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イルマギア2(宮廷編)  作者: 鳴澤 衛
魔法使い王子、認定考査へ行く
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(19)最終考査はオニゴッコ?

「最終考査は『協会の魔導師及び魔法使い達から逃げてもらう』です」


 ドレイクの言葉に一瞬静寂が起きたが、すぐに大騒ぎになった。

「どういうこと?」

「なに、それ? おいかけっこ?」


 ザワザワと騒ぐ考査に集まった魔法使い達に「詳しく説明します」と壇上にいるドレイクが静める。

「逃げるあなた方を、協会所属の魔法使いや魔導師達が追いかけ、捕獲します。捕まり、幽閉ゾーンに入れられたらそこで終了ですが、それまでどんな手段をつかってでも、逃げるのは加点の対象になります。場所は立ち入り禁止以外の協会内部と、協会の外、森。時間制限のなかで捕まらずに無事に逃げおおせた者。また、最上階にいる魔承師に触れられることができたらゴール。その者には大幅な加点が入ります。この最終考査については他の考査中の者達と組んでも良し、とします」


「おおおお!」という声が、考査を受ける魔法使い達から聞こえた。

「とにかく逃げながら最上階をめざして、魔承師に触れることができたら『魔導師』の資格がもらえるのは確実ってことですね、ロジオン様」

 宮廷の魔法使いの一人が、確認の意味を込めて聞いてくる。

「そうだね。……その『協会の魔法使いや魔導師達』から逃げるのが大変そうだけどね……」

 ロジオンがぼやく。


 絶対、集中砲火だよ――特にゲオルグ。

 第三考査の時に、雷撃を放ってきたのはゲオルグだ。あのときは『ノア』に意識を支配されていたけれど、それは感じ取れた。


「……僕たちは、なるべく逃げることに集中しよう!」

「そうですよね、捕まったら幽閉ゾーンに入るまでに逃げれば大丈夫。しかも加点とか言っているけど、難しそう……」

「組んでもいい、っていうんだからまとまって逃げながら、最上階目指した方がいいかな~って思うの~」

とエマ。

「そうだね。まとまって最上階を目指した方が一人捕まったとき、逃がせるチャンスが多いと思う」

喧々囂々と話し始めた魔法使い達に、ドレイクはまた「静粛に、まだ話すことはあります」と告げる。


 ドレイクの沸点の低さをこの考査中に知った皆はすぐに静かになり、彼の次の言葉を待った。

 ――だが、なかなか喋らない。

 気むずかしい顔を崩さぬまま、目を瞑り壇上に立ち尽くしている。


「おい、ドレイク。もう諦めろって! いくら言っても聞かなかったんだから、覆せねーよ」

 いつの間にかドレイクの後ろに来ていたゲオルグが、バンバン彼の背中を叩き促す。

「はあ」とドレイクの短い溜息が聞こえ、それから彼は嫌そうに口を開いた。


「……先ほど、最上階には魔承師がいて、触れることができたらゴール。と言いましたが、それは直前で修正になりました」


 ――えっ?


「……魔承師も、追いかけてくる貴方達から逃げます……」


 ――えっ?


「……逃げる魔承師を捕まえることができたら、その者は加点減点関係なく『魔導師』の資格を得ることになります」


――ええ?


「す、すいません! 質問! では最上階に行っても無駄ってことでしょうか!?」

 我慢たまらず、考査に参加する他の魔法使いが挙手をしつつ問う。

「……代わり、私がいます……」

 頭痛がしてきたのか、額を擦りながらドレイクが答える。


「考査対象の魔法使いだけでなく、お、おつきの者も参加してもいいですか!?」

 馬鹿な質問をしたのはラーレだった。

「参加してもかまいませんが、何をしても加点の対象にも減点の対象にもなりません。それでいいなら」


 ――いいのかよ


「よおおおおおおおおおっし! 私、頑張ります! いいですよね? ロジオン様!」

「はいはい、どうぞお好きに。――アデラ、ラーレに付き添ってて」

「はい、勿論です」

 ラーレの目的のわかるロジオンとアデラは、以心伝心のごとく頷き合った。


「補佐様、質問があります!」残っていた他の魔法使いが挙手する。

「どうぞ」とドレイクに促され、その魔法使いは口を開いた。

「我々のほとんどは魔承師の顔を知りません。協会にいる他の魔法使いや魔導師達と区別がつかないのですが……」


 ――ですよね。


 ロジオンは知っているが、他の魔法使い達は顔をしらない者ばかりなはず。

 普段は協会の奥にいて、外に出ることなどない。

 彼らが魔承師に会えるのは、魔導師の資格を得たときか協会直属になれたらだ。


 そもそも、彼女にはこの協会から外へ出れない理由があるのだから仕方ない。

「目立つから一発でわかるぜ?」

 と一緒に壇上に立っているゲオルグが偉そうに言った。


 それで魔法使い達は納得するはずもない。動揺に一気に騒々しくなる。

「静粛に。魔承師が自ら姿を見せるそうです」

 ドレイクが静かにするよう告げ、そこにいる皆が固唾を飲んで登場を待つ。

 壇上の中央に突如、一人の女性の姿が現れ――静寂が起きた。


 それは残滓のような幻のような影の薄い姿だ。

「ロジオン様、あれは?」

「自分の姿を思念で送ってるんだ。何も魔具を使わない上に、頭の中に送るという一般的な方法でないやり方をするなんて……さすがといえばさすが」


 でも、この静まりかえった会場が意味するのはそんなことではない、とわかる。

 魔承師の魔法で驚いているんじゃない。

 彼女の姿に驚いているということだ。

 まず、魔承師が女性だということを初めて知った者もいるだろう。

 そしてこれほど美しい女性だった、ということに驚いているのだろう。

『神秘』という言葉が相応しい容姿だから。


『私が魔承師イゾルテです。最終選考まで残った魔法の使い手達、どうぞ最後まで全力を尽くし魔導師の称号を得られるように』


 呆然と見ている皆にイゾルテは悠然と微笑むと、姿を消した。


「綺麗……」

 どこかの魔法使いがぽつり、と言ったことで一斉に雄叫びがあがった。


「うおおおおおおおおおおお! やってやる! 絶対イゾルテ様を捕獲してみせる!」

「馬鹿野郎! 俺だ! 俺が彼女を捕まえるんだ!」

「『彼女』呼ばわりするな! てめえ! そのきたねえ手でイゾルテ様に触れるな! お、お守りするぞ! 俺は! 絶対に魔導師になって、協会に入ってイゾルテ様をお守りするんだ!」

「さ、触れる……? あの美しいお方に触れることができる……?」

「やってやる! 目標『イゾルテ様』!」

 男性の魔法使い達の志気が高まった。


 ――違う意味で。


 そんな姿を、冷めた目で見つめる女性の魔法使い達。

 男性側の過剰すぎる反応に引いている者や、一緒になって「イゾルテ様、お近づきになりたい!」と自分を奮い立たせる者。


 ――こっちも違う意味で盛り上がっていた。


「うわ……これは、荒れそう」

「ですね」

 この異様な盛り上がりにロジオンが、確定ともいえる予見をする。

 それは魔力のないアデラでも容易にわかり、頷くものだった。




◇◇◇◇




 とにかく――

「皆、やる気が出てよかったな。こりゃあ盛り上がるぜ、ドレイク!」

 ゲオルグが親指を立てて見せる。

「……イゾルテ様に、よからぬ考えを抱いている者が増えるかと思うと頭痛が起きそうです」

 何の考査なのか主旨がずれてきていることに、ドレイクは早くもこめかみが痛んできていた。


「大丈夫だって! 力のない奴をみすみす魔導師にさせるつもりなんてないぜ! 俺に任せろ! お前には指一本触れさせはしないぜ! 俺が守ってみせる!」

 そんなドレイクにゲオルグは親指を立てたまま白い歯を輝かせ、ニカッと笑って見せる。

 どうしてかウィンク付きだ。


「――私のことはお構いなく。それより、逃げ回るイゾルテ様を守ってください。私は最上階待機ですから」

「うっはっは! 任せろ! 腕が鳴るぜ!! お前の分まで暴れてくるから、最上階でいい子にしてろよ!」


 とゲオルグは意気揚々に壇上から降りて行った。





「……最上階で、いい子にしてるわけありませんが」




 ぽつり、と呟き、ドレイクは僅かに口角を上げたのだった。




これでまたしばらくお休みです。

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