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第33話 未成年

 



「つまりだな、ビートルズを相関図の中心に据えることで大衆音楽におけるアーティスト同士のリレーションが明らかになりやすい。初学者には好き嫌いは別にしても抑えておいた方がジャンルの把握にも役立つだろう」

「ふむふむ」


 俺こと舎利弗亮磨はメリッサに大衆音楽とは何かを絶賛講義中だ。ホワイトボードに描かれた4人組のシルエットを中心に、関係するアーティストを年代ごとに表現している。なぜか聴衆にサキとダンディも参加している。ダンディの方が年齢的に色々詳しいと思うが、俺の考えを整理する目的もあって任せてもらっている。


「適当に聴いてみたいものをつまむのも悪くはないが、自分の好みを把握してジャンルでまとめて聴いてみるのもまた、悪くない方法だ。音楽は理論もあるが、その外側と内側に感性を切り離すことはできないのだからこそ当然、色んなアプローチがある」


 メリッサが手を上げる。


「質問!あなたたちはどういうジャンルなの?」

「良い質問だ。無邪気に鋭いジャブを打ってくる」


 自分とは、自分たちとは何者なのか。それを言語化する試みもまた悪くないアプローチだ。


「『ストレンジストレンジャーズ』のジャンルは平たく言えば、う~ん、なんだろ?『ポップス』だと思うが言うほど流行ってねえし。『ロック』『EDM』『フォーク』『歌謡曲』『パンク』『ソウル』などの影響を強く受けているが、聞き取りやすいメロディーラインを中心に展開するサウンドが特徴と言えば特徴だ。まあ、曲によってそれらも異なってくるので一概には言えないが」

「よく分からないわね・・・」

「そう、その通り。よく分からないという感覚は正しい。ジャンルというのは結局リスナー側が分類しやすくするために都合よく貼られたレッテルに過ぎない。当事者のマインドとしては、やりたいことをやっているだけで自分たちがどのポジションの音楽をやっているかなどを第一に考えたりしないのが大半だ。二番目ぐらいには考えてるかもしれないが、それは生存戦略的な話になる」

「ふ~んそうなんだ」

「あと、意図せず先達に似てしまうのと、敬意を払ってフォロワーになるのでも捉え方は変わるものだ。そこに愛があるかどうかが聴衆の許せるラインを超える分かれ目になるかもしれない。後者の場合、先輩はそうするんだ?じゃあ俺は別のアプローチで攻めるわっていう関係性ができる。それこそがポピュラーミュージックの歴史を作る重要なエッセンスなのだよ」

「参考にはするけど、真似するだけじゃ越えられないもんね」

「良いこと言うじゃん。偉大な先達に敬意を払うのは気持ちはそれとして、超える気概は無いと今を生きる意味がない。メリッサの意識が高くて俺、泣きそうだよ。これで安らかに逝ける」

「勝手に逝くな」


 サキに突っ込まれる。メリッサはさらに疑問を呈する。


「でもそれってあなたたちの居た世界での歴史であって、こっちじゃそういったアーティストの関係性なんて知られてないわよね。聴き手に前提を求めるのって酷じゃない?」

「その通り。聞き手にとっては全く必要のない情報だ。だから分かりやすく、音としての気持ちよさを追求する必要があるんだよ。リスナーとアーティストが最初と最後に頼るのは己の感性。でも、知れることを知ろうとしないのは提供する側として問題だと思うぞ。それがたとえ音楽でなくてもな」

「確かにあんたの言う通りね・・・」

「とはいえ、誰だって初めはそうだが今はまだ模倣の段階だ。この曲をこの楽器でやってみたい。そういう想いをこそ大事にして欲しいかな」

「う~ん、やりたい曲が男性ボーカルでキーが合わないのよね。キー下げてもニュアンスが再現できないというか・・・」

「いわゆる原曲キー音感寄りの感性だな。まあそういう時は歌ってくれる人を募集するとかで良い気はするぜ。俺だって自分でやるより人に頼んだ方が良いもの出来るってんなら喜んでプロデュースに回るぞ」

「リョーマが歌ってよ。Foo FightersのThe Pretender」

「やれんくはないけど、あんな凄い声は出ねえぞ。喉と腹筋が死ぬ」


 ダンディが口を開いた。


「おいリョーマ。こっちに来てからジョブの補正かなんか知らんが身体能力が上がってる上に最近は訓練で体を鍛えているだろう。今なら満足のいくシャウトが出せるかもしれんぞ」

「マジか。考えたこともなかったな・・・。それならばあの曲とこの曲と・・・」

「ちょっと!今日はFoo Fightersをやってもらうの!アブさんもいないんだし」

「あいつ最近ステラさんとこ行ってなかったしそろそろ振られんのかな?へっへっ、いい気味だぜ」

「リョーマ、それは愛とは程遠い感情だ」


 ダンディに突っ込まれる。


「うるせえ!自己愛だって立派な愛だコンチクショウ!」

「はいはい、カウント始めるよ~」


 サキが無理矢理カウントして曲が始まった。








「して、汝の答えは」


 あたしは朝からリリカの部屋に呼び出されていた。既に人払いも済んでおり部屋にはあたしとリリカの2人しかいない。


「取り敢えず成人するまで待ちましょう。あと1年でしょ?」

「誕生日は来週だが?」

「ほーん・・・」


 ならしょうがないか・・・。とはならない!


「あたしの住んでたとこだと成人は18歳で、未成年に手を出すと犯罪なので忌避感がぬぐえないというかえ~っと・・・」

「我をその辺の童と一緒にするでない」

「それはもちろんそうなんだけど、懸念点は伝えないと誠実じゃない気がしてさ」

「ドラテナでもアステールでも成人は13歳からだ。汝の国の法など効力は及ばんのは自明の理。観念せよ」

「ぐっ・・・」


 断る理由も尽きたが、リリカの表情が憂いを帯びたものへ変わった。嘆息して愚痴をこぼす。


「いや、無理強いしてすまなかったのかもしれないな。アブも我のことはあまり好いてはおるまい。強大な力を持て余し、望みが叶わぬと分かれば暴れ出すかもしれぬと危惧しているのであろう」

「それは違う!」


 自分でもびっくりするぐらい大きな声が出た。


「リリカのことは仲間だと、友達だと思ってるよ。色んなことが出来て、将来性があって、魅力的で、あたしを飽きさせない冒険に連れ出してくれて優しく守ってくれる。あたしはそんなリリカのことが好き!」


 リリカは目をぱちくりして沈黙を保つ。顎に力が入っておらず口は軽く開いたままだ。


「でも、そういうことをするのは、雰囲気が大事なんだから。儀礼的に済ますのは勿体なくない?と思うワケ」

「それは・・・言われてみれば一理ある」

「思い出に残る日に。素敵なプレゼントとして受け取ってもらうとする。そういうことにしない?」

「・・・なるほど」


 するとリリカはいつものニヤついた笑顔に戻る。


「汝は焦らすのが上手い。どれ、一つ乗せられてやるとするか」


 よし、とりあえず心の準備をする時間は得られた。後は前向きに考えよう。







 ダンジョン41層からはザ・迷宮とも言えるような階層だった。天井はそれなりに高く、道幅は2車線道路上下計4車線並みにあるとはいえ、曲がり角の見通しは悪く、分岐路は多い。まばらな燭台に火が点って薄暗く辺りを照らしてはいるが、雰囲気は闇系のそれでありどこかおどろおどろしい。デュラハン、ダークナーガ、デススコーピオンなどが襲い掛かってきたが、他の階層より時間はかかりはしたが難なく撃退した。


「方眼紙でマッピングしたくなるような場所だね」

「マッピングならグラントがしておるぞ」

「流石だ・・・」


 壁の材質は謎の石材でできており、採取は不可。掘削も不可。11層から19層までのように目的地に向かって一直線というわけにもいかない。そもそもグラントの階層解析は一度踏破済みの階層でしか効果はないらしい。そのグラントが口を開く。


「しかし、お二人はすっかり仲良くなられましたね」

「ほう、分かるか?」

「リリカ様が穏やかになられて私どもも心労が減って何よりです」

「リリカの四天王をやるのも大変なのね。労ってあげたら?」

「褒美はそれなりに与えておるし、休暇も与えておる。グラントは仕事のし過ぎだ」

「リリカ様を思えばこそです。私のような戦闘能力の低いジョブを重用して頂き感謝しております。そのご恩に報いることが私の生き甲斐なのです」

「加入して間もない頃、魔法で我の寝室を覗こうとして自動反撃で目を潰されたことを根に持っておるのではないのか?」

「そ、そのような昔の話・・・あれは気の迷いでございます。申し訳ありません」

「ハーフリングは背が低いからな。同じ背格好のリリカ様に懸想していたと考えても不思議ではない」

「ロ、ロズホーン!・・・いや、その通りです。知らずのうちに亡き妻の面影を重ねていたのでしょうね」

「それって何年前の話?」


 あたしは興味本位で聞いてみた。


「5年前だな」

「リリカ7歳・・・なるほど、グラントと同じぐらいの背でもおかしくないね。でも寝顔を覗こうとしただけで目を潰すとかひどくない?まあ、今ちゃんと治ってるってことは回復させたんだろうけど」

「間諜の絶えぬ生活だったからの。血なまぐさい事案はなかったが、研究の成果を盗もうとする輩が多くて仕掛けを施していたというわけだ。目つぶしに関しても3日も放置すれば治る程度のものだ。ただ、敵味方の区別がつかないのが問題だったのでな」

「恥ずべき行いでしたが、リリカ様はお許しになられた。それだけでもご恩に報いる価値がある」

「研究を盗もうとした勢力の特定には尽力してもらったしな。盗まれたところで我の優位は揺るがぬが、他人の褌で相撲を取るような輩は不快だからいずれ退場してもらうつもりだ」


 魔法の世界もパクリとかあんのね。やっぱリスペクトは必要だ・・・。


「相撲ってこのへんにもあるのね。あたしの地元じゃ一応メジャースポーツだったけど」

「ほう?東方の出身か?にしては知識が偏り過ぎているが」


 これは不用意な発言だったか。まあステラさんにはバレてるようなもんだし、メリッサもあたしたちの世界の音楽を聴いて学んでるみたいだし2人きりの時には教えちゃってもいいかな・・・。


「前方、デススコーピオン2体、デュラハン1体、ダークナーガ1体!」

「備えるぞ。アブは『魔泉のアルペジオ』からの『罅隙のオブリガート』を頼む」

「あいさー」


 沼地より敵は強くなったが、足場は悪くないので進捗は良く、今日は45層まで進んだ。


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