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12話 宿屋へようこそ!

「別に要らないなら離れればいいし、必要ならモヨの中に入れてあげられるわ。さあ、宿泊スペースが欲しい人は私の前に来なさい!」


 安全地帯の中、宿泊スペースに入れない冒険者達の前でフーラさんは声を張り上げる。だが……


「来なさいって……まさかその扉の先に広い空間があるとか言わないよな……?」


「その通りよ。扉を開けて入るだけ、簡単でしょ?」


「いや、それはちょっと……(大丈夫なのか……?)」


 フーラさんは冒険者達に私の体内に入るよう勧めているが、私を初めて見るであろう冒険者達は私に対して困惑の色を見せている。そんな中……


「あー、それって最近噂になってるモヨって子?見せて見せて」


「へぇー、君があのグリーンタウンギルド公認マスコットのモヨさん……」


 先程まで騎士アランと言い争いをしていたギルド関係者の2人が興味津々で私に近付いてきた。


『はい!私の名前はモヨです!』


「ミミンだよ、宜しくね。隣にいるのはミミンの友達のウルちゃんだよ」


「モヨさん、宜しく」


『宜しくお願いします!』


「元気いっぱいなのは良い事だよ。いやぁ、まさか常に予約で埋まっているあの有名なモヨに出会えた上に、体内に入って宿泊まで出来るなんてねぇ」


『何も無い空間にテントを設置して宿泊するなら無料です!お金があれば、レストランのある宿屋に泊まる事もできます!』


「フカフカのベッド好きだから泊まる〜。モヨちゃん、扉開けていい?」


『どうぞ!』


「じゃあお言葉に甘えておじゃまするとしよう」


 ミミンさんが扉を開け、トコトコと中に入っていく。その後に続いてウルも扉を通って宿屋に入った。


「ひろーい」


「これはいいねぇ。手入れも行き届いているし、この木の良い匂いはとても落ち着くよ」


 ミミンとウルが奥へと進んでいく中、外にいる冒険者達は扉の向こう側に見える宿屋に驚きざわついていた。


「すげぇ……ホントに宿屋がある……」


「しかも結構綺麗じゃん……」


「ってか、このぬいぐるみみたいな奴ってモヨだったんだな。前に先輩から話を聞いてたが、実物を見たのは初めてだ」


「あ、俺も噂で聞いた事ある。サポートが優秀だとかなんとか……」


「でも、何でアイツの身体の中に宿屋があるんだ?魔法で宿屋と繋げてるのか?」


 どうやら一部の冒険者は私の事を噂で知っていたようだ。更に体内にある新築の宿屋を見て、段々と警戒が解かれていくのが分かった。


「ギルド関係者のミミンちゃんとウルさんが入っていったなら、きっと安全……だよな?」


「……よし、俺もモヨの宿に泊まらせてもらうとするか」


「俺も!ベッドで眠れるのはありがたい!」


 1人が宿屋に入ったのを皮切りに、冒険者が次から次に宿屋へと入り受付に列を作り始めた。


 ミミンさんとウルさんが受付を済ませてカウンターから離れると、その次に並んでいた大柄な冒険者がカウンターに近付いてきた。


『いらっしゃいませ!』


「えーっと、1泊の値段は……えっ?ここ風呂あんの?」


『各部屋に1つずつあります!お風呂関連のグッズも色々販売しているので、欲しいものがあったら周りにいる私にお気軽にお声掛けください!バスタオルの貸し出しもございます!』


「へぇー!じゃあさ、そのグッズの中に匂い消しみたいなやつもあったり……?」


『勿論ございます!』


「マジかよ!」


「(へぇ……風呂あるんだ……)」


「(さっきスライムに体液ぶつけられて変な匂い付けられたし、俺も後で匂い消し買いに行こ……)」


 周りの冒険者達は、部屋ごとにお風呂があると知って心の中で歓喜しているようだ。疲れも取れるし、魔物に付けられた匂いや呪いの類いを簡単に落とせるので冒険者にとっては本当にありがたい存在なのだろう。


「おい!此処の道具屋すげーぞ!防具の手入れ用の最新グッズが沢山あるぞ!」


「(武器や防具の手入れができるスペースが各部屋にあるのか、凄いな……)」


「へぇ、ここ食料売ってるのか」


「(あちこちに綿毛がいっぱい歩いてるけど、1匹お土産として持って帰れないかな……)」


 ミミンさんが来て信頼が上がり、更にお風呂や道具屋があると聞いた冒険者達は、全員揃って私の宿屋に入ったようだ。


「なあ、防具を修復する道具あるか?」


『はい!道具の類なら道具屋にいる私にお声を掛けてください!』


「失礼する。此処に保存食などはあるか?」


『あります!道具屋、レストランの近くにあるお店にてギルドオリジナルの保存食がございますので、是非足を運んでご覧ください!』


「それはいい。後で行ってみるとしよう」


 お陰でとても賑やかになり、私も大忙しだ。


「すいませーん。ちょっとケガの治療をしてほしいのですが……」


『はい!丁度私の体内に錬金術師の方が居るので、その方に声を掛けて治療をお願いしてみますね!』


「怪我の治療する先生それで合ってるんですか?僕の身体魔改造されたりしないですよね?」


『医療の類も出来る先生です!本来は私の先生として来てくれた方でしたが……もし怪我した冒険者が宿に来た際にはタダで診察してやると言ってました!』


「お金払うのでごく普通の治療でお願いします」



 数十分後……



「ほー、この装置はこうやって使うのか……教えてくれてありがとな」


『どういたしまして!』


 尋ねてくる冒険者もだいぶ減ってきた頃。仮の安全地帯を作りに外に出ていたフーラさんのパーティとミミンさんウルさんが宿屋に戻ってきた。


 カラさんとアマリリさんはフーラさんと軽く会話をしてからこの場を離れ、場に残ったフーラさんは私に声を掛けてきた。


「繁盛してるみたいね」


『あっ!皆さん!お帰りなさい!』


「ただいま。それにしても……心なしか、宿屋にいる冒険者達がとても穏やかに過ごせているように見えるよ。きっとモヨさんの対人能力が高いお陰で、皆んな心穏やかに過ごせているのかもしれないねぇ」


「あ、それ私も思ってた!モヨって人をあしらう能力が結構高いと思ってたのよ!(特に初心者の相手が上手だってギルドスタッフも言ってたわね)」


『いえ、それほどでも……皆んな優しい人ばかりだから良い空気になってるんだと思います!』


「謙遜しなくてもいいじゃない。モヨの力は本当に素晴らしいんだから…………モヨ、照れ隠しの発光はもう少し抑えてくれると助かるわ」


『あ、すいません』


 ウルさんとフーラさんに褒められ、私は光を抑えながら分かりやすく照れた。


『あの、所で……』


「ん?モヨさん、何かな?」


『ウルさん、何でアランさんを誘拐したんですか……?』


 数分前に仮の安全地帯を作成している最中の事。ウルさんがフラフラと何処かへと消えたかと思ったら、ボコボコになったアランさんを抱えながら戻ってきた。


 何の説明も無く怪我人を連れてこられて困惑したが、ウルさんは説明を一切してくれなかった。


「ああ、これの事かな?冒険者達とちょっと会話していた時に、この…………バラン?って人が道行く冒険者達を押して壁画にしたって聞いたから、それに関して少し事情聴取をしたいと思ってねぇ」


 そう言うとウルさんは袋の口を開けて逆さにして、中から気絶したアランさんを放り出した。唐突に怪我人を放り出されたので思わず『ヒッ!』と、小さな悲鳴を上げてしまった。


「あ、因みに相手にはバレてないから大丈夫だよ」


『事情聴取したいからって、こんなボコボコにしなくても……』


 それにしても、あの重そうなアランさんを軽々と扱うなんて……ウルさんはあの華奢な見た目に反して物凄く力持ちみたいだ。


「モヨ。一見するとかなり奇妙な行為に見えるかもしれないけど、心配しなくて大丈夫よ。これ、かなり真面目なやつだから」


『えっ?フーラさん、それはどういう……』


「うん。もし私の憶測が正しければ……下手したら、エミル達が全員逮捕になるかもねぇ」


『ええっ!?人を壁画にしただけでですか!?』


「私が注目したのは彼の力かな。まあ、とりあえず彼から話を聞く為にも、空いてる部屋を使わせてもらうよ。これに関して、何か注意事項はあるかな?」


『え……えっと……せめて、此処を事故物件にするのだけはやめていただきたいです……』


「大丈夫、彼は簡単には死なせないよ」


 何が大丈夫なんですか!?


「じゃあ、此処で失礼するよ」


『あっ……は、はい!』


 一瞬返答に迷ったが、犯罪に関わる大事な事を下手に止めるのも違う気がしたので、此処はスルーする事にした。


「モヨさん、ミミンを頼んだよ」


 ウルさんはそう言い残すと、袋に詰め直したアランさんを連れて上の階へと上がっていった。この場に私とフーラさんとミミンさんが残った。


「さてと……とりあえず晩御飯食べに行きましょ」


「ミミンも晩御飯食べる〜」


 そう言うとミミンさんは、何故かレストランのある方に背を向けて歩き出した。


「あら?ミミンはレストランで晩御飯を食べないの?」


「ミミンは持って来たビスケットがあるから、それ食べるの」


「ちょっと待ちなさい!あんたまさか、ビスケットだけで晩御飯を済まそうと考えてんじゃないでしょうね!?」


「え?ミミンはビスケットだけで充分だよ」


「充分じゃないわよ!ビスケットだけじゃ栄養不足じゃないの!……因みに聞くけど、あんたは野菜はちゃんと食べれるの?」


「チーズサラダ食べれるよ」


「……嫌いな野菜は?」


「ピーマン、パプリカ、豆、トマト、人参、ネギ……」


「食べれない野菜が多すぎるわよ……」


「でも魚は好きだよ?」


 どうやらミミンさんは嫌いな物が多いようだ。


「それじゃあこのレストランで食べれる物も限られて……いや、もしかしたら無いかもしれないわね……」


『いえ!大丈夫だと思います!ミミンさん、好きな食べ物はなんですか?』


「えーっと、サーモンと、お肉と……あ、オムライスは好きだよ」


『それは良かった!このレストランにも美味しいオムライスがございます!チーズサラダもありますよ!ミミンさんのご要望があれば、料理に含まれる材料の変更も可能です!」


「ホント?じゃあ、オムライスに豆入れるのはやめてね」


『豆は入ってません!えーっと……ミミンさんは玉葱とか食べれますか?』


「玉葱、歯応えあるのは嫌い」


『分かりました!』


 とりあえずミミンさんの要望に沿って、ミミンさん好みの料金を出してみる事にしよう。これならミミンさんも今日だけは、バランスの良い晩御飯を食べる事が出来るだろう。


「……この宿屋の空気が良い理由がよく分かったわ」


『え?フーラさん何か言いましたか?』


「何でもないわ。さ、ミミンの気が変わらないうちに急いでレストラン行きましょ」

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