野外コンサート3
頭の中をカッカさせながら、わたしは舞台裏に戻った。
多分、顔は真っ赤だし、髪の毛だって逆立ってるかもしれない。
そこで、急にハッとして、まだシンと静まり返っている舞台の上にギターを忘れてきたことを思い出した。
それに、進行役の女の子のステッキを壊してしまった。
――・・・ど、どうしよう。
徐々に冷静になってくると、自分のしたことに今度は青ざめる。
歌を歌うという責務は果たした。それはよし。いや、よくはないけど、まぁいいことにする。
プラム・ラヴァーシュタインとかリア・コーラルの呆けた顔も見れたことだし、後悔はしていない。
けど、他の人たちは・・・・・・どう思っただろう。
わたしは舞台裏の階段を降りたところで立ち止まり、おそるおそる顔を上げた。
舞台の裏に集まっている子たちが、わたしをプラムと同じようなぽかんとした顔で眺めていた。
中にアンバーとカニエもいる。
全員、まるで異星人が現れたような目をしている。
――ええっとぉ・・・・・・。
もしかしてみんな石化したとか、そういうことないよね? と思いたくなるぐらいの硬直っぷりだ。
わたしは呆気に取られている子たちから、そうっと顔を反らし、舞台の方を振り向いた。
それから、ギターを返してもらって、進行役の女の子に謝ろうと、のろのろと舞台へまた上がって行った。
階段をあっという間に上り切り、囁き声すらしない観客の前にまた姿を現す。
その直後――。
ドッと、耳をつんざくような音の波が押し寄せた。
座っていた人たちが立ち上がり、手を叩いたり、口笛を吹いたり、大声で何かを喚き出した。
「ハ・・・ハイ・・・?」
まるで音の洪水に押し流されたように、わたしは仰け反った。
観客席で立ち上がっているのは半数ほどで、残りの人たちは顔をしかめたり、まだ茫然としていたり、わたしを睨みつけたり、本当に様々な表情を浮かべている。
何が起こっているのかわからないまま、わたしは駆け寄ってきた進行役の女の子と見つめ合った。
「今のは何!?」
女の子が言った。彼女の紺色の目はきらきらしていて、頬も上気している。そして、彼女がわたしの肩をがしっと掴んだ。
その勢いに面食らって、わたしが無言で首を横に振ると、女の子は片手に持っていたギターを感激したように抱き締めて言った。
「すごいわ! すっごくかっこよかったわ!」
「・・・は、はぁ・・・どうも・・・」
日本人的な曖昧な「どうも」で返答する。
わたしは困惑しつつも、とにかくギターを返してもらって、一刻も早くここから立ち去ろうと思い、彼女に手を伸ばした。
でも、ギターを返してくれない。それどころか、わたしの肩を掴んだまま、舞台の中央へと押し出していく。
「あ、あの・・・ギターを・・・。それと、ステッキを壊してしまって」
謝ろうとしているわたしを無視して、女の子が興奮した様子で、まだ騒いでいる観客たちに向かって叫んだ。
「今まで聴いたことのないような歌でしたね、みなさん! 新たなムーブメントを起こしそうなこの可愛い四年生のパール・ブラックストーンさんに拍手ぅぅぅぅっ!!」
もういいってぐらいに、また大歓声が起こり、わたしは再び仰け反った。
――か、帰りたい・・・。
ふと見ると、プラムの顔が見えた。さっきまで呆けた顔だったけど、今はどす黒いオーラをまとって、わたしを睨みつけている。ううん、あの表情は睨んでいるというより、少し微笑んでいるから冷笑しているってところだろう。
――なんで笑ってるの、あの人。こ、怖いんだけど。
また何か悪いことを企んでいるのかもしれない。
わたしはぞっとして、視線を逸らした。
すると、最前列に座っているジェダイドとアラゴン、それに公王様と公妃様が見えた。
ジェダイドは口をへの字にして、とがめるような目でわたしを見ていた。
そして、アラゴンは立ち上がって、誰より盛大に拍手をしていた。時折、声援まで送ってくれている。
公妃様は朗らかな表情で座ったまま、にこにこしていたけど、王様は従者の男性とこそこそ何かを話している。ちらちらとわたしの方を見ているので、話しているのはさっきの歌のことだろう。
――無礼だとか、下品だとか、そういうことで問題になったりしないよね。
さっきは頭がカッとなっていたから、そこまで考えていなかったけど、もしかしてこの世界でロックは野蛮な歌で、不敬に当たるから逮捕するとかだったらどうしよう。
観客席をよく見ると、楽しそうな人半分、顔をしかめている人半分といったところだ。
後ろの方まで視線を滑らせたわたしは、ある一点を見つめて顔が強張った。
――クリスティーヌ!!
クリスティーヌは両隣の立ち上がって拍手をしている人たちの中に埋もれるように座っていた。
その顔は真っ青だ。まるで土人形みたいに見える。
――あああああっ、やっぱりわたし、やっちゃったんだ!!
わたしの血の気もどんどん引いていく。
そのとき、進行役の女の子が割れたステッキを拾ってきて、わたしの方へマイクのように向けた。
「ブラックストーンさん、先ほどの歌についてお聞きしたいのですが!」
わたしは慌てて、女の子の手からギターを奪い取った。
そして、ステッキの先に向かって、大声で謝った。
「すみませんでしたぁッッ!!」
その後はもう、転がるように舞台を降り、裏にいたアンバーとカニエの顔も見ずに、一目散に校舎の方へ走り出した。
足がもつれて何度か転びそうになったけど、ギターを壊したら大変なので、なんとかそれだけは注意して古い石造りの校舎の中へ飛び込んだ。




