表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/64

ジェダイドの劇1

 アラゴンの劇が歓喜と喝采(かっさい)の内に終わると、続いて下級六年生、上級一年生とプログラムどおりに進行していった。

 三番目の上級一年生の劇が終わると、そこでジェダイドは席を立った。

 自分が出る劇の準備をするためだ。

「がんばってね!」とわたしがガッツポーズを作って(はげ)ますと、さすがのジェダイドもちょっと緊張気味にうなずいていた。

 四番目の劇が始まる。

 気づいたんだけど、どうやら下級生も上級生も、劇の内容はわざとわかりやすいように作っているみたい。

 ホールの子供たちの様子を見ていると、理由がわかった。

 年少の子供たちのためだ。

 七才や八才の子たちが観てもおもしろいと思えるように、難しい話はあえてせず、お姫様に騎士にドラゴン、精霊や悪い魔女、といった童話では定番の内容にしてあるのだ。

 ――そりゃまぁ、そうだよね。

 ――いきなりシェイクスピアのリア王とか演じられても、付いて行けないもんね。

 それにしてもアラゴンの赤いドラゴンはかなり悪乗りしていたように見えた。

 ――前列の子供たちが大盛り上がりだったからいいのかな・・・。

 子供向けの劇だけど、わたしも観ていておもしろいものが多かった。

 魔法がところどころに使われるからかもしれない。

 悪い魔女が人間をぬいぐるみに変えてしまうところや、お姫様の早着替え、精霊たちの踊りを光の球で表したり、ちょこちょこと魔法が使われている。

 すっかり劇に夢中になっていると、あっという間に、わたしたちのクラスの番になった。

 緞帳(どんちょう)の前に出て来たピーター少年が紹介を始める。

「さあ、いよいよプログラムも後半です。みなさん、まだまだおもしろいお話が目白押しですよ。次は下級四年シルヴァーフォックス組の登場です」

 ピーター少年が剣を構える格好をすると、目をきらきらさせ言った。

「『海賊ファルコンとプリンセススカーレット』。げに恐ろしき外海の海賊どもにさらわれた姫君と、立ち向かう騎士の結末はいかに!? 始まり始まり~~!」

 段々、口上(こうじょう)がうまくなってる気がする。

 ピーター少年が舞台(そで)に引っ込むと、緞帳が上がり、港町の風景が現れた。

 大道具がはりきったのか、他の上級生の舞台より立派に見える。

 舞台上から吊り下げられたカモメとか、波を表す青と白の紙がゆらゆらと動いている。

 そこに一人の騎士がやって来た。ジェダイドだ!

『ああ、大変なことになった!』

 いきなりの棒読み。思わず、ふふっと笑ってしまう。

 だけど、他の席からは拍手と歓声が上がった。

「ジェダイド様~~!」「ジェダイドく~~ん!!」なんて黄色い声に混じって、後ろの席から大人の「モルガナイト公国万歳!」なんて声も混じっている。

 ――ジェダイドって人気あるなぁ。

 なんだかちょっと複雑な気分になりながら、わたしは舞台の上のジェダイドを見た。

 むっつりした顔をしている。

 歓声を無視して、ジェダイドはセリフを続けた。

『わたしの命よりも大切なプリンセスが、恐ろしい海賊たちにさらわれてしまった!』

 これまた棒読みだけど、ジェダイドの声は高くもなく低すぎずもなく、元から聞き取りやすいので、淡々としていることを除けば気にはならない。

 そこに兵士の格好をしたクラスメイト数人が走り出て来た。

 みんな知ってる顔だから、また笑ってしまう。

 心の中で「がんばれ~!」と応援しながら見守る。

『クリスフォード様! お言いつけのとおり、ガレオン船を用意致しました』

『王の許可も取ってあります』

『さあ、あの悪しき海賊ファルコンを追いかけましょう!』

 兵士に言われたジェダイドが羽織っていた黒いマントをさっと手でひるがえす。

『当然だ! いますぐプリンセスを奪還しに行くぞ!』

 舞台の上から兵士もジェダイドも去って行く。

 続いて舞台の前後を仕切るように中央に薄い幕が下りてきた。

 舞台奥でドタバタ走ったり、大道具を動かす音が聞こえてくるけど、幕の前には船の舳先(へさき)が突き出て来た。

 これも立派な作りの大道具だ。ちゃんと木材でできていて、舞台は海賊船の上に変わった。

 下手(しもて)から三人の女の子が出て来る。

 わたしは、ゲッ! と思わず言いそうになった。

 リアとマチルダ、それにジェーンの意地悪三人娘だ。

 リアの服にまず目が留まる。だって、スカートが異様に広がっている。中にわたしが優に三人は入れそう。

 赤い派手なドレスで、スカートに入ったワイヤーのせいか、リアはぴょこぴょこと人形のように歩み出て来た。

 それにマチルダとジェーンも付いて来る。この二人はちょっと地味な緑と薄黄色のドレスを着ていた。でもスカートは同じくらい広がっている。正直、そのせいで三人は互いの距離が離れていた。そうしないとぶつかってしまうからだ。

 奇妙にぴょこぴょこ歩いて来た三人の後ろからは、クラスメイトの少年が海賊姿で現れる。

 まずはリアが言った。

『いますぐわたしたちを国に帰しなさい!』

 海賊相手に偉そうな態度のお姫様だ。怖がったり泣いたりしていない。リアにぴったりの役かも。

 マチルダとジェーンも同じように偉そうに言った。

『薄汚い海賊など、わたしたちの騎士が必ずややっつけてくれるわ!』

『そうよそうよ! クリスフォード様があなたたちをやっつけてくれるわ!』

 みんな棒読みだけど、この二人は特にひどかった。

 なんだか笑いが込み上げてくる。

 しかも三人ともいつもと違って、髪は巻き巻きだし、化粧が濃すぎて口がナポリタンスパゲッティを食べたみたいに真っ赤だ。

 海賊役の少年がハッハッハッと高笑いをした。

『愚かなプリンセスめ! ここはモルガナイトの端、しかもシャンペインの港を出て数日が経った。おまえたちの騎士も追いついてはこれないぞ!』

 アッハッハッと海賊が笑っている。

 わたしは「ん?」と何かが引っかかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ