捻りの無い男
ダイス国歴329年。
春。
本日はお日柄も良く・・・。
誠に良き日。
そんな言葉が飛び交うテーブル。
私は、お茶を一口飲んで息を吐く。
窓の外には美しい庭園。
燦々と降りそそぐ陽光。
あぁ、本当に、良い日。
良い天気。
婚約式にうってつけ。
素晴らしい。
これが私の婚約式じゃなかったら。
もっと良かったのだけども。
「聞いているの?ラディア。」
気ぜわしげに母が言う。
私は、
「はい。お母様。」
と、答える。
「ぼんやりした娘で。」
母が取りなすように言う。
父は空気だ。
「いやいや。おっとりしたお嬢さんですな。」
アンドゥ伯爵が仰る。
ホホホ。
なんて貴族のお手本みたいな笑い方をするアンドゥ伯爵夫人。
母のぼんやりした娘・・・と言う表現はぼんやりして見える娘って意味なんだけど。
私の顔は本当にぼんやりボーッとして見えるけど、頭の中では忙しく会議中。
今だって。
伯爵夫人無理ぃ!
ってなっているけど、将来の義母になるし、見習ってみて頑張って笑顔をキープ。
頬肉がピクつく。
その努力の私に対してレオン・アンドゥ伯爵子息・・・私の婚約相手は仏頂面だ。
両親はキョロキョロ視線を彷徨わせている。
気を使うよね。
なんと言っても相手は伯爵家。
我が家は子爵家で、しかも二月前まで男爵だった。
その一年前は平民だった。
えぇ、ただの平民。
冷や汗かきながら両親が何とか相槌をうとうとしている。
「では、後は若い二人で。」
と、伯爵が言って、お互いの両親が席を立って行ってしまった。
しばらく沈黙。
レオン様がようやく口を開く。
私を庭の散策へと誘ってくれた。
でも仏頂面は変わらず。
差しだされた手、優雅な仕草。
さすが伯爵家嫡男。
手を添えると、そのまま、優しくエスコートされる。
表情は仏頂面だけど。
不満だけど、頑張って耐えているけど、表情管理が伴っていないと。
もう、28と聞いていたけど。
精神年齢が若いね。
未熟だね。
でも、仕方ないか。
事業に失敗したのはお父様であなたじゃないから。
元々、経済状態が怪しくなっていた伯爵家。
お父様の伯爵は事業で嫡男であるレオン様は騎士団に入って立て直そうとなさった。
それで、お父様は失敗。
レオン様は、ようやく管理職になって、これからって時に、私との結婚を命令されたなんてね。
レオン様としては、上司の娘様との婚姻を狙っていたみたいなんだけど。
父親の尻拭いで、新興貴族のほぼ平民と婚約しないといけない。
不満に、思うよね~。
心の中で呟きながら、ついていく。
伯爵家の庭。
見たかったから、これはこれで良い。
レオン様は見ない。
イケメンでも仏頂面は見たくない。
只管、花を観賞。
調度、見頃。
さすが伯爵家。
素晴らしい庭。
素晴らしい手入れ。
なかなかの眼福。
それと、まだまだ、ここにお金かけられるなんて逼迫してないなぁ。
と、お金の計算をしてしまう。
庭師は一人ではないだろう。
道具もいるし、新しい花苗やら・・・。
計算に忙しいので反応が遅れてしまった。
レオン様が止まって、私を見据えている。
視線が冷たい。
あ、なんか嫌な感じ。
そう思ったのと同時に、
「いいか、先に言っておく。」
なんて、敵意丸出しの声色。
思わず身構える。
「この婚約は政略だ。君を一生愛することは無い。そのつもりでいるように。」
思わず無言になる。
無反応の私を見て、
「何か言うことないのか!」
と、怒る彼。
感想?
第一感想はね。
ドヤッた顔だ。
だよ。
第二感想は、
なんて捻りのない台詞なんだ。
だよ。
でも、言えないからね。
黙っているだけ。
私は曖昧に微笑んだ。
さっき習った、未来の義母の微笑み。
「全く、凡庸な容姿の上に、かわいげもないのか。」
独り言なのか、罵倒なのか。
中途半端な言葉を残して、レオン様は消え去った。




