第44話 凱旋
あたしたちは冒険者ギルドに向かって凱旋している。そう、それは凱旋だった。なぜかは分からないが、ルルイエの町の人はダンジョンが制覇され安定化したことが外から分かったのか、ここまでの道すがら盛大に祝ってくれた。
「いや~、吟遊詩人にあんな相乗効果が隠されていたとはな」
「キャー!ブラディオさんよ!」
「抱いて~!」
「おいよせ、嫁と娘に怒られちまうだろ」
最下層では獅子奮迅の働きをし、その剛腕を振るったブラディオの陽気な声が聞こえる。
ブラディオは地元では人気があるのか女子供から黄色い声援をひたすら浴びている。
「まさか全員で共同戦線を張る羽目になろうとはな」
「慣れあうつもりはないとか言ってたのにね」
「それは時と場合による。未だに私はお前の全てを信用したわけではない」
「その方が僕もやりやすくていいよ」
アリルとボロゾのやり取りを見て、軽口を叩きあうぐらいには既に仲が良いのではと思ったが口には出さなかった。
「アブさ~ん!」
「アブーーー!」
「ありがとー!次のライブはまだ未定だけど見に来てね!」
あたしの名前が呼ばれたのでそう返答した。言霊の加護で聴こえやすくしたのでちゃんと届いているはずだ。ダンジョンが終わったし、次のライブの日程もちゃんと決めないとな・・・。
「リリカ・エラディンだ!」
「あの不世出の天才か」
「なんだ所詮まだ子供ではない・・・ぐわーっ!」
リリカの悪口を言っていた男が突風で吹き飛ばされて壁に激突した。命には別条はないようだ。
「魔導の道に大人も子供もあるか。戯言ならせめて我の耳に届かぬところで喚くが良い」
その軽い粛清を行った後は、誰からもリリカへの悪口は聞かなくなった。実力も風格もあるけど、動画の釣りコメントに全レスするようなムキになりやすいとこがあるから、人気が出ないのも分からんでもない。
「聖者モラ様だ!」
「ありがたやありがたや・・・」
聖者というのがどういった存在なのかあたしは詳しくは知らない。スラン教の信者らしき人々にモラは優しく微笑みかける。今はローブを纏ってはいるが、その布一枚の先に過激なステージ衣装を着こんでいることを知っているのはあたし達だけだ。
「『ダスク・エヴァンジェル』もいろいろあったよねえ」
「我々が関与することではないが、おそらく後始末に追われることになるのだろう」
「やれやれ」
そうダンディが返したのをあたしは更に生返事で応える。あたしも音楽活動ができなくなるからマジで巻き込まれたくないと思ってはいる。だけど、あの一軒が落ち着いてからは誤解も解けて、そして、共同で攻略するようになったことで『ダスク・エヴァンジェル』の人もそう悪い人たちばかりではないと思えるようになった。きっとダンディが暗躍しているんだろうけども。
「しかし、俺達も英雄の仲間入りか。英雄になったら流石に筋肉もムキムキで彼女もできるよな・・・」
「なんなのその雑誌の広告みたいな下品な価値観」
「うっせー!本能という人の業と真剣に向き合った商売を笑うな!」
リョーマも最近はマシになったけど、やっぱ器が果てしなく広い菩薩のような人じゃないと無理な気がするな。
「私のフォロワーが4人に囲まれてボコボコにされた・・・。やっぱり強くても普段の行いが良くないと仕返しされるんだな」
歓声に紛れてよく聞き取れなかったが、サキは神妙な顔をして小声で呟いている。この戦いで思うところがあったのだろう。
「素晴らしい舞台だったよ。我々があれを成し遂げたなんていまだに信じられない」
そう語るのはヴェルディンだった。あたしも続けて感想を述べる。
「まあ、あたし達からしても現実感のない攻略というかライブというか色々入り混じっててまさにカオスなステージだったよ」
「それで、次はどうするつもりなんだい?これからの展望について聞かせて欲しいんだが」
「う~ん、とりあえず色んな街を巡ってライブがしたいかな。知名度を上げたいとかお金を稼ぎたいという気持ちもゼロじゃないけど、どっちかと言うと音楽の振興のためね」
「それに僕も着いて行っても良いかい?」
「う~ん・・・」
あたしは言い淀んだ。今は祝賀ムードだし傷つけるようなことを言いたくないから言葉は選びたい。その間を感じてヴェルディンは察してしまったらしい。
「いや、もしかしたら受け入れてくれるかもしれないと淡い期待を抱いた僕が悪かった。君たちの言いたいことは音楽を通じて把握しているつもりだ」
「ヴェルディン・・・」
「君たちのやりたいことと、僕のやりたいことには決定的な差がある。そうだね?」
「うん」
あたしは頷いた。さらに尋ねる。
「どういうところが違うと思った?」
「僕は重厚なグルーヴと流麗なソロパートの織り成す壮大なハーモニーを求めているけど、君たちは人の持つ根源的な欲求や言葉に出来ない想いなどを表現することに強いこだわりを見せている」
「まあ、あたしたちの表現だとそれが『音楽性の違い』ってやつね」
「そういうことだ。だから、僕は志を同じくする仲間を探そうと思っている」
「おお~、実はあたしも最終的にはそうアドバイスしようと考えてたんだよね。そんなことまで伝わってたのかな?ふふっ」
「音楽で通じ合う心か・・・。どうして我々はそれをしないでいたのだろうか・・・」
「きっと恥ずかしがり屋なんだよ。恥ってのは守りたい自分自身であったりもするから、それを捨てろって言ってるわけじゃないんだけど、勇気を持たないとね」
「ふっ、まさしくその通りだ。今も踏み出したこの足のおかげで建設的な議論が出来ている」
そう答えたヴェルディンは清々しくも寂しそうな表情を見せた。
「きっと今日、手に入れた栄光のおかげで僕は長く苦しむのだろうね。君たちに代わる存在などありはしないだろうに」
「同じということはないだろうけど、ヴェルディンが目指してるところを一緒に目指せる仲間なら、あたし達よりももっと上を目指せると思うよ」
「そうだな・・・。君たちと出会えて、本当に良かったよ」
ジャンルが違うということはそういうことだ。でも、やはり音楽仲間というのは増えてなんぼだと思うからヴェルディンにも頑張ってもらいたい。そうこうしているうちにあたしたちは冒険者ギルドへたどり着いた。
冒険者ギルドに着くとギルドの職員、ダンジョン攻略協議会の面々、他の冒険者などが集まって出迎えてくれた。手続きなどはボロゾとアリルとリリカがだいたいやってくれたのであたしはステラさんと会話をしようとした。
「ステラさん!」
「アブさん!とうとう偉業を成し遂げましたね!アブさんならやってくれると思っていましたよ」
「買いかぶりすぎだよ。みんなが強かったおかげ」
「謙虚ですね。今回の戦術の立役者と考えると誰もアブさんに頭が上がらないと思うのですが」
「あたしそんなに恩着せがましくないよ」
「そうですね。私じゃあるまいし」
「う~ん、それは諸説あり、かな?」
「ふふっ」
自虐に見せかけた攻勢ジョークをうまくかわし、訊きたかったことを訊く。
「そういえば聞いたんだけどステラさん、支部長に昇進するんだって?」
「そうなんです。黙っていて申し訳ありません。事が終わるまでアブさんに心配をかけたくなかったもので・・・」
「あ~、前の支部長がなんか嫌な奴だったんだって?だいぶ気をまわしてくれてたってミーナさんが言ってました」
「ミーナさんにはお仕置きが必要ですね」
ひょっとして秘密保持契約的なあれかな?視界の端の方で全身の毛を震わせて尻尾がピーンとなっている猫獣人をみかけた。
「いや、雑談に乗ってくれてあたしも助かってるからあたしの顔に免じて許してあげて」
「仕方ないですね。あんな感じのが良いならいつでも差し上げますけどね」
「いや、それ普通に人身売買だから。前の支部長も奴隷取引でお縄になったんでしょ?」
「そうですね。人を操るのに奴隷にするだなんて回りくどいことをなさらなくても良いのに」
「こわっ」
この人、ドラテナの魔法大学を首席で卒業してるんだよな・・・。リリカと年度が違うって言ってたけど。思い切って訊いてみるか。
「ねえ、ステラさんは仕事では能力を持て余してるように見えるけど、本当にやりたいことってどこにあるのかな?」
「私は趣味の研究が出来ればよかったんですが、今はアブさんの邪魔になりそうなものを排除することに喜びを見出しています」
「あ~、薄々そうじゃないかと思ってたんだよね・・・」
これはあたしが至らないところがあるせいでもある。さらに突っ込んで訊く。
「ちなみに、ボロゾとは協力関係にあったりしてた?」
「はい、それほど深い関係ではありませんが、アブさんのことで互いに意見交換をしたり、妥協点を見出したり、干渉しないように動いたりしています」
なんか楽しそうだな・・・。そういうの向いてそう。
「う~ん、まあ今までは言えなかったんだよね?」
「聞かれるまで答える気は無かったんですが、聞かれてしまったので」
「そっかー。他になんか隠し事、あったりする?」
目が泳いだ。
「ありません」
「ウソつき」
にこやかにあたしはそう告げた。
あたしに対して何か隠しているということは分かった。でも、それを追求する気は無い。
「いや、分かってるよ。多分、まだ言えないんだよね」
「・・・その通りです」
「じゃあ、それでいいかな」
「申し訳ありません」
恐らく、ステラさんは最善の選択をしてくれている。それはこれまでの働きぶりを見ても明らかである。であれば、あたしは寛容さを以って報いなければならないのだ。
「そういえば言い忘れてましたが、明日は王都で勲章の授与式があるので、これから出発です」
「ええ~!?ちょっとゆっくりしたかったのに」
「アブさんの移動方法をみんなで試せば夕方には到着して宿でゆっくりできますよ」
非常にあわただしいスケジュールであった。
「止まれ!怪しい奴め!」
守衛に止められて我々は立ち往生していた。攻略に携わった三十名と、協議会の人が一名、それと冒険者ギルドからはステラさんがついてきてくれたので合計で三十二名だ。
「えっと、非常識な手段で飛んできたのは謝りますが、れっきとしたダンジョン攻略協議会及び冒険者ギルドの職員並びにルルイエのダンジョン攻略を完遂された冒険者なのですが」
「なんと紛らわしい・・・。空から隕石の様に降って来られては異界からの襲撃かと思ったぞ」
「えっ、異界からの襲撃ってそんなことが結構よくあったりするの?」
「あるわけ無いだろ!初めてだよこんなことは!」
「すみませんこの方はちょっと常識が無くて」
「へへ、すみません」
「全く、冒険者は変な奴が多いな」
守衛は呆れたように事務処理に移り、我々は王都への門扉をくぐった。
ルルイエも割と大きな町だったが古都という風情があった。それと比較すると王都は建物が新しく、街並みも洗練されている印象があった。
「王都に来るのは初めてだけど、やっぱ都会な感じがするね」
ふと見ると集団に紛れ込んでクロードが深くフードを被るのが見えた。
あたしはクロードの近くへササっと移動して耳打ちした。
「クロード、ひょっとして王都に会いたくない知り合いが居たり?」
「あ、いや、王都は俺の地元なんですけど、ちょっと前にここのシーフギルドのやつらと揉めちゃってて・・・」
「あーそりゃ大変だね。そうだ、リリカに頼んで存在隠蔽の魔法をかけてもらおう」
「いや、そこまでしてもらうと流石に悪いというか、見返りが大変というか」
クロードはちらりとリリカの方を見る。
「大丈夫だって、仲間なんだから。リリカにはあたしから何とか言っとくから」
リリカはそのやり取りが聞こえていたのかあたしとクロードの間に割り込むように入ってきた。
「流石の我もさもしいコソ泥風情から対価を頂こうとは考えておらぬわ。強いて挙げるとすればアブへの感謝を忘れぬことだな『コンシールメント』」
そう魔法を唱えると、クロードの存在感がさらに薄くなったように感じた。
「効果は発見への抵抗といったところか、既に知覚している我々からは把握はされているから疎外感を感じることもなかろう」
「ありがとうございます!アブさん!リリカさん!」
「困ったことがあったらお互い様だよ。出来ることがあるのに頼めないってのは良くないと思うからね」
「下出に出さえさえすれば民草への奉仕など朝飯を作り終わる前にこなして進ぜよう」
「いや、だからそういう威圧的な所が頼みにくいんじゃないの?」
あたしのツッコミに周りからマジか!という空気を感じたが何も起こらず、会話は進んだ。
「ふむ、アブが言うならそうなのかもしれぬな・・・。在り方について威厳を保ちながら結果も担保する方法を模索するとしよう」
『アーケイン・ナブラ』の面々は涼しい顔だが、それ以外のクランや協議会の人からは驚愕の表情を向けられているのを目の端で感じた。
「あのリリカが他人の意見を聞くなんて・・・」
「アブさんってコミュ力すごいよね・・・」
そうリョーマに話しかけているのはシスター・エナだ。
「ああ、そうだぜ。人をたらし込む能力においては誰よりもすごいと思うぜ」
「褒めてそうでビミョーに失礼なこと言ってない?」
「客観的事実だっつの!」
「リョーマの場合オブラートに包まないからうまくいかないのよ」
「ははっ違いない」
タイザンに笑われて。リョーマはムキになる。
「くっそー!絶対にアブより綺麗な超絶美人を嫁にして見返してやる」
「無理だろ・・・」
「スタートが間違ってる」
「相手に失礼では」
「アブさんより美人はハードル高いよ」
「アブの評価高すぎだろ!どうなってやがんだ!」
そんなこんなで宿まで移動した。




