22 西園寺貴文
なんとか年内に間に合いました。
最後はやっぱりこの方に締めていただくのがよいでしょう。
ただ、少し説明ぽくって読み辛いかも… 相変わらずの力不足でごめんなさい。
家族総出で本家当主に時候の挨拶と、隠居所に住まうお祖父様への御機嫌伺いを済ませようやく一息つく。
暫らく一人になりたくて本家自慢の庭が一望できる東屋で休んでいると、北の義基が満面の笑みを浮かべてやってきた。
「久し振りだな、貴文君。元気そうでなによりだ。東の方々も今日挨拶回りだったのか。私達はこれからでね… いやぁ、ここで君に会えると分かっていたら瑠璃子も散歩に誘ったのに、きっと残念がるだろう… あ、今度我が家に遊びに来なさい。瑠璃子も喜ぶだろうし、君なら大歓迎だよ___」
……よく口の回る男だ。
娘の瑠璃子と僕の婚約話をまとめようと企む彼は、結花の存在を疎ましく感じているらしくいろいろ仕掛けてくる。
僕が気付いていないとでも?
だが、たとえ裏で僕のプライベートを侵害していても、今の僕の立場ではそれを表沙汰にして彼を非難することは憚られる。しかもここは本家。騒ぎを起こすわけにはいかない。
狡猾な彼のことだ、それすらも計算のうちなのだろう。
僕はいつものように完璧な作り笑いで適当に受け流す。
格下の北の人間であっても当主となればそれ相応の礼節を持って対応しなくてはならない。
面倒なことこの上ない…
嫌味の一つや二つ、言ってやりたいのをグッと堪えてやり過ごしていると、彼以上に厄介な人物が現れた。
西園寺清春 27歳 南の当主の次男で財務省に勤めるエリート官僚。
下世話な話になるが、今現在本家当主に直系の子供がいない。現当主は50歳になったばかりで今すぐ後継者問題を取り沙汰する必要はないが、既に水面下では動きを見せている。
次期当主候補は5人。
その中に僕の名前と、彼、清春の名前が上がっている。そして、僕と清春が最有力候補だとみなされているのだ。
周囲の者は僕達をライバルだと言い、競わせようと煽り立てる。ここ数年は勝手に優劣をつけて、そしてそれをいちいち報告しにやって来る。
両親はその内容に一喜一憂し、僕の分が悪いと聞くともっと努力しろとうるさくする。
これ以上、何を、どう頑張れというのだ?
清春の姿を認めた義基は辞去の言葉もそこそこに慌てて立ち去った。彼も清春のことは苦手なのだろうか? そして入れ替わるようにして清春が声を掛けてきた。儀礼的な挨拶を済ませると、親しみやすそうな笑顔を貼り付けて僕の近況を聞きだそうと話題を振ってきた。
自分の不利益になる言葉を与えず、僕の重要な情報を引き出そうとする清春。頭の切れる彼の会話の駆け引きは素晴らしく見事なものだ。だが、僕だって負ける訳にはいかない。向こうにはエリート官僚というプライドがあるだろうが、僕にだって分家筆頭、東の当主の長男という立場がある。ここで失態を犯すわけにはいかない。
どれだけ揺さぶっても僕から何の言質も取れないと分かり、彼がやっと諦める。
僕は内心で勝ったとほくそ笑む。
彼は僕に別れの言葉を述べた後、取って付けたように付け加えた。
「ああそうだ、貴文君。北の義基には気をつけたほうがいいよ。彼は候補者5人全てを手の内に納めようと策をめぐらしているようでね。つい先日私の息子と彼の一人娘の瑠璃子の結婚話を持ってきたんだ。私の息子はまだ1歳にもならないというのに、いったい何を考えているのやら。彼の執念には恐れ入るよ」
清春の真意が測りきれず、僕は無言で通す。
「彼の強引過ぎるやり方に、北の中でも反発する声があるようだ。不用意に関わって騒動に巻き込まれでもしたら、貴文君の名前に傷が付く。君は西園寺にとって大事な人だからね、くれぐれも用心するように」
「……御忠告、ありがとうございます」
今のはどう解釈すればいいのだろうか。
ハッキリしているのは言葉通りの意味ではないということだけ。
牽制 嫌味 それとも攪乱?
先程、義基と二人きりでいるところを見られている。北が見込んでいるのは僕だけではないと、負け惜しみを言ったのか?
それに、話の内容も本当かどうか分からない。もし彼の話が真実ならば、瑠璃子は何人もの男と結婚話が進められているということになる。それとも、北は南に乗り換えたということか?
祖先を同じくする一族だというのに、どうしてこんな腹の探りあいをしなければならないのだろうか。
いや、同じ血筋を持つからこそ争いが起きているのだ。
西園寺本家当主という、一つしかない座をめぐって…
実家に寄るよう引き止める両親に適当な理由をつけて断り、僕は大学に来ていた。
夏期休暇に入ったキャンパスは夕刻ということもあり閑散としている。いつもと違って静寂に包まれた空間が、何故だか妙に居心地が良い。
僕は人気の無い構内を通り抜け、あの大きな水槽の前へとやって来た。
去年の春、ここで初めて結花を見つけた。
あの時も今と同じようにとても疲れていた。
両親からの過剰な期待。一族からもたらされる様々な噂。常に注目されているという緊張感。多大な好意と、そして悪意。
僕を取り巻く全てのものからプレッシャーをかけられていて、今思えばあの時の僕の精神はボロボロになりかけていた。
なのに、水槽の魚を見て微笑んでいる結花の横顔を目にした時、一瞬で癒されたのだ。
特別な存在を作りたくなくて忘れようとしたこともあった。ただ姿を見るだけで、満足しようと試みたことも… 結花を口説く男がいることを知り慌てて__
「西園寺さん! 来てくれたんだ」
「そろそろサークルが終わる時間だと思ってね、迎えに着たんだ」
僕が手を差し出すと結花はためらうことなく握り返してくれる。
手を繋いで、何気ない話をしながら廊下を歩く。
結花の明るい笑い声。手から感じる温もり。裏を読む必要の無い会話。
僕の心が満たされていくのを感じる。
想いが通じ合って一年が経った。
結花と恋人として過ごした幸せな時間を知った今、彼女と離れることなんて出来ない。僕の心に安らぎをもたらしてくれる唯一の人。
あの日、ここで、僕の恋が始まった。
だから結花、どうかこの手を離さないでほしい。
ねえ、結花
なに?
好きだよ。この世で一番結花が大切。結花は?
わっ、私もさいっ… 貴文さんが大好きです
じゃあ、ずっと一緒にいようね。約束だよ
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価で応援して下さった方、大変励みになりました。感謝の気持ちで一杯です。
こうして最終話まで書けたのも、読んでいただいた多くの読者様のおかげです。本当にありがとうございました。
それでは皆様、良いお年を




