。彼女の傍には、複数の衛兵がいる。神国軍の兵士ではない、エレノアの家――クレヴィング家というらしい――の私兵たちだ。なんて良いタイミングで帰ってきたのだろう。

 彼女はこの二か月ほど、公務の関係で国外に出ていたのだ。そろそろ戻ってくるとは聞いていたが、正確な日にちはカーシェルも分かっていなかった。今日このときにエレノアが戻ってきてくれたのは、カーシェルにとって最大の助けだっただろう。


「い、いえ、別に……特に理由なんてなくてよ」

「そう? ならちょっとどいてくださるかしら。やっと帰ってこられたから、早く中に入りたいの」


 やんわりとしたエレノアの笑みに、先程までの威勢はどこにいったのか、シャルロッテは黙って門から離れる。庭先に立ってシャルロッテと向かい合っていたカーシェルの頭をそっと撫でて、エレノアはさらに奥にいるイリーネとアスールに目を向ける。


「――イリーネ、ただいま!」


 あえて明るく、エレノアはイリーネに手を振る。泣き濡れたイリーネはとことことエレノアのところへ向かって、義母に抱き着く。


「お母様ぁ……!」

「あらあら、こんなに目が腫れちゃって……ちゃんと冷やしてあげないとね。アスールくん、手伝ってくれる?」

「は、はい!」


 イリーネとアスールを連れて、エレノアは屋敷の中へ入っていく。彼女と共にやってきた衛兵たちは、門の前に立ちはだかり、無言でシャルロッテたちを閉めだした。シャルロッテは舌打ちして身を翻す。


「……戻るわよ、メイナード」


 エレノアとシャルロッテの間の力関係は、かなり強いものであるようだ。シャルロッテの生家であるスフォルステンは、聖職者としては高名な家系であるらしいが――王家の血をも引くエレノアの生家には遠く及ばない。シャルロッテが何も言えずに引き下がるのだから相当だ。カーシェルは毅然とした表情を取り戻し、去っていく第二妃を見送る。


 一度は踵を返したメイナードは、しかし再びカーシェルを振り返った。ここまで黙っていたメイナードが、初めてカーシェルに向けて声を投げかける。


「本当は自分でも思っているんじゃないの? あれをここに閉じ込めておくべきだって」

「どういう意味だ」

「君が女神教教徒だっていうのは、形だけのものみたいだし。実は無神論者なんでしょ、君は」


 カーシェルは眉をしかめる。それは認めているのとほぼ同じだ。


「だから君は混血種(まざりもの)に寛容でいられるんだ。でもね、それは君たちだけだよ。リーゼロッテは――いや、世界は混血種(まざりもの)を認めない。存在を許さない」

「……いつか変えてやる」

「はは、無理だね。ヘルカイヤとの戦争を忘れたの? 混血種(まざりもの)と、それを擁護する人間と化身族の国――分かるだろ? 世界は、相容れない存在を何の躊躇いもなく虐殺できるんだ」


 メイナードは嗤う。陰湿で、嫌な笑い方だ。


「君は内心で、その二の舞を恐れているんだ。あの混血種(まざりもの)が世間に知られて、民衆の敵意を向けられるのを恐れている。だからあれをここに閉じ込めているのは、君の意志なんじゃない?」

「……貴様」

「あの混血種(まざりもの)の存在は、陛下にとっても母上にとっても、君にとっても悩みの種だ。僕が消してあげてもいいよ? 悩みの種をね」


 歯を食いしばったカーシェルは、メイナードを睨み付けた。絞り出した声は低くて小さい。怒りを押し殺しているようだった。


混血種(まざりもの)混血種(まざりもの)と……その名を俺の前で口に出すな! あの子はヒトだ。俺の義妹(いもうと)――大切な家族、それ以外の何者でもない。それ以上あの子を侮蔑するのなら、ただでは済まさないぞ」

「事実を言って何が悪い? 君のそれは身内びいき、盲目というんだよ」

「……消すだのなんだのと口走ったことは忘れてやる。去れ」

「さらに短気ときた。困った王太子だね。……忠告してあげるよ。君のその青臭い理想は、いつか君を滅ぼすよ。そんなものはさっさと捨てて、為政者らしくなるのが身のためだね」


 肩をすくめてメイナードは立ち去った。メイナードの足音が完全に消えたところで、茂みからカイは抜け出る。

 カーシェルはまだ庭先に突っ立っていた。カイが歩み寄って、初めてカーシェルは動きを見せる。握った拳が、かすかに震えている。


「……剣を持っていなくて良かった。危うく、抜くところだった」


 物騒だなとカイは苦く笑うが、気持ちは分かる。シャルロッテはともかく、メイナードは――喉笛を食いちぎってやりたい衝動に駆られた。感情の起伏の少ないカイが、である。


「すまない、ミルク。みっともないところを見せたな」


 カーシェルは小さく笑って、踵を返す。庭先に置いてあるベンチに、どっかりと彼は腰を下ろした。いつだって凛として優雅だったはずのカーシェルが、疲れたように座り込む姿など滅多に見たことがない。


「イリーネが三歳になったころに、あの子が治癒術を使えることが分かったんだ。ヘルカイヤとの戦争が終わって数年しか経っていなかっただけに、シャルロッテ殿たちの衝撃は大きくてな。……シャルロッテ殿は追い詰められて、イリーネを刺そうとしたことがあった」


 カーシェルの足元に座って、カイは彼の独白を聞く。


「居合わせた母上が、それを止めたんだ。そのままイリーネの身柄は、この離宮で母上や俺が預かることになった。シャルロッテ殿はイリーネを殺すよう要求してきたが、母上はそれを退けてくれた。結局、離宮でイリーネを生活させて、治癒術を使わせないことで決着したんだ」


 それが、イリーネがここで生活している理由なのだ。実母に殺されかける――幼いイリーネの心痛はどれほどのものだっただろう。


「間違ったことは、何もしていない。イリーネを匿ったことも、今回外に連れ出したことも、アスールやミルクを受け入れたことも……俺は後悔などしていない。なのに、メイナードの言葉に反論できなかった……! 心の底では、あいつの言う通りのことを俺は思っているのだろうか」


 項垂れたカーシェルは、軽く頭を振った。


「でも……それじゃあ、あの子の幸せはどうなる? 実の血縁に人間扱いしてもらえないあの子は……俺はイリーネに、何をしてやれるんだろうな」


 カイに答える術はない。化身を解けばいいのだろうが、カーシェルは答えなど求めていない口ぶりだった。だからカイも黙って、カーシェルの傍にいる。

 この少年でも、こんなに取り乱すことがあるのだな――そんなことを、カイは思う。


 すると、屋敷の玄関が開いた。出てきた人物を見て、カーシェルは慌てて立ち上がる。


「母上、お帰りなさい。その……騒ぎを起こしてすみませんでした」


 庭に出てきたのはエレノアだった。エレノアはこちらに歩み寄りながら微笑んで首を振った。


「いいのよ、カーシェル。イリーネのためを思ってしてくれたことだもの。責めるはずがないでしょう」

「イリーネは?」

「アスールくんが見ていてくれているわ。ひどく動揺しているようだから、貴方も行ってあげて」

「はい」


 カーシェルが駆け出していく。残ったのはエレノアと、地面に座ったままのカイだ。エレノアはカイの前にしゃがみこむ。


「ミルク」

「……」

「お話したいわ。駄目かしら?」


 別に、駄目ではない。子どもたちもいないし、最初から化身族とばれているなら隠す必要もなかった。


 カイは化身を解く。立ち上がってエレノアと目線を合わせてみると、彼女はだいぶ小柄だ。日頃からよく顔を合わせてはいたが、エレノアの前で化身を解いたのは初めてだった。

 離宮で暮らしている彼女は天真爛漫で明るかったけれど、実は普段から病気がちだったのだという。長旅の疲れだろうか、少しだけ顔色は良くないように見える。


「あら、若い」

「見た目はね。これでも三十五年は生きてるよ」

「じゃあ同年代ね。ふふ、なんだか不思議な気分だわ」


 ころころと微笑んだエレノアは、表情を改めてカイに深々とお辞儀をした。


「ありがとう。私の大事な息子たちを守っていてくれて」

「……何もしていないよ、俺は。さっきだって、アスールに言われてずっと隠れていただけ」


 自分で言って、カイは憮然とする。……格好悪い。子どもたちが逃げることもできずに立ち向かっていたのに、カイは隠れていた。自分がここにいると知れればカーシェルたちに迷惑がかかる――なんて、弱虫の言い訳だ。


「いてくれるだけで、あの子たちは救われていると思うわ。カーシェルも、貴方のことをとても信頼しているみたい。じゃなければ、今みたいに貴方に向けて弱音なんて吐かないわ、あの子は」

「君も気にしないんだね。種族とか」

「ええ、元神姫なのにね。……私のこの考えを継いでしまったせいで、あの子は難しい立場に身を置くことになってしまったけれど」


 カイは視線を逸らした。少し長くなった銀髪が風に煽られて乱れる。それを手で直しながら口を開く。


「……カーシェルは大したものだよ。あの子の考えは……真っ直ぐで、正しい。だからこそ諦めきれなくて、悩んでいるんだろうけど」

「そうね。カーシェルはとても優しいわ。家族を大切に思うあまり、シャルロッテやメイナードにも反論できないくらい、ね」


 向こうは、カーシェルたちのことを家族だなんて思っていないはずなのに――カーシェルは、切り捨てられない。彼にとってシャルロッテは義理の母で、メイナードは異母弟。非情になりきれないのは、彼の性格上仕方のないことだ。

 カーシェルが最優先にするのは、勿論イリーネたちだ。けれど、シャルロッテやメイナードも傷つかないよう、お互いが納得できる答えを探している。あるのかどうか分からない、夢のような終着点を。そのせいで彼は、神経をすり減らしている。


「でも俺は外部者だ。いずれここを出ていく。その時には、俺の存在を利用できるだけ利用してもらいたい」

「カーシェルがそんなこと、出来ると思う?」

「あの子ができないなら、俺が勝手にそうするだけだよ。馬鹿じゃないでしょ、カーシェルも」


 エレノアは頷き、カイを見上げた。


「ねえ、前から思っていたんだけど、どうしてそんなにイリーネやカーシェルのために心を砕いてくれるの?」

「……気に入ってる、から。それだけ」


 そう、自分でも不思議だ。どうしてこんなに、自分が必死になっているのか。


 ただ思うのは――カーシェルとイリーネとアスールには、ずっと仲良く笑っていてほしい。あんなに穏やかな時間を過ごしたのは、カイにとっても初めてだった。自分が子供のころに体験できなかった安らぎを、他人に壊されたくない。


「……どうして……」

「え?」


 ぽつりと呟いた言葉に、エレノアが首を傾げる。カイは視線を逸らして、言葉をつづける。


「どうして、イリーネは君の娘として生まれることができなかったんだろうね」


 もしそうだったら、シャルロッテに介入されることはなかっただろうに――。


「ふふ。私もそう思う……でも、私にとってイリーネは、実の娘も同然よ。あの子たちを大切にしてくれる貴方も、私の大切な家族」

「……エレノア」

「貴方がここに来てくれて、本当に良かった。もうしばらく、あの子たちを見守っていてあげて。傍にいられない私の分まで」

「うん」

「でも無理はしないで。あの子たちのために戦ってくれるのは嬉しいけれど、怪我でもされたらみんな悲しむから」

「分かってるよ。……うん、分かってる」


 怪我をしたら悲しんでくれるヒトがいる――自分を過小評価しがちなカイでも、分かっている。


(そんなヒトができるなんて、昔は思ってもみなかった)


 自分も、カーシェルたちが傷ついたら悲しいから。


 こんなことを思えるようになった自分に、カイは苦く笑ったのだった。

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