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星空で繋がる世界  作者: 江崎涙奈
第3章 未定者
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29.消えた宝玉

 


「ブレーデフェルト、帝国?」


 聞き覚えのない国の名前に、首を捻る。


「アルカドスの南西に位置する国で、一般的には東アスペル帝国と呼ばれますね」


 言葉にはっと振り返る。


「スイ兄様!」


 ぱあっと笑顔を見せれば、スイは微笑み返してくれる。


「只今帰りました」

「スイ、丁度よかった。…それで、首尾は?」

「はい、それ「上々だよ」」


 スイの言葉に被せたのはいつの間にか後ろに立っていたネイ。


「っ団長!……アルバスタ殿、お話の所申し訳ありません」


 続いて慌ただしく入って来たのは、スイやネイと同様に先程の場所で見たローブの青年だった。


「いや、構わない。しかし君達自ら此方へ来るとは珍しいな」

「悪いね、そう時間もなくて」


 ネイは溜息混じり返事を返すと、足を前に進めスイの横に立つ。アルバは眉を顰め、組んでいた腕を下ろした。


「動きがあったのか?」

「ああ、今朝起こった王都を一斉に襲った通信及び魔法陣などの魔法具全般の不具合。これについて、ある一つの仮説に辿り着いた。」


 ネイはローブの青年に合図を送ると、彼は頷いて裾から羊皮紙を取り出し、紐を解いてそれを机に広げた。


「王都を覆うように魔素阻害結界を張る、か?だがそれは…」

「はい。それには王都全体に巨大な魔法陣を描く必要がある上に、一刻の間それを動かすための膨大な魔素が必要となります」


 そう言って広げられた王都の全体図に円を描いた。


「魔素阻害結界魔法自体は、中級範囲魔法だ。通常3,000mg程度、下級魔術師一人で十分。だが、王都全体となれば必要魔素量は20,000,000mgを超える」

「禁術に十分相当しますね」


*注釈【禁術】


 一般的に必要魔素量が1,000,000mgを超える魔術を禁術といい、これは正規の方法では不可能とされる魔術である。


 一般人、下級、中級、上級、特級魔術師の5つに区分され、どこにも該当不可の者は規格外とされる。一般人、つまり大多数の人間は魔素容量は1〜1000mg程度だ。そこから下級、中級、上級、特級の順に数を減らし、特級は大国でさえ2人いれば多い方とさえ言われる程に希少な存在なのだ。


 一般的に上級魔術師は15,000mg~30,000mgの魔素を保持している。また、一つの魔方陣に対して最大八方向に一人づつ(つまり8人)、同じ魔素量を放出することで展開するため、仮に8人全員が30,000mg放出したとしても240,000mg。


「つまり、これだけなら事実上不可能だろう。あと、魔素を補うものとして魔石を魔方陣の中に組み込むということだが」


 ちらりとローブの青年を見るネイ。青年は頷き前を向く。


「標準魔石(1個当たり魔素100mg)数に換算しますと、軽く見積もっても10,000個は下らない上、魔石の国内、国外の持ち込み、持ち出しは1000mgから監査対象ですね」

「この量だと、国家予算に相当な上、ここ数年、不信な魔石の出入りはないそうです」


 これがそれを纏めた紙ですと、スイはアルバに差し出す。アルバは厳しい顔のまま紙に目を通し、スイに視線を戻した。


「これだと尚更、この事は不可能だという事になるぞ?」

「ええ。ですが、実際使われた魔石は確認したもので31個。また、術を展開したのは特級魔術師1人と下級魔術師7人と一般人24人だと思われるます」

「なに?」


 ローブの青年は先ほど描いた円に沿うように印を描き込んでいく。


「そのうち、特級魔術師を除く31人の死体が、王都をぐるりと囲むよう円のように配置為れていたのを発見しました」


 それがここですと描いたばかりの印を差し、ペンを置いた。


「その全ての死体には不完全な二重魔法陣の切れ端と、胸に埋め込まれた魔石に呪の印があった」

「呪だと!?」

「ええ、それは後程……不完全な二重魔法陣の切れ端を解読した結果、魔素阻害魔法陣と魔素吸収魔法陣を組み合わせたものであることがわかりました」


 魔素阻害魔法陣によって阻害それた魔素を、魔素吸収魔法陣によって吸収することによって長時間魔法陣を展開する場合でも、展開時のみの魔素だけあれば継続には殆ど魔素を使用しない。


 そもそも、魔法陣に必要な魔素量は、まず単位面積、単位時間あたりの基本必要魔素量に、展開範囲と継続時間を掛けた(基本必要魔素量×展開範囲×継続時間=魔法陣における必要魔素量)ものだ。だが、この継続時間をほぼ1に近づけることが可能になれば、展開さえしてしまえばあとは勝手に展開し続ける永久機関の様な画期的で革命的な魔法陣、という訳だ。


「だが、それでも展開時には300,000mg程度必要な筈。いくら魔石の補助があったとしても下級魔術師程度では到底魔素は足りないぞ」

「それには、先程述べた呪が関係します」


 もう一枚紙を取り出すとそこには魔法陣とは似て非なる印の記された図があった。


「胸に埋め込まれた魔石に施された呪の印は、その魔石を媒体とし、近くの物という物から魔素はともかく生命量すら魔素に転換し必要魔素量を補おうとする物でした」

「贄の儀の為の呪の応用、か」


 アルバの口から苦々しげに呟かれた不穏な言葉にぞっとする。


 贄、つまり生贄ってこと…?


 今更ながらとんでもない事を聞いてる気がして、固唾を呑んで見守る。


「実際、その周囲に体に異常や不調を訴える者が多数出たとのこと。恐らく、これによって一般人24名は上位魔結晶の役目を果たし、下級魔術師は上級魔術師に水増し為れたのでしょう」


 命をもって、ですが。そう小さく付け加えた言葉はそっと自分の耳に届いた。


 人が簡単に死ぬ世界。人の命が軽い世界。その事実に気付いてぞっとする。自分は、この世界にとけ込めたと思っていたのな、まだ何処か、日和見気分だったのだ。


「ふむ、それについてはわかった。だがなぜ、残り一人が何故特級魔術師なんだ?上級魔術師でも可能だろう」


 スイはそんなアルバの疑問に、円を描いて等間隔で並ぶ印が一部だけ不自然に飛んだ場所を指差した。


「そのことですが、その魔術師がいたと思われる場所に別の魔方陣を発見しました」

「その魔法陣は特殊な転移魔方陣で、転移した後は痕跡を眩ませるものでした」

「眩ませる?」

「はい、どれだけ腕の持ち主が陣を消しても、陣の再構築は可能です。ですが、あの陣は行き先、術者の癖、全てが揺らめいて実態が掴めないです」

「術者の特定が出来ないなら告訴は不可か」

「それと、アース様を攫った者の中にも特級魔術師がいたそうです」

「…それだと特級魔術師が二人、か…やはり帝国の他に協力者がいることは間違いなさそうだな」


 ふうと息を深く吐くとアルバはネイを見やる。


「アース様奪還はいつ頃になる」

「最低でも1、2ヶ月。だがそれも状況によりけりだろうね」


 そう言ってネイは首を振る。


「それに、アース様奪還の任については、ほとんどスイとエルナにやってもらうことになるだろう」


 ん?…ほとんど?


 なんだか急に嫌な予感がする。


「我々はアラニス国、ブエナフエンテ教国を迂回し、エセプト国に入るつもりだ」

「アース様のことは放って置けない事ではあるのは事実だが、エルプセ国についてはブレーデフェルト帝国との同盟のこともあって今回の事でも無関係とは言えない」


 帝国に特級魔術師がいたという話は聞かない。なら、協力した者がいるのは確かだろう。


 例え、アース様のことが解決しても裏で協力した者を野放しには出来ない。


 そう、瞳に強い決意を宿してネイは述べた。


「それに特級魔術師だけではなく、呪のこともある。レヴィ族にも探りをいれなくてはならない為、帰りの確保も踏まえると、スイ達には精々、こちらの精鋭をいくらか貸す程度になるだろう」


 悪いなと言うネイに、スイは首を振る。


「元より分かっていたことです。ネイが気に病むことではありません」


 それにと、スイは一区切りすると此方を見てニッコリと笑う。


「エルナがいれば百人力でしょう」


 それは……些か、幼児に期待し過ぎじゃありませんか?


 その言葉が揶揄であることを願いながら、多分、近い内にとんでもないことを平然と言われるんだろうな。


 慣れって怖い。



*設定の補足*

魔素の単位はmg


初級単体魔法使用時の消費魔素:15~250mg

初級範囲魔法使用時の消費魔素:700~3,000mg

中級単体魔法使用時の消費魔素:500~900mg

中級範囲魔法使用時の消費魔素:2,000~15,000mg

上級単体魔法使用時の消費魔素:1,500~3,000mg

上級範囲魔法使用時の消費魔素:6,000~45,000mg

特級単体魔法使用時の消費魔素:4,500〜9,000mg

特級範囲魔法使用時の消費魔素:20,000〜200,000mg

禁術の消費魔素:1,000,000mg~

標準魔石:100mg

標準魔結晶:1,000mg

一般:1mg~1,000mg

下級魔術師:3,000~5,000mg

中級魔術師:7,000~10,000mg

上級魔術師:15,000~30,000mg

特級魔術師:50,000~100,000mg

規格外:未知数

未定者:0mg

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