第2話 大きな進展
「それはその時考えるまでさー。」
「あ、あはは…」
私はこのいつもはしっかり物事を考えてそうな隆二くんなのに、たまーにこういう大雑把な所もあることを知った。
こういう隆二くんも好きだなあ。
「そうだ、美蘭ちゃん。今日はランニングしよう。」
「え!?」
「いやだってね。美蘭ちゃん体力ないでしょ?だからまず働く以前に体力付けなきゃ。」
「それはわかるけど、なんでランニング?」
「僕が走りたいからさ。ダメ?」
「いいけど、ほんとに遅いからね?」
と言って私達は玄関を出た。
正直走るのは辛い、すぐ息が切れるし疲れるし。でも今は何故か隆二くんと居られるからか楽しく感じる。
「美蘭ちゃんは自分のペースでいいから。」
「うん。隆二くんも無理に合わせなくていいからね。」
なんて言っちゃったけど本当に置いていかれたらどうしよう。
そんなことを思いながら走り出す。
やっぱりと言うべきか走り出てすぐ息が切れてしまった。それでも何とか走る。
「はぁ、はぁ…、はぁ。」
「美蘭ちゃん大丈夫?」
「はぁ…はぁ、い…や。だ…大丈夫…じゃない…かも…。」
「初めはゆっくり走ればいいんだよ。息が切れない程度にさ。大丈夫ちゃんと合わせるから。」
「わ…わかった。ちょっと…落とすね。」
とそんな感じで走り続けられるペースにして一緒に走った。しかし筋肉の疲れはすぐに来て、
「きゃっ。」
とつまづいて転んでしまった。
「痛たた…。」
「美蘭ちゃん!怪我してない?」
「膝擦りむいちゃった。」
「やっば、美蘭ちゃん背中に乗って。」
「え、いいよ。歩けるから。」
「いいから乗って!」
「う、うん。」
隆二くんは怪我した私をおんぶしてくれた。
(隆二くんの背中、暖い)
走ってきた道をダッシュして家に連れて行って、玄関に入って靴を脱ぐなり、
「叔母さん!消毒液!」
と隆二くんは叫んだ。
「あら、隆二くん。どうしたの?」
「美蘭ちゃんと一緒に走ってて、美蘭ちゃんが転んじゃって、それで…。」
「なるほどね、ちょっと待ってて。」
隆二くんは私を下ろさず靴を脱いで、部屋に上がった。
家のリビングにあるソファに私を座らせてママを待った。
「美蘭ちゃん、無理させちゃってごめんね。」
「大丈夫だよ。私が勝手に転んじゃっただけだし。」
「美蘭怪我したのどこ?」
「膝を擦りむいただけだよ。」
隆二くんと話していたら、ママが来てくれた。
「ちょっと染みるけど我慢してね。」
「いたた。」
「隆二くん、ありがとうねここまで美蘭を運んでくれて。」
「いえいえ。僕の方こそ美蘭ちゃんに怪我を負わせてしまって。すみません。」
「いいのよ。私もこの子が体力ないの知ってるし。本当にありがとうね。」
ママと隆二くんが会話している所を見るのは初めてだった。なんか心がムズムズした。どうしちゃったんだろう私。
「そういえば美蘭。バイト探すんだって?」
と聞かれとっさに隆二くんをみた。
隆二くんは手を合わせて頭を下げてた。
「うん。そうだよ。」
「お母さんの知り合いにお店やってる人いるんだけど、紹介しようか?」
「え!?そうなの!?じゃ、お願いしようかな。」
「ええ。お店はお花屋さんだからね。しっかり面接の練習しておくんだよ。」
「め、面接か…。例えばどんなこと聞かれるの?」
と私が聞くとママは考え込み、考えの整理が着いたのか顔を上げると、
「自分の長所、短所。働ける曜日や時間を聞かれるらしいわ。」
「ふえぇ。自分の長所なんて分かんないよ〜…。」
と私が言うと、隆二くんとママは2人同時にこう言った。
『美蘭の長所は人への気遣いでしょ。』
……。理解までに少し時間がかかり、無言になってしまった。
「な、なんでそうなるの?」
「え、だって美蘭ちゃんって人へ気を遣ってるよね?」
「えっと、確かに無意識に遣ってるかも。でも、それがバイトとなんの関係が…?」
「美蘭。あのね?人に気を遣い続けるって誰でも出来るわけじゃないのよ?そして、社会では人への気遣いは1番大切なことなの。そういう意味で美蘭の長所は…」
「人への気遣い…。」
私は口に出していた。と言うより2人が言ってくれた長所以外に自分の長所が見つからなくて、自然とそれしかないなと思ってしまったのかもしれない。
「そっか、そうだよね。ありがとう!ママ、隆二くん。」
『どういたしまして。』
時計を見ると、もう6時を回っていた。
「隆二くん、そろそろ帰った方がいいんじゃない?」
「うーん、そうしたいのはやまやまなんだけど、今日僕ここに泊まるんだよね。」
私はママの方を向いて、
「ママ!これほんと?」
と聞いた。
「ええ、隆二くんの家ね。3時頃から夫婦旅行にちゃって家に居ないのよ。だから2日間ぐらいうちに泊まってもらうのよ。」
「という訳だ。よろしくね、美蘭ちゃん。」
「ええーー!」
今日好きって気づいたばかりなのに、いきなりお泊まりなんて緊張しちゃう…。
「美蘭ちゃん?何か言った?」
「な、なんでもないよ!こちらこそよろしくね。」
(やばっ、声に出てた…?)
「所で美蘭ちゃん、なんで緊張なんかしてるの?」
「き、聞こえてるじゃん!!それになんでもないって。」
隆二くんには聞こえてないと思ってたのに、口に出されて動揺した。
「じょ、冗談で言ったのにそんなに大きな声出さなくても。それとも本当に緊張してるの?」
「し、してない…し。」
バレてなかったという安心感もあったけど、それと同時に本当にバレてしまったら…という焦りもあった。
それから私と隆二くんは2階の私の部屋で晩御飯が出来るまで遊ぶことにした…多分。
「美蘭ちゃん、面接の練習する?」
「え!?今から?」
「まー、早い方がいいかなってね。」
「でも私なんて言ったらいいか分からないよ…。」
「そのための練習でしょ!はいやるよ〜。」
と隆二くんは私と向き合い始めようとする。
私も練習はしなきゃいけないことだとわかってはいたから逆らわずにいた。
「じゃ、僕面接官役やるからね。」
「は、はい。お願いします。」
私は正座してしっかりと背筋を伸ばした。
「では。あなたは何故ここを選んだのですか?」
「はい。昔からお花が好きだったからです。今でもお花についての花言葉なら言えます。」
「では、ピンク色の薔薇はなんと言いますか?」
「はい。感謝です。」
と私が言ったとき隆二くんが黙った。
隆二くんは顔を下に向けており、何かを思いついたのか顔を上げた。すると、
「ごめん、何も考えてないや(笑)。美蘭ちゃんってお花なんていつ知ったの?」
こんなことを聞いてきた。ほんとにいきなりだなあ。
「えっと、小さい頃からずっと、図鑑とか中学入ってからはネットとかで調べて覚えてたの。」
「あー、それですんなり返せたのか。それだけの知識があれば十分やって行けると思うよ!」
「あ、ありがとう。でも隆二くんは大丈夫なの?お花の名前とか。」
「大丈夫大丈夫。もうほとんど覚えられたから。」
「ん!?ほとんど!?いつ!?」
「えーっと、美蘭ちゃんをバイトに誘おうとした辺りだから…一週間前くらい?」
「隆二くんってチート級な頭してるね…。」
正直に思ったことを言ってしまった。傷つけちゃったかなと隆二くんの顔を見たが!そんな素振りは全くなかった。
「褒め言葉だよ、ありがとう。(笑)」
こんな返され方をされ、私は言葉も出なかった。
「さて、私はそろそろお風呂に入ってくるね。」
「おう。僕も後で入るわ。」
「……覗かないでね?」
「覗くかばか!」
「そ、そう?ならあと一つ。」
「な、なんだ?」
「私が入ったあとだからって意識しないでね?」
「いやいやいや、だからだな、大丈夫だって。」
「うん!じゃね!」
私は部屋をでてお風呂に入った。
身体と頭を洗って湯船に浸かり、今日あったことを思い出していた。
(今日だけで色んなことがあったな…。バイト決めたり、走ったり、それに…隆二くんへ気持ちに気づいたり…。)
そんなことばかり考えるせいか、自分が自分で恥づかしくなってくる。そのせいか、私はお湯の中に頭まで浸かり、息をギリギリまで吐いて空気中に飛び出る。
そんなことしながら長い間浸かっていると、目の前がクラクラしてきてそのまま湯船の壁に頭を預けた体制で意識が飛んでしまった。