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わたしの愛は重いらしいけど、異世界行ったら溺愛されました  作者: Alicia Nish


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10/10

10. 最上級の幸せのカタチ




 「マティアス、いい伴侶を見つけたな。」

 「おめでとう。」


形式的な挨拶を済ませると、国王陛下夫妻はとても親密な祝福の言葉をかけてくださった。

隣に立つマティアスさまのほうをちらりと見ると、自然と目が合って思わず微笑みがこぼれる。


 「あら、本当に仲が良いのね。」


王妃さまがからかうように笑う。


 「お戯れが過ぎます。」

 「あら、生涯独身宣言なんて心配をかけられたのですから、これくらいは許されるはずですわ。」


お茶目な王妃さまに親しみを感じる。


 「王宮にも遊びにいらしてね。お茶会にお誘いするわ。」


もう一度礼を尽くすと、マティアスさまのエスコートでホールへと戻った。

無意識に深く息を吐いたことに気づいて、マティアスさまが笑う。


 「緊張はほどけたかな?」

 「緊張しないマティアスさまがおかしいのです。」


少しだけ拗ねてみせる。


 「お二人はとても気さくな方だ。君もすぐに慣れるよ。」

 「公爵夫人になるのですもの、慣れなくては困りますね。」


わたしの言葉に、マティアスさまが少しだけ驚いた顔をしてくしゃりと笑った。


――あっ、かわいい。


 「君には敵わないな。」

 「?」

 「どんどん好きになる。」

 「??」

 「どうした?顔が真っ赤だぞ。」

 「ズルいです。今までそんなふうにおっしゃったこと、なかったのに……」


マティアスさまが虚を突かれたように笑う。


 「そうか、これが好きという気持ちなんだな。」


マティアスさまの屈託ない笑顔に気づいて、周囲がざわめいたことがわかる。


 「だめです。」

 「どうした?」

 「そんな笑顔を見せてはだめです。」

 「?」

 「みんながマティアスさまに夢中になってしまうではありませんか。」


その一言に、顔を逸らしたマティアスさまの耳が赤いことに気づく。


――あっ、照れた。


最近気づいたが、マティアスさまはいろいろと無自覚らしい。笑顔になっていることも気づいていないことがあって、ハラハラさせられる。マティアスさまが言うには、わたしも無自覚でいろいろやらかしているらしいので、お互いさまのようだ。


 「大丈夫ですか?」

 「君が可愛すぎるのは、今に始まったことじゃなかったな。」


こんなふうに笑って夜会に参加できる日が来るとは思ってもみなかった。

国王陛下夫妻の祝福に、マティアスさま自身の牽制が効いているのか、悪い噂を囁く声すら聞こえてこない。


 「ありがとうございます。」

 「何がだ?」

 「出会ってくださって、わたしを選んでくださって、ありがとうございます。」

 「それは、わたしの台詞だよ。」


互いに手を取りダンスホールへ向かう。

初めて踊ったときよりも、ずっと軽やかにステップを踏む。楽しい、嬉しい、そんな幸せな気持ちが、自然と笑みとなっていた。





王家への挨拶を済ませ、気持ちが固まったこともあって、それからの婚姻準備は瞬く間に進んでいった。


 「ララベルさま、流石は公爵さまですね。このドレスを数か月で仕上げさせてしまうなんて。」


ローラさまが、婚姻式の準備を終えたわたしの控室を訪れて、ため息をこぼす。


「そう言えば、ご存じでしたか?マティアスさま、『生涯独身でかまわないと思っていた自分にとって、ララベルが唯一無二、そして、たった一人を探していたララベルに自分が選ばれたんだ』って、噂好きのご婦人たちに囲まれてはそうおっしゃっていらしたって。」

 「えっ?」

 「やっぱりご存じではなかったのですね。」


ローラが楽しそうに笑う。


 「紳士クラブでは、ララベルさまの噂をする令息に対しての牽制もなかなかのものだったとスコットさまが教えてくださいましたの。」

 「そんな……」

 「あら、真っ赤になるのはまだ早いですわ。シュナイゼル公爵家からは、ララベルさまを侮辱した貴族たちに正式な抗議文まで届いたそうですよ。」

 「噂ですわよね?」

 「いいえ、本当のことですわ。ララベルさまとスコットがお会いした夜会を覚えていらっしゃいます?」

 「はい。」

 「ベルザーク伯爵家とイングッド伯爵家は抗議文を受け取り、慌てて謝罪したそうですから。あの時のルイスさまと、ロイドさまの発言は、確かに失礼極まりないものでしたもの。不名誉な二つ名まで……」

 「誤解されてしまうような言動をしたわたしにも責任はあります。」

 「そんな平等で思慮深いご令嬢だと気づかない者が多すぎるんです。」

 「ローラさま、ありがとう。その言葉に救われるわ。」

 「とにかく、社交界ではようやくララベルさまが正しく評価されるようになって、わたしはとても嬉しいんです。」


自慢げに胸を張るローラさまが可愛らしくて、思わず笑みがこぼれる。


コンコン


扉が軽くたたかれると、タニアが現れた。


 「お嬢さま、旦那さまがおみえです。」


式場も整ったのだろう。父のエスコートの準備ができたことを知らせに来たと知ったローラは小さな声で「またあとで」と笑うと、控室を後にした。




 「ララベル。」


式場の扉の前で、父に名を呼ばれた。


 「お前が苦しんでいる時に、何もできなかったわたしたちを許してくれ。」

 「お父さま……」

 「公爵さまと幸せになるんだよ。」

 「家族の暖かい支えがなければ、わたしは今、こうしてここに立つことはできませんでした。」


涙をぐっとこらえて父の横顔を見つめる。


 「だから、何もできなかったなんて言わないでください。」


一筋だけ、こらえきれなかった涙が頬を伝う。


 「今日までありがとうございました。幸せになります。」


ゆっくりと扉が開く。真っ白なバージンロードの先に、愛する人が待っている。

わたしの手が、父からマティアスさまへと渡される。

震える指先を優しく包み込んでくれる大きな手が、王家主催の夜会へ向かったあの日に重なる。

見つめ合い、誓いの言葉を交わす。ベールがあげられると、初めて会った夜のマティアスさまを思い出す。


――こんな素敵な人が、わたしの旦那さまになるなんて……


耳元で大きくなる心音が思考を遮ったと思ったら、大きな手が頬を滑り、自然と目をつぶると、柔らかな感触が口元に届いた。




お披露目を兼ねた夜会は後日予定されていることもあり、婚姻を終えて思うより早く静けさが訪れた。家族からの祝福に涙し、タニアに急かされるように湯あみへ向かい、丁寧に時間をかけて準備がなされてしまった。


 「お待たせして、申し訳ありません。」

 「いや……」


言葉少なにつぶやくと、マティアスさまが俯く。

どうしていいか戸惑っていると、慌ててベッドの横をトントンと手で叩いた。


 「失礼します。」


無言で座るのも、なんだかおかしい気がして声をかけると、マティアスさまが緊張の糸をこぼしたように笑いだした。


 「ひどいです。」


少し拗ねてみせると、そっとわたしの手を取り、胸元に添えた。ドクドクと大きな音がする。


 「緊張しているんだ。」

 「わたしも……嬉しくて泣きそうなのに、緊張で何もわからなくなりそうです。」

 「わたしの理性が保たれているうちに、伝えたいことがある。」


――理性が保たれているうちにって、えっ?


 「わたしを選んでくれてありがとう。選んでくれた君に恥じない男であろうとすることを誓うよ。まだまだ、情けない姿をさらすことも多いだろうけれどね。」


 ははっと息をつくように笑う。


 「君と出会って、わたしの世界は変わった。よく笑うと言われるし、独占欲丸出しだと呆れられたり、」

 「ルードルフさまですか?」

 「あいつ以外に、わたしをそこまで無下にする奴はいないよ。」

 「仲がよろしいですね。」

 「腐れ縁だがね。」


そう言って、少しだけ真剣な表情になる。


 「でも、彼ほど信頼できる人間はいないと思っているんだ。君と出会って、変わっていく私を見るのが嬉しかったと言われてしまったよ。随分と、心配させていたようだ。」

 「ルードルフさまはもう?」

 「ようやくご結婚ですねと皮肉を言われた。」

 「ルードルフさまらしいです。」

 「これから先、何があるかはわからない。でも、君とならお互いを偽らず、二人の最善を見つけていけると思う。」


 マティアスさまが両手をとり、その手に唇を寄せる。


 「君を……愛しているよ。」

 「わたしも、あなたを愛しています。」

 「わたしの唯一無二。」

 「わたしの生涯唯一の人。」


マティアスさまの吐息がかかり、肩が思わずピクリと跳ねる。


 「やはり、理性は持ちそうにない。」


耳元で小さくつぶやいた声に、全身がしびれるように反応した。


 「愛してください。」


閉じたまぶたの奥に、つらかった日々が薄れていくのを感じた。

重なる指先に、落とされる口づけに、心が拾われていく。


 「あなたとの未来を、わたしにください。」


大きな腕の中で確かに感じる幸せを噛みしめて、そっとマティアスさまにすべてを委ねた。


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