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37話 エメラルドさんと本音

 シルクさんの仕業により、魔法大会の世界がめちゃくちゃになってしまった。


 空は紫、建物は混ざり合って奇妙なオブジェと化し、辺りにはかつて遊園地の店員だった魔物が禍々しい化け物と化し、虎視眈々と獲物を求めて歩いている。


『そもそもレイトさん達は何処に……?』


 私は人を探す為に急いで辺りを探る。すると、遠くに見えるガラクタ捨て場のような場所の中で倒れるエメラルドさんの姿が見えた。


『エメラルドさん!』


 私は高速でエメラルドさんの元へと飛んでいき、エメラルドさんの肩を揺すりながら声を掛ける。


「んぅ……」


 私の声掛けに反応したのか、エメラルドさんはうめき声を上げながら少しずつ目を開ける。


「ん……あれ?此処は……?」


 まだ意識が曖昧なのか、エメラルドさんは地面に伏せたままゆっくり辺りを見回している。この状態で突然魔物がこちらにやってきたらエメラルドさんは碌に対応できないだろう。


『(ヒヒッ……エモノハッケン……)』


 そんな中、周囲をうろつくキメラがエメラルドさんを発見。足音を忍ばせてエメラルドさんに近付いていく。


『(このままじゃエメラルドさんが危ない!)』


 エメラルドさんを守る為にも、ここは私の体内に避難させるしかない。


『エメラルドさん失礼します!』


「うわっ!?」


 私は口を大きく開けてエメラルドさんを体内にある宿屋の食堂へと運んだ。


 そして私は……


『これでも食らえーーーっ!!』


 キメラの顔目掛けて眩しい光を全力で放出した。


『ギャッ!?』


 キメラは怯み、顔を覆いながら仰向けに倒れた。私はその隙にキメラから逃げ出す。


『獲物ガ逃ゲタ!』


『折角ウサギノ呪イガ似合ウ男ヲ発見シタノニ!止マレ!止マレ!』


 だが、遠くにいたキメラ達が一斉に私に気付き、私のいる方角目掛けて走り始めた。明らかにエメラルドさんが目当てだ。


『ひぃいー!!』


 追いかけてくるキメラは建物を粉々に破壊しながら全力で追いかけてくる。中には私目掛けてえげつない量の魔法を放ってくるキメラまでいる。このキメラ達が桁違いに強いのは確かだ。


『うわーーーっ!?』


 私は必死に瓦礫や魔法を避け、時折光を発しながら高速で逃げ回る。


 だが、どれだけ逃げてもキメラは私を的確に捉えたまま追いかけ続ける。私の姿が見えてないにも関わらず、正確に私を視界に捉えて追いかけてくる。



『どうやって逃げたらいいんだーっ!!』


『幾ら探してもこの世界の出口は見つからない!安全地帯も無い!完全に詰んでる!』


 体内にいる私の分身達も大パニックだ。


『図書室にある魔法本の内容は全て頭に入ってるけど、魔法初心者の私じゃまともに魔法を発動できない!』


『レイトさん、ドランさんの姿を発見できない!他の参加者達もキメラに追われてるから頼る事もできない!』


『他の参加者の元に飛んでって一緒に戦うのは……』


『駄目だよ!こんな数のキメラを引き連れて合流したら大迷惑だよ!下手したら共倒れ!』


『この世界の中で戦える子を全員出して数で押すのはどう?』


『力の差がありすぎるって!この世界で生まれた魔物は1番強くてもランク3くらいの力だから、数がいても押し切れないよ!』


『この中で戦えるのはナワとバスラだけど……ナワは大きなサナギになっちゃって今はまともに戦えないし、この中で1番強いバスラでもあの大量のキメラは捌き切れない!』


 とにかく色々と案を考えるが、この状況を打破できる解決策は中々出てこない。


『照明のフリでもしてみる?』


『無理だって!向こうは的確に私を捉えてるから絶対に通用しないよ!』


「モヨ、ちょっといい?」


 私が必死になって考えてると、完全に目を覚ましたエメラルドさんが私の分身に声を掛けてきた。


「モヨ同士の会話で何となく察したけど……今、外が大変な事になってるんだよね?」


『あっ……はい!此処は私の体内で、外にあるウインクさんの作った世界が他人に乗っ取られてしまって……!この世界から抜け出せない上に凶暴な魔物だらけで、何処にも逃げ場が無い状態なんです!』


「分かった、とりあえず僕が何とかするよ。此処に大きな魔石とかある?」


『あります!』


 道具屋にいる私の分身は急いで大きな魔石を棚から取り出してから移動し、エメラルドさんの前に置いた。


「よし……モヨ、此処って外と……ウインクさんの世界と繋がってる所はある?」


『私の口から外の世界に繋げられます!』


「じゃあ開けて!」


『はい!』


 私の分身は急いで口内を外に繋げた。口を大きく開け、変わり果てた外の景色をエメラルドさんに見せる。


「モヨ!今からあの壁に異空間の扉を造るから、完成したらそこに飛び込んで!」


『分かりました!』


 真剣な面持ちのエメラルドさんは、鞄からナイフの形をした緑色の大きな宝石を幾つか取り出して宙に浮かべた。


「それっ!」


 エメラルドさんは魔法を込めた宝石のナイフを、外にある壁へと目掛けて4つ投げつけた。


「開けっ!」


 更にエメラルドさんは、投げた4つのナイフのど真ん中に大きな魔石をぶつける。


 するとナイフが魔力を帯びて光を放ち始めた。ナイフの端から魔法の線が伸び、その伸びた魔法の線同士が繋がり、線の内側に謎の空間を作り出した。


「出来たよ!飛び込んで!」


『はいっ!』


 外にいる私はキメラを避けつつ、エメラルドさんが作り出した謎の空間に急いで飛び込んだ。


『うわっ!』


 謎の空間の中は真っ暗。私以外に光を発する物は無く、先程までの喧騒が嘘のように静まり返っている。



『た、助かった……』


 空間の出入り口は完全に閉じられており、キメラが入ってくる様子はない。敵から逃れられた私はほっと一安心。


『良かった……』


『助かった……』


 体内にいた私の分身も一安心して気が緩み、お互いに顔を見合わせながら『良かった』と口を揃えて言う。


「成功して良かった……ねえモヨ、僕が気絶してる間に何があったのか教えてくれる?」


『分かりました!』



 数分後……



「えーと……つまり、シルクが村を襲った犯人だと判明した瞬間、神の力によって力を得て暴走したシルクが魔法大会をめちゃくちゃにしようとして…………えっ?何?夢の話?」


『本当なんです信じてください!』


 私の体内の食堂にある机に着いて、改めてエメラルドさんに先程起こった出来事と記憶の話を全て伝えた。だが、話が突拍子過ぎるのか、エメラルドさんは内容を理解し切れていないようだ。


「仮に神さまだったとしても、大犯罪を犯した魔女に力与えるとか……どう考えても邪神だよね。そんな邪神の力を得た悪党にどうやって対抗するの?」


『分からないです……えっと、先程まで私の力で周囲の状況を探っていたんですが、みんなキメラに襲われてる状況って事は分かりました』


「レイト様とドランさんは?」


『レイトさんとドランさんは行方不明で、シルクさんは空中にほんの僅かですが痕跡はありましたが、本人は何処にも居なくて……』


「僕達みたいに何処かに空間作って隠れてるのかな。それか、2人だけでシルクと戦ってるのかもね(なら僕も加勢しに行かないと)」


 そう言うとエメラルドさんは鞄から宝石ナイフを取り出しながら立ち上がった。


『シルクさんを探すんですか!?なら私にも手伝わせてください!』


 私も立ち上がり、エメラルドさんを見上げながら手伝いを申し出る。だが、エメラルドさんは嫌そうな顔をしながらため息をついた。


「周りにいる参加者と合流しながらシルクを探しに行くから1人でも大丈夫だよ。モヨは此処で待ってて」


『この場全体の状況も、参加者や隠れている魔物の位置も正確に伝えられます!邪魔にならないよう立ち回りますから!』


 それでもエメラルドさんの表情は変わらない。


「……怪我では済まない深い傷を負う可能性もあるんだよ?(僕についていくって事がどういう事か分かってるの?)」


『怪我は承知の上です!』


「…………はぁ」


 エメラルドさんは渋い顔でため息を吐き、怖い顔を私に向ける。



「あのさ、一言いい?僕が心配で付いて来るつもりなら、それはありがた迷惑って奴だから。確かにこの周辺の状況や敵の位置が分かるのは便利だろうけど……それなら僕にもできるから」


『でも……!』


「僕の為を思うなら留守番しててね、邪魔だよ」



 エメラルドさんはそう冷たく言い放った。


 どうやら今のエメラルドさんは本音で話をしているようだ。私の事を心から鬱陶うっとおしいと思う気持ちの中に、ほんの僅かだが私を心配する気持ちも混ざっている。


 恐らくだが、私の覚悟がエメラルドさんには全く伝わっていないのだろう。多分エメラルドさんから見た私は、意味も分からず仕事についていこうとする子どもの姿に見えているのかもしれない。


『私は本気です!』


「よく言うよ。さっきまであの場にいたモヨはまともに動けてなかったのに、それでも僕のサポートが本当に出来ると思ってるの?」


『私1人ではまともに戦えないだけで、戦える方をサポートするなら……』


「今まではちゃんとした環境でサポートしてたんだろうけど、今から飛び込む先は何が起こるか分からない無法地帯だからね。そんな環境でも今まで通りにサポートできるの?」


『(どれも正論でまともに言い返せない……)』


 私の本音はエメラルドさんの心に中々届かない。そうこうしてるうちにエメラルドさんは外に出る為の身支度を終えてしまった。


「此処で時間を潰すのも惜しいから、僕は行くよ。改めてはっきり言うけど、このまま僕に付いて来たらモヨは死ぬよ。此処で全部終わるまで待てば最悪、シルクが生き延びてもモヨは痛い思いせずに生き残れるからさ」


 シルクが生き延びても…………?


『…………それって、死ぬ予定を先延ばしするだけですよね』


「ん?」


 私の一言にエメラルドさんが反応する。


『チーターになったシルクさんが相手では、この場に居たって助かる保証はありません!此処でいつ死ぬか分からないまま何もせず震えるくらいなら、エメラルドさんのサポートとして付いていって死ぬ方が何倍もマシです!』


「…………」


 私の言葉に対し、エメラルドさんはただひたすら真顔で私の顔を見つめる。


『それに相手は力を得たばかり、まだ力を把握しきれていない可能性もあります。相手が弱いうちに仲間を集めて叩くのがいいに決まってます!』


「何でそこまでして……モヨは、この場にいる皆んなの為に戦うの?」


『それもありますが……これは、私の為でもあるんです』


 此処でエメラルドさんは私に身体を向ける。どうやら先程の私の言葉に少なからず興味を示したようだ。


「ヒカリダマのモヨが人のために動いて何の為になるの?」


『最終的には私の為になります。私は…………ヒカリダマには、まともな攻撃手段が1つもありません』


 エメラルドさんの意地の悪そうな言い方に、私は表情1つ変えずに答える。


『せいぜい強く光って目くらましをする程度です。だから私は、私より強い相手である人間にくっ付いて生き延びる手段を選びました』


 此処は本音でぶつかった方がいいと判断した私は、下手な嘘を混ぜず正直に話をする。


『人間と仲良くなって、人間にとって有益な存在になれれば私は人間に保護されるようになります。その作戦は優しい人間のお陰で上手く行きました。今現在、私はギルドで優しい人間に保護されながら幸せに暮らしています』


 エメラルドさんは無言で私を見つめる。


『私は人間が好きです、ですが私は人間の為だけに死ぬつもりは一切ありません。私は今までも、これからも、お互いに利用し合いながら人間と共に生きるつもりです。これが私の本音です』


 私は本音を包み隠さず話し終えた。エメラルドさんは無表情で私の顔をじっと見つめ、やがてその重い口を開いた。


「…………分かったよ」


 エメラルドさんの心から、私に対するイラつきがだいぶ消えていた。


「そこまで考えられる頭があるのなら、僕はもうこれ以上は何も言わない。モヨがそこまで言うのなら、僕について来てもいいよ」


『ホントですか!』


 エメラルドさんは私の同行を許可してくれた。どうやら私の話はエメラルドさんに通じたらしい。


「お互いに利用し合おうって事で。もしモヨが使えなかったら問答無用で見捨てるからね」


『それで構いません!』


 エメラルドさんは魔法の腕がかなり良いようなので、きっとシルクさんを倒す足掛かりになってくれるはずだ。


『あっ、そうだ!エメラルドさんって補助魔法は使えますか?』


「使えるよ。いつもスカイダイヤの仲間のサポートをしてたからね、それなりに腕はあるよ」


『好都合です!実は、外にいる大量のキメラを何とか出来そうな良い作戦を幾つか思いついたのですが……とりあえず宿の外に付いて来てください!』


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