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第31話 スタンドプレイ

 



「さて、記録更新と行くかの」


 あたしこと濁川鐙は今、『アーケイン・ナブラ』の面々と一緒に40層の扉の前に立っている。31層からは鬼のように泥沼を歩かせられ、ここ一週間は大変な思いをした。なんでも地に足を付けていない時間が長いとダンジョンの仕掛けが発動し、入り口に戻されてしまうのだとか。そのため、浮遊魔法は使えなかった。


「泥臭いのともようやくこれでおさらばか~」

「いえ、40層のフロアボス、『浅沼の王ドルトラギオ』を倒さないことには終わりません」

「ですよね~・・・」


 気を抜きかけていたあたしに、ハーフリングのスクリアであるグラントが釘を差す。


「ここのボスに足止めを食っている理由って何だったの?」


 あたしは気になったので聞いてみる。


「敵対心の最も高い奴に対してヘイトを消去してくるんだ。その直後に沼に潜って下から攻撃してくる」

「リリカの使ってた『ヴォイドシャーク』みたいな感じか」

「ヘイトをコントロールする手段があればまともに戦えるんだがな・・・」

「結局、前やった時は我々5人が全滅してリリカ様がお一人で時間切れまで戦闘なされた」

「悔しいが制限時間の1時間以内に討伐できなければダンジョンの入り口に強制退出されるのだ」

「リリカ1人で戦線維持はできる感じなのか・・・」

「リリカ様は元々我々に出来ることなら何でもお出来になられる」

「何でもは言い過ぎだ。敵対心を稼ぐ手段はロズホーンの方が優れておるし、バラックのように剣は振れぬ。蘇生はリベリアしか出来ぬしな。それに、グラントという第2の眼と頭脳がいてこそ存分に力が振るえるというもの。そもそも1人では同時に実行するだけの手が足りん」

「ありがたきお言葉・・・」


 グラントは感動のあまり噎び泣きそうな勢いだ。


「もう一つの原因としては、奴には物理攻撃は良く通る反面、魔法攻撃は通りが悪い」

「そうだ、我が時間内に倒し切れなかったのもそれが原因。だが、このわずかな間に無属性魔法の強化と、魔法を間接的に物理攻撃に変換する術式を編み出したからな。今度一対一になれば我の勝ちよ」

「その状況ってあたし死んでるよね?」


 流石にそれは嫌なので、ヘイトコントロールを適切に行って全員生きた状態で勝ちたい。


「話を聞く限りだと、リリカとリベリアを中心にロズホーンへ『鏡像のレゾナンス』を使ってヘイトを集める動きをすればいいんだよね?」

「戦術の理解が早くて助かる。タイミングについては随時指示する」

「基本『魔泉のアルペジオ』をしながら余裕があれば『ディレクション』を使って『支配のオスティナート』と『群像のレチタティーヴォ』をバラックにかけるね」

「それが良いだろう」


『ディレクション』とは呪歌の効果範囲を狭めるが効果距離を伸ばせる吟遊詩人のスキルだ。パーティーメンバー1人を対象とする。


「それともう一つ、奴には特徴的な攻撃がある。手足の生えた鯰と鮟鱇の合いの子のような見た目をしておるが、奴の頭の提灯の光が強まった時は目を閉じるか背中を向けることだ。意識を奪われ1分ほど味方を攻撃してしまう」

「マジか・・・」


 吟遊詩人は楽なジョブだと思ったけど、そういうギミックは流石にこなさないと迷惑がかかる。如何に自分の攻撃が大したことはないとはいえ、その間は呪歌なしで戦闘しなければならない。


「初回はリリカ様が異変に気付き、声掛けしたものの反応が遅れたバラックとロズホーンが後衛に襲い掛かってしまい・・・リリカ様が2人に睡眠魔法をかけて凌ぎましたが、その間にリベリアがドルトラギオに襲われて死亡する事態になりやむなく撤退しました」

「強い光が去ったのを確認できれば視線は元に戻してよい。目を瞑っていても瞼越しにでも明るさの変化が分かるほどだ」


 とりあえず、目を瞑るようにしよう。


「では、準備は良いな。今回はアブが居るし問題はないとは思うが、最悪は我一人で奴を滅ぼす」


 やるかやられるか、死闘の予感にあたしは身震いした。


「行くぞ!」


 扉を開けて40層へ突入する。そこは痩せた枯れ木が点在する沼のフィールドで、地平は霧がかかって良く見えない。足場は踝まで泥がぬめり、39層までと同様に移動には神経を使う。


「来るぞ!」


 沼の一部が盛り上がって『浅沼の王ドルトラギオ』がその姿を現す。

 そこには手足の生えたナマズとアンコウの合体したような怪物が居た。本来眼のある場所には眼球はついておらず、額から伸びた提灯の先に眼球がついている。皮膚はぬめりを帯びて光を照り返し、ところどころ泥をこびり付かせていたが、体を震わせ泥を払う。


「ロズホーンは左へ誘導!バラックはロズホーンと逆サイドから挟み込め!本隊はここで待機して横から攻撃!」

「マナタウント!」


 おなじみのヘイト稼ぎ技が発動し、ドルトラギオを誘導する。ドルトラギオはドタドタと泥を撒き散らしながらロズホーンに接近し、そのままジャンプしてダイブを図る。


「『エーテルアンカー』!」


 ロズホーンはすかさず魔力の杭を地面に叩きつけ、ノックバックを無効化する。そのまま魔法盾を構え、ドルトラギオを迎え撃つ。


 ドォン!


 重量を感じる音が響き、ドルトラギオがロズホーンの盾にはじき返される。その反動でロズホーンは少なくないダメージを負う。


「『ダークヒール』!『エビルリジェネレーション』!」


 リベリアがすかさずヒールを挟む。今後のことを考え継続回復も入れている。

 その間あたしは『支配のオスティナート』をバラックにかけ終わったので、呪歌を『魔泉のアルペジオ』にシフトさせた。


「バラック!全力で背後から攻撃だ!ヘイト2位を維持しろ!」

「分かってますって!出でよ!『イービルブレード』」


 既に背後に陣取って力を溜めていたバラックが巨大な剣を地面から召喚する。

 骨でできた顎のような形をした大曲刀だった。とてつもなく重いようで、バラックはそれを大型バイクを起こすように下から持ち上げ、肩に乗せたと思ったら斜めに跳躍しながら縦軸に回転をかけドルトラギオに叩きつけた。


 ドゴォ!


 元の位置に戻り、二撃目を放つ。


「ヨイショー!」


 ドゴォ!


 ドルトラギオがロズホーンを攻撃しつつも、少なくないダメージを受けているのが分かる。グラントが『エンミティビジョン』でヘイトを監視する。


「概算でロズホーン50:バラック35:リベリア:15です」

「よし、アブ。リベリアのヘイトをロズホーンへ」

「オーケイ」


 あたしは『鏡像のレゾナンス』でリベリアのヘイトをロズホーンに移した。


「バラックもう1発お見舞いしてやれ!それが終わったら各自提灯に備えろ」

「了解!どおりゃああ!」


 ドゴォ!


 背中に3発目のジャンプ斬りが決まった。


「『リベンジストライク』!『マナタウント』!」


 盾の反射ダメージがドルトラギオの顔面に直撃し、提灯を揺らす。同時にマナタウントを再発動しヘイトを維持する。提灯がチカチカと点滅しだす。


「来るぞ!目を瞑れ」

「ほい!」


 あたしはぎゅっと目を瞑った。瞼越しに外の空間が赤く点滅しているのが分かる。


「目を開けろ!バラックは下からの攻撃を誘導しろ!」

「りょーかい!」


 目を開けると丁度ドルトラギオが地面に潜っている最中だった。すぐに穴は泥で塞がり、辺りは静かになった。バラックが召喚していた剣を亜空間にしまい、ロズホーンとは逆の方向に走り出す。


 ズオオオオオオオ!!!


 すると、地面の盛り上がりがバラックに向かって走っていく。下からドルトラギオが迫ってきているのは明白だった。


 ドォォォオン!


 下からせりあがってきたドルトラギオがバラックに向かって口を大きく開けて飛びかかってきた。


「へっ手の内がバレてんだよ!」


 バラックはそれをサイドステップで回避した、が・・・。


「うおっ」


 頭からの突進は回避したがドルトラギオの腕がラリアット気味にヒットしてしまった。バラックは吹き飛ばされ、泥まみれになりながら起き上がった。


「リベリア!バラックを維持しろ!」

「御意!『ダークヒール』『エビルリジェネレーション』」


 折れていたであろう腕が治り、バラックはナックルガードの付いた細い剣をマジックバッグから取り出し半身に構えた。


「あっぶねえ~。首をかばってなかったら死んでたな」

「『マナタウント』!」


 ロズホーンがドルトラギオの背後から『マナタウント』を使用して敵対を稼ぐが、ターゲットはまだバラックに張り付いている。


「バラック、いけるか?」

「ブラディオの旦那に比べたら大した事ねえって。よっと」


 スパァン!


 迫ってきていたドルトラギオの腕を持っていた剣でパリィした。

 バランスを崩したドルトラギオは転倒した。


「ロズホーン!盾ごと突撃しろ!『エンチャント:スパイク』!」

「承知した!うおおおお!」


 ロズホーンの盾にリリカがエンチャントを施し、棘の塊のようなオーラを纏ったままロズホーンはドルトラギオに突進を仕掛けた。


 ザクッ!!!


 突進を受けるとドルトラギオはその身を震わせる。


 うおおおおん


 ドルトラギオは倒れたまま大きな叫び声をあげた。


「ぐっ・・・!」

「うごけ・・・」


 近くに居たロズホーンとバラックは咆哮で麻痺してしまった。ドルトラギオの提灯が点滅を始める。


「提灯が!」

「まずい!バラックとロズホーンを守れ!」

「『ダークヴェール』!」


 リベリアが状態異常耐性を上げる『ダークヴェール』を展開する。

 それに続いてあたしの口がとっさに言霊を紡ぐ。


「『宵闇よ、しばしその眼を隠し、妖しき光を遮らん』」


 暗雲によって6人全員の視界が遮られた。


「アブ!よくやった!」


 5秒後には視界がはっきりした。例のごとくドルトラギオは地面に潜っている最中だった。


「『エンミティビジョン』!ロズホーン6:リベリア4」

「アブ!リベリアのヘイトをバラックへ!」

「りょーかい!『鏡像のレゾナンス』!」


 バラックへのヘイトはリセットされてしまっていたようだ。ヒールで敵対を稼いだリベリアはかなり危険な状態だった。


「我も前に出る。グラント!アブへの指示は任せた」

「はっ」


 リリカはニヤリと笑うと飛翔魔法を使い、前に躍り出た。我々の位置から対角に陣取り、ロズホーン、バラックと共に四方から囲む形になる。


「後半戦だ」


 ロズホーンがドルトラギオを誘導する。地面が盛り上がりロズホーンに巨体をぶつけに来る。


「『エーテルアンカー』!」

「『ブレスオブダークネス』」


 魔法盾を構えたロズホーンがドルトラギオの突進を受け止める。両者に少なくないダメージが入ったが、リベリアの『ブレスオブダークネス』の効果でロズホーンはダメージを相殺する。弾き飛ばされたドルトラギオは今度は転倒せずに四肢に力を籠め踏ん張る。


「アブ殿。使用可能な状況で適宜リリカ様に『罅隙のオブリガート』を」

「分かった!そのあとまた『支配のオスティナート』を更新するね」

「それで構いません」


『罅隙のオブリガート』は次に使用する魔法の威力を2倍にする呪歌だ。音楽的にオブリガートを成立させるには、主旋律が必要になるので、『魔泉のアルペジオ』を演奏しながら肉声で主旋律を乗せる。


「『罅隙のオブリガート』!」

「ミクスチュアマギ!クアドラブルスペル『サモン:アダマンタイトソード』『フローティングウェッジ』」


 リリカの周りに4本の剣が出現する。詠唱の通りならアダマンタイトで出来ているであろうそれらは、出現後、宙を飛びながらドルトラギオを側面から斬撃で攻撃し始めた。


「『オクタプルフォース』」


 リリカ本体は『オクタプルフォース』をメイン火力として使用する。8属性の力を相殺して無属性を生み出す魔法だ。制御が難しく、燃費も悪いらしい。


「『支配のオスティナート』!」

「行くぜ!『イービルブレード』」


 バラックが再び巨大な剣を召喚する。


「うぇえええい!!」


 バラックが全身をしなる弓の様に使い、テンション高めにドルトラギオを背後から襲撃する。ジャンプ斬りの連発はさながらバッタの様で、重量感のある攻撃がドルトラギオの体力を削っていく。


「アブ殿。『群像のレチタティーヴォ』を」

「おーけー」


 あたしは『群像のレチタティーヴォ』を奏でた。パーティ全体の攻撃速度を2倍にする効果のある呪歌だが、召喚した使い魔にも効果があるようだ。目に見えてスピードが上がっている。


「まさか、召喚した剣に『支配のオスティナート』『群像のレチタティーヴォ』『罅隙のオブリガート』、これ全部効果が乗っちゃってる?」

「左様でございます」


 つまり攻撃の威力は4倍に、速度は2倍になっているということだ。つまり単純計算で8倍の効果がある。加えてそれが4本。アダマンタイトソードの斬撃は通常の32倍のダメージを与えている計算になる。


「それそれそれ!アブを得た我は無敵だ!」

「『マナタウント』!」


 ロズホーンが必死にヘイトを稼ぐが、ドルトラギオのターゲットは当然のようにリリカに向かう。


「ロズホーンはそのままヘイトを稼げ。2位をキープすることにも意味がある」

「リリカ様お気を付けて!」

「我を誰と心得る!『アダプティブフィールド』!」


 先ほどロズホーンが受けてきた爪、頭突き、圧縮され口から撃ち出される泥などがリリカを襲うが、リリカはそれらを避けながら手に魔力の力場を作り出しそれを往なし、逸らしていく。決して正面からは受け止めない。


「前を向いたのなら弱点も狙いやすかろう。そこだ!」


 リリカはなおもドルトラギオを攻撃し続ける飛翔する剣の1本を操り、ドルトラギオの提灯に狙いを付けて切りつけた。


「グオオオオオオ!」


 提灯が切断され、ドルトラギオが頭を押さえ苦しみだす。


「放置すると再生するが時間は稼げるぞ!切り刻め!」

「フィーバータイムだ!」

「いっけええええ!!」


『アーケイン・ナブラ』の総攻撃がドルトラギオを襲う。あたしも呪歌のかけ直しを行う。ドルトラギオは提灯を再生させたはいいものの、点滅の最中で糸が切れたように力なく崩れ落ちた。


「よっしゃああああああ!!!!」


 あたしは思わず雄たけびを上げた。

『浅沼の王ドルトラギオ』は光の粒子と共に消滅し、宝箱がそこに残された。




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