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0 破壊の光

「……ひひ」


カタカタと薄暗く魔導具の薄暗い光しか光源の無い部屋で無機質な音が響き続けている。


「ひっ……ひひひひ」


そこに合わさるのは無機質とは言い難い多分に欲望を孕んだ男の声。

声自体は青年くらいの声ではあるもののその多分に含まれた欲望のせいで少年よりの声であることは間違いない。

そんな声を発する男が一心不乱に魔導具に己の十本の指を叩きつけていた。


「よーうやく完成だねえ」


どこか間延びしてふざけたような口調。

嬉々とした笑みを崩さず魔導具から男が顔を上げればそこには訳の分からない液体の中に入れられた管にがんじがらめにされた少年の姿があった。

ごぽりと口元から気体が生まれていることが少年が生きていることを証明している。


「さーすがにこれだけ混ぜれば成体として安定させることは不可能とはねえ。混ぜれば混ぜるほど若返るのはある意味では貴重な資料となったよ」


男が指の動きを止めた。

それと同時に画面に表示されたのは『オールグリーン、調整完了の文字』。

歓喜が、快感が全身を突き抜けたかのように男の体が震えだす。


「ひゃはっ!わたすぃの人生全てを捧げて得た贄全てを注ぎ込んだ最高傑作!今こそ目覚めよ134652号おおおおおっ!」


その数字の多さが男の業の深さをうかがわせた。

力強く叩きこまれた指が当たった場所にあるのは解放のボタン。

ぷしっと何かが抜けるような音と共に少年の体に付けられていたいくつのも管が抜かれて少年の体が液体の中へと解放される。


「っ!」


途端に少年の目が開かれた。

その目は明らかに常軌を逸しており、血走りなんて表現が生易しいほどに不自然に真っ赤に染まっている。


「あるれえ?解放したばかりで意識があるとはどういうことちみい?しかもこれ色々と混ざってて」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


研究者然とした男の声を遮るように空間を壊すような大声が響き渡る。

男には覚えのある、技であった。

それゆえに男は動くことができない、ことに男は自分の思考へと没頭しすぎているせいで気が付いてすらいない。

男の目の前の魔導具と液体が爆発するかのようにあたりへと飛び散る。


「暴走とは違うしねえ。ちみい一体何が起きて」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


びりびりと空間が震える。

魔導具のあった場所から少年が男へと向かって跳躍し、金属をもひしゃげそうな音を立てて握られた拳が群青色の光を纏って後ろへと引かれる。

そこでようやく男は自分が動けないことに気付いた。

それはつまり目の前の少年の攻撃から避けられないことを意味していた。


「あ、あるれえ?ちょっと待ってまだ奴属の魔法をかけてなかったんだけどもぎゃ」


目一杯、あらん限りの力が込められた少年の拳が男の頬へと命中する。

それと同時に群青色の光が意志を持ったように錐もみ回転して吹き飛ばされる男の周囲に纏わりついて……。


刹那、この世界が破壊の音に塗りつぶされる。

地下にあったと思われるこの場所に群青色の光の柱が夜の空へと突き抜ける。

運悪く上空に居た大きな猛禽類と雲は光の柱に呑まれて消えた。


柱から漏れる光の奔流が地下室にあったありとあらゆる物を破壊する。

風が嵐のように吹き荒れ万を軽く超える何かしらの生物の肉体であったと思われる物達をそこかしこにぶつけてから光の中へと吸収し、それでエネルギーを得たかのように群青色の光の柱が激しく明滅しては中に入った一切合切を消し飛ばす。


それが一分ほど続いただろうか。

突如として光が消え大地に大穴が空いたかと思うとよじ登るようにして中から裸の少年が出てきた。

そして力尽きたかのように大穴の縁の地面へと裸のまま倒れ込む。


既に少年の目は人間と同じ白目と黒目に戻っていた。

若干茶色がかっているのはこの土地に住む人間の血が多分に含まれているからには違いないだろう。

その目はどこか無気力でありながら確かに意志が宿っていた。


「ここ、どこだよ?」


しかしながら少年は先ほど自分がしでかした天変地異もそれまでの自分がどのように生きてきたかの過去さえも覚えてはいなかった。

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