表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族を統べる聖魔の王  作者: うちよう
01 魔人王即位編
48/52

48 会談終了、次にやるべきことは

大変お待たせしました。

 この日記を読んでサリカたちに掛けられた「呪い」が解けるかどうかは正直分からない。

 ゲガルドも公言した通り、あくまで日記には可能性が書いてあるだけなのだ。

 もし仮に、この日記を読んでサリカたちの「呪い」を跡形もなく消し飛ばすことができるのなら今すぐにでも実行していることだろう。

 しかし、俺には僅かな可能性を信じるよりもやらなければならないことがある。


 「よし、それじゃあ会議を再開するぞ。何か案がある奴は遠慮なく言ってくれ」

 「え!?」


 再会の合図にすぐさま驚きの声を上げたのは金髪の髪をポニーテールにした彼女だった。

 彼女が何を思ったのかは容易に予想がつくが一応話だけでも聞くとしよう。


 「シヴィリアーナ、どうかしたか?」

 「いえ、その日記の中にサリカ姉さんたちの「呪い」を解く鍵があるかもしれないのにそちらを先に拝見しないのかなと思いまして」

 「ゲガルドも言ってた通り、この日記にはあくまで「呪い」を解く可能性が書いてあるだけだ。確かにサリカたちを治せるかもしれない。だが、治せない可能性だってある。確実性がない以上、俺たちが今早急にすべきことは、この国を今後どうしていくかの方針を立てなければならない」

 「で、でも!」

 「シヴィリアーナ、その辺にしておけ・・・」

 

 俺と彼女の会話に口を挟んできたのは、「呪い」を受けた三人の中の一人であるセモンだった。


 「セモン! 「呪い」の件について優先するか、国家の指針について優先するか、あなたがどっちを選ぶの!?」

 「このタイミングで俺が口を挟んだんだ・・・どっちを優先にしたか分かるだろう・・・?」

 

 セモンの口振りから、彼がどちらを選んだかは言うまでもない話だ。

 だからこそ、理解できなかったのだろう。

 シヴィリアーナは興奮するようにセモンの発言に食らいついた。

 

 「どうして? もしかしたら、今この瞬間に目が見えるようになるかもしれないんだよ? だったらすぐに治してもらった方が良いに決まってるじゃん!」

 「魔人王様も言っていただろう・・・あくまで可能性の話だ・・・そんな可能性を信じるよりもまずは解決すべき目先の問題を解決した方が良いに決まってる・・・」

 「そ、それでも・・・! それでもさ・・・!」

 「シヴィリアーナ、少しは落ち着いて」


 取り乱したシヴィリアーナを諭すようにお姉さんであるサリカが会話に割って入る。


 「シヴィリアーナの気持ちは凄く嬉しいよ? でも、私たちがこの場に呼ばれた本当の理由を後回しにしてでも日記を読む必要はないと思うんだ。ルシフェオス様もセモンも言った通り、可能性はあくまで可能性。当たりか外れしかない日記を読むよりも、どちらに転ぶか分からない国の問題を最優先にすべきだとお姉さんは思うな?」

 「・・・・・・」

 「セモン、何で目を丸くしてこっち見てるのよ?」

 「いや・・・サリカ姉さんって臭いセリフ吐くんだなと思ってな・・・」

 「あらあら、もしかして今喧嘩売られたのかなー?」

 「いや・・・まあ、そうだな・・・」

 「ぶっ殺してやろうか!」


 二人が喧嘩を始めたのだが、まあそこまで子供でもあるまいし止める必要はないだろう。

 そして、俺はサリカたちを差し置てシヴィリアーナに向けて口を開く。


 「別に読まないと言ってるわけじゃないんだ。国家の方針が早く決まればその分だけ早く読むことができる。これ以上、私情を優先するわけにはいかないからな」

 「・・・そうですね、話しを遮ってしまって申し訳ございませんでした」

 「謝る必要はないさ。そもそも私情を優先した俺が招いたことなんだ。寧ろ、お前たちを巻き込んで申し訳ないと思ってる」

 「だから、ルシフェオス様が謝る必要はないって言ってるじゃないですか。悪いのはガイオスら二人と私たちの油断なのですから」

 「そうです・・・魔人王様が気に病むことは一切ございません・・・」

 

 いつの間にか喧嘩を止めていたサリカとセモンからまたしてもフォローが入る。

 この下り、一体何回目だろうか?

 例の事件を引き出すのはもう止した方が良さそうだ、これ以上は面倒くさい魔人王と思われかねない。


 「そうか、分かった。それじゃあ、話し合いの続きを始めるとしようか」

 「はい! あたし思い出しました!」


 そう言って元気よく手を挙げたのは忘れん坊のカレアマキナだった。

 どうやら、無事に名案とやらを思い出すことができたらしい。


 「それじゃあ、カレアマキナの名案とやらを聞こうか」

 「はい! あたしが考えたのはーーーー」


 そして、彼女の口から労働者を狩り立たせる名案が提案される。


 「生活困窮者には最低限の生活保護費が与えられると言いましたが、だったら、労働者には働いた分だけの対価を与えれば良いと思うのです!」

 「ん? それって今までの労働固定支給額と何が違うの?」


 元来の労働システムは、働いたその日に一定額支払うといった形になっている。

 労働者に働いた分だけ支給となれば、今までの労働固定支給額と変わりない。

 つまり、サリカが口にした疑問は的外れではないということだ。


 「カレアマキナ様、大変失礼ながら申し上げますと、その労働システムはすでに導入されているのですが・・・」

 「ゼレードさん、あたしは名案があると言いました。今の労働システムを理解できないほど馬鹿に見えますか?」

 「い、いえいえ! そのようなつもりで言ったのでは・・・!」

 「まあ・・・ゼレードがそう思ってしまうのも無理はないだろう・・・俺もお前の言っていることがまるで理解できない・・・」

 「セモン、もしかしてあたしに喧嘩売ってる?」

 「喧嘩を売ってるとかそういう事じゃない・・・理解できないと言ってるんだ・・・」

 「それが喧嘩売ってるって言ってんでしょうが!」


 今にも飛び掛かりそうな程の勢いでセモンを睨みつけるカレアマキナ。

 だが、正直に言うと俺もセモンたちと同様に理解が追い付いていない状態だった。

 働いた分だけの対価を与えるのなら、今まで稼働してきた労働システムと何も変わらない。

 それでも彼女が「名案」と口にするからには何か目新しいシステムが必ずあるはずなのだが、その何かが俺には分からなかった。

 皆の理解状況を把握すべく左から順に視界を移していたところ、どうやら理解したのは一人だけのようだ。

 それも、発言力の乏しい彼女だったのだから、俺が補助しないことには皆が理解するまでに長い時間を掛けてしまうことになってしまいそうだった。


 「カレアマキナとセモン、喧嘩はその辺にして今はノンさんの話を聞こうじゃないか」

 「え! わ、私ですか・・・?」

 「ノンさんはあたしの名案を理解できましたか!?」

 「えっと・・・その・・・間違えてたらごめんなさい・・・」

 「大丈夫だ・・・ノンさん以外は皆理解できていないのだから・・・」

 「ちょっとセモン、あんたはお黙りなさい!」


 キラキラと輝く瞳をノンに向けながら、セモンに口を塞ぐように強要するカレアマキナ。

 そしてノンは言葉を喉に引っ掛けながらも一生懸命説明し始める。


 「多分ですけど・・・その、カレアマキナ様が言いたいポイントとなるのは、恐らく働いた分ってところじゃないと思うんです・・・」

 「そう! そうですよ、ノンさん!」

 「私もよくわからないですけど・・・多分、日ごとの固定支給額の所だと思います・・・」

 「ちゃんと理解できてるので自信を持って言ってください!」

 「日ごとの固定じゃなくて、時間で働いた分だけ支給すればいいじゃないかということだと思います・・・」

 「完璧ですよ、ノンさん!」

 「ちょっとカレアマキナうるさい。ちょっと黙ってて」

 「シヴィリアーナ!? 何でそんなこと言うのさ!」

 「お前がうるさくて・・・うまく思考が纏まらないからに決まってるだろう・・・?」

 「んぐっ!」


 シヴィリアーナとセモンの言うことが正論過ぎて何も言い返せなくなってしまうカレアマキナ。

 しかし、なるほどそう言うことか。

 今までのシステムは、その日にどれだけ働いても支給額はいつも固定になっている。

 それをもし働いた時間の分だけ支給額が増減するというシステムに改変すれば、きっと裕福な暮らしを求める労働者が一気に増加することだろう。

 国からの援助金は「人件費」として商業施設に給付し、その儲けた二割を国に納める。そして日の固定支給額から時間に応じた変動支給額への改変。

 なるほど、デメリットのない良い国家政策だ。

 俺はこの会議を締めくくるべくこれからの政策指針を皆に伝達する。


 「皆が挙げてくれた案を総合したものを政策指針とする。まず援助金だが、援助するのはあくまで商いを営む商業施設に「人件費」として支給する。そしてその儲けた二割を国に納め、内の一割は生活困窮者への生活保護費に回す。ここまでで異論ある奴はいるか?」

 「異論はありません」


 サリカに続くように皆が揃って頭を小さく縦に振る。


 「それから、カレアマキナの案通り今までの労働システムを大きく改変する。「固定支給額」から「変動支給額」への改変。意味は言わずとも分かるよな?」

 「時間単位でお金を支給するということですよね?」

 「そうだ、この政策に異議を唱える奴がいるなら遠慮なく発言してくれ」


 そう言うと、揃いも揃って皆良い笑顔を作り出す。

 見たところ、この政策に異議はなさそうだ。


 「それじゃあ、国家指針の話はここまでだ。城下町の住人に伝達しといてくれ」

 「かしこまりました。その役目は、この私ゼレードとノンが引き受けさせて頂きます」

 「わ、私たちに任せてください」


 もし反感を買った場合、ゼレードはともかくノンは大丈夫だろうか?

 まあ、サリカの指南役を任されたぐらいだから大丈夫だと思うのだが少しだけ心配なのもまた事実だ。


 ーーそんなことよりも、次の問題は・・・。


 この手に収まる前魔人王(オヤジ)の日記。

 この中に「呪い」の解除に関する手がかりは書かれているのだろうか。

 それとも、何事もなく手掛かりなしで終わってしまうのだろうか。

 皆の視線がこの日記一つに注がれている。

 早く中身を教えてくれと急かされている気分だ。


 そして俺は、その要望に応えるべく前魔人王(オヤジ)の日記をゆっくりと開いた。




もう少しで前魔人王の死因が明かされます!

他にも予想外の展開が・・・?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ