ジェダイドの劇1
アラゴンの劇が歓喜と喝采の内に終わると、続いて下級六年生、上級一年生とプログラムどおりに進行していった。
三番目の上級一年生の劇が終わると、そこでジェダイドは席を立った。
自分が出る劇の準備をするためだ。
「がんばってね!」とわたしがガッツポーズを作って励ますと、さすがのジェダイドもちょっと緊張気味にうなずいていた。
四番目の劇が始まる。
気づいたんだけど、どうやら下級生も上級生も、劇の内容はわざとわかりやすいように作っているみたい。
ホールの子供たちの様子を見ていると、理由がわかった。
年少の子供たちのためだ。
七才や八才の子たちが観てもおもしろいと思えるように、難しい話はあえてせず、お姫様に騎士にドラゴン、精霊や悪い魔女、といった童話では定番の内容にしてあるのだ。
――そりゃまぁ、そうだよね。
――いきなりシェイクスピアのリア王とか演じられても、付いて行けないもんね。
それにしてもアラゴンの赤いドラゴンはかなり悪乗りしていたように見えた。
――前列の子供たちが大盛り上がりだったからいいのかな・・・。
子供向けの劇だけど、わたしも観ていておもしろいものが多かった。
魔法がところどころに使われるからかもしれない。
悪い魔女が人間をぬいぐるみに変えてしまうところや、お姫様の早着替え、精霊たちの踊りを光の球で表したり、ちょこちょこと魔法が使われている。
すっかり劇に夢中になっていると、あっという間に、わたしたちのクラスの番になった。
緞帳の前に出て来たピーター少年が紹介を始める。
「さあ、いよいよプログラムも後半です。みなさん、まだまだおもしろいお話が目白押しですよ。次は下級四年シルヴァーフォックス組の登場です」
ピーター少年が剣を構える格好をすると、目をきらきらさせ言った。
「『海賊ファルコンとプリンセススカーレット』。げに恐ろしき外海の海賊どもにさらわれた姫君と、立ち向かう騎士の結末はいかに!? 始まり始まり~~!」
段々、口上がうまくなってる気がする。
ピーター少年が舞台袖に引っ込むと、緞帳が上がり、港町の風景が現れた。
大道具がはりきったのか、他の上級生の舞台より立派に見える。
舞台上から吊り下げられたカモメとか、波を表す青と白の紙がゆらゆらと動いている。
そこに一人の騎士がやって来た。ジェダイドだ!
『ああ、大変なことになった!』
いきなりの棒読み。思わず、ふふっと笑ってしまう。
だけど、他の席からは拍手と歓声が上がった。
「ジェダイド様~~!」「ジェダイドく~~ん!!」なんて黄色い声に混じって、後ろの席から大人の「モルガナイト公国万歳!」なんて声も混じっている。
――ジェダイドって人気あるなぁ。
なんだかちょっと複雑な気分になりながら、わたしは舞台の上のジェダイドを見た。
むっつりした顔をしている。
歓声を無視して、ジェダイドはセリフを続けた。
『わたしの命よりも大切なプリンセスが、恐ろしい海賊たちにさらわれてしまった!』
これまた棒読みだけど、ジェダイドの声は高くもなく低すぎずもなく、元から聞き取りやすいので、淡々としていることを除けば気にはならない。
そこに兵士の格好をしたクラスメイト数人が走り出て来た。
みんな知ってる顔だから、また笑ってしまう。
心の中で「がんばれ~!」と応援しながら見守る。
『クリスフォード様! お言いつけのとおり、ガレオン船を用意致しました』
『王の許可も取ってあります』
『さあ、あの悪しき海賊ファルコンを追いかけましょう!』
兵士に言われたジェダイドが羽織っていた黒いマントをさっと手でひるがえす。
『当然だ! いますぐプリンセスを奪還しに行くぞ!』
舞台の上から兵士もジェダイドも去って行く。
続いて舞台の前後を仕切るように中央に薄い幕が下りてきた。
舞台奥でドタバタ走ったり、大道具を動かす音が聞こえてくるけど、幕の前には船の舳先が突き出て来た。
これも立派な作りの大道具だ。ちゃんと木材でできていて、舞台は海賊船の上に変わった。
下手から三人の女の子が出て来る。
わたしは、ゲッ! と思わず言いそうになった。
リアとマチルダ、それにジェーンの意地悪三人娘だ。
リアの服にまず目が留まる。だって、スカートが異様に広がっている。中にわたしが優に三人は入れそう。
赤い派手なドレスで、スカートに入ったワイヤーのせいか、リアはぴょこぴょこと人形のように歩み出て来た。
それにマチルダとジェーンも付いて来る。この二人はちょっと地味な緑と薄黄色のドレスを着ていた。でもスカートは同じくらい広がっている。正直、そのせいで三人は互いの距離が離れていた。そうしないとぶつかってしまうからだ。
奇妙にぴょこぴょこ歩いて来た三人の後ろからは、クラスメイトの少年が海賊姿で現れる。
まずはリアが言った。
『いますぐわたしたちを国に帰しなさい!』
海賊相手に偉そうな態度のお姫様だ。怖がったり泣いたりしていない。リアにぴったりの役かも。
マチルダとジェーンも同じように偉そうに言った。
『薄汚い海賊など、わたしたちの騎士が必ずややっつけてくれるわ!』
『そうよそうよ! クリスフォード様があなたたちをやっつけてくれるわ!』
みんな棒読みだけど、この二人は特にひどかった。
なんだか笑いが込み上げてくる。
しかも三人ともいつもと違って、髪は巻き巻きだし、化粧が濃すぎて口がナポリタンスパゲッティを食べたみたいに真っ赤だ。
海賊役の少年がハッハッハッと高笑いをした。
『愚かなプリンセスめ! ここはモルガナイトの端、しかもシャンペインの港を出て数日が経った。おまえたちの騎士も追いついてはこれないぞ!』
アッハッハッと海賊が笑っている。
わたしは「ん?」と何かが引っかかった。