11話 貴族の被害者達
ブルーベリー鉱山のダンジョンにて……
「5階に到着したわよ!」
「思ってたより早く辿り着けたな……」
とにかく進行優先で進んだフーラ達は、予定よりも早く5階へと到着した。
魔物だらけの通路を避けたり、避けられない通路をうろついていた魔物の群れに対して「あっち行け」ってテレパシーを飛ばして指示を出して退散させたりと、私も色々と頑張った事もあり、フーラさん達は殆ど戦闘をせずに此処まで来れた。
今は小さな安全地帯で、私の体内の宿屋で休憩中。フーラさん達は私が出した軽食と飲み物をつまみながら、ダンジョンで手に入れたアイテム片手に軽く談笑をしていた。(因みに、初めて宿屋に入ったフーラさんは超ハイテンションで室内を駆け回っていた)
「モヨが探知して教えてくれたお陰で、レアな魔物に何回か遭遇できたし、壁に埋もれてた高価な宝石も回収出来たな」
カラさんは目の前に転がる綺麗な大粒の宝石を横目に、念入りに銃の手入れをしている。
「これだけあれば高価な魔導書も買えそうです……!あの、フーラさん……」
「勿論良いわよ!アマリリが欲しい本も買うし、何なら全員の装備も良い物に改良できそうね……」
紅茶を片手におねだりをするアマリリさんに対し、フーラさんは満面の笑みで答えた。
「……なあフーラ、これだけ高価な宝石が手元にあれば、フーラが欲しがってる武器も簡単に入手できるんじゃ……?(出来れば6階まで行きたくないなぁ……)」
「帰らないわよ。こういうのは自分の力で手に入れてこそ価値があるんじゃないの。カラ、行く前はあんなに意気込んでたのに、もう怖気ついたの?」
「うっ……そりゃ最初は俺も乗り気だったけど……(いざダンジョンに潜ってみると物凄く怖いなぁ……)」
「大丈夫ですよカラさん。いざとなったらモヨさんの体内に隠れられますし、致命傷を負っても治療室ですぐ治してあげられますから……!(モヨさんの宿屋のお陰で、助けられる可能性はぐっと高くなってます!)」
「このダンジョンだと一瞬の油断で致命傷負うかもしれないからなぁ……」
「安心しなさい。カラみたいな臆病な人間こそ1番生き残りやすいのよ、もっと臆病者である事を誇りに思いなさい」
「そうですよ、カラさんの危機管理能力は私も素晴らしいと思ってますから……!」
「何か褒められてる気がしないなぁ……」
「私なりに真っ直ぐ褒めたつもりよ。さて、そろそろ出発するわよ!」
「あっ……はい、分かりました!」
フーラさんが真っ先に元気よく立ち上がり、それを見たアマリリさんも慌てて立ち上がった。
「今日のうちに5階の奥の宿泊スペースまで行くんだったよな?」
カラさんは手入れした武器を手にしながらフーラさんにそう尋ねた。
「そうよ。モヨがいるから宿泊先を借りたり、テントや小屋を組み立てる手間は無いけど、それでも早めに向かいたいのよね……(あの金持ちの事もあるし)」
「あの……モヨさん、出口はどちらに……?」
『宿屋の出入り口から外に出られるようにしました!』
「ありがとうございますっ!」
フーラさん達は扉を開けて外に出た。外の安全地帯で休憩していた周りの冒険者達は口をポカンと開けながらフーラさん達を見つめているが、フーラさんは特に気にする事もなく先へと進み始めた。
「モヨ、この周辺に怪しいものは無い?」
『今の所、何もありませんね……』
真っ暗な道中を、特殊な光が灯るランタンで照らして進む。私の明かりを使ったら魔物に発見されるので普段は光らないようにしてるが、今は周りに魔物は居ないので少しだけ光っている。
『何もない、と言うより……何故かは分かりませんが、不自然なほどに道が空いてます……』
「きっと金持ちの奴が最新機器を使って魔物共を無理矢理蹴散らしたんでしょうね……」
「俺達がのんびり休んだりしている間に、貴族の団体に先を越されたって訳か」
『多分そうだと思います!皆さんが休んでる間に、人間の群れが物凄い速さで先に進むのを確認してました!』
「多分貴族達は奥の安全地帯にある宿泊スペースに急いで向かうつもりね……何だか嫌な予感がするわ、私達も急ぐわよ!」
「はいっ!」
「おいおい、嫌な予感って……流石に名のある貴族がそんな迷惑掛けるような真似はしないんじゃ……(考えすぎじゃないのか……?)」
「普通の貴族なら、出入り口で一般人と揉めたりしないでしょ!あいつら、絶対に奥の安全地帯で何かしらトラブル起こすわよ!」
そんな事を言いながら、フーラさん達は駆け足で先を急いだ。だが、私は急ぎの道中で壁に妙な物を発見してしまった。
『フーラさん!壁!!』
「何?宝石見つけたの?」
『違います!人です!!人が埋まっています!!』
「はぁ!?人!?」
『あの先の、右の壁に半分埋まってます!!』
「どう言う事だ?」
フーラさん達は急停止し、壁を見つめながらゆっくり進んだ。私は手の先から強めの光を出し、その光を壁に向けた。
「……………………」
光の先に、岩の隙間に押し込まれ壁画のようになった冒険者の姿があった。
「何これ……」
「あっ!道側から声が聞こえる!」
フーラの声に反応した壁画の冒険者は、急いで顔をこちらに向けた。
「なあそこの人!俺が今どうなってるのか教えてくれねぇか!?」
「壁画になってるわよ」
「何っ!?まさかさっきの鎧の奴、見た目に反して呪い専門の魔法使いだったのか!さては人に呪いを掛けて絵に変換するタイプだな!?」
『えっと……絵になってる訳じゃなくて、シンプルに壁にめり込んでるだけですよ……』
「壁……まさか押された拍子に壁にめり込んだって事か?でもそれは流石に非現実過ぎないか……?」
「絵に変換出来る呪い持ってる魔法使いの方が非現実的よ……ほら、助けてあげるから大人しくしてなさい」
フーラさんは呆れつつも、細かいジャブで器用に壁を壊して冒険者を救出した。
「いやー助けてくれてサンキュ!俺の名前はルン!よろしくな!」
壁から出て来た冒険者は犬族の男だった。彼は頭の犬耳をピコピコさせ、藍色の綺麗な髪を整えながら自己紹介をしてくれた。
「私はフーラ。そこにいる魔法使いのアマリリと銃持ってるカラと、ギルドで雇ったオオヒカリダマのモヨと一緒にこのダンジョンに来たの。ルン、壁に埋まる前に何があったの?」
「道を歩いてたら、遠くから騎士に囲まれた貴族が来てさ……それをぼーっと見てたら騎士の奴にドンと体を押されて……」
「きっと、出入り口で見たエミルとか言うあの貴族達の仕業ね……」
「あ!あの騎士もエミルって言ってた!きっとそれだ!」
ルンさんは革手袋で覆われた両手をブンブン振りながら飛び跳ねた。どうやらルンさんは貴族の被害者だったらしい。
「なあなあ!俺はこの階の奥にある大きい安全地帯に行く予定なんだ!フーラ達もそこ行くよな!?折角だから一緒に行こうぜ!」
「いいわよ。私達もそこに向かう予定だったし」
「やったー!!」
ルンさんはその場で飛び跳ねて大喜びした。そしてフーラさん達はルンさんと一緒に移動を再開したのだが……
『フーラさん!また壁に人が埋まっています!』
「また?」
私が再び明かりを壁に向けると、ガタイの良い男性が妙な姿勢で壁に埋まっているのが見えた。
「何なのよコレ……」
「あ?どう見たって壁に埋められてるって分かるだろ。あー、でもお前は見たところ武術家っぽいし、見ても何が起こってんのかわかんねーのか」
「初対面の相手に随分な物言いね」
「おいおい、初対面に対してその言い方はないだろ(何だコイツ……)」
「言葉が乱暴過ぎますよ……(荒々しい人……)」
フーラさん達はただ冒険者を見つめ、ルンさんはグルルとうなり声を上げながら相手を警戒している。
「おい脳筋、そんな無駄話してる暇あったら俺を助けろ。流石のお前でも次に何すればいいのかくらい分かるだろ」
「分かるわよ。ここから更に奥へ押し込めばいいのね?」
「ちげーよ!!武術の連中は何でそんな物分かりが悪いんだよ!!」
相手は初対面である筈のフーラさんに対して物凄く失礼な物言いをしている。
「こんなヒビの中に押し込められた奴を見たら次に何をするべきか分かるだろ!!」
「分かるわよ」
フーラさんは無表情のままアマリリさんに顔を向けた。
「アマリリ、これ以上被害者が出る前に岩の隙間を全部綺麗に埋めて。今すぐ」
「えっ!?いいんですか!?」
「良いわけねーだろ!!」
「良いわよ、綺麗に埋めちゃいなさい。私が全て責任取るわ。もしやり辛いなら私が……」
「ヤバい!その目はガチでやるやつだ!!ごめんさっきのは全て冗談です!!困ってるので助けてください!!」
「最初からそう言えばいいのに……ふんっ!!」
一瞬で弱腰になった冒険者に呆れながらも、フーラさんは壁を破壊して冒険者を助け出した。
「あたた……ようやく出られた……」
弱腰の冒険者は身体のあちこちに怪我をしているようで、所々に手を当てながら壁から離れた。
「はぁ……アンタ、怪我はない?今こっちは余裕あるから、アマリリに言えばある程度は怪我を治してあげられるわよ」
「は?何で……?」
「何で、って……余裕あるから助けるって言ってんでしょ」
「…………俺、アンタに色々言っただろ」
「そんなの一々気にしてられないわよ。で、怪我は?」
「…………大丈夫。えっと……さっきはごめん……」
「謝るくらいなら最初からあんな事言わないでちょうだい」
この後フーラさんはアマリリさんと一緒に、大人しくなった冒険者の手当てをした。
その後に軽く会話をした結果、彼もエミルの被害者である事が判明。話の流れで何やかんやで、彼も一緒に安全地帯に向かう事になった。
「いや、本当に申し訳ない……俺、昔から武術家と相性が悪くてな……今まで出会った武術家はどいつもこいつもアホばかりで、良い思い出が無くて……」
絵を描いて魔法を発動させるタイプの魔法使いのヤツメさんは、手当てをされた後頭部をさすりながらフーラさんに対して謝罪をした。
「その出会った武術家と私は無関係じゃないの。アンタまさか、今まで出会った他の武術家達に対しても、初対面からあんな態度取ってたんじゃないでしょうね……」
「……もうこんな態度を取るのはやめる」
「そうね、悪態つくならせめて何かされた時にしなさい。むしろその態度のせいで武術家との関係が更に悪化してるんじゃないかって思ったもの」
「そうだそうだ!お前、初対面の相手に対してめちゃくちゃ感じ悪くするの良くないぞ!」
「すまない……」
フーラさんには呆れられ、ルンさんからは怒られ、さらにへこむヤツメさん。
「フーラさんは今まで出会った武術家とは違って話も聞いてくれるし、暴力振るわないし、ちゃんと気遣いとかしてくれるし……」
「アンタが知らないだけで、この世の中には良い武術家が沢山居るわよ。良い貴族と悪い貴族が居るようにね……あ、見えたわ。あそこに見えるのが宿泊スペースのある安全地帯よ」
フーラさんが指を刺した先に、お目当ての安全地帯があった。
だが、安全地帯の前にそこそこの数の人だかりが。どうやら安全地帯の宿泊スペースを巡って言い争いが発生しているらしい。
『奥から会話が聞こえてきます。話を聞くにどうやら、エミルさん御一行が宿泊スペースを占拠しているようです……』
「はぁ?!皆んなが使う宿泊スペースを占拠ですって!?何してんのよあの貴族!!」
『しかもダンジョンの管理をしに来たギルド関係者とも言い争いしているようです……』
「はぁ……モヨ。詳しい内容は分かる?」
『えーと……冒険者達は「一晩宿泊する為に安全地帯の宿泊スペースに入りたい」と言っているのですが、貴族側は「宿泊スペースには来るな。泊まるなら安全地帯の余ったスペースでやれ」とか言って……』
「酷いな……」
『で、ギルド関係者は安全地帯の点検と修理?をしに来たと……それに対して貴族側は、「女性だけは怪しい」とか「一般人を入れるつもりは無い」とか……』
「ギルド関係者の点検を拒否するのは流石にやり過ぎよ!私、文句言ってくるわ!!」
「おい待て!やめとけフーラ!(またコレかよ!)」
「フーラさん!他人を思いやる気持ちは分かるが、あのエミルは下手に刺激しない方がいい!アイツは性格最悪だから何されるか分かったモンじゃない!」
「そうだ!フーラは平気でも、もしかしたら周りにいる冒険者もとばっちり喰らうかもしれないぞ!」
「……私だけならいいけど、他の人に矛先が向くのはダメね。文句言うでも、とりあえず休憩地点には近付いてみましょう」
エミルの事情を知っているらしいヤツメさんとルンさんに説得され少し落ち着いたフーラさんは、とりあえず全員で休憩地点の様子を伺う事にしたようだ。
素知らぬフリをして人だかりのある休憩地点に歩いて行く。近付くにつれて怒声や戸惑いの声が大きくなっていく。
「だーかーらぁ、ミミンが結界とか色々貼り直さないと、皆んなが安心して安全地帯を使えないって言ってるでしょ?ホラ、ギルド関係者だっていう証拠も持ってんだよ?分かる?」
大きな帽子を被った派手で可愛い女の子が、エミルの仲間の騎士アランに対して上目遣いで会話をしている。
「お前のような小娘がギルドの関係者だと?もう少しまともな嘘をついたらどうだ」
対するアランは、そんな女の子に対して冷酷に対応している。
「嘘じゃないもん。宿泊スペースの中にある魔法陣使って結界貼り直したいだけだよ」
「お前のような怪しい奴を宿泊スペースに入れるつもりは無い。諦めろ」
「ケチー。ちょっとは入れてくれてもいいじゃん」
「まあ、『僻地で美人を見たら魔物だと思え』とはよく言うけどねぇ……でも、宿泊スペースを占拠して冒険者を追い出すのはやり過ぎだよ?」
そんな可愛らしい女の子の隣には、これまた可愛らしい科学者風のファッションの女の子が。
「やり過ぎだと?本当は安全地帯を封鎖しようとしていた所を、エミル様は宿泊スペースのみで勘弁してくださった。逆に感謝されるべきだ」
「ぶーぶー」
「あのねぇ……安全地帯は皆んなのスペースなんだよ?それを勝手に占拠しといて感謝しろだなんて、随分な暴言だとは思わないのかな?」
「勝手に言ってろ」
アランは最後にそう言うと、直立したまま無言になった。どうやら見張り役として此処に立ち、部外者を入れないようにしているようだ。
「どーすんだよコレ……」
「安全地帯だけじゃスペース足りないよ……」
「そもそもこの安全地帯も点検しないと危ないんだろ?此処に居るのも危なさそうだ……」
安全地帯から先にある宿泊スペースに入れない冒険者達は全員困り顔でぶつぶつ文句を垂れている。
「どうしたの?」
そこにフーラさん達が事情を知らないフリをして混ざる。
「あ、お前も宿泊スペースに来たのか?実はさっき、ブルーバード・エミルって貴族が来て……この先にある安全地帯を占拠しちまったんだよ……」
「だから俺達、他の安全地帯に避難しようとしてるんだ。此処も宿泊スペース以外なら泊まれるとは言うけど……」
「この安全地帯は点検前、しかも安全地帯の中に魔物が入り込んだかもとか垂れ込みがあったって噂があったり無かったり……だから此処も危険かもしれなくてな、だから俺達は此処とは違う安全地帯まで戻って寝泊まりする場所を確保するつもりなんだ」
「大変そうね……」
「他人事みたいに言うなぁ……あーあ、折角此処まで来たのに!何であんな奴のせいでこっちが割食わないといけないんだよ!」
「でも反撃したら何されるか分かったもんじゃあないぜ。アイツの嫌がらせは一般人も巻き込むからなぁ……(だからアイツは選ばれなかったんだけどな)」
どうやら冒険者達は今日泊まる所を探しにあちこちに散らばる所だったらしい。
「泊まるスペースねぇ……分かった。私が何とかしてあげる」
「えっ?(何言ってんだ?)」
「どう言う事?(何とか出来るの?)」
フーラさんの提案に、相手も味方も困惑している。
「泊まれる安全な所さえあれば良いんでしょ?なら何とかなると思うわ。正確には私の力じゃないんだけど……モヨ、これだけの人数を入れても大丈夫?」
『勿論大丈夫です!では早速……はいっ!』
フーラさんのやりたい事を何となく察した私は、その場で大口を開けて扉を出した。
「何だ……?」
「扉……?」
ルンとヤツメ含む周りの冒険者達は口から扉を出した私に対し、戸惑いざわついている。
「この扉の向こうにはテントを出せる広い空間があるわ。宿屋もあるし、様々な施設も内蔵されてるのよ。モヨが入れる小さな安全地帯さえあれば、全員安全に一晩を過ごせるけど……どうする?」
どうやらフーラさんは、周りの困っている冒険者達に宿泊できる場所として私の体内を勧めるようだ。
「そんな馬鹿な……」
「俺達をからかってるのか?」
「本当よ。別に要らないなら離れればいいし、必要ならモヨの中に入れてあげられるわ。さあ、宿泊スペースが欲しい人は私の前に来なさい!」




