また嵐ですか?
『コーヒーのテイクアウトできます』
エリィはそう書かれた張り紙をアルバトロスの外壁と、店内に張り付けた。マギーさんとあの後話し合って、今日から早速始めようということになった。マギーさんはあらかじめカップなど備品は用意してくれていたらしい。
「よし!」
「テイクアウトなんて始めて、エリィの負担が増えるだけじゃないか?」
そこへ、ひょっこりとアレウス君が顔を出した。ルシファー様が来なくなったことに気をよくして、私へのあたりも普通になった。
「その分、アレウス君がホールを頑張るんだよ?」
「かったりー」
でも、その顔には笑顔が浮かんでいる。エリィはその笑顔の意味を知らない。
アレウスは、ルシファーが来なくなってエリィは自分のものと確信していた。
だって、あの嫌な男から救ったのは他でもないオレですし?
エリィもオレに対しておどおどした感じが無くなった。これって、両想いだよな。にやけるのはそんなわけがあった。
しかし。
「なんでお前が店に来んだよ!?」
「日を改めると言ったはずだが」
久方ぶりに来店したルシファーをオレは睨んでいた。
「ルシファー様、お待ちしておりました!」
おい、なんでエリィも嬉しそうなんだよ、オレの女になったんじゃないのかよ。
アレウスは恋愛経験が少なく、生まれたばかりの悪魔なのでこういう勘違いもしようものなのである。様子を見ていたマギーは痛々しいものを見てしまった顔をした。そしてそっと耳打ちする。
「アレウス、エリィのことは諦めなさい、あの二人みてたらわかるでしょ」
そんな、オレは認めない!
「コーヒーをテイクアウトで頼む。サタン様がまた執務室から消えたせいでな……」
「はい、お作りしますね!」
よかった、ルシファー様が来てくれた!
エリィはウキウキしながらコーヒーを淹れていた。いつものようにコーヒーを堪能する姿を見れないのは悲しいけれど。
「できれば、サイズも選べるようになるとありがたい」
はじめは様子見のために通常サイズしかなかったのだ。後でマギーさんに報告しておこう。
「はい、承りました!」
コーヒーができてしまうのが惜しい。今は少しでもルシファー様にここにいてもらいたい。でもそれは自分のわがままだ。困らせるようなことはしたくない。そこでふと思いついた。ペンを取るとカップの側面に走らせる。
「できました。どうぞお持ちください」
「いただくよ。おや、これは」
ルシファー様がカップに書かれた、お仕事頑張って、の文字に気づいたようだ。
「エリィ、俺はもう二度とお前を泣かせたりしないと誓おう」
「その言葉、信じています」
「では、また明日も買いに来る」
そう言って、ルシファー様がお店を出て行ってしまった。寂しいなとは思いつつ、元気を分けられたならいいや、と気分が前向きになる。恋って、こんなに楽しいものなんだなと、私は今朝の自分に言ってあげたかった。
ルシファーが去ってしばらくしたのち。
アルバトロスの前に、一人の女性悪魔が立っていた。ピンクブロンドの長髪を丁寧に巻いて、たたずまいは妖婦といった感じだった。
「へぇ、ここが噂の。アタシのルシファーにちょっかいかけてるのはどんな女かしら」
そう呟いた女は、アルバトロスのドアベルをチリンと鳴らした。
「いらっしゃいませー!」
エリィは、いつになく元気よく接客していた。だって、ルシファー様がいらしたんだもの。
「あら、アンタかしら、アタシのルシファーにちょっかいかけてるのは」
「えっ……?」
『アタシの』という言葉にエリィは固まる。ルシファー様に恋人が? いや、そんなことはついぞ聞いたことがない。
「アスモデウス……貴女、まだあきらめてないのね……」
マギーさんがため息交じりに、目の前に現れた泣き黒子のピンクブロンドの女性を見やって言った。
「アタシのモノよ! アタシが気に入ったんだから!」




