「久しぶり。」
3
ピンポーン
間抜けなチャイムの音が鳴る。
田舎 民家 で画像検索すれば出てくるような見てくれの家。俺の家。
しきりに汗を拭いながら、中から人が出てくるのを待つ。
久しぶりの自分の家をまじまじと観察する。あの駅ほどではないものの古くなった木造の平屋、庭に植わっている琵琶の木、玄関の横に置かれている植物の植わっていない鉢植え、五年前と殆ど変わっていない、唯一変っているものと言えば琵琶の木が成長したぐらいだ。
ガラガラガラ
扉が勢いよく開く。
「どちらさ――あら、あんた遅かったわね」
俺の肩程の身長の女性、俺の母親。
「電話では話したけど、久しぶり」
「そうね、久しぶり。取り敢えず中に入りなさい」
母は踵を返し家の中へと帰っていく。……久しぶりに息子を見るのに少し冷たくないだろうか? こんなものなのだろうか。
少し寂しかったがこの高気温から一刻も早く逃げたかったので、とっとと中に入ることにする。
ああ、懐かしい廊下、懐かしい匂い。なんだか、駅に降りてからずっと懐かしいとばっかり思っている気がする。
靴を脱ぎ、今まで転がしていたキャリーバッグを持ち上げて、居間へと向かう。玄関に入ってすぐ右にあるトイレの扉を通り過ぎその奥にある、所々茶色いシミのある襖を開ける。
襖を開け、眼に入ってくるのは色褪せた畳、その上に座椅子に座る禿頭の男。俺の親父。母の姿は無かった台所にお茶でも入れに行っているのだろう。
親父は、テレビを見ていたが首をこちらに回し俺を見る。俺は口を開く。
「久しぶり、親父。ただいま」
親父はムスッとした顔のまま、口を開く。一言だけ。
「お帰り」
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