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第48話 高等遊民

 



 あたしたちは王都にまた舞い戻ってきた。衛兵さんも昨日と同じ人だったので、またお前かみたいな顔をしていた。


「それで、アブさん。お話というのは」

「実はね・・・」


 あたしはジェルミンさんを酒場に呼びつけて相談に乗ってもらっている。ライブ会場の間取りやタイムスケジュールや人員の件だ。


「う~ん、親戚に働かずに遊んでる子が居るんでその子を呼びつけちゃいましょうか」

「え、いいの!?」

「良いか悪いかって話だとどう転ぶか分からないってことになっちゃいますね。未経験なので」

「今まで誰も経験したことがないお仕事だもんね。しかもニート上がり・・・」


 ジェルミンさんのところの家訓を守ってないのを見ると頑固者そうだな。


「まあ、やってみないと分からないってのはもっともだけど、ジェルミンさんの親戚ってことは適正ありそうだけどな~」

「というと?」

「多分、種族的に耳が良いですよね?」


 あたしはジェルミンさんに標準搭載されているそのウサ耳を指差した。


「う~ん、まあそうですけど人よりは多少っていうレベルですよ」

「平均値が高いっていうところがもうアドバンテージだよね。それでその方の年齢や学歴などはいかほどでしょうか」

「今年で十八才になります。貴族学院の魔導技術科を卒業しています」


 貴族学院の専門科卒なら日本の大卒以上の学歴だ。この国なら上澄みと言ってもいい。ぶっちゃけ学歴は過剰なぐらいだ。


「う~ん、適正的には音を聞きながら魔導操作盤のオペレーションをするって感じになるんですけど。その子は対人関係とかで問題を抱えてたりはしますか?」

「特にないですね。両親との仲はせいぜい小言を言われるぐらいで良好ですし、友人も多いです」

「ただ働きたくないっていう感じか・・・」

「働きたいと思える職業がないとか言ってました。生意気にも」

「ほ~ん・・・」


 まあ、やりたいことがなきゃそんなもんかもねえ。あたしもボンボンだし、人のこと言えたもんじゃない。違うのはやりたいことがあったぐらいだ。


「ジェルミンさんがその子を推薦するなら一回面接してみよっか」

「王都のどっかでぶらついてるんで呼べばすぐ来るはずですよ。今から呼びましょうか?」

「フットワーク軽いな~」


 ニートと言えば引きこもりぐらいのイメージだったけど、高等遊民だわ。流石貴族。







「ラディオス・ノルディオと申します」

「『オレンジ・ストリート・ストレンジャーズ』の濁川鐙です。宜しくお願いします」

「同じく『ストレンジ・ストレンジャーズ』の舎利弗亮磨だ」

「『アーケイン・ナブラ』のリリカ・エラディンだ。くっくっ・・・つまらん奴ならその姿を亀に変えて家まで走らせるからな」

「リリカそんなこと言わないの。怖がらせたらダメなんだからね」

「なんだと?面接とは威圧感だと学んだぞ」

「ドラテナってどういう国なの・・・」


 リョーマはあたしが呼んだんだが、夜になってもあたしが帰って来ないから一緒に居たリリカも面接についてきてしまった。目の前に居るのは若い男の兎人族で、ジェルミンさんと同じく毛深いタイプだ。


「それは、いわゆる圧迫面接というやつですね。応募者を威圧しその反応を見て採用を決める手法です。俺には通用しませんよ」

「通用・・・通用ねえ?」

「そもそもお前、応募してねえしな!気軽に話そうぜ」

「リョーマさあ・・・」

「マスター!オランゲジュースだ」

「かしこまりました」


 かなりカオスな面接だ。ラディオスが逆に聞いてきた。


「それでなぜ俺にお声がけを?」

「経緯としてはジェルミンさんに誰かいないかって聞いたらラディオスさんを紹介された形になるね」

「なぜ俺は紹介されたのでしょう?」

「そこそんなに突っ込むとこ?」

「紹介理由ぐらいは知りたいです」

「う~ん、その仕事っていうのがね、音を聞きながら魔導盤を操作する仕事なの。ラディオスさんの経歴的に魔導技術科卒業だし、種族的に耳が優れていますよね。ベストな選択だと考えたからです」


 なんでこっち側が採用面接される側みたいな返答をしなければならないんだ・・・。


「なるほど・・・。大変合理的な選択ですね」

「おい、俺達には時間がねえ。状況的にお前がやるしかねえ。腹括れや」

「リョーマさあ・・・」


 雰囲気で格好つけてるんじゃないかっていう空気を感じたので釘を刺す。でも、リョーマの言ってることは間違いではない。


「それでは一肌脱ぐとします。今日から宜しくお願いします」

「えっ!?今まで働いてなかったのにそんなにあっさり決めていいの?」

「いえ、俺が働かなかったのはどれも『俺じゃなくてもいい』というような仕事でしたので断っていただけです」

「・・・というと?」


 こういうタイプと会話するのは初めてだ。相手の意見を聞きたい。


「生まれ持った能力と獲得した能力、それを最大に生かせる仕事がいつ舞い込んでくるか分からないのに、やれ世間体だ、家訓だとかで機会を待つことをやめてしまうのが愚かということです」

「つまり、仕事しながらだとベストな条件の仕事が来た場合に飛びつけなくなるからっていう理由?」

「そういうことです。別に俺が働かなかったからと言って世界は勝手に周るでしょう。その間に見識を広めたりした方が有意義です。今回は働くことがベストだと考えたから応じたまでです」

「意識が高いのか低いのか・・・」


 まあ、働かなくても生活できる奴の発想だよなあ。あたしも金持ち寄りだけど全然思想が違う。宇宙人かと思ったわ。


「俺はリョーマ!とりあえずお前の仕事を教える役目は俺ってことになるな!宜しく頼む!」

「時間が無いそうなので、今晩から宜しくお願いします。早速徹夜ですか?」

「学習に徹夜は悪手だろ。帰って寝るぞ」

「分かりました。帰宅して十分な休息を取ります」

「アブ~眠い~帰るぞ~」


 まあ、変な仲間が一人増えたのでリョーマに任せることにした。








 ジャック・ダンディこと俺はサキと二人で王都を歩いていた。不動産もよさそうな所を押さえて、町の地形やめぼしい店を探している最中だ。知らない土地に俺一人では戦闘力的に不安だが、サキが居れば万が一にも喧嘩を吹っ掛けられても無傷で切り抜けられるだろう。


「・・・」

「どうした。何か気がかりな事でもあるのか?」


 サキが何か考え込んでいるようだ。俺は気になって聞いてみた。


「私は人を殺した」

「なんだと・・・」


 サキの告白に俺は耳を疑った。


「それは何かの例えではなく、本当に?」

「叩いて殺した。このアダダンマイトのスティックで」

「アダマンタイトな」


 この世界に来てからのサキの腕力は控えめに言って異常だ。その腕力で元の世界でも存在しない遥かに高硬度な金属で作った棒を振るえばどうなるか。答えは火を見るより明らかだ。


「それはまずいな・・・死体はどこにある?間に合うなら蘇生するべきだ」

「蘇生ならしてもらった」

「最悪のケースは免れたか・・・。罰金や慰謝料でも請求されたか?」


 金で解決できるならそうしたい。蘇生で元通りになる世界だとはいえ、撲殺された痛みはあるだろう。


「いや、断られた。逆に金をもらった・・・」

「なんだと・・・」


 俺は混乱した。サキの言うことはたまに前後がつながらないことがある。彼女が言うには言語野の障碍らしいが、資格を有しているかどうかは分からない。俺としては別に手帳の有無で対応を変えるつもりはない。それは極めてデリケートな問題だ。


「殺さないでおこうと思ってたのに、止められなかった。私のものを壊されてムキになってやってしまった」

「それで、その場はそれで丸く収まったのか?」

「うん」

「ならばそれでいいだろう。失敗して取り返しがつくなら、学べるはずだ」

「うん、もうしない。おっさんにも言われた。強くても寝てる時や弱ってる時を狙われるから振る舞いに気を付けろって」

「おっさん・・・ああ、ブラディオか」


 一瞬、俺がおっさん呼ばわりされたのかと思ったがそんなことはなかった。よく考えれば俺はそんなことを言った覚えはない。俺は弱いからどんな時でも狩られる側だ。強い奴の考えることは分からん。


「あいつは仲間が多い。仲間が多いということは強さだ。全く羨ましいことだ」

「仲間が多いことが強さ・・・」

「そうだな」

「強さにもいっぱいジャンルがあんだね。音楽と一緒じゃん」

「ふふ、ふはっ」


 俺は吹き出してしまった。


「くっくっ、そうだな、そう言える感性こそ大事だ」

「今の話に面白いとこあったか?」

「いや、何でもない。俺の思い出し笑いだ」

「じゃあ、私も面白い動画を思い出すか」


 サキは人を殺して悩んでいた。俺は友人を売ったぐらいで悩んでいた。アイツも死んだわけじゃない。やり直せるチャンスはいくらでもある。なんならやり直さなくたっていい。俺は一度チャンスを与えた。どうするかはアイツ次第だ。


「ブーーーーーーッ!!!」


 横で口でアスタリスクを作りながら無表情で噴出している俺の最高のバディを横目に、自分の問題に一つケリがついていくのを感じた。

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